1 / 9
1:魔王危篤(魔王様)
しおりを挟む
「おとーたま、まだ起きにゃいの?」
ユーリの声だ。もう朝か……私としたことが朝寝坊するとは。
確認して判を押せと言われていた書類が山のようにあったから、早朝から頑張って片付けようと思っていたのに。ええと、そうだ、治水工事の許可証とそれから……駄目だ、目が開けられない。体が重い……。
ああ、今日は幼稚園が休みだったな。自分の体ながらよくわからんものの疲れも溜まっているのだろうか。もう少し寝よう。
「おとーたま?」
ぐいっと無理矢理両目を抉じ開けられ、眩しさに目を閉じようとしても閉じられない。ユーリ、その小さい手でやると目に刺さって痛いのだが。
「ユーリ、もう少しだけ眠りたい」
そう言いたかったのに、声も出ないほど眠い。
「わ……わあああああぁ! ねーたーん! ウリたーん! ギリムしゃーん! たしゅけてええぇ!」
何だろう、ユーリは叫びながら走って行ったな。私はそんなに怖い顔をしていたのだろうか。どうでもいいが眠い……たまにはいいな、寝過ごしても。
何やらひそひそと声が聞こえてもう一度意識が浮上してきた。
「魔王様、魔王様が……」
ん? ココナさんの声ではないか。何やら涙声にも聞えたのだが、どうしたというのだ?
むう、目が開けられん。どういうことだ。それに何だろう、この異常なだるさは。散々寝たはずなのに、余計に疲れた気さえする。
ココナさんに目覚めの口付けでもしてもらえば爽快に起きられそうな気がするのだが……。イヤイヤ、何を考えているのだ私は。未練がましいぞ。
「泣かないで。大丈夫です、魔王様は潰しても死なないお方ですから」
ウリエノイルもいるな。さり気なく酷い言いようをされている気がする。
「でも! ずっとお目覚めにならないなんて。ひょっとしてこのまま……」
「その時は覚悟を決めて王子にご即位いただきませんと。まだ幼い王子を支えて差し上げなければならないわたくしたちが取り乱してどうします。信じましょう、魔王様を」
ちょっと待てぃ! ユーリに即位って何だ? ただ人が寝ているだけなのになぜそう言う話になるのだ? ひょっとして、私は死んだとでも思われているのか?
ふいに柔らかな感触が頬に触れた。こ、ココナさんの手? 頬をするりと撫でられて僅かばかり夢見心地になった。
「こんなに安らかなお顔でいらしゃるのに。もう三日も……」
み、三日ぁ?
「魔道医師も、ただ徐々に魔力が失われるとしか……原因がわからないって」
「寿命ですかね? でもココナさん、あまり触らないで。感染するかも」
ウリエノイル、いっぺん羽根を全部毟っていいだろうか。お前、幾つだ? 同い歳では無かったかな? それに何だ、感染するって。私は病原菌か?
むう。ココナさんの手が離れて行った。それに何だ、この間は。
「……んもう、こんな所で」
「じゃあ泣かないで。ココナさんのそんな顔見るの辛い」
お前ら人の横でイチャイチャするなっ。こんな所でって何を? くそっ、ウリエノイルめ。うらやま……いやいや。その口調、素に戻っておるな。
だがそうか、この全身のだるさと異常な眠気は魔力が失われたからか。むう、眠る前私は何をしただろう。原因になる事は何だ?
と、とにかく起きられさえすれば。せめて目を開けるくらいは。
むむ、何やらぺたぺたと子供の足音が聞える。ユーリかな。いや待て。一人では無いな。大勢の足音が聞える。
「まおーたまぁ」
「えんちょーせんせー」
ひょっとして幼稚園の園児全員来たとか?
「お友達もちんぱいちてるよ。おとうたま、聞える?」
「ユーリちゃん、なんて優しいの。大丈夫、きっとお空までだって聞えるわ」
うむ。聞えておるぞ。お空にはおらんがな。
しかし、ココナさんはずっと泣いているな。彼女も心配してくれているのだろうか。ああ心が痛い。ココナさんを泣かせるなんて。皆にここまで心配を懸ける自分が憎い。
動けっ、私の体。むおおっ!
