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4章:南のエルフ
檻の中
しおりを挟む8人が案内されたのは王のもとでも、広間でも、部屋でもない。いや、部屋ではあった。白い木々が付きに照らされ冷たい光を放つ。その木の根元には穴がいくつも開き穴の前の格子を冷えた風がすり抜ける。
「おい! ださんか!」
「ふざけんな!」
野太く、低い声が木々の根元で響き渡る。その叫にも似た怒鳴り声は上に届くことはない。肩で息をするダグザとドルドナに落ち着くように、ドンナトールが声をかけた。
「くっそ」
2人はドカッと格子の前に座り込む。
カムロスとミーミルは静かに壁に背を預け、目を閉じている。奥で深緑の塊が小さくなっていた。
「ドンナトール、ベレンは大丈夫だろうか」
アルロはフードを被り膝を抱え休んでいるベレヌスを見ながらドンナトールに尋ねる。ドンナトールもベレヌスをゆっくり見たが、顔を隠していては体調がどうかなどわかるはずもない。首を横に振る。
「わからんの。しかし、予知を見ておる可能性は十分にあり得る」
「そうですか。私には予知の力はほぼないからわからないが、どれほどの負荷がかかるのか知っていませんか」
「そうじゃの。息ができず、生死の境を彷徨うようだとベレヌスは言っておったの」
アルロはドンナトールの答えに眉をひそめた。ドンナトールはパイプを取り出し火をつけ、ひと吸いしゆっくり煙を吐きだした。
「初代以外の予知の力を発現したものは若くして亡くなっておる」
突然のドンナトールの言葉にアルロは目を見開いた。ドンナトールはアルロを向かず、パイプを蒸かし、続ける。
「予知といっても当たるかどうかなんてわからない。あるかもしれない未来だ。しかし、それを理解しても、心は追いつかないもんじゃ」
白い煙がドンナトールとアルロを包み込む。
「見える予知に心を痛め、苦しみ。多くの者は自ら命を落とし、もしくは発狂して死んでいった」
「・・・・・・」
「ベレヌスとて例外ではない。やつも6歳の時に死を選んだものだ」
驚愕するアルロにそれ以上、ドンナトールは言葉を発さなかった。アルロもこれ以上、尋ねていいものか考えあぐねた。白く甘い、それでいてどこか苦いパイプ草の香りが2人の周りを包み込む。
「そろそろ起きなよ」
「・・・・・・起きている」
カムロスとミーミルの呼びかけに緑の塊から顔がのぞく。しかめた顔は不機嫌がありありと現れていた。アルロは覗いた顔色に少し胸をなでおろす。暗い森の中で見た時よりも大分、血色がよかった。
「どれくらい経った」
「5時間くらいかな」
「そうか」
ベレヌスは抱え込んでいた膝を伸ばし、立ち上がった。ぐっと体を伸ばし、ほぐす。
「大分ましな顔になったわい」
体を伸ばすベレヌスをダグザとドルドナが腰に手を当てて見上げた。その表情は呆れだったが、悪いものではないとベレヌスは感じ笑みを浮かべた。
幸い、荷物を没収されなかったため、そのまま東のエルフの地下牢で朝食となった。それも携帯食だけでなく、火を起こしてのものだ。ドルドナが上手に持ってきた食料を調理すれば、煙は格子を抜け上に登っていく。その煙に当然、東のエルフは気が付くわけで
「きたぞ」
「来る前に食べちゃお」
どんどん近づいてくる足音にベレヌスは面倒だという顔でベーコンを咬みちぎる。その横でカムロスがキノコの香草焼きを咀嚼している。ほかの仲間もそれぞれが口を動かし続けていた。階段を駆け下りていた軽やかな足音が止まり、怒鳴り声が投げ込まれた。
「何をしている!」
「朝食」
「朝ごはん」
「たべるかの?」
「そういうことではないと思うぞ」
上から順にベレヌス、ミーミル、ドンナトールが答え、一人アルロが主旨が違うことを指摘した。ほかはいまだに口を動かしている。
「勝手なことを!」
カムロスは最後の一口を飲み込むとにやりと口角を上げ、格子に張り付くエルフを見上げた。
「だって何も言われてないもん」
エルフはその態度に肩を震わせるが、相手は捕まえたとはいえ東のエルフの領主クヴァシルの子息。下手なことはできないと抑え込む。
「王がお前たちに会うそうだ! 2時間後にまた来る! 勝手なことをせずに大人しく待っていろ!」
エルフとは思えない足音を立てて去っていく。その後ろを無表情でほかのエルフ兵が付き従う。その様子をドワーフは気持ちが悪いものを見るように見てしまう。
「なんじゃい、あやつら。無表情すぎやしないか」
「人形なんじゃないか。魔法で動かしているとか」
「東のエルフの一般兵は笑うことを禁止されているんだよ」
「なぜじゃ」
「戦いの邪魔になるんだってさ」
肩をすくめ答えたカムロスはミーミルを見る。ミーミルは息を吐きだすと面倒そうな声で話を引き継ぐ。
「昔、和やかな里だったと聞いている。戦いを重ねるうちに兵士たちは笑顔を忘れ、そして神の剣を手にし、それは顕著になった。一般の兵は精神がなっていないからと笑うことを禁じた」
「あいつみたいに怒ることも許されていない。ただ命令通りに動けばいいと教えられるんだ。だから東のエルフで喜怒哀楽があるものは強いものか地位のあるものだよ」
双子の説明にドワーフは顔を見合わせ、口を尖らせた。
「変な考えじゃの」
「それぞれだからね」
カムロスはそれ以上の言いようができないと困った笑みで、話を終わらせた。
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