Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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火龍の章 前編

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「この小さな物が極小のロボットだと仮定すればの話ですが、この前の羽根の蛇の印のチップを埋め込んでたものと同型もしくは類似のものですね。どこかから誰かが指示を出しているのか、あらかじめ組まれたプログラム通り自立で動いてるのかはわかりませんが……たとえばカメラの機能がついていて、部屋の中をあらかじめ映しておき、その映像を投影していたとか……だから、この動きのほぼ無い部屋を選んだのかもしれませんね。他の人が多くて動きのある場所だとそれは成り立たない」
 思ったよりあっさり、考えはまとまってオレの口から出た。
 本部長が納得したというより、呆れた様に言う。
「……先日の蛇の印の件でも思ったが、君はひょっとしてG・A・N・Pより探偵か警察に向いているのかもしれんな。この前、君が始末されかけたのもわかる気がしてきた」
 いや、それほどでも無いと思うぞ? でも、オレはわりと状況考察は得意な方かも。これは長いことNYで、北米支部長に鍛えられた賜物かもしれない。
 それは置いておいても、まだまだ問題はある。
「まだ仮定ですけどね。証拠が少なすぎる。後、たとえそのように完璧に犯行を行ったとしても、誰にも気付かれずに、どうやってフェイを連れて建物から出たか、そもそもどうやって侵入したのかという問題が残っています」
 う~ん、とオレと本部長の二人で腕を組んで唸った。
「もう一度、他の場所の映像も確認するか……」
 本部長が言う。うへぇ。気が遠くなるな。この本部の中に、一体どんだけのカメラついてるってんだよ。
 科学分析班とも手分けして、犯行前後三十分ずつの映像をもう一度チェック。本部内のカメラは全部で百六十七箇所。そのうちの三十台分を何時間見ていただろう。いい加減眠くなってきた。昼間二時間仮眠とっただけで、何時間もくたくたになるまで探し回ってたんだ。
 いつの間にか、オレはルイと一緒に寝てしまっていたらしい。その間も本部長は、割り当て分をずっと一人で頑張っていたみたいだ。
「うん? おかしいな」
 その本部長の声で目が覚めた。
「何か?」
「……同じ隊員がほぼ同じ時刻に二箇所に映っている。犯行推定時刻の十分後」
 本部長は、本部勤務はおろか、全支部の隊員の顔と名前を覚えているとの噂は信じてなかったけど……まさかホントなのか? だったら恐るべき記憶力だ。
「離れたところに?」
「正面ゲートと、水棲A・H用のトレーニングプールだ」
「北と南の両端じゃないですか。ありえない」
 全速力で走っても、十分以内に移動は困難だぞ?
「本人に確認してみよう。サラマンダーは相当の変装の名人なのかもしれない」

 ビンゴだった。
 そのタイプsD(イルカ)の隊員は、当時、フェイの捜索命令が出たことから、ゲートにいた事が本人、およびパートナーの証言でわかった。ということは、プールにいたのが偽者。
 後、分析班の方の解析でも、もう一人同じ時刻に二箇所で映っているナースが確認された。こちらは犯行十分前。ルイは二人だと言っていた。頭数が合う。
 例の『ぶ~ん』も画像解析の結果、小型の機械であることが判明。少し材料が揃ったので本部長のオフィスでまた確認。すでにフェイが消えて二十四が時間経った。
「かなり前から潜入していたということですね。恐らく、医療センターに外来としてでも入ったのでしょう。隊員以外が入れるのはあそこだけだ。朝か、ひょっとしたら前日に。だったら、やはりサラマンダーはA・Hだって事になる。ゲートでノーマルかどうかのチェックはされますからね」
 オレの意見に、本部長も同意する。
「うむ。その後は隊員に化けていたなら誰も気がつかんな。問題はフェイをどうやって連れ出したかだが」
 これも、何となくオレの頭の中に閃いたものがあった。一人がプールに映っていたのを見て考えたのだ。
「……フェイの捜索に出る時、海からも数名行ったんですよね? ひょっとして、一緒に紛れて泳いで出たとか? 訓練用のプールは奥で外と繋がっている。一人はここから出た。で、フェイともう一人は他の隊員に紛れて出た。脅されでもしたら、従うしかない」
「現場で誰もフェイを見てないぞ」
「ここまでの変装の名人だ。フェイを別人に仕立てるくらい朝飯前かと。逆に三人揃ってだと、入れ替わったのが目立ちすぎるから別れたのか、一人は画像処理をしていたロボットの回収でもしていたか」
「なるほど。海の出動用のゲートにはカメラが少ないな。警備員がいるから」
「カメラを騙すのは難しくても、人の目はわりと簡単に誤魔化せる。本部長は、別件で余所に出動中のはずの隊員が捜索隊にいなかったか、もう一度チェックしてください」
 この推理が正しければ、サラマンダーも水棲のA・Hだという事になる。泳ぎが上手くないと成り立たない。
「――――しかし、君にこんな才能があるとはね、カイ。昼寝ばかりしていないで、その推理力と分析力を生かしていれば、もっと早くに支部長クラスになっていたのに。シンディの替わりに君に日本にいってもらえたのにな……」
 もしもし、本部長~? ものすごい私的な願望が入ってますけど? しかも人をサボリ魔みたいに言わないでくれ。そりゃ、よく昼寝はするけど。ネコなんだからいいだろ。気が向かないとこの頭は働かないのっ。それに、今はフェイの事を考えて必死になってるだけで……。
「でも……フェイはどこに?」
「そうだな……」
 また本部長と二人で考え込んだ時。
「ん?」
 本部長が突然立ち上がったかと思うと、手を伸ばして思いきりジャンプした。
 おお、初めて見たぞ、彼がこんなに大きなアクションをとる所。すごいじゃん!