「あ、魔王様のおてて、ちょっと動いた!」
てんちゃんかな? 気が付いてくれたか。
「きのせいだぉ」
みぃちゃん……その切り捨て方は何だろうか。
「まおーたま、おきてくらしゃい」
「まおーしゃまー!」
……気持ちはとても嬉しいのだがな、耳元で大合唱されては頭がガンガンするし、小さな手でぺちぺち頬を叩かれても目を開けられんのだ。この脇の辺りをくすぐっているのはかー君の蔦だろうか。乗っかっているのもいるな。くーちゃんか?
「こらこら、魔王様は弱っていらっしゃるんだから無茶しちゃ駄目だよ」
「そうですよ。感染るといけませんよ」
「あーい」
「ごめんちゃい」
「さ、みんな魔王様のお顔、見たでしょ。大丈夫、きっと元気におなりだから。お部屋に戻りましょうね。マーム先生が待ってるよ」
ココナさんが連れて行ってくれるようで助かったものの、少し寂しいな。
段々とガヤガヤいう子供達の声が遠ざかって行く。
「このままじゃ遠足中止だねぇ」
「ちゅまんないー! まおうたま、ちがうときにしちぇほしかったにょ」
「ママがこういうの何て言ってたっけ、そうそう、間が悪い」
む……。
そういえば、ユーリも初めて遠足に行くとはしゃいでいたな。私も滅多に城を離れることが無いから、引率に行くのが楽しみだったのに。
ああ、懐かしいな。子供の頃城から出たいと言ったら父上に叱られて、姉上とウリエノイルと三人で抜け出したのだったな。下の森で木に喰われそうになってお漏らしをしたことは忘れんぞ、ウリエノイル。私も少しチビったかもしれんが……。
ボコボコ音をたてて瘴気を噴き出す沼の横で、三人で食べた菓子の味は忘れられん。襲って来た魔物を投げ飛ばしたり、トンボに攫われそうになった姉上を見て大笑いしたのも覚えている。見る物聴く音全てが新鮮で面白かった。帰ってから父上に大層叱られたが、今となっては良い思い出だ。ユーリにもそういう楽しい思い出を作ってやりたかったのに。
死期が迫ると昔のことが思い出されるというが、これがそうなのか?
いかんいかん。気弱になってどうするというのだ。我は魔王だぞ。世の均衡を守るためにユーリにまだまだ教えなければならんことが山のようにあるのだ。まだ死ぬには早すぎる。せめてあと百年はっ!
華麗に復活して、ユーリ達と遠足に行くのだ。
バターンと大きな扉を開ける音。エイジだな。もう少しこう、落ち着いて行動しろと言っているのに。今に扉に喰われるぞ。
「魔王様の死因がわかりましたよ!」
エイジっ! おい、まだ死んでおらんっ! ツッコめ誰か!
「ほう、死因がわかりましたか」
「何なの、何が原因なの?」
…………。
覚えておれよエイジ、ウリエノイル。ココナさんもツッコミは入れんのだな。ま、まあよい。よくは無いが置いておいて。で、原因は何なのだ? 早く言えエイジ。
「腕輪です!」
「腕輪って……あの勇者の腕輪? まだあったの?」
「はい。長いこと放置されていたので学者達とあの腕輪の処分を検討中に、魔王様が王子を寝かしつけにお部屋に戻られたそうで。どうもそのまま持って行かれたようだと」
……あ。
そういえばそうだった。書類の方に気を取られていて、学者共の話をいい加減に聞いていて、封印をかけて捨てると言って部屋に持ち帰ったのだ。それで、ユーリに触られるといかんと思って枕の下に……。
「でも、あれって呪文を唱えてお願いしないと発動しないんでしょ?」
「急激な魔力の吸引は確かに呪文を唱えないといけませんが、本人の魔力が強い場合は長時間身に着けているだけでもじわじわと吸い取られます。前にオレが着けただけで動けなくなったって言ったでしょう? あのキールは全く魔力のない特異な人間だったから平気だっただけなんです」
そういえばそんなことを言ってたような。この歳にして一つ教訓を覚えたぞ。人の話はちゃんと聞こう。
「では腕輪を早く遠ざけないと」
さ、三人で一度に体をまさぐるな。ポケットには入っておらん。脇の下にあるかっ! 懐になんぞ入れておらんわっ。ああっ、そ、そんな丹念に胸を……っ。誰だズボンに手を突っ込んでおるのはっ! その出っ張りは腕輪ではないっ! ココナさん、流石に足の裏には無いぞ?
