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番外編③

第九話・good night!

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  ついに、金曜日の夜が来た……!
 俺は、今日……竹葉君とSEXする。
 たったの五日間だけど、随分と長かった気がする。
 後ろの準備も、寝室の準備も、心の準備も済んだ。
 昨夜は、竹葉君の腕の中で何度も何度も深呼吸をして、落ち着こうとしたけれどやっぱり緊張は解けなかった。
 朝起きても、ずっと頭がふわふわしたままで、十分昼寝はしたけど、全然リラックス出来なかった。
 でも、もうすぐ竹葉君が帰ってくる。

「せ、SEXは気負い過ぎると感度悪くなるし、肩の力を抜いて、いつも通りに……」

 自分に言い聞かせて、もう一度深呼吸。
 玄関前で座って待ってる時点で、いつも通りじゃないけど……とにかく、今は落ち着いて待つんだ。

『ガチャッ……』
「!」

 鍵の開く音が聞こえ、俯いた顔をパッと上げたら竹葉君が扉を閉めて鍵をかけていた。

「たけ──」

 おかえり、と言う前に竹葉君に思い切り抱き締められ、その場に押し倒された。
 普段意識しない玄関の天井を背にした竹葉君は……初めて見る表情をしていた。
 発情した獣のように息を荒げて、切羽詰まった声を漏らしている。

「はぁ……はぁ……っ、盃さん……!」
「んっ!」

 熱に浮かされたような瞳で見下ろされ、竹葉君の手が身体中をまさぐる。
唇が触れたと思ったら、すぐに舌が割り込んできて口内を蹂躙される。
 歯列をなぞられて、上顎を舐め、舌先を吸われる……今までで一番激しいキスだった。
 
「んぅ……ぁ、はぁ……んむ……ぁ、あ、たけ……は、くん」

 名残惜しそうに離れた竹葉君は、俺の首筋に顔を埋めて熱い吐息を吹きかけながら吸い付いてきた。
 同時に、胸の突起を摘まれて、思わず背中が反る。

「んんぅ!」

 服越しにそのまま指先で捏ねくり回されて、時折強く弾かれる。
 その度、無意識に腰が揺れてしまう。
 勃起したモノを内腿に押し付けられ、ここが玄関である事を思い出す。

「竹葉君だめ……ココ、玄関」
「ふぅ……我慢、できません」

 ネクタイを乱暴に緩める姿に、ドキッとする。
 ズボンと下着を片足だけ抜かれて、膝裏を持ち上げられる。
 入念に受け入れる準備をしていたソコは、柔らかいがローション無しでは流石にキツい。

「竹葉君、ロ、ローション無いと……あと、ゴム」
『ガコン!』
「ココに常備してます」
「嘘でしょ!?」

 竹葉君が靴箱の下段から新品のローションと四連に連なったゴムを取り出して俺に見せてきた。

「な、なんで玄関にゴムとローションがあるの?」
「はは……何処かのエロい誰かさんが玄関で誘ってきた教訓を経て……」

 俺に説明しながらローションを手のひらに出して人肌になるまで温めている。
 めちゃくちゃ手慣れているし、スムーズだ。

「まさか、本当に使う日が来るとは思ってませんでした……」
「ん、ぁ!」

 後孔に触れた竹葉君の指先がつぷりと沈み込んで、勝手知ったる様子で奥へ奥へと進んでくる。

「あっ、あっ……んん!」
「柔らかくて、すごくぬくい……早く入りたいです」

 あっという間に三本の指を飲み込んで、ぐずぐずに蕩けていく。

「竹葉くっ、竹葉君……ぅ、もぉ……大丈夫だからぁ」
「わかりました」
「ぁ……」

 ゆっくりと引き抜かれる感覚すらも気持ち良い。
 ローションが施された竹葉君のが後孔に擦り付けられ、先端が押し込まれる感覚に目を瞑った。

「ぅんん……ぁあ、はぁ……んっ!」
「はぁ……」
『クププ……ズグン』
「ッッ~~!!」

 竹葉君の太い部分が中に入ったのを感じた瞬間──

「ぁ、あああっ!!」
「!?」
『ビュク!』

 強過ぎる快感に身体が打ち震える。絶頂を迎え、派手に白濁が胸まで飛び散った。
 竹葉君が驚いた顔をしているけど、それに構う余裕はない。

「盃さん……」
「う、ぅ……ふぅ……はぁ……」
「俺の、イく程気持ち良いですか?」

 竹葉君の問いに、必死に首を縦に振る。
 竹葉君と繋がる多幸感が凄まじい。心情が筒抜けになりそうなくらい、俺の中が悦んでる。
 竹葉君のをきゅうきゅうに締め付けて、次の快楽を強請ってる。
 俺は溶けてしまいそうな思考をなんとか引き締めて、竹葉君を煽るように顔に触れて口が触れそうな程に引き寄せる。

