鏡の中の他人

北大路京介

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第17話「娘の質問」

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一週間が経った。

信幸からの連絡は、なかった。

亜由美も、連絡しなかった。

でも、毎日、信幸のことを考えていた。

元気にしているだろうか。

仕事は、うまくいっているだろうか。

そして、まだ、自分のことを好きでいてくれているだろうか。

ある夜、晴夏が尋ねた。

「ママ、のぶゆきと、喧嘩したの?」

「え?」

「だって、最近来ないし、ママ、悲しそうだもん」

晴夏は、心配そうに亜由美を見た。

「喧嘩じゃないよ」

「じゃあ、何?」

「その、少し距離を置いてるの」

「どうして?」

晴夏は、不思議そうに首を傾げた。

「好きなんでしょ?」

「好きだよ」

「じゃあ、一緒にいればいいじゃん」

「そんなに簡単じゃないの」

亜由美は、ため息をついた。

「大人の事情ってやつ」

「分かんない」

晴夏は、むくれた。

「でも、私、のぶゆきに会いたい」

「晴夏」

「だって、のぶゆきは優しいし、楽しいし」

晴夏の目に、涙が浮かんでいた。

「私の、パパになってくれるかもしれないって、思ってたのに」

亜由美は、胸が締め付けられた。

「ごめんね」

「ママが謝ることじゃない」

晴夏は、涙を拭った。

「でも、私、のぶゆきが好き」

「分かってる」

「だから、ママ、仲直りして」

「仲直り、じゃないんだけど」

「じゃあ、何?」

晴夏は、真剣な顔で尋ねた。

「ママは、のぶゆきのこと、本当に好きなの?」

「好きだよ」

「じゃあ、一緒にいなよ」

「でも」

「でも、じゃない」

晴夏は、亜由美の手を握った。

「私、ママが幸せになってほしい」

「晴夏」

「だから、のぶゆきと一緒にいて」

晴夏の言葉に、亜由美は涙が出そうになった。

この子は、こんなに優しい。

こんなに、自分のことを思ってくれている。

「ありがとう」

亜由美は、晴夏を抱きしめた。

「考えてみる」

「本当?」

「うん」

「じゃあ、明日、のぶゆきに電話して」

「明日は、ちょっと」

「えー」

晴夏は、不満そうだった。

でも、すぐに笑った。

「まあ、いいか。ママが決めることだもんね」

「ありがとう」

亜由美は、晴夏の頭を撫でた。

この子のために、幸せにならなければ。

そう思った。

その夜、亜由美は信幸に電話した。

「はい、吉村です」

「信幸、私」

「亜由美さん」

信幸の声は、少し驚いていた。

「どうかしましたか」

「会えませんか」

「今からですか」

「はい」

「分かりました。今から、そちらに」

「いえ、私が行きます」

「でも」

「住所、教えてください」

信幸は、少し迷ってから、住所を教えた。

「でも、散らかってますよ」

「大丈夫です」

「分かりました。待ってます」

電話を切り、亜由美は大家さんに晴夏を預けた。

そして、信幸のマンションへ向かった。

タクシーで三十分。

高層マンションの前に着いた。

亜由美は、部屋番号を確認して、エレベーターに乗った。

心臓が、ドキドキしていた。

これから、何を話すのだろう。

どう伝えるのだろう。

エレベーターが止まり、扉が開いた。

亜由美は、信幸の部屋の前に立った。

インターホンを押す。

「はい」

「亜由美です」

「今、開けます」

扉が開いた。

信幸が、立っていた。

カジュアルな服装。

初めて見る、プライベートな姿。

「どうぞ」

亜由美は、部屋に入った。

シンプルで、きれいな部屋。

でも、どこか冷たい印象。

「座ってください」

亜由美は、ソファに座った。

信幸も、隣に座った。

「どうしたんですか」

「信幸」

亜由美は、信幸を見た。

「私、やっぱり、あなたと一緒にいたい」

信幸の目が、輝いた。

「本当ですか」

「はい」

「でも、負担じゃ」

「負担じゃないです」

亜由美は、信幸の手を取った。

「あなたがいないほうが、つらいです」

「亜由美」

「だから、また、会ってください」

「もちろんです」

信幸は、亜由美を抱きしめた。

「待ってました」

「ごめんなさい」

「謝らないでください」

信幸は、亜由美の髪を撫でた。

「僕こそ、ごめんなさい。毎日来て、負担をかけて」

「いえ」

「これからは、あなたのペースで」

「ありがとう」

二人は、抱き合った。

そして、信幸が囁いた。

「今夜、ここにいてくれませんか」

亜由美は、少し迷った。

でも、断る理由がなかった。

「はい」

信幸は、嬉しそうに笑った。

そして、二人は、再び一つになった。
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