「どこにもないですよ?」
「ベッドの中とか?」
そうだ。枕の下っ!
「あっ」
……ベッドから落とされた。無駄に出っ張っている鼻がじんじん痛い。お前らは力の加減というものを知らんのか。私が言うなという心の声が聞こえた気もするが、あまりにも酷い扱いではないだろうか。
「きゃーっ! 魔王様っ!」
とりあえずココナさんが心配してくれたので許す。
「ありましたっ!枕に敷いて寝ていらっしゃったようです」
「とりあえずこの布にでも包んで」
俄かにバタバタと賑やかになったが、誰も私を起してはくれんのだな。ああ、だが少し楽になった気も……とりあえずひっくり返して仰向けにしてくれたのはココナさんのようだ。
目が開いた。心配そうに覗きこんでいる大きな目が至極近くにあった。
「魔王様、良かった……」
頬に温かい雫が落ちて来た。
「心配……してくれたのですか?」
「当たり前じゃないですか! 皆で交代に魔力を与えてもお目覚めにならないんですもの。このまま魔王様がお亡くなりになったりしたらどうしようって……」
胸がチクチクと痛んだ。まだ体がだるくて腕も動かせないが……そうか、皆が私のために。
「原因は退けたので、これで魔力を回復させることが出来ます」
ウリエノイルもエイジも疲れた顔をしておるな。今回は許してやろうかな。
「ふっか~つっ!」
その後、散々言いたい放題だったウリエノイルとエイジから絞り取るほど魔力を分けてもらい、二人は寝込んだが私はすっかり元気になった。
腕輪は早々に封印の箱に入れ、城の地下奥深くに埋めさせた。
これでまた数百年は安泰だ。
また戻って来た日常生活。
「遠足は予定通り行うぞ」
「わーいっ!」
お弁当を持って、みんなで子供の時にしか味わえない楽しいことを沢山経験して、素晴らしい思い出を作ろうではないか。なあ、ユーリ。
ユーリの声だ。もう朝か……私としたことが朝寝坊するとは。
確認して判を押せと言われていた書類が山のようにあったから、早朝から頑張って片付けようと思っていたのに。ええと、そうだ、治水工事の許可証とそれから……駄目だ、目が開けられない。体が重い……。
ああ、今日は幼稚園が休みだったな。自分の体ながらよくわからんものの疲れも溜まっているのだろうか。もう少し寝よう。
「おとーたま?」
ぐいっと無理矢理両目を抉じ開けられ、眩しさに目を閉じようとしても閉じられない。ユーリ、その小さい手でやると目に刺さって痛いのだが。
「ユーリ、もう少しだけ眠りたい」
そう言いたかったのに、声も出ないほど眠い。
「わ……わあああああぁ! ねーたーん! ウリたーん! ギリムしゃーん! たしゅけてええぇ!」
何だろう、ユーリは叫びながら走って行ったな。私はそんなに怖い顔をしていたのだろうか。どうでもいいが眠い……たまにはいいな、寝過ごしても。
何やらひそひそと声が聞こえてもう一度意識が浮上してきた。
「魔王様、魔王様が……」
ん? ココナさんの声ではないか。何やら涙声にも聞えたのだが、どうしたというのだ?
むう、目が開けられん。どういうことだ。それに何だろう、この異常なだるさは。散々寝たはずなのに、余計に疲れた気さえする。
ココナさんに目覚めの口付けでもしてもらえば爽快に起きられそうな気がするのだが……。イヤイヤ、何を考えているのだ私は。未練がましいぞ。
「泣かないで。大丈夫です、魔王様は潰しても死なないお方ですから」
ウリエノイルもいるな。さり気なく酷い言いようをされている気がする。
「でも! ずっとお目覚めにならないなんて。ひょっとしてこのまま……」
「その時は覚悟を決めて王子にご即位いただきませんと。まだ幼い王子を支えて差し上げなければならないわたくしたちが取り乱してどうします。信じましょう、魔王様を」
ちょっと待てぃ! ユーリに即位って何だ? ただ人が寝ているだけなのになぜそう言う話になるのだ? ひょっとして、私は死んだとでも思われているのか?