「お願い……俺を竹葉君だけのモノにして……?」
「はっ……ぁ……」

 竹葉君の理性が完全に崩れ落ちるのを特等席で目撃できた。

※※※ 

 玄関マットの上で、衣服をはだけさせて縺れ合いながら、俺は自分の身体に困惑していた。
 感度は良くなってたし、開発が進んでたけど、まさか、こんなに快楽に弱くなってたなんて……

「やぁ! あ! 竹葉君! そこ、ばっか、ああぁあ! またイっちゃ、あ、あぁあ!」
「はぁ……はっ、ぅ、あ!」

 竹葉君の腰使いも、愛撫も、キスも……何もかもが気持ち良過ぎて、すぐに絶頂まで持っていかれる。
 射精を伴わず、快感が体内で爆ぜ、既に何度もイっている。
 身体の相性が良いんだ。イイトコロに全部当たる。

「ぁ、ぁ……あ……ん、ふぅ……ぁ」
「まだ、終わりじゃないですよ……? ほら、見て下さい」
「んっ……ははぁ……すごぉいね」

 もう笑ってしまう……もう四回出してるのに、竹葉君の硬度が全く変わらない。

「ゴム無くなったんで、ベッド行きましょうか」
「ぅ……うん」

 俺を支えて立たせると、寝室まで運んでくれた。
 そして、再びゆっくり押し倒される。床に比べて、ベッドは快適だ。

「じゃあ、続けますよ」
「ぅ、あ……ぁ」

 覆い被さってきた竹葉君の身体は熱くて、重なる素肌が火傷してしまいそうだ。
 触れ合ったところ全部が、性感帯になったみたいに感じてしまう。

「あ、ぁ……ん、んんっ!」
「……はぁ、幸せ……」

 夢心地のように呟く竹葉君の言葉に、胸の奥がきゅんきゅんする。
 
「俺も、今、すごく幸せだよ」
「……盃さん……はぁ、ずっと入ってたい」

 グチュッグチャと卑猥な音を立てながら抜き差しされるそれが俺の身体に収まっている事に、凄く興奮してしまう。

『ピピピピ!』
「?」

 不意にアラームが鳴った。
 竹葉君がピタッと動きを止めて、ベッドに置いてあったペットボトルを手に取って、口を付けた。

「んぐっ!」

 突然の口移しに驚いてしまったが、口内に流れ込んできた水によって喉が潤い、身体が乾いていた事を思い知る。
 
「はっ……ん、もっと」
「はい」

 ああ……なるほど。だから、口移しに慣れてたのか。

「んく……ん……はぁ、ぁ……もう、大丈夫」
「はい……」

 俺が水を飲んだのを確認すると、また律動を開始した。
 今度は緩慢に、堪能するようなゆっくりとした動作。その分、中の動きがより鮮明に伝わり、快感が強くなっていく。

「はぁ……ぁ……」
「ぁ……ぅ、はぁ……すき、竹葉君……」
「!」

 快楽に耐えながら言葉を紡ぐ。少しでも気を抜いたら、簡単に意識を持って行かれそうになる。
 だけど、俺は今の気持ちを言葉にして竹葉君に伝えたかった。
 竹葉の顔に手を伸ばし、汗で張り付いた前髪を掻き分け、しっかりと目を合わせた。

「こんな、に……好きになってくれて、ありがとう」
「……さか……」
「幸せに、してくれて……ありがとう」
「…………」
「愛してるよ……竹葉君」

 そう言ってキスをすれば、竹葉君は目を丸くした後、眉間にシワを寄せて何かに耐えるような表情を浮かべた。
 その直後、中の質量が増した気がして、思わず声が出てしまう。

