裏購買部少年ナナ

夏目薙朔

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まさかの弁償!?

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 私が自転車置き場を訪れた時には、もうそんな道はなかった――なんて、都合のいいことがあるはずもなく。

「着いちゃった……」

 あの通路の先はちゃんと続いていて、私はまた裏購買部の前へ戻ってきてしまっていた。
 おそるおそる扉を開きながら、店の中へ足を踏み入れる。

「……誰もいない?」

 辺りを見回しても、人の姿は見当たらなかった。
 あの男の子もどこにもいない。

 ……うーん、どうしよう。

「……ちょっと見るだけならいい、かな?」

 手持ちぶさたな私は、男の子が来るまで、店内を見てみることにした。
 見るだけだったら、タダなわけだし……別にいいよね!

 順々に棚をめぐっていくと、奇妙な商品札が貼られているものが、たくさん並べられていた。

 神のみぞ汁:少し先の未来、知りたくない?
 消死けしゴム : よみがえったら何しよう
 一期イチゴアイス : どんな恋もずっと永遠に

 ……説明を読んでも、どんなものか全然わからない……不思議なものばかりが置いてある。

 中には数が減っていたり、売り切れているものもあった。

(他にもここを使ってる人がいるんだ……)

 だいたいの場所を見終えた後、私は奥にあるペース――パンコーナーに目を止めた。

「美味しそう……」

 近寄ると、ふんわりといい香りが鼻をくすぐる。
 綺麗に並べられたトレイの上には、たくさんの種類のパンがあった。
 金子先輩が買っていた華麗パンもまだ残っている。

 一つ一つ眺めていると、ひときわ気になるものを見つけた。

 丸くて黄色い、甘いバターのにおいがするパン――。
 商品札を確認すると、私は首をかしげた。

「……めろん、パン?」

 目論パン:人気ナンバーワン商品。お召し上がりは計画的に

(……どういう意味だろう?)

「――何やってるの?」
「う、うわああああああああああああああああ!?」

 じっと考え込んでいると、不意に後ろからポンと肩を叩かれた。
 驚いた衝撃でトレイに腕が当たって、ガタンとひっくり返る。

 振りかえると、いつの間にか、あの男の子がニコニコしながら立っていた。

 ――待って、トレイが……

「あまりにも遅いから、逃げたのかなって思ってたんだけど。ちゃんと来てくれたんだねぇ。えらいえらい」

 まるで小さい子をあやすような口調で言うと、男の子は下を指さした。

「――で、これは何?」

 笑顔を崩さず、明るい声で尋ねる男の子。
 床には、大量の目論パンが――無残にも転がっている。

「え、えーっと、これはっ……!」

 ――そう。いきなり男の子が現れたことにビックリした私は、ついトレイに腕をぶつけて、そのまま思いっきり落としてしまったのだ。

 何とか言い訳をしようとすると、先に男の子が口を開いた。

「これさぁ、今日入荷したばっかりなんだよね」
「うっ」
「しかも、ここで一番売れてるやつだし」
「ううっ」
「なかったら全っ然、商売になんないんだけど」
「……」

 返す言葉もない私に、男の子は真っ黒な笑みを浮かべて言った。

「ど う し て く れ る の か な ?」
「ご、ごめんなさい~~~っっっ!」

 ただ謝ることしか出来ない私は、必死に頭を下げる。
 男の子は相変わらず笑ってるけど――目は全く笑っていない。

 (ど、どどどどどどうしよう!?)

 はぁ、とため息をつくと、男の子は困ったような顔をした。

「……やれやれ。これじゃあ、今日のお代どころの話じゃないねぇ? キミにはまず――――この分、きっちり弁償してもらわないと」
「……っ!」

 ――弁償。
 重すぎる言葉に、私の顔はどんどん青ざめていく。

 (べ、弁償!? 無理、絶対に無理! だって、お代もまだ……そうだ! 筆のことを聞かないと!)

「あ、あの!」
「……何?」

 私は持っていた筆を差し出して、思い切って男の子に聞いた。

「その――この筆、普通の筆じゃない……ですよね?」
「うん、そうだね」

 あっさりそう言うと、男の子は近くの棚に貼ってあった商品札を手に取った。

 秀字筆しゅうじふで:これ一本で書道家デビュー

「……秀字筆?」
「名前の通り、秀でた字……教科書のお手本みたいに綺麗な文字が書ける筆ってこと。ちなみに、絵を描く用の筆もあるよ。ほしい?」

 男の子は別の筆をつかんで、私に向かって見せる。

 絵能具筆えのぐふで:これ一本であなたも画家に

「け、けっこうですっ!」
「そう、残念」

(……たいして残念そうには見えないけど)

 男の子はケロッとしたまま話を続けた。

「弁償って言っても、初等部生のキミじゃまず無理だよねぇ。お金も、価値のあるものも、なーんにも持ってないんだし」

 ジッと見定めるように言う男の子に、緊張して思わず背筋が伸びる。
 すると何を思いついたのか、キラキラと瞳を輝かせて言った。

「――しばらくの間、ここで働いてもらおうか!」
「……え?」

 働く……ハタラク???

「最近、客が増えてきたからね。ちょうど人手がほしいと思ってたんだ。僕ひとりじゃ、やっぱり大変だし」
「え、えっと……?」

 話が全く見えない私は、ひたすら頭の中に?マークを浮かべる。

 (いったい、どういうこと?)

 私が戸惑っていることに気がつくと、男の子は愛想よく説明し始めた。

「なーに、カンタンな話だよ。キミは僕がいいよって言うまで、ここで手伝いをすればいいだけ。これから毎日、中休み、昼休み、そして放課後にここへ来てもらう。まぁ僕は優しいから、休み時間が終わる五分前には、戻っていいことにしてあげるよ」
「え、えええええええ!?」

 こ、これから……毎日!?
 それに中休み、昼休み、放課後って……授業以外の時間、ずーっとってことだよね!?

 しかも五分前には戻っていいって言うけど、ここから教室まで、五分じゃ全力ダッシュしたって間に合わないのに……っ!

「あ、一応言っておくけど――」

 あまりにも無茶苦茶な要求に混乱していると、男の子は思い出したように言った。

「これぐらいしか出来ないキミには拒否権なんてないし、ここでは僕が絶対だから。勝手なことをしたり、言ったことをきちんと出来ない場合は――」

 そこまで言った後、ふと言葉を止める。
 ゴクリとつばを飲みこんだ私を見て、男の子は楽しそうに目を細めた。

「――どうなっても知らないからね?」

 ゾッとするほど可愛い笑顔に、私は身震いをするしかなかった――。
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