ふいに柔らかな感触が頬に触れた。こ、ココナさんの手? 頬をするりと撫でられて僅かばかり夢見心地になった。
「こんなに安らかなお顔でいらしゃるのに。もう三日も……」
み、三日ぁ?
「魔道医師も、ただ徐々に魔力が失われるとしか……原因がわからないって」
「寿命ですかね? でもココナさん、あまり触らないで。感染するかも」
ウリエノイル、いっぺん羽根を全部毟っていいだろうか。お前、幾つだ? 同い歳では無かったかな? それに何だ、感染するって。私は病原菌か?
むう。ココナさんの手が離れて行った。それに何だ、この間は。
「……んもう、こんな所で」
「じゃあ泣かないで。ココナさんのそんな顔見るの辛い」
お前ら人の横でイチャイチャするなっ。こんな所でって何を? くそっ、ウリエノイルめ。うらやま……いやいや。その口調、素に戻っておるな。
だがそうか、この全身のだるさと異常な眠気は魔力が失われたからか。むう、眠る前私は何をしただろう。原因になる事は何だ?
と、とにかく起きられさえすれば。せめて目を開けるくらいは。
むむ、何やらぺたぺたと子供の足音が聞える。ユーリかな。いや待て。一人では無いな。大勢の足音が聞える。
「まおーたまぁ」
「えんちょーせんせー」
ひょっとして幼稚園の園児全員来たとか?
「お友達もちんぱいちてるよ。おとうたま、聞える?」
「ユーリちゃん、なんて優しいの。大丈夫、きっとお空までだって聞えるわ」
うむ。聞えておるぞ。お空にはおらんがな。
しかし、ココナさんはずっと泣いているな。彼女も心配してくれているのだろうか。ああ心が痛い。ココナさんを泣かせるなんて。皆にここまで心配を懸ける自分が憎い。
動けっ、私の体。むおおっ!
「あ、魔王様のおてて、ちょっと動いた!」
てんちゃんかな? 気が付いてくれたか。
「きのせいだぉ」
みぃちゃん……その切り捨て方は何だろうか。
「まおーたま、おきてくらしゃい」
「まおーしゃまー!」
……気持ちはとても嬉しいのだがな、耳元で大合唱されては頭がガンガンするし、小さな手でぺちぺち頬を叩かれても目を開けられんのだ。この脇の辺りをくすぐっているのはかー君の蔦だろうか。乗っかっているのもいるな。くーちゃんか?
「こらこら、魔王様は弱っていらっしゃるんだから無茶しちゃ駄目だよ」
「そうですよ。感染るといけませんよ」
「あーい」
「ごめんちゃい」
「さ、みんな魔王様のお顔、見たでしょ。大丈夫、きっと元気におなりだから。お部屋に戻りましょうね。マーム先生が待ってるよ」
ココナさんが連れて行ってくれるようで助かったものの、少し寂しいな。
段々とガヤガヤいう子供達の声が遠ざかって行く。
「このままじゃ遠足中止だねぇ」
「ちゅまんないー! まおうたま、ちがうときにしちぇほしかったにょ」
「ママがこういうの何て言ってたっけ、そうそう、間が悪い」
む……。
そういえば、ユーリも初めて遠足に行くとはしゃいでいたな。私も滅多に城を離れることが無いから、引率に行くのが楽しみだったのに。
ああ、懐かしいな。子供の頃城から出たいと言ったら父上に叱られて、姉上とウリエノイルと三人で抜け出したのだったな。下の森で木に喰われそうになってお漏らしをしたことは忘れんぞ、ウリエノイル。私も少しチビったかもしれんが……。
ボコボコ音をたてて瘴気を噴き出す沼の横で、三人で食べた菓子の味は忘れられん。襲って来た魔物を投げ飛ばしたり、トンボに攫われそうになった姉上を見て大笑いしたのも覚えている。見る物聴く音全てが新鮮で面白かった。帰ってから父上に大層叱られたが、今となっては良い思い出だ。ユーリにもそういう楽しい思い出を作ってやりたかったのに。
死期が迫ると昔のことが思い出されるというが、これがそうなのか?
