「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち

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本編

「お前より妹の方が可愛い。お前と結婚するなんて、何かの間違いだったとしか思えない」

 妹と夫の密会現場を見てしまった私に夫が間抜けな顔で言いました。

 妹と比較されて育った私には驚く事ではないけど。

 その可愛い妹が毎回、私のお下がりを欲しがるのには驚いてしまう。

 別に要らないからあげますけど。

 私の旦那様だった人が、妹に冷酷に捨てられる未来がすでに見えているので、なんとも言えない憐れみを感じています。

 でも、もしかしたら今回は妹も逃げられないかもしれないわね。



 私が離婚届を夫に書いてもらって家から出ようとしていると、部屋の奥から妹が出て来た。

 私は、ホテルに泊まって一時的に戻って来ただけだから知らなかったけど、妹はずっと夫のところにいるらしい。

 子供の頃から両親や親戚、周りから、ずっと妹とは比べられていたから、妹が私よりずっと可愛いことは知っている。

 勉強とか家の手伝いとか、そんなことよりも、可愛いことが優先される。

 可愛いこと一点のみで、常に妹は私より格上だった。

 その妹がなぜ、私程度でも結婚出来るような夫なんかを選ぶのか?

「お姉ちゃんと比べられると、私は実際以上に可愛く見てもらえるのよ」

 は?

「あんな女と比べたら、私の方が何百倍もマシに見えて、手放したくないんでしょう。普通に付き合ったら得られない感覚だわ」

 歪んだ妹の価値観を初めて聞かされた。

「まさか結婚までした相手でも同じようになるとは思わなかったの。つまらない男と結婚したわね、お姉ちゃん」

 奥にいる夫に聞こえないように妹は私の耳元で囁いた。

 顔を見ると、つまらない男から救ってあげたとでも言うような表情だ。

「次に結婚するなら、お姉ちゃんだけを見てくれる運命の人にしてね。存在しているなら、だけど」

 暗い気持ちになる。

 せっかく離婚届を書いてもらった爽やかな門出の日に、妹に呪いの言葉を吐かれた。

 でも、もうすでに私の呪いの方はあなたたちを完全に包囲しているんだけどね……。



 店の借金を返していないだと!?

 銀行から口座から引き落とせなかったと連絡があった。

 口座に金は入っているはずだから、引き落としが出来ないはずはない。

 しかし口座を調べても金はなかった。

 毎月きっちり期日まえに振り込まれているが……。

 なぜ、今月はなかった?

 他の口座にある金を集めて払ったが、来月の分はどうなるんだ。

 店の借金に奮闘していると、会長夫人……妻の母親が義妹とやって来る。

 義妹は夜に会う時と違って怒っているようだった。

 妻の実家のローンの支払いが出来ていないと言う。

 妻と結婚して店を継いだ時に、義実家のローンも払うと約束した気がする。

 結局、払っていたのは妻だから気にしていなかったが……。

 とりあえず、これもかき集めた金で支払う。

 しかし、もう集められる金はない。

 ローンの金額はもうほとんど残っていないとは言え、支払いは二、三年ある。

 払えなければ競売にかけられる。

「もう遅れないようにしてください」

 そう言って店を出て行く義母と義妹。

 俺はカッとなった。

 何も知らずに、勝手な事を言って!

 競売にかけられるような事態になる前に、義実家は売って店借金の返済に充てる。

 住む場所はどうにでもなるが、店を潰すわけにはいかない!



 私が紅茶を頂いていると、社長がやって来て面白い話を聞かせてくれた。

 私の実家と夫が店と実家のローンの事で揉めているらしい。

 夫と父が実家を売って店の再建費に充てると言い、母と妹が店を畳むように言っているらしい。

 なぜそんな事を社長が知っているかと言うと、うちとはライバル会社の社長だからだ。

 たまたま中学校からの同級生で、進路も同じで話が合った。

 私の実家での扱いを知って、うちの店で働けなんて言ってくれたりした。

 それで、これを機に働かせてもらって、今は休憩中だ。

「まあ、予想通りですね。従業員さえ守られたらどっちでも店は続けても畳んでもどっちでもいいわ」

「うちとしてはライバルが減った方がいいけどな」

 社長が言う。

「経営を続けたとしても時間の問題よ。私の給料を返済に充ててやっともってる店だから。経営者の無駄使いをやめさせなきゃどうにもならないけど、それが出来る人たちではないのよ」

 何を言ってもダメだった。

 血縁があるから、仕方なく面倒見ていてあげたけど。

 呪うつもりはなかったけど、結果的にそれが幸せから絶望に叩き落とす呪いになった。

 もともと、自分では何も出来ない人たちに、間違った自己肯定感を与えてしまった。

 彼らは、本当の実力以上の身の丈に合わないモノを欲しがる。

 一度安定が崩れた後も、実力以上の身の丈にあわないモノを欲しがれば、雪だるま式に負債が増えていくだけ。

 私が与えてしまった呪いによって、彼らは破滅するまでそれに気づかない……。

 社長も紅茶を自分で淹れて飲んでいる。

 相変わらず、ただ椅子に座って足を組んで紅茶を飲んでいるだけなのに絵になる。

「呑気ね。ライバル会社の社長が、死に物狂いで資金繰りに走っているって言うのに……」

 冷めた紅茶の最後の一口をすすりながら私が言う。

「いや、実家と元夫のことにそこまで落ち着いている君には言われたくないな」

 社長が呆れて言う。

「落ち着いてなんかいませんよ。ただ、次の返済日が来るまで待った方が、我が社の得になりますからね」



 忙しく働いていると実家と店の返済日がすぎていた。

 元夫が社長室で土下座しているのを見て日付を知った。

 結局、話し合いでは、実家を売るか、店を畳むか、決められずに期日が来てしまう。

 実家は競売にかけられて、店の資金は返済日に何度か遅れたために、銀行から一括返済を求められているという。

 話し合いで決着がつけられなかったために、元夫と妹たちは全てを失ったのです。

「あいつらが、義妹と義母が、ちゃんとわかっていればこんなことには……。何が可愛いだ、ただの寄生虫が……」

 元夫は社長に土下座しながら、虚ろな瞳で小さく恨み言を呟き続けている。

「君の元妻を大事にしていればこんなことにはならなかっただろう。彼女が自分の給料を借金返済に充てていたんだ。もう我が社では彼女がいなければ回らないくらい優秀な人なのに」

 社長が私を評価してくれるのは嬉しいけど、今は余計なことよ。

 私は社長を軽く睨んでしまう。

 元夫が私を見上げて羨望する。

 今更そんな目を向けられても不快なだけなの。

 私にとっては、視界の隅にも入れたくないゴミなんですから。

 でも、そのゴミ箱から店と従業員は救い出さなくてはいけない。

 社長によって、かなりお得な値段で店は買収されて、元夫に残った借金もかなり圧縮された。

 一生をかけたら返せるだろう。

 妹はとっくに逃げ出してしまったらしく、どこに行ったかわからないらしい。

 妹の事を話す時の夫は、「あいつは寄生虫だ」や、「最低のクズだ」とか、口汚い言葉が止まらない。

 借金を押し付けられることから我先に逃げた妹を罵りたくなる気持ちもわかるけど……。

 妹の逃げた先に幸せはあるのかしら?

 私という引き立て役を失った妹が、比べられる幸せを得られる事はもうないのだ。

 こんなグロテスクな呪いを妹に送ったのは私じゃない。

 両親や親戚、周りの人たちだった。

 その両親は家を失い、妹も私も寄りつかない場所にいる。

「買収した店の立て直しは君に任せるよ」

 社長に言われるまでもなく、私が一番あの店のことを知っている。

「これからは給料は自分のために使うように。我が社の従業員に、会社の借金を補填させることはない」

「何、それ。私に常識がないみたいに言わないでよ」

 怒って社長に反論しては見たものの、実家のために生きすぎて最低限の生活費以外の給料の使い道が思い浮かばない。

「普通は何に使うものなの?」

 私の質問に社長が呆れてる。

「……若い女性なら、服を買うとか化粧品とかか?」

「なんだ、社長も知らないんじゃない。……そうね、運命の人にいつ会ってもいいように、服を買いに行こうかな」

 私の言葉に社長が引っかかってる。

「運命の人って……小学生か……」

「言葉のアヤよ別にいいでしょ。とにかく、次の休みには買い物に付き合ってよね、社長! 従業員サービスよ!」

「……仕方ないな」

 運命の人にとっくの昔に出会っているのを二人が知るのは、もう少し後のこと——。



 妹が、また姉の代わりに愛される事を狙って戻ってくるのもその頃。

 でも、社長は妹を相手にしない。

 もう姉の代わりになれない事を悟った妹は、泣きながら私を罵倒する。

「お姉ちゃんは、一生私の引き立て役なのよ! たった一人に選ばれたからって、勘違いしないでね!」

 ただの負け惜しみにしか聞こえない。

 唇を噛み締めて妹は元夫のところへ向かう。

 姉より可愛いと言ってくれる存在、プライドを回復させてくれる存在だから。

「最低のクズの寄生虫か……! よく戻って来れたな」

 元夫は妹に言い放つ。

「何、言ってるのよ……。『お姉ちゃんより妹の方が可愛い』って言ってたじゃない……!?」

 元夫は冷たい目で言う。

「可愛いなんて、気持ち次第だ。守られる実家もない、ただ壊して逃げるだけの女を誰が可愛いと思うんだ」

 妹は、もはや自分が元夫からも姉より可愛い存在だと思われていない事を知る。

 愕然とその場にへたり込む妹。

 逃げた先では誰にも相手にされず、戻って来ても、姉のそばには姉しか見ていない男がいるだけ……。

 もう妹が姉より可愛いと言われる事はない。

 姉は壊れた店を買い取って立派に再生させていた。

 自分とは違って、内面も外見も美しい姉——。

 そう悟った妹は、絶望するだけだった。

 そして、元夫から「汚らしい寄生虫」と呼ばれても、一緒に借金を返すしか居場所がなくなっていた。

 ただ、惨めに背中を丸めて。
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