Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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變色龍の章

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2133年 トーキョー

「まだ?」
 オレは今日何度目かの同じ台詞を吐いた。
「うん、まだ見つからない」
 何度目かの同じ台詞が返ってくる。でも流石に今度は愚痴のオマケがついてきた。
「大体、カイが逃がしたのがいけないんだよ? 僕にだけ探させておいて、まだ? はないでしょ、まだ? は」
 ちょっと頬を膨らませて、相棒が腰に両手を当てて怒っている。
 はい、その通りでした。オレが逃がしたのがいけないんだな。折角、オトリ捜査までやって追い詰めたのに。
「だってさぁ、消えたんだぞいきなり。目の前からすぅ~っと。透明人間みたいに」
「幽霊じゃないんだから、物音とかニオイとかわかるでしょ?」
「オレはネコだ。ワン公ほど鼻も耳も強化されてない。そんなに言うならお前がオトリになれば良かったんだ」
「じゃあこっちの役、カイがやれば良かった? 着る? これ」
 相棒は自分の服を見せながら意地悪く笑う。
「うっ……」
 大体な、お前のその姿のせいでオレは……と言いたかったが、いかん。これ以上言うとケンカになるな。それに……今更言っても仕方がない。




 オレ、カイ・リーズ。
 今はG・A・N・P本部に所属するA・HでタイプはC(Cat)。ネコだから身軽なのが取り得。
 長いこと北米支部にいたけど、色々あって本部に引き抜かれて来た。で、フェイ・キリシマのパートナーとしてもうすぐ三年目。
 フェイ・キリシマといえば、数多くいるA・Hの中でも特に有名な存在だ。A・H開発の第一人者であるキリシマ博士の最高傑作。
 確かにその噂通り、その能力は優秀で、見た目だって超のつく美少年だ。いつまでたってもお子様なままなのが少々気になるところだが……。フェイの前のパートナーはオレもよく知ってる人で優秀だったが、怪我で現場を退いたため、以前一度組んだ事のあるオレが選ばれたわけだ。
 今回、オレとフェイが応援に呼ばれたのは極東支部のあるトーキョーシティ。
 海に浮かぶ島国だが、まあ、ここの賑やかな事ったら! オレは生まれも育ちもNYだが、あそこに匹敵するね。いや、ここの方が雑然としてる。前世紀末の戦争が終結して以来、世界の経済の中心がアジアに移ってからは特に発展が著しく、科学技術も最先端をいってるから、A・Hに関する研究も盛んで、フェイの生みの親であるキリシマ博士も元々はここの出身だ。
 そうそう。A・H(アニマ・ヒューマン)とは、オレ達みたいな動物や植物の能力遺伝子を組み込んだ者の事で、G・A・N・P(GardianAngelofNatureandPeople)はそのA・H関連の事件・事故のみを扱う、ガラパゴス条約(環境・遺伝子研究とA・Hの人権に関する基本条項)の保全機構の下属として2120年にキリシマ博士が設立した機関だ。本部はバンコクにある。
 で、なんでわざわざ今回、オレとフェイが本部からこのトーキョーに来たか……最初に本部長に呼ばれて話を聞いたときは、正直、冗談はよせで終わらせたかった。