いかんいかん。気弱になってどうするというのだ。我は魔王だぞ。世の均衡を守るためにユーリにまだまだ教えなければならんことが山のようにあるのだ。まだ死ぬには早すぎる。せめてあと百年はっ!
華麗に復活して、ユーリ達と遠足に行くのだ。
バターンと大きな扉を開ける音。エイジだな。もう少しこう、落ち着いて行動しろと言っているのに。今に扉に喰われるぞ。
「魔王様の死因がわかりましたよ!」
エイジっ! おい、まだ死んでおらんっ! ツッコめ誰か!
「ほう、死因がわかりましたか」
「何なの、何が原因なの?」
…………。
覚えておれよエイジ、ウリエノイル。ココナさんもツッコミは入れんのだな。ま、まあよい。よくは無いが置いておいて。で、原因は何なのだ? 早く言えエイジ。
「腕輪です!」
「腕輪って……あの勇者の腕輪? まだあったの?」
「はい。長いこと放置されていたので学者達とあの腕輪の処分を検討中に、魔王様が王子を寝かしつけにお部屋に戻られたそうで。どうもそのまま持って行かれたようだと」
……あ。
そういえばそうだった。書類の方に気を取られていて、学者共の話をいい加減に聞いていて、封印をかけて捨てると言って部屋に持ち帰ったのだ。それで、ユーリに触られるといかんと思って枕の下に……。
「でも、あれって呪文を唱えてお願いしないと発動しないんでしょ?」
「急激な魔力の吸引は確かに呪文を唱えないといけませんが、本人の魔力が強い場合は長時間身に着けているだけでもじわじわと吸い取られます。前にオレが着けただけで動けなくなったって言ったでしょう? あのキールは全く魔力のない特異な人間だったから平気だっただけなんです」
そういえばそんなことを言ってたような。この歳にして一つ教訓を覚えたぞ。人の話はちゃんと聞こう。
「では腕輪を早く遠ざけないと」
さ、三人で一度に体をまさぐるな。ポケットには入っておらん。脇の下にあるかっ! 懐になんぞ入れておらんわっ。ああっ、そ、そんな丹念に胸を……っ。誰だズボンに手を突っ込んでおるのはっ! その出っ張りは腕輪ではないっ! ココナさん、流石に足の裏には無いぞ?
「どこにもないですよ?」
「ベッドの中とか?」
そうだ。枕の下っ!
「あっ」
……ベッドから落とされた。無駄に出っ張っている鼻がじんじん痛い。お前らは力の加減というものを知らんのか。私が言うなという心の声が聞こえた気もするが、あまりにも酷い扱いではないだろうか。
「きゃーっ! 魔王様っ!」
とりあえずココナさんが心配してくれたので許す。
「ありましたっ!枕に敷いて寝ていらっしゃったようです」
「とりあえずこの布にでも包んで」
俄かにバタバタと賑やかになったが、誰も私を起してはくれんのだな。ああ、だが少し楽になった気も……とりあえずひっくり返して仰向けにしてくれたのはココナさんのようだ。
目が開いた。心配そうに覗きこんでいる大きな目が至極近くにあった。
「魔王様、良かった……」
頬に温かい雫が落ちて来た。
「心配……してくれたのですか?」
「当たり前じゃないですか! 皆で交代に魔力を与えてもお目覚めにならないんですもの。このまま魔王様がお亡くなりになったりしたらどうしようって……」
胸がチクチクと痛んだ。まだ体がだるくて腕も動かせないが……そうか、皆が私のために。
「原因は退けたので、これで魔力を回復させることが出来ます」
ウリエノイルもエイジも疲れた顔をしておるな。今回は許してやろうかな。
「ふっか~つっ!」
その後、散々言いたい放題だったウリエノイルとエイジから絞り取るほど魔力を分けてもらい、二人は寝込んだが私はすっかり元気になった。
腕輪は早々に封印の箱に入れ、城の地下奥深くに埋めさせた。
これでまた数百年は安泰だ。
また戻って来た日常生活。
「遠足は予定通り行うぞ」
「わーいっ!」
お弁当を持って、みんなで子供の時にしか味わえない楽しいことを沢山経験して、素晴らしい思い出を作ろうではないか。なあ、ユーリ。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる