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12・魔王黒竜
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「(……思った以上に事は深刻だった……ああ、聞いただけの情報と実際の状況じゃ全く緊張感が違う。俺の認識が甘かった)」
浅はかだった。勇者が負けてしまう程の魔王を生み出したのだ。代償は大きい。
俺は踵を返し、お座りしている森狼を置いて、村を出た。
目的地へ向けて直走る。
魔王の痕跡が無いか暗い森の中、目を凝らして駆け抜けて行く。
「……あっ」
ある地点から、空気が変わった。
霧を吸い込んでいるような気分になる。身体全体に纏わりつく、ねっとりとした感覚。魔力だまりを肌で感じる。
そこからは、慎重に足を踏み入れていく。
「(うぐっ……血生臭い)」
死臭が風に流され漂ってくる。鼻が曲がるような刺激に涙が出そうになるが、堪えて奥へと進む。
すると、開けた場所に出る。
月明かりに照らされた地面は赤黒く染まっており、草木にはべったりと真新しい血液が付着していた。
俺は、地面に飛び散っている魔物の肉に追跡を発動させる。
「(お、おお……すごい動き回ってる。咥え込まれてブンブンと振り回されたのか)」
肉片が辿った位置からして、魔王の大きさは、5メートルから7メートルはある。神社の鳥居ぐらいデカい。
「(これだけデカければ、すぐに見つかりそうだが……)」
近くには居ないようだ。だが、足跡を探し出せた。
鋭い爪が地面に食い込んだ跡から追跡を行う。
「(……奥へあそこに向かってるのか?)」
魔王の歩いた跡は一直線で、魔力だまりの中心部。
木々で身を隠しながら、糸を辿る。
「ん?」
ガクンと糸の方向が変わり、真上に続いている。
これの意味は、至ってシンプル。
「飛べるのか」
竜だもんな。そりゃ、飛翔出来るよな。
けど、困ったな……コレでは追跡が出来ない。
「…………ゴドーさんに捨て身はやめろって言われてたけど、仕方ない」
気配遮断を解除して、魅了の存在感を垂れ流す。
魔王だって、生きている存在を感知すれば異変に気付いて警戒態勢を取るはずだ。
応戦する構えを取り、周囲に意識を行き渡らせる。
そして、唐突にブワッと突風に吹かれたように髪の毛が乱れ、全身が粟立つ。
強烈な違和感に振り返った瞬間、木々の間を縫うように低空飛行で細身の黒い巨体が俺目掛けて突っ込んできた。
「グモオオオオオオオオオ」
「うおお、おおお!?」
『ダンッ!』
俺を丸呑み出来る程に大口を開けた竜の突進を跳躍で回避し、頭上を取った勢いでバトルアックスを首へ振り下ろした。
『ガキィィン!』
「(かってぇ!)」
鱗に阻まれ、アックスの刃が弾かれてしまった。
反動でバランスを崩した俺に容赦無く竜の尻尾が通り過ぎる間際に叩きつけられる。
『ドッ!』
「うわ!」
偶然の接触だったが、それだけでも地面にバウンドしてしまう程には衝撃が強かった。
受け身を取りつつ無様に転がり、なんとか立ち上がり、バトルアックスを構える。
『ズザザァ……』
翼を広げて着陸し、首を低く落とした状態で俺を威嚇してくる黒竜。
依頼書のイラストと相違無い、鋭利な刺殺武器のようなフォルムに黒い鎧と化している鱗で身を包んだ姿は圧巻の一言に尽きる。
突き刺すような殺気が駄々漏れで、先程の攻撃で俺を敵として認識したようだ。
「(鑑定!)」
相手の力量を測る為に即座に鑑定を行う。
「……は?」
種:黒竜
Lv:82
HP :19221/28555
MP :18045/20025
ATK:10525
EDF:10025
スキル:火炎放射Lv3、熱耐性(高)、飛行術LvMax、魔力耐性(極)
想定していたレベル70の魔物のステータスを遥かに上回る数値。
しかも、レベルが82って依頼書と全く……あ! レベル70相当って、鑑定したわけじゃなくて、個人の体感レベルって事か!!
