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番外編③
第二話・ごめんね
しおりを挟むあっ…ぁあ、ふぅ……ぁあ! く、ぁ……はぁぁ……ッ
身体を揺すられ、甘い刺激が絶えず襲ってくる。
声を抑えようにも、快楽で思考は乱れ、理性は蕩け、本能のままに喘いでしまう。
腰を打ち付けられる度に行為を知らしめる水音が響き、ベッドの軋む音が大きくなる。
俺の手に指を絡め、シーツに押し付けて拘束している彼に余裕はない。
汗ばんだ額から滴り落ちる雫すら愛しく思う程、俺は必死な彼に溺れていた。
もっと……もっと、もっと欲しい……愛して欲しい……
無意識に自分から脚を広げ、奥まで受け入れようとする。
俺の欲望に応えてくれたのか、彼の動きがより激しくなる。
快感が押し寄せてきて絶頂を迎える瞬間、彼と唇が触れ────
目が覚めた。
「…………」
俺は、改めて自分の素直過ぎる性欲に呆れ返った。
自覚した途端、竹葉君との淫夢を見るなんて……しかも、まだ経験が少ないはずのネコ側で。
『ヌル』
「ッ!!」
布団の中で下着の中を確認すると、案の定……
俺はおねしょした子どもみたいにしょぼくれながら、洗面所でザッと下着を手洗いした。
竹葉君をオカズにしてしまった罪悪感と自己嫌悪で、寝室に戻れずソファーで二度寝した。
「盃さーん、ソファーで寝るならちゃんと毛布掛けないと風邪引きますよー」
「ん……」
翌朝、竹葉君に声をかけられて起き上がっても……彼の顔が見れない。
仕事へ向かう竹葉君を見送る時も夢の情景がぶり返って、挙動不審になってしまった。
「……掃除でもするか」
悶々とした気を紛らわす為に家事に集中する。
そして、竹葉君には入っていいと言われている竹葉君の自室へも掃除の為にお邪魔して掃除機をかける。
本棚に背表紙ではなく小口を向けている雑誌があった。
俺はそれを手に取って入れ直そうとしたが……露出の多い女性と目が合った。
典型的なエロ本だった。
竹葉君も成人男性だ。なんら不思議ではない。
けれど、俺はそういった対象には成り得ないと思い知らされて、ショックだった。
「はぁぁ……さ、掃除掃除」
『ゴト……』
「……ティッシュ箱?」
作業机の下に積まれた箱に掃除機をぶつけて崩してしまった。直すために潜って、箱を手に取る。
「……コ、コンドーム!?」
『ゴン!』
頭ぶつけた! めちゃくちゃ痛いけど、それどころじゃない……ちょ、ちょっと待って!
積まれた箱をまじまじと見れば……全てコンドームの箱だった。しかも、一箱四十個入りの大箱が積んである。
業者レベルでコンドーム箱買いしてるんだけど……いやいや、いくらなんでも使い過ぎ!
本来の使い方してたら、どんだけ精力絶倫なんだ!
個人の性処理に使っても余りある量に絶句すると同時に……めちゃくちゃドキドキしてる。
短い間だけど、出会ってから今日までの竹葉君の印象は優しい好青年で一貫していた。
そんな竹葉君に、こんな沢山のゴムを消費する程の性欲旺盛な一面があったとしたら……どうしよう。
俺は箱を元の位置に戻し、掃除機を持って部屋を出た。
「……はぁぁぁぁ……」
落ち着け俺、絶倫は俺の想像であって事実とは限らない。
そもそも、あの竹葉君がそこまでヤリチンに見えるか? 否、見えない。見えないけど、コンドーム箱買いの事実は消えない。
自分の妄想を振り払いつつ、俺はリビングでテレビを付けた。
ニュースしかやってないが、丁度天気予報が流れていた。
『──は、激しい雨が降るでしょう。傘を忘れずに』
あ、今日は夕方から天気が崩れるのか……降る前に洗濯物を取り込まないと。
「(……そういえば、竹葉君……傘持って無かった気がする)」
折り畳み傘を持ってなかった場合を考えると心配になる。迎えに……と、言っても駅までの道すら忘れてる。迷子になって迎えに来られるのがオチだ。
『ぐうぅぅ……』
「……お腹減った」
朝のニュースから昼のクッキング番組に時間帯が変わった。
俺はキッチンでパスタを茹でて、市販のソースに和える簡単な料理を作る。
ペペロンチーノなんていつぶりだろう。
「…………ばん、そーこう……?」
ペペロンチーノの香りに、何か一瞬思い出した気がした。
絆創膏なんて思い出しても、なんのとっかかりにもならない。
誰かに渡した? 渡された? それすらあやふや。
「……いただきます」
俺はフォークにパスタを巻き付けながら、ぼんやりと自分の記憶を漁る。
兄達に手を引かれて歩いた砂利道。
許嫁を襲った暴漢を延々と殴り続けた夕暮れ時。
爺ちゃんのしょっぱい握り飯。
そんな懐かしいものばかりで、結局失った記憶を思い出せないまま食事を終えた。
「(筋トレでもして、気分転換するか……)」
夕飯の下準備を終えてから軽くリビングで身体を動かす。柔軟運動をして、スクワットと腕立て伏せを行う。
「……??」
なんだろう。この感じ。焦燥感を覚えた時のように、腹の底がジリジリする。
身体はいろいろ覚えてるのに、肝心の俺が中身スッカラカンでは、身体が何を伝えたいのかわからない。
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