「ぅあ!」
「……ごめ、イきそう……」
「ぁ、はは! いいよ。いっぱい俺を可愛がってくれるんでしょ?」
「ずび……はい」

 ポロポロと涙が零れ落ちてるのに腰が動いてる素直なところが可愛い。
 
「俺も幸せに、してもらってますよ」
「うん……ぅ、ん」
「世界一の幸せ者ですぅ」

 竹葉君の言葉に心が満たされていく。
 ……やばい……俺も朝まで止まれないぞコレ。

※※※

 AM 3:15

「はぁ……はぁ……ぁ……ぁぁ」

 何回、イッたか分からない……ただひたすらに絶頂を迎え続けて、いつからか絶頂から降りられない感覚が続いている。
 つま先でシーツを引っ掻き、ビクビク震えながら、竹葉君の水の口移しを享受していた。

「ん……ふぅ……ぁ……ぁあ……」
「……はぁ……盃」
「ぁ……はぁ……はぁ……んっあ!」

 身体に力が入らない。
 何度か休憩を挟んだけど、休憩中にもメスイキが止まらなくて休憩になってなかった。
 竹葉君は未だ俺の中に居るけど、今は動いていない。なのに、俺は勝手に感じて達してしまう。

「ぅ……あ、ぁ……はっ……ぁ」
「そろそろ……切り上げましょうか」
「ぅ……ん」

 コクッと小さく首を縦に振ると、竹葉君は俺の中から自身を引き抜き、ゴムの処理をして俺の隣に寝転んだ。
 そして、ぎゅっと抱き締められる。

「流石に……疲れましたね」
「ぅん……でも、すごく幸せ」
「俺も」

 倦怠感と多幸感に包まれて、このまま眠ってしまいそうだ。
 だけど……

「ねぇ、たけ……竹葉君……」
「どうしました?」
「お風呂、入ろ」
「あ、そうですね。これじゃ身体冷えますし」

 いろいろと酷い状態だ。さっぱりしたい。
 中がムズムズする。まだ竹葉が居るみた……い?
 あれ? この感覚……なんか……

「よっと、歩けますか?」
「あ、うん」

 デジャヴを感じながら、空になったペットボトルと脱ぎ散らかした衣服の残骸を避けてフラフラと浴室へ向かい、追い焚きをした湯船に浸かる。
 対面座位のように向き合って身体を寄せ合いながら、ゆったりと温まる。
 暫くしてから竹葉君がポツポツと呟く。

「……シーツは……洗濯機放り込んで……衣服も放り込んで……あとは」
「昼まで寝る?」
「そう、しましょう」
「……はぁぁぁ……竹葉君、好き」
「俺も好きですよ」

 心地好い疲労感が押し寄せてきて、お互い瞼が重くなる。

「うーん……ヤバい。マジで寝そう」
「はは、ココで寝たら溺れますよ。あったまったし、そろそろ出ましょうか」
「うん……」

 よっこい…

『ゴチン!』
「「いって!」」

 この至近距離で同時に屈んだら頭をぶつけるのは当たり、前……だ……

「あっははは、盃さん大丈夫ですか? く、ふふ、やばいまたやった」
「……ふ、ふっ、あは! あははは! そうだね! やった! も学習しなよ!」
「!!!!」
「バッカみたい! あっはっはっは!!」

 本当に馬鹿だな俺って!!
 ここまで自分が嫉妬深かったとは思わなかった。
 取る取られる、奪う奪わないとか、そんなんじゃないだろ。
 どんな俺も等しく竹葉は愛してくれる。俺が一番、自分自身を受け入れられていなかった。区別して嫉妬して、一人相撲を極めて……馬鹿だな。本当に。
 頭をぶつけた衝撃とデジャヴで一気に記憶が蘇り、過去と現在が繋がった。
 俺は、竹葉にもっと感謝しないとな。
 
「盃……記憶が……」
「……忘れててごめんね。竹葉、記憶の無い俺を愛してくれて、ありがとう。もう一度惚れさせてくれて、ありがとう」
「……ううん、こっちこそ……好きになってくれて、本当にありがとな。俺、お前が居ないと生きていけないから口説くの必死だったんだぞ?」
「うっそだぁ!!」

 風呂を出てから身体を拭いて、少し片付けてから、寝室へ戻る。
 もう外は明るくなり始めていたが、新しいシーツを雑に敷いた布団に潜り込み、俺達は身を寄せ合う。

「俺の中にまだ、ファントムが居るみたい」
「ぶふぉ!」
「ふ、ふっくくく……おやすみ!」
「おや、おやすみ」
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