「スリ……ですか?」
「ああ。二ヶ月程前から頻発していてな。極東支部から応援要請があった」
 本部長が難しい顔でオレに書類を渡す。
「そういうのは警察の仕事でしょう?」
「どうも犯人は未知のA・Hでは無いかと言う事だ」
 はっきり姿を見たものもおらず、手掛かりがあまりに乏しいため、検挙に至らず、らしい。
「とても身軽で、何か特殊な紐の様な物を使うのだそうだ」
「姿を見た者がいないのにわかるんですか?」
 すかさずツッコミを入れると、本部長はじろっとオレを睨んだ。いかん、ご機嫌を損ねるとまずいな。ただでさえ本部長が最近すごく険悪なカンジなのに。
「はっきり見ていないだけで、なんとなく見たものはいる」
「なんっすか? そのなんとなくってのは」
 気を付けていたはずなのに、習性でツッコミを入れてしまう自分が憎い。
「……君は一言多い」
「スミマセン」
 横で黙って聞いていたフェイがぶっと吹き出した。
 咳払いを一つして、本部長の親父の説明は続く。
「その特殊な紐の様なものが、被害者の衣服のポケットから、財布などの貴重品を抜き取るのを見たものはいるのだが、その先……紐を操っている人物を見た者がおらんのだ。盗られた財布だけが宙に浮いている様に見えたそうだよ」
 なんじゃそりゃ。本当にA・H関連の事件なのか? オレは黙っていたのに、今度はフェイが口を開いた。
「わぁ、なんだか面白いですね。変な話」
 おい、フェイ、これ以上本部長を逆撫でするな。
「……とにかく、極東支部もほとほと困り果てている。二人には応援としてトーキョーシティまで行ってもらい、カイ、君が囮になって犯人を追い詰めてくれ」
「えぇ? 何でオレ……が……」
 にっこり笑っている本部長の顔を見て、オレは文句を途中で飲み込んだ。何? その笑顔っ! 目だけ笑ってないし! コワい、怖すぎる。
「了解しました」