「(くぅ! 俺の迂闊!)」
俺の後悔など知る由もなく、黒竜は前傾姿勢から助走もなく一気に飛び出してきた。
『ギィン!』
「ぐぉ……」
なんとか前足での薙ぎ払いを受け流し、すぐに次の攻撃を警戒して距離をとるが俺の動きはお見通しと言わんばかりに、近距離で巨体を活かした重く鋭い連撃が飛んでくる。
一撃でも当たれば致命傷になる。
俺はアックスを全力で振るい攻撃をなんとかいなし続け直撃を避けつつ、後退しながら反撃の機会を探る。
このままだと、体力的に負けるのは目に見えている。
勝機を探る為に思考のキャパを割きたいのに、少しでも意識を逸らせば即、死に繋がる状況だ。
『ガキィン! ドシュッ! バキッ!!』
「ぬお……う……っ」
恐竜を相手にしている気分だ!
一心不乱の攻防に砂塵が舞い、いなした黒竜の攻撃の余韻が太い木々をなぎ倒していく。
「グルルゥ……グォオ!!」
「っ!」
黒竜の口内に光が収束され、ヤバイ予感しかしない。俺は咄嵯に横っ飛びして射程範囲を出る。
『ブオオオオオオオオオオ!!』
直後、口から放たれたのは炎のブレスだった。
「あっぶねぇ……あっつ!」
一瞬で木々が炭となり崩れ、地面が焼け焦げた。
空気さえ焼き切る勢いで、燃え移る隙も与えず木を燃焼しきる熱量に、冷や汗が流れる。
あんなものを喰らえばひとたまりもない。
熱された空気が喉を焼く感覚を気にしていられない。
『ゴオッ!』
「……っ!」
すぐに第二波が来た。
首を横に振るって円状に発射される高温の火炎を必死に避け続ける。
「ぐぁ……はぁ、はぁ」
回避に専念しすぎて、自身の状態に気付けなかった。
「(地面が熱い……)」
熱された地面に素肌が触れる度にジュクリと皮膚が爛れていくのを感じる。
頬や指先がピリつく痛みが走る。
「(この野郎……余熱で削ってきやがる。まさか、これを狙っていたのか? なんて賢いヤツだ)」
『ブォン!』
「うげぇ」
火炎を吐き終えた黒竜はすぐさま長い尾を振り回してきた。
辛うじて反応出来た俺はアックスを盾に直撃は免れたが、衝撃はアックス越しにモロに伝わり身体が吹っ飛ぶ。
何度も木に激突しながらも体勢を整えて立ち上がるが、全身を襲う激痛に思わず膝をついてしまう。
関節からミシミシと嫌な音が響く。
「(体力残り3256……一発で半分以上持ってかれた。踏ん張らずに吹っ飛ばされた方がマシだったな)」
防いだのに、たった一度の接触でここまでのダメージを負ってしまった。
次喰らったら、確実に死ぬ。
『ヒュン』
「え?」
目の前に黒い影が覆ったかと思うと視界がブレて、世界が逆さまになっていた。
『バザァ……』
「は!? 飛ん……!」
ズキっと脚に痛みが走る。
黒竜の後ろ足に脚を掴まれて飛翔されたのだと気付いた頃には、既に黒竜は遥か上空へと昇っていた。
「う、うわ!」
先程まで居た森は小さくなり、雲に到達する寸前の地点で黒竜は、俺を空中で投げ捨てた。
重力に引っ張られて急降下する。
「(コイツ! 落下死を知ってやがる!)」
どう考えても動きが初犯じゃねえ!
「おらぁ! ウインド!」
地面にぶつかる寸前に、風魔法を放ち逆風で起きる空気抵抗の風圧を利用して空中で姿勢を立て直して俺はバトルアックスを地面に突き刺し、減速を試みる。
『ドスッ!』
突き立てたアックスを軸に身体を回転させ、衝撃を最大限殺して地面に降り立つが、上手く立てずに尻持ちを付いてしまった。
掴まれていた脚が変な方向に二回折れ曲がっている。
ポージョンの効かない身体では、この骨折が治る気がしない。
だが、まだ生きているだけ幸運だろう。
下手したら、落下で終わっていた可能性だってあるんだからな。
黒竜は翼を広げて悠々と滞空しており、今にも火炎を放って来そうだ。
身を隠そうと移動しようとした時、爪先に何かが当たった。
『コツン』
「?」
薄ら明るくなってきた夜闇の中、その正体が何であるか理解出来てしまった。
「……村の……」
記憶にある姿より足りないところが多いが、俺が運んだ魔石を受け取った門番の兵士が地面に転がって絶命していた。
朝日の光が差し込んで辺りの様子が鮮明になっていくと、転がっているのは彼だけでは無かった。
「…………ぁ……ぁあ」
丸焦げで炭になった人型に、ひしゃげた人だったモノ、食い漁られた魔物の残骸、他にも原型を留めていない人間達が無残に転がっている。
何人か落下死であろう事が窺える惨状だった。
俺は突き立てたバトルアックスを抜き、ヨロめきながら杖にして立ち上がり、心が恐怖で折れぬように歯を食いしばる。
そんな俺を嘲笑うかのようにバサリと黒竜が眼前に舞い降りる。
「(……残り、876)」
ゴミ捨て場の虫を見るような目つきで見下してくる黒竜。
俺はアックスを構え、震える残った脚を叱咤して立ち向かう。
黒竜の雑な鉤爪の攻撃が迫る、冷静さを欠くことなくギリギリまで引きつけて紙一重で避ける。
そして、片脚で黒竜のサイドへ立ち回り超至近距離でバトルアックスを横薙ぎに振りぬく。
『ドシュン!!』
「グオオオン!?」
初撃を入れた際に一瞬見えた首の傷。
勇者に付けられた傷がまだ癒えていない。体力が減っていたのも半年経っても回復しきれない程のダメージを黒竜が負わされていたからだ。
癒えていない傷を抉るようにバトルアックスの刃を叩きつければ、肉を裂く手応えが伝わってくる。
まだ、勝機があるかもしれない。
そう思った矢先、黒竜が痛みに尻尾を振り回した。
咄嵯にバックステップ回避するが、脚のダメージが祟りガクンと体勢が崩れて顔を掠ってしまった。
『ビシッ!』
「ぐぅ!!」
額から片目にかけ激痛が走り、視界が赤く染まり、頭がガンガンと割れそうなほど痛みだす。
脚に力が入らず、膝をついて倒れ込みそうになるのをバトルアックスに縋って立っている。
「(残り……4……)」
折れた脚が激痛を訴え始め、意識が朦朧としてきた。
しかし、黒竜は待ってくれない。
再び黒竜が俺に向かって飛び掛かってくる。
俺は激痛に耐えながら、最後の力を振り絞って、追撃を交わして勇者の負わせた傷口へ再度バトルアックスを叩き込むも……
『ドシュ! バキン!』
「ぁ……」
バトルアックスの持ち手が折れてしまった。斧頭は黒竜の傷に突き刺さったまま俺の元を離れた。
防御した時にヒビが入ったのかもしれない。
支えを失った俺は前のめりに倒れる。
地面が迫り、スローモーションで流れる景色の中、俺は自分の身体に起こっている異変に気付く。
それは、身体の末端から凍っていく感覚だった。
俺の全身が冷えていく。
「(……あっ……コレが、死ぬ感覚なのか……)」
あっけらかんとした死への感想を抱く。
黒竜は俺にトドメを差そうと大きく息を吸う口から炎が漏れている。
ああ、火炎を吐かれる……悔しい……俺の負けだ。
黒竜の吐き出す熱気を感じ取り、死を覚悟して目を瞑った。
『ジュンイチローーーーーー!!!!』
「ッ!?」
身体に何かが巻き付いて物凄い勢いで一気に引っ張り上げられる。
「……も、も?」
『間一髪だ馬鹿者が!』
「ヘッヘッヘッ」
「おーかみ……?」
『コイツが居なきゃ間に合わなかったぞ』
森狼の背に乗ったモモが丘から触手を伸ばして、俺の身体を引き上げてくれたようだ。
森狼が俺の鼻先をペロリと舐めて心配してくれていた。
俺は二体に助けられたらしい。
「……なん、で」
『なんで? コッチの言葉だ。何一人で先走ってんだ!』
「もも……が、大事だから……」
『あ?』
「ももは……大事なんだよぉ! 大事にしたいんだよぉ!」
俺の子どものようなワガママの駄々に対してモモは怒号の念話を俺に叩きつけた。
『私だってジュンイチローが大事なんだぞ!! 何私の大事な存在を粗末に扱ってんだ!! 私を置いて死んだらぶっ殺すぞ!!』
その言葉はまるで雷のように過激でありながら、不思議と優しさを感じた。
「バウ!」
森狼の一鳴きに黒竜へ再び意識が戻る。
『ヒュバッ』
「しま──!」
黒竜が飛翔し、丘の上へ一瞬で移動していた。
俺の救出に意識を割いた隙を突かれた。
触手に支えられた俺に大口と牙がが迫る。
『話の途中だろうが!!』
『ドゴォ!』
「グモッ!?」
「え?」
黒竜がモモの触手にぶん殴られて、凄い飛距離でぶっ飛んでいった。
浅はかだった。勇者が負けてしまう程の魔王を生み出したのだ。代償は大きい。
俺は踵を返し、お座りしている森狼を置いて、村を出た。
目的地へ向けて直走る。
魔王の痕跡が無いか暗い森の中、目を凝らして駆け抜けて行く。
「……あっ」
ある地点から、空気が変わった。
霧を吸い込んでいるような気分になる。身体全体に纏わりつく、ねっとりとした感覚。魔力だまりを肌で感じる。
そこからは、慎重に足を踏み入れていく。
「(うぐっ……血生臭い)」
死臭が風に流され漂ってくる。鼻が曲がるような刺激に涙が出そうになるが、堪えて奥へと進む。
すると、開けた場所に出る。
月明かりに照らされた地面は赤黒く染まっており、草木にはべったりと真新しい血液が付着していた。
俺は、地面に飛び散っている魔物の肉に追跡を発動させる。
「(お、おお……すごい動き回ってる。咥え込まれてブンブンと振り回されたのか)」
肉片が辿った位置からして、魔王の大きさは、5メートルから7メートルはある。神社の鳥居ぐらいデカい。
「(これだけデカければ、すぐに見つかりそうだが……)」
近くには居ないようだ。だが、足跡を探し出せた。
鋭い爪が地面に食い込んだ跡から追跡を行う。
「(……奥へあそこに向かってるのか?)」
魔王の歩いた跡は一直線で、魔力だまりの中心部。
木々で身を隠しながら、糸を辿る。
「ん?」
ガクンと糸の方向が変わり、真上に続いている。
これの意味は、至ってシンプル。
「飛べるのか」
竜だもんな。そりゃ、飛翔出来るよな。
けど、困ったな……コレでは追跡が出来ない。
「…………ゴドーさんに捨て身はやめろって言われてたけど、仕方ない」
気配遮断を解除して、魅了の存在感を垂れ流す。
魔王だって、生きている存在を感知すれば異変に気付いて警戒態勢を取るはずだ。
応戦する構えを取り、周囲に意識を行き渡らせる。
そして、唐突にブワッと突風に吹かれたように髪の毛が乱れ、全身が粟立つ。
強烈な違和感に振り返った瞬間、木々の間を縫うように低空飛行で細身の黒い巨体が俺目掛けて突っ込んできた。
「グモオオオオオオオオオ」
「うおお、おおお!?」
『ダンッ!』
俺を丸呑み出来る程に大口を開けた竜の突進を跳躍で回避し、頭上を取った勢いでバトルアックスを首へ振り下ろした。
『ガキィィン!』
「(かってぇ!)」
鱗に阻まれ、アックスの刃が弾かれてしまった。
反動でバランスを崩した俺に容赦無く竜の尻尾が通り過ぎる間際に叩きつけられる。
『ドッ!』
「うわ!」
偶然の接触だったが、それだけでも地面にバウンドしてしまう程には衝撃が強かった。
受け身を取りつつ無様に転がり、なんとか立ち上がり、バトルアックスを構える。
『ズザザァ……』
翼を広げて着陸し、首を低く落とした状態で俺を威嚇してくる黒竜。
依頼書のイラストと相違無い、鋭利な刺殺武器のようなフォルムに黒い鎧と化している鱗で身を包んだ姿は圧巻の一言に尽きる。
突き刺すような殺気が駄々漏れで、先程の攻撃で俺を敵として認識したようだ。
「(鑑定!)」
相手の力量を測る為に即座に鑑定を行う。
「……は?」
種:黒竜
Lv:82
HP :19221/28555
MP :18045/20025
ATK:10525
EDF:10025
スキル:火炎放射Lv3、熱耐性(高)、飛行術LvMax、魔力耐性(極)
想定していたレベル70の魔物のステータスを遥かに上回る数値。
しかも、レベルが82って依頼書と全く……あ! レベル70相当って、鑑定したわけじゃなくて、個人の体感レベルって事か!!
「(くぅ! 俺の迂闊!)」
俺の後悔など知る由もなく、黒竜は前傾姿勢から助走もなく一気に飛び出してきた。
『ギィン!』
「ぐぉ……」
なんとか前足での薙ぎ払いを受け流し、すぐに次の攻撃を警戒して距離をとるが俺の動きはお見通しと言わんばかりに、近距離で巨体を活かした重く鋭い連撃が飛んでくる。
一撃でも当たれば致命傷になる。
俺はアックスを全力で振るい攻撃をなんとかいなし続け直撃を避けつつ、後退しながら反撃の機会を探る。
このままだと、体力的に負けるのは目に見えている。
勝機を探る為に思考のキャパを割きたいのに、少しでも意識を逸らせば即、死に繋がる状況だ。
『ガキィン! ドシュッ! バキッ!!』
「ぬお……う……っ」
恐竜を相手にしている気分だ!
一心不乱の攻防に砂塵が舞い、いなした黒竜の攻撃の余韻が太い木々をなぎ倒していく。
「グルルゥ……グォオ!!」
「っ!」
黒竜の口内に光が収束され、ヤバイ予感しかしない。俺は咄嵯に横っ飛びして射程範囲を出る。
『ブオオオオオオオオオオ!!』
直後、口から放たれたのは炎のブレスだった。
「あっぶねぇ……あっつ!」
一瞬で木々が炭となり崩れ、地面が焼け焦げた。
空気さえ焼き切る勢いで、燃え移る隙も与えず木を燃焼しきる熱量に、冷や汗が流れる。
あんなものを喰らえばひとたまりもない。
熱された空気が喉を焼く感覚を気にしていられない。
『ゴオッ!』
「……っ!」
すぐに第二波が来た。
首を横に振るって円状に発射される高温の火炎を必死に避け続ける。
「ぐぁ……はぁ、はぁ」
回避に専念しすぎて、自身の状態に気付けなかった。
「(地面が熱い……)」
熱された地面に素肌が触れる度にジュクリと皮膚が爛れていくのを感じる。
頬や指先がピリつく痛みが走る。
「(この野郎……余熱で削ってきやがる。まさか、これを狙っていたのか? なんて賢いヤツだ)」
『ブォン!』
「うげぇ」
火炎を吐き終えた黒竜はすぐさま長い尾を振り回してきた。
辛うじて反応出来た俺はアックスを盾に直撃は免れたが、衝撃はアックス越しにモロに伝わり身体が吹っ飛ぶ。
何度も木に激突しながらも体勢を整えて立ち上がるが、全身を襲う激痛に思わず膝をついてしまう。
関節からミシミシと嫌な音が響く。
「(体力残り3256……一発で半分以上持ってかれた。踏ん張らずに吹っ飛ばされた方がマシだったな)」
防いだのに、たった一度の接触でここまでのダメージを負ってしまった。
次喰らったら、確実に死ぬ。
『ヒュン』
「え?」
目の前に黒い影が覆ったかと思うと視界がブレて、世界が逆さまになっていた。
『バザァ……』
「は!? 飛ん……!」
ズキっと脚に痛みが走る。
黒竜の後ろ足に脚を掴まれて飛翔されたのだと気付いた頃には、既に黒竜は遥か上空へと昇っていた。
「う、うわ!」
先程まで居た森は小さくなり、雲に到達する寸前の地点で黒竜は、俺を空中で投げ捨てた。
重力に引っ張られて急降下する。
「(コイツ! 落下死を知ってやがる!)」
どう考えても動きが初犯じゃねえ!
「おらぁ! ウインド!」
地面にぶつかる寸前に、風魔法を放ち逆風で起きる空気抵抗の風圧を利用して空中で姿勢を立て直して俺はバトルアックスを地面に突き刺し、減速を試みる。
『ドスッ!』
突き立てたアックスを軸に身体を回転させ、衝撃を最大限殺して地面に降り立つが、上手く立てずに尻持ちを付いてしまった。
掴まれていた脚が変な方向に二回折れ曲がっている。
ポージョンの効かない身体では、この骨折が治る気がしない。
だが、まだ生きているだけ幸運だろう。
下手したら、落下で終わっていた可能性だってあるんだからな。
黒竜は翼を広げて悠々と滞空しており、今にも火炎を放って来そうだ。
身を隠そうと移動しようとした時、爪先に何かが当たった。
『コツン』
「?」
薄ら明るくなってきた夜闇の中、その正体が何であるか理解出来てしまった。
「……村の……」
記憶にある姿より足りないところが多いが、俺が運んだ魔石を受け取った門番の兵士が地面に転がって絶命していた。
朝日の光が差し込んで辺りの様子が鮮明になっていくと、転がっているのは彼だけでは無かった。
「…………ぁ……ぁあ」
丸焦げで炭になった人型に、ひしゃげた人だったモノ、食い漁られた魔物の残骸、他にも原型を留めていない人間達が無残に転がっている。
何人か落下死であろう事が窺える惨状だった。
俺は突き立てたバトルアックスを抜き、ヨロめきながら杖にして立ち上がり、心が恐怖で折れぬように歯を食いしばる。
そんな俺を嘲笑うかのようにバサリと黒竜が眼前に舞い降りる。
「(……残り、876)」
ゴミ捨て場の虫を見るような目つきで見下してくる黒竜。
俺はアックスを構え、震える残った脚を叱咤して立ち向かう。
黒竜の雑な鉤爪の攻撃が迫る、冷静さを欠くことなくギリギリまで引きつけて紙一重で避ける。
そして、片脚で黒竜のサイドへ立ち回り超至近距離でバトルアックスを横薙ぎに振りぬく。
『ドシュン!!』
「グオオオン!?」
初撃を入れた際に一瞬見えた首の傷。
勇者に付けられた傷がまだ癒えていない。体力が減っていたのも半年経っても回復しきれない程のダメージを黒竜が負わされていたからだ。
癒えていない傷を抉るようにバトルアックスの刃を叩きつければ、肉を裂く手応えが伝わってくる。
まだ、勝機があるかもしれない。
そう思った矢先、黒竜が痛みに尻尾を振り回した。
咄嵯にバックステップ回避するが、脚のダメージが祟りガクンと体勢が崩れて顔を掠ってしまった。
『ビシッ!』
「ぐぅ!!」
額から片目にかけ激痛が走り、視界が赤く染まり、頭がガンガンと割れそうなほど痛みだす。
脚に力が入らず、膝をついて倒れ込みそうになるのをバトルアックスに縋って立っている。
「(残り……4……)」
折れた脚が激痛を訴え始め、意識が朦朧としてきた。
しかし、黒竜は待ってくれない。
再び黒竜が俺に向かって飛び掛かってくる。
俺は激痛に耐えながら、最後の力を振り絞って、追撃を交わして勇者の負わせた傷口へ再度バトルアックスを叩き込むも……
『ドシュ! バキン!』
「ぁ……」
バトルアックスの持ち手が折れてしまった。斧頭は黒竜の傷に突き刺さったまま俺の元を離れた。
防御した時にヒビが入ったのかもしれない。
支えを失った俺は前のめりに倒れる。
地面が迫り、スローモーションで流れる景色の中、俺は自分の身体に起こっている異変に気付く。
それは、身体の末端から凍っていく感覚だった。
俺の全身が冷えていく。
「(……あっ……コレが、死ぬ感覚なのか……)」
あっけらかんとした死への感想を抱く。
黒竜は俺にトドメを差そうと大きく息を吸う口から炎が漏れている。
ああ、火炎を吐かれる……悔しい……俺の負けだ。
黒竜の吐き出す熱気を感じ取り、死を覚悟して目を瞑った。
『ジュンイチローーーーーー!!!!』
「ッ!?」
身体に何かが巻き付いて物凄い勢いで一気に引っ張り上げられる。
「……も、も?」
『間一髪だ馬鹿者が!』
「ヘッヘッヘッ」
「おーかみ……?」
『コイツが居なきゃ間に合わなかったぞ』
森狼の背に乗ったモモが丘から触手を伸ばして、俺の身体を引き上げてくれたようだ。
森狼が俺の鼻先をペロリと舐めて心配してくれていた。
俺は二体に助けられたらしい。
「……なん、で」
『なんで? コッチの言葉だ。何一人で先走ってんだ!』
「もも……が、大事だから……」
『あ?』
「ももは……大事なんだよぉ! 大事にしたいんだよぉ!」
俺の子どものようなワガママの駄々に対してモモは怒号の念話を俺に叩きつけた。
『私だってジュンイチローが大事なんだぞ!! 何私の大事な存在を粗末に扱ってんだ!! 私を置いて死んだらぶっ殺すぞ!!』
その言葉はまるで雷のように過激でありながら、不思議と優しさを感じた。
「バウ!」
森狼の一鳴きに黒竜へ再び意識が戻る。
『ヒュバッ』
「しま──!」
黒竜が飛翔し、丘の上へ一瞬で移動していた。
俺の救出に意識を割いた隙を突かれた。
触手に支えられた俺に大口と牙がが迫る。
『話の途中だろうが!!』
『ドゴォ!』
「グモッ!?」
「え?」
黒竜がモモの触手にぶん殴られて、凄い飛距離でぶっ飛んでいった。
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