絞って、注いで、血肉へ換えて、生きるのです。

7ズ

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7:躾



 フラクスはまたガジュの元へ訪れていた。

「なるほどね。噛み付き欲が出る子は珍しくないけど、今後の事を考えてあまり甘やかさない方がいいわ」
「そうなんですか?」
「欲求がそのままの状態で成長すると、分別付かない頃に友達噛んじゃって流血沙汰の大騒ぎ、なんて事も多いから」
「……確かに」

 今後出来ていくであろう関係に影響を与えてしまう可能性がある。
 
「どのように満足させてあげればいいんでしょうか」
「次噛まれたら大袈裟に泣くといいよ。ダメな事ってわからせる一番いい手段だから」
「か、可哀想じゃないですか?」
「甘い事言ってんじゃないの。ダメってちゃんと教えないと、後悔するのはあの子よ」
「あぶ?」

 部屋の隅で遊んでいるラヴァイを見る二人。
 悲しませたくないが、悲劇の回避には必要な躾だ。
 ガジュの小枝のような手で肩をペチペチと叩かれて、頑張れと応援される。

 妖精娼館を出て、ラヴァイを抱っこしながら、うーんと悩んでしまうフラクス。

「(悪い事して叱ったりは時々あったけど、泣いた姿を見せるなんて……泣く度合いがわからない)」

 初めての躾方法で、自分の方が加減がわかっていない。
 けれど、確実にやらなければならない事だ。




『ガジガジガジガジガジガジ』
「……あー……」

 家に帰って夕飯後に早速やってきた。
 歯形の付いたコップを取り上げると、フラクスに向けて抱っこを催促する。
 前と全く同じ。

「……おいで」
「あぅ」

 抱き上げて、ベッドに腰掛けてドキドキとしながら、ラヴァイの行動を待つ。

『ガプ』
「……ッ!」

 小さな牙が突き立てられて、皮膚に食い込んだ。
 
『チュゥ、ジュル』
「…………」

 フラクスは意を決して、娼館で磨いた演技力を遺憾無く発揮する。

「ふっ、うう!」
「!」
「ひっく、うぐ、ぅぅぅ」
「!!?」

 ポロポロと涙を零して泣き始めたフラクスを見てオロオロするラヴァイの顔に手を添えて、心苦しさをそのまま反映した表情で見つめる。

「ラヴァイ、痛い。噛んだら、痛い痛い」
「…………ふぇ」
「あ」
「うえええええええええん!!」

 噛み傷を撫でて痛いと伝えたら、円な瞳から涙が溢れて、大泣きしてしまった。
 効果があったのかわからないが、今から行う慰めも今後を左右する。

『ギュッ』
「!」

 フラクスはラヴァイを抱き締めて、背中をポンポンと叩く。

「もうしちゃダメだよ」
「ふえええん、ふっ、うううう」

 痛々しい泣き声に胸が痛む。
 ラヴァイの為と、心の中で何度も唱えながら続ける慰め。

「よしよし……痛いのもうしないね?」
「ひっく、うぇえ」
『ペロペロ』

 ラヴァイがフラクスの首筋を労わるように舐め始めた。その行動に少し驚きつつも、フラクスは止めずにそのまま好きにさせる事にした。

「(……可愛い)」

 小さな舌が傷口に触れる度に、痛みとくすぐったさを感じるも、それ以上に愛しさの方が強い。

「ありがとう」
「ふっく、ぶぅ、あ」
「……もう痛くないよ」

 ぐずぐずと鼻を鳴らしてフラクスを伺うラヴァイに優しく声をかける。
 落ち着かせる為に背を撫でて、声をかけ続ける。

「……ふぁぁぁ」
「泣いて眠くなった? もう、一緒にねんねしよう」
『コクン』

 フラクスがそう言えば、ラヴァイは素直に頷いてフラクスの腕から降りて毛布に潜る。

「ぁ……う」
「痛いのは困るけど、されたからって嫌いにならないよ。愛してるからね。ラヴァイ」
「んん」

 ふわふわの頬を指先で撫でていたら、寝息を立て始めたラヴァイに釣られ、フラクスも眠りについた。
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