【R18】乾き潤いワッハッハ!【BL】

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番外編③

第六話・デート(仮)

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 竹葉君とデートをする事になった。

「(……意識し過ぎかな? 男友達で出かけるのに、そこまで考える必要ないよな?)」
「盃さん、行きましょうか」
「ぁ、うん」

 正確には、ただのお出かけだけど……竹葉君は気合が入っている。普段から身だしなみは整えてるけど、今日は一段と念入りだ。
 そして、俺も意気込んで少しお洒落をしたけど、浮かれ気味かもしれない。
 竹葉君のご要望で髭は全部剃らないで整えるだけにしたけど、なんでだろう?

「盃さん、髭剃るとナンパされる事多いんですよ」
「ああ……今もそうなんだ」

 俺の顔は胡散臭いけど、イケメンの部類に入るらしい。セフレの女性達からも好評だった。

「前の俺……未来の俺とも、出掛けたりしてた?」
「はい。映画や食事によく行きました」
「楽しかった?」
「そりゃもう!」

 嬉しそうにはにかんで笑う竹葉君を見て、俺もつられて笑った。
 一緒に駅前のショッピングモールへと向かい、映画館で見るものを吟味する。

「これとかどうでしょう?」
「アクション物?」
「はい。最近、話題のアクション映画です」
「じゃあ、これにしようか」

 上映時間のスケジュールを確認してチケットを買い、飲み物を買ってシアター内へ入る。
 俺にとっては久しぶりの映画館だ。ちょっとドキドキする。

 洋画のアクション映画は容赦無く街が壊れるCG満載で、派手な能力戦が繰り広げられていた。
 肉弾戦のシーンになると、面倒くさいマニアのような目で見てしまう。

「(……やっぱり、魅せる為に作られた型だな。隙が多い)」

 戦闘技術の方ばかり気にしてしまう。自分ならどうするか……小学生が教室にテトリストが来たらどう動くか考えるのと同じ事をいい歳してやっている。
 隣に座っている竹葉君がスクリーンを見ながら目を輝かせている。
 戦いが終結し、ヒロインと主人公がキスをしてエンドロールへ突入した。
 上映が終わり、劇場を出ると丁度お昼時になっていた。

「はぁぁ……面白かったですね!」
「うん。すっごい迫力だった」
「肉弾戦のシーンもワクワクしましたけど……杯杯多の方がかっこいいと思っちゃいましたよ。いやはや、罪深いですね」
「!」

 この男は……なんでもないように、最上級の褒め言葉をさらりと言ってのける。
 その言葉がどれだけ俺を救っているのか、きっと知らないのだろう。

「ふふ、ありがとう」
「……ぁ、はは、お腹空きましたね。何か食べに行きましょうか」
「そうだね」

 昼食を食べながら映画の感想を語り合った。
 竹葉君と俺の感性は似てる部分があるらしく、同じシーンで同じように感動している事が多かった。
 食事を終えて、ショッピングモールを出てバスに乗って向かったのは水族館。

「(水族館なんて、高校生以来かも)」

 水槽の中で泳ぐ魚達を眺め、時々足を止めて解説を読んでいく。
 薄暗い館内の中、青白い光に照らされた魚の群れが悠々と泳いでいる。

「綺麗ですね」
「うん。本当に……すごく綺麗だ」

 竹葉君の瞳が、水面に反射した光がキラキラと輝いているように見えた。
 俺は、無意識に彼を見つめていたようだ。

「どうかされましたか? そんなに見つめられても、俺は泳ぎませんよ」

 そう言って目線を泳がせる。器用な事をする竹葉君に笑いが込み上げる。

「ふ、はは! めっちゃ泳いでんじゃん!」
「えぇ~、見て下さい! 俺、こんなに速くないですよ!」
「ぶはッ! 目やば! 速い遅いの問題じゃないってば……ぐ、ふっふふ!」
「ふ、へへ……」

 公共の場で爆笑するわけにはいかず、必死に笑いを二人で堪えた。

「(はぁ……楽しいなぁ……もっとこの時間が続けばいいのに……)」

 心の底から、そう思った。
 お土産コーナーで今回集まってくれたメンバー宛にそれぞれお土産を買って、水族館を出た。
 帰り道の寄り道でアパレルショッピングを楽しむ。

 お互いのファッションセンスも大きくズレてはおらず、試着室前で話が弾む。
 ただ、笑いのツボも似てるから面白シャツも勢いで買ってしまった。

「はぁぁ……楽しかったですね」
「うん。また行こう」
「はいっ!」

 夕日が沈む中、今日一日の思い出を振り返りながら、二人並んで歩く。

「……こんな日がずっと続けばいいのに」
「…………」
「あ、でも、ダメだね。記憶戻さないと……竹葉君に迷惑かけっぱなしだし」
「……盃さん、もう少し寄り道しましょうか」
「?」

 竹葉君が立ち寄ったのは、噴水のある森林公園。
 この時間帯では、子どもの声もしない静かな場所。

「ここ、覚えていますか?」
「……ごめん。覚えてない」
「初めて来ましたからね」
『ベシ!』
「いてっ」

 俺の記憶喪失を揶揄うなんて、酷い事をする。けど、思い詰められるよりマシだな。
 ライトアップされた噴水は、リズミカルに水を打ち上げて虹を作っている。
 
「……盃さん……俺、好きな人がいるんです」
「!? ……ぷ、ふぅん」

 唐突な告白に動揺して変な声が出かけた。
 
「ちょっと相談したくて」
「ぃ、い、いいよ?」

 俺に? 恋愛経験多いけど、その分破局回数も多い俺にアドバイスなんて何もできないけど……気になる。
 その人は、どんな人なんだろう。俺なんかよりも素敵な人なんだろな。
 だって、竹葉君が惚れてるんだから。