「なぁフェイ、最近親父機嫌悪いよな。前は結構愛想いい人だったのに」
「上からのお達しで、恋人が昇進して出て行ったから寂しいんだよ」
「八つ当たりかよ。迷惑だな」
 恋人ねぇ。愛人とはっきり言わないあたりがフェイらしいっちゃらしいけども。
「おみえになりましたよ、その本部長の元恋人さんが」
 極東支部のオフィスで座って待ってたオレ達の元に、支部長がやってきた。
「ゴメンね、おまたせぇ」
 色っぽい声と共に現れたのは、完璧なまでのスタイルのセクシーなブロンド美人。
 う~ん、いつ見てもいい女だな。そりゃ横からこんな美人が消えたら、本部長も寂しいか。特に自分のだったら。
「久しぶりねぇ、フェイもカイも。二人ともお利口さんにしてた?」
 ……すごい子供扱いだし。フェイはともかく二十歳超えてるんですけど? オレ。
「みんな元気にしてる?」
「本部長の機嫌が悪いので迷惑してます」
 うふふ、と笑って、現極東支部長……シンディ・ロズウェルは誤魔化した。長い事本部のオペレーションルームにいた年齢不詳のキツネ女だ。
「研究部の総主任は? 相変わらずモテてる?」
「女性を避ける様に、最近は研究室から滅多に出てきません」
 オレが答えると、支部長がちらとフェイの方を見て苦笑いした。
 まあ、G・A・N・P研究部の総主任……フェイの前のパートナーは色々と噂があるからな。本部でも一・二を争う色男だが、誰にも靡かないのはアッチのケがあって、フェイとできてるからだとか……確かに今でも仲が良すぎるとはオレも思うけど、本人を知ってるから噂は眉唾モンだし、仕事の相棒とはいえプライベートな事は関係ないし。
 何か誤魔化す様に、今度はフェイが小さく咳払いした。
「話は本部の方で聞いてきたと思うから、早速だけど作戦会議に入りましょう」
 いや、早速って充分長かったぞ、再会の前置き。
 支部長がオレを真っ直ぐに見て言う。
「犯人はとても身軽みたいなの。だからカイ、あなたに来てもらったのよ」
「ここの支部にだって、ネコとか身軽なのいるでしょう?」
「ウチ、今現場は女の子しかいないから。狙われるのは若い男性だけなのよ」
 ううっ、こちらの噂は本当だったか。この美人支部長に間違いがあってはいかんと、本部長の裏工作で実働隊を女だけで固めたってのは……どんだけ嫉妬深いんだ。
 それは置いておいて。支部長は男だけが狙われるというわけを述べる。
「おそらく理由は二つ。女性は貴重品を大抵バッグに入れて持ち歩くわ。でも男性、特に若くてお金持ちの男性はあまりバッグは持ち歩かない」
「なるほど。もう一つは?」
「犯人が女性だから」
「え? 手掛かり無いんじゃ……」
「カンよ、勘。女の勘ね」
「はぁ……」
 勘ねぇ。いいのかよ、それで。オレがそう思っていたら、突然、支部長の顔が近づいてきて、指先で顎を持ち上げられた。うわぁ……いい匂いする。
「う~ん、まあちょっと貧乏臭いけど、顔はそこそこいいかな? このちょっと抜けてそうな所が狙われそうでいいカンジ」
 何か、思い切り失礼な事を言われてる気がするぞ。
「ちょっとぉ! みんなぁ」
「はぁ~い。何ですかぁ、お姉さま~」
 支部長の甘い声に、これまた甘い複数の声が応えた。お姉さまだとぉ?
 とととと、と足音が迫ってくる。横でフェイが怯えた様に後ずさるのが見えた。
「お仕事よ。このネコのお兄さんを、お金持ちのボンボン風にアレンジしちゃって」
「はぁ~い」
 え? 作戦会議は?
「おわぁっ!」
 複数の手が伸びてきて、オレは引き摺られるみたいに別室へ連れて行かれた。
 なんかお姉さん達に囲まれてますけど? オレ、服を脱がされてますけど?
「カイ、大丈夫?」
 遠くでフェイの声がする。やめろ、下着にまで手を掛けるなっ!
「大丈夫じゃない! 助けてくれっ!」
 その時、隣の部屋からフェイの悲鳴が聞えた。
「いやぁ! 助けてカイっ!」
「フェイ? どうした!」
 慌てるオレを抑えこんで、支部のお姉さんは妙に落ち着いた声で言う。
「あ、今あの子も着替えさせてるから。制服じゃまずいでしょ」
 着替えって……フェイ、悲鳴あげてるぞ? まあ、これと同じ状態じゃ、悲鳴も上げたくなるか。でも何故オレと違う部屋で?
 あ、顔におっぱいが。背中にも。嬉しい以上に揉みくちゃにされて、もう何が何だかさっぱりわからず、されるがまま。ちょっと意識が遠くなって来た……。
「よし完成っ!」
 自分でもよく覚えていない空白の時間の後、その声で意識が戻ってきた。同じネコっぽい感じの女性隊員が肩に手を置いて、オレを鏡の前に立たせる。
「どう? 似合うじゃない」
 あれま。これ、オレ?
 鏡の中で、結構な男前が後ろに数人の美女を従えて立っていた。
 ちょっと崩したカンジでスーツなんか着ちゃって、髪も黒いネコ耳が見えないようにちょっと長めのウイッグ。今更アナログの腕時計もすごい高そう。靴のせいか背まで高く見える。
 丁度その時。
「こんなのやだよぉ……」
 ベソかき混じりの声と共に、フェイがやってきたみたいだ。見ろ、オレを……って、え?
 振り返るとそこには、見たことも無いような清楚な感じの美少女が立っていた。長い茶色の髪、ふんわりした可愛らしい白いワンピースに縁にフリルのついたボレロ。リボンのついたピンクの靴。ちょっと立つのに足開きすぎだけど。ひょっとして……。
「フェイ?」
「うん……」
 でぇえええ?!
 顔そのままだけど、どこから見ても完璧に女の子だぞ? そこいらの娘よりよっぽど可愛いぞ? め、眩暈が……また意識が遠くなりそう。
「ほらぁ、鏡みてよ。すっごく可愛いんだから」
 支部長に促されて、渋々鏡を見たフェイがぽつりと漏らした。
「ルー……」
「え?」
「ううん、なんでもない」
「さて、用意も出来た事だし、偽セレブの二人には街をデートしてもらいましょうか。ここの支部の子達も私服で何人かつけるわ。カイ、出来るだけ目だってね」
 悪魔のような極東支部長のセクシーボイスで、悪夢のような作戦は幕を開けた。
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