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變色龍の章
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しおりを挟む「逃げられたですってぇ!」
通信機の向こうでキツネ女……極東支部長の悲鳴に近い声が。お、怒ってる。
「どういうことよ? 追い詰めたんでしょ?」
「だから、消えたんですって、目の前ですうっと。透明人間みたいに」
「馬鹿な言いわけしてんじゃないわよ。何のためのオトリよ。もうっ、男のくせに役立たずっ! ドジっ!」
おい、酷いな。その声で役立たずとか言われると、男として嫌になるよ。
「財布、なぜか微妙に濡れてますけど、指紋とかDNAサンプルが採れるかもしれないんで、おたくの隊員に渡しますよ。分析に回してください」
「わかってるわよ。いいこと、もう少し探しなさいよ。ニオイ覚えたわね、フェイ」
「……なんとなく」
「よろしい。ではこちらのタイプDも動かすから、捕まえるまで帰って来なくていいわよ。少なくとも日が暮れるまでは」
「あの、この格好のままで?」
「勿論」
……そんなわけで、スーツとワンピース姿のまま、オレ達のチームは夕方のトーキョーの町を彷徨うことになったわけだ。
「ゴメン、ホントごめんな」
女装で外に出されたままで超ご機嫌斜めのフェイに、これも何度目かの詫びをいれる。もう空は薄暗くなってきたが一向にあのスリ娘はみつからない。気がつけばシブヤっていうものすごく賑やかな所に来ていた。人が多いし、こんな中でニオイだけで一人をみつけるなんて絶対無理だ。
「いいよ、もう。それよりさ、気になってたんだけどA・Hではあったんでしょ? そのメイファって子。消えるなんてそんな能力もったモノって自然界にいるかな?」
「う~ん、オレも考えてみたんだけどな、ぱっとは思いつかないんだ。でもさ、あの紐みたいな物? あれの正体がわかれば謎が解けそうな気がする。一瞬しか見えなかったけど、道具なんかじゃなかった気がする。触手とか、体の一部? そういうナマっぽい感じがしたんだよな」
「体の一部か……あっ」
考えこみかけたフェイが足元に躓いてよろめいた。
「おっと」
オレが手を出すと、フェイが腕の中に倒れてきた。うわ、こいつ軽いな。それに……柔らかい。
「ありがと」
うっ、またその目。オレのほうが背が高いから見上げられるのは仕方ないけど。だ、抱きしめてる形だよな、今。わわわっ!
オレは慌ててフェイを放した。
「き、気をつけろよ」
「何だか疲れちゃった。人多くて色んなニオイがするから」
「どっかで少し座ろう」
オレ達は人ごみを避けてベンチに座って休むことにした。初秋とはいえ、夕方になると空気がひんやりしてきた。今朝までバンコクにいたんだから余計に冷たく感じる。
フェイが肘を抱いて少し震える。ただでさえ寒がりなのにその格好だもんな。
「ほら」
ジャケットを掛けてやると、フェイが驚いた様にオレを見る。
「やさしいね、カイ」
く、首を傾げるな。微笑むな。ちくしょう、可愛いじゃないか!
あああ……どうしちまったんだろう、オレ。絶対おかしい。目が合わせられない。ヤバイよ、これは。
今まで何人も女と付き合ってきたし、夜の方だってそこそこ経験も積んで来たこのオレが……何でこんな初恋中のガキみたいになってるわけ? しかも男の子相手にっ!
ふと、一人の男が頭に浮かんだ。フェイの前のパートナー。あの噂ってホントかもな。なんかその気持ち、わからなくもないかも? ってか羨ましい……いやいや! 何を考えてるんだ。こんなだから犯人にあっさり逃げられたりするんだ。
そうだ、きっと今回の敗因はこの動揺だ。だったら、すべてはフェイにこんな格好をさせたあのキツネ女のせいだ! 三年間で築いてきた信頼関係を一日でぶち壊す気か!