「すごく、大好きなんです。今も……これから先もずっと、何度も好きになると思います」
「は、はは……羨ましいな。竹葉君にそこまで想われる人は幸せ者だよ」
「そうでしょうか」
「そうだよ……君は、優しいし、気配りもできるし、面白いし……想いを、伝えたら……きっと、その子も喜ぶよ」

 声が震えてしまう。誤魔化すように、上を向いて空を見上げた。
 一番星が綺麗に瞬いている。

「俺は……その人に、まだ伝えられていません」
「……そうなの? 早く伝えないと……竹葉君に愛されて、嫌な女の子はいないよ」
「あ、いや……相手、男なんです」

 どこまで俺は絶望すればいいんだ。
 俺に相談持ちかけたのは、俺がバイだからか。
 けれど、今の俺は……君しか見えてないんだよ。

「そ……そっか、なら尚更言わなくちゃいけないんじゃないかな」
「……はい」
「その人のどこを好きになったのかはわからないけど……好きだって、伝えるべきだと思う。後悔する前にさ」
「…………」
「大丈夫。きっと、上手くいくよ」

 俺の言葉に竹葉君が顔を上げた。
 彼の瞳が揺れている。

「ありがとうございます。おかげで決心できました」
「……そう」

 ダメだ。男がいい歳して失恋で泣くなんて、情けない。好きな人の前で情けない姿を見せたくない。涙を堪えるために下唇を噛んで俯いた。
 視界がボヤけて、足元が歪む。

「盃さん」
「な、に……?」
「好きです」

 好き………??
 ……不意に、誰かに言われた言葉を思い出した。

「………………予行練習?」
「流石に怒りますよ」
「…………竹葉君?」

 顔を上げたら、竹葉君は今までにない程真剣で、熱を帯びた視線を俺へ向けていた。
 決して嘘や冗談ではない。けれど、その事実が信じられない。
 
「盃さんが好きです。貴方の事が……どうしようもなく、好きなんです……!」
「……え、っと……」
「ずっとずっと前から……出会うずっと、前から」

 俺の手を取って、自分の胸元へ引き寄せた。
 竹葉君の鼓動を感じる。物凄く速く、力強い。
 本当に……俺を……

「盃さん、俺とずっと一緒にいて下さい」
「!!」

 竹葉君の真摯な瞳から、目が離せない。

「記憶を失っても、また、俺の事を忘れても、側に居ますから、だから……泣かないでください」

 竹葉君に言われて気づいた。
 溢れた雫が頬を伝って落ちていく。
 こんなにも直向きに想ってくれる人を、どうして忘れてしまったんだろう。

「……竹葉君、俺……」
「はい」
「……おれ……も」
「……」
「……竹葉君が……好き……」

 忘れてしまった竹葉君との日々。
 新たに始める第一歩は、俺にとってあまりに都合が良過ぎる展開だった。

「ぉ、お! おお! おっしゃああああ!!」
「!?」

 突然の雄叫びに驚いて竹葉君を見ると、ガッツポーズをして喜びを露わにしている。
 あまりの喜びように、唖然としてしまう。

「あー! もう、めちゃくちゃ嬉しいです!」
「俺も……すごく、嬉しい……」

 竹葉君と両想いだったなんて、夢みたいだ。夢かもしれない。夢でもいい。どうか、醒めないで。

「告白しといてなんですけど……盃さん、俺のこと覚えてないのに、好感度どこでそんな上がったんですか?」
「…………本気で言ってる?」
「?」
「一緒にプリン食べた時……」
「あ、あー……」

 竹葉君の反応で、彼にとってはただの雑談でしかなかった事がよく分かった。
 
「ずっと両想いだったわけですね……全然気付かなかった」
「俺も……竹葉君、ノンケだと思ってたし」
「え? ああ、俺の隠れ身の術に引っ掛かりましたね?」
「隠れ身の術?」
「エロ本です」

 エロ本……ああ、確かにアレを見て竹葉君の性的指向は異性愛とばかり思っていた。

「もう言っちゃいますけど、俺ゲイなんですよ。家族や友人に自分の指向を隠す為にエロ本を見つけやすく隠してるんです」
「……言ってくれたら、良かったのに」
「バイとは言え、初対面の同居人に早々カミングアウトはできませんよ」

 ああ……そっか。竹葉君は、俺と違って家族や友人にずっと自分の指向を隠して生活してきたんだ。
 隠れ蓑としてエロ本を用意するぐらいだし、相当敏感で繊細な話題なんだと思う。
 記憶喪失で初対面になってしまった俺がどんな反応するか分からなくて言い出せなかったんだろうな。
 
「けど、もう隠す必要無いですね。今日は、このまま手を繋いで帰りましょうか」

 竹葉君が差し出してくれた手を迷わず握った。

「ふふ……湿ってる」
「あ、緊張して汗かいちゃいました。嫌ですか?」

 首を横に振ってより強く握りしめた。
 竹葉君が心底嬉しそうに笑うから、なんだか泣きそうになった。
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