「カイどうしたの? 黙り込んで」
「え、いや、何でも」
顔に出てたかなぁ……。
間が悪くて、しばらく黙って二人で座っていた。元々、フェイはあまり喋らない。だからイマイチ何を考えてるかわからないのだが、とりあえず横にいるとなぜか落ち着く気がするんだよな。でも今日は違う。お、落ち着かねぇ~!
日も暮れかかってきたし、そろそろ捜索再開かなと、オレ達が立ち上がった時。
「あっ! こんなところにぃ!」
甲高い子供の声が近づいてきた。
「ママっ!」
「へ?」
声の主はものすごい勢いで走ってきて、そのままフェイに飛びついた。
なんだ? このちっこいの。二~三歳くらい? こんな夕方に幼児一人って、迷子?
「君、だあれ? ママじゃなくてごめん」
いきなり足に縋り付かれて、フェイが困ったように声を掛けると、そのおチビは不思議そうな顔をして言う。
「なに言ってるの? ママ、迷子になるから、ボクものすごぉくさがしたのに!」
「はぁ?」
やっぱ迷子ちゃんか。母親がフェイに似てるのかな?
面白いのは、自分じゃなくて母親の方が迷子になったみたいな言い方をしたことだ。オレは思わずふき出しそうになった。人形みたいに可愛らしい子だが、ボクと言ったところを見ると男の子なんだな。
「よくお顔みてごらん。違う人と間違えてるでしょ?」
フェイが言っても、チビは首を傾げただけ。
「どこから見てもママだけど? 朝と服、ちがうけど」
こら、自分の母親わからんのかこいつは。普通赤ん坊でも間違えないだろ。
「迷子になったの?」
「だから、ママが迷子になったんでしょ?」
う~ん、相手が幼児すぎてフェイの話が通じてない。
辺りを見回してみても、この子の母親っぽい人はいない。
突然、チビはオレの方を指差してフェイに言う。
「ねえ、ママ、この人がパパ? 先にみつけてくれたの?」
「ぐはぁ!?」
じょ、冗談じゃねえ。オレに子供はいないぞ! いや……いないはずだ。少なくとも間違えるくらいフェイに似た相手とは子供を作るような真似をした事は無いぞ。
「オレはパパじゃないっ!」
「僕もママじゃないよ!」
二人で思い切り否定しても、チビっ子は首を傾げただけでわかったのかどうなのか。相変わらずフェイにひっついたまま離れようとしない。
「どうしよう、この子……」
「警察にでも届けるか」
しかし、なんかものすごいデジャブなカンジが。このチビ、初めて見る気がしない。
クセ毛の色の薄い金髪に白すぎるくらいの色白、ばっさばさの長い睫毛。目は薄い茶色か……って、このグレーの毛の生えた尖った耳は! それにちょっと口元に牙見えてるし!
「コイツ……ノーマルじゃないな。何かのA・Hだ」
「じゃあ、警察には届けられないね」
「ねえ、ママなに言ってるの? 早くホントのパパ、探しに行こうよぉ」
チビはフェイの手を引っ張って離さない。
仕方なくオレはフェイのカツラを持ち上げた。
「ほら、お前のママじゃないだろ?」
「ん?」
あれ? 思ったよりチビの反応が薄い。
「なら、これでどうだ!」
思い切りフェイのワンピースの裾を胸の上まで捲り上げた。体の線がわからないようウエストの無いデザインだから、そりゃあ見事に上がったさ。
固まるチビ。チビだけじゃなくフェイも通りすがりの人も一緒に固まったけどな。
「何するのっ!」
真っ赤になったフェイの平手が飛んできた。習性で難なくかわしたが。なんだよ、いいだろ、つるんつるんの板のような胸を晒したところで。
「……おっぱい……ない」
うっ、チビが泣きそう。口がへの字に。
「カイ、ちっちゃい子苛めちゃだめだよ」
いじめて無いって! あ、チビは抱っこされてやがる。
「ママぁ! おっぱいどこ落としたのぉ」
……まだわかってないな。
仕方なく泣いてる幼児を連れて、オレ達は極東支部に帰ることにした。日ももう暮れるしな。
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