「捕まえたぞ」
 手に何か握って得意げに本部長が言った。
「何ですか?」
「虫」
 ……なんかちょっとがっかり。
 いや、でもすごいな、流石はG・A・N・P一の聴力の持ち主。オレは全く気がつかなかった。それに一撃だ。やっぱタヌキじゃ無くてフクロウだってのがよくわかったよ。
「……虫じゃないな。これはいいものを捕まえたぞ」
「え?」
 そっと本部長が開いた手のひらにあったのは……。
「蛇? ……の形のロボット?」
「羽根が生えとるな。ふん、嫌な形だ。この前の印にそっくりじゃないか。ここもどうやら監視されているらしい。道理でG・A・N・P内部の情報が筒抜けなわけだ」
 そういうことか。そもそもルイを拾った時も、何故オレ達が日本にいるのがわかったのかその辺が疑問だったんだ。今度だってフェイがいつオレと離れてICUに行くかも、何もかも監視されてたってワケか。
 じゃあ、同一犯? ってことはまたあいつ?
 ロン……そういや一緒に来いってフェイを誘ってたな。あいつは一体何者なんだ? 何が狙いなんだ?
 だが、もし今度の事も裏にあいつがいるとしたら、それはそれで腑に落ちないところがある。あそこまで強いんだ。他人に頼んでまでフェイを連れ去ったりするかな? ここまで大掛かりな事をしなくても、この前みたいに隙を突けばいい。
 正直、今度マトモにやりあって勝てる気がしない。ルーが止めてくれなかったら、あの時だってやられてた。こんな遠まわしに、しかも有名な泥棒を使うなんてするかな? わざわざ予告して、警備の厳しいところから連れ出さなくても……それにルイを置いてったってのも気になるし……。
 ぐるぐる回り始めた思考の迷路から、本部長の声で引き戻された。
「カイ、何かまた思いついたのかな?」
「いえ……別に」
「他にも入り込んでないか調べねば。こいつは分析犯に解体してもらおう」
 すぐに分析班が来て、空飛ぶちっこい蛇は持って行かれた。これで少しは話もしやすくなった。
後は待機中の隊員で全棟内をチェックだ。捕虫網を持って駆け回る隊員ってすごい眺めだな。
 なんとなく、犯行の様子はわかったけど……何処に連れて行かれたのかがわからな限り、フェイを取り戻せない。本部長じゃないけど、命はあると思う。勘で。だったら場所さえわかえば取り戻す事も出来るはずだ。
 フェイ、怖い目に遭ってないかな? 酷いことされてないかな? 怪我してないかな? 泣いてなきゃいいんだけど……生きてるなら、絶対助けに行くから待ってろ。
 だが居所がわからないと助けに行きようも無い。くそ、何か探す方法は無いのかな?
 休暇中で生体反応や場所を知らせる通信機を、フェイが身に着けていなかったのも痛い。まあたとえ装備していたとしてもスイッチは切られていただろうが。
「何処にいるかさえわかれば……」
 その時、またしても本部長が立ち上がった。
「今度は何です?」
 まだ監視がいたってのか? だがそれは違った。
「そうだ! カイ、フェイはいつものピアスをつけていたか?」
「え? ええ。ウォレスさんのだって……」
「そう、まさにそれだよ。フェイの居場所がわかるかもしれない」
「え?」
 ワケはわからなかったが、慌ててオペレーションルームに向かう本部長の足取りが軽い。何かよい事を思いついたのだろうか。
「よもやまた、使う時が来るとは思いもしなかった。ちゃんと作動すればいいが」
 本部長がオペレーションルームのコンソールの隅にあるスイッチを入れた。
 モニターに地図が浮かび、小さな赤い点が点滅しはじめた。
「よし、まだ三年前のシステムが生きてる」
「これは?」
「あのピアスは発信機になってるんだ。以前、ウォレス君が闇市場に狙われていた時に、私が持たせたものだ。彼が連れ去られた時もこれで居場所がわかったんだよ」
「そうだったんですか……」
 あのピアスにそんな経緯があったとは。あの朝、オレがフェイのピアスに気が向いたのも、偶然では無く、虫の知らせみたいなものだったのかな?
「シグナルが僅かだが動いている。まだ外さず身につけたままだな」
 拡大した地図の上で赤い点がゆっくりと動いてる。ここは……。
 本部長がオレに言う。
「カイ、行ってくれるか?」
「勿論です」
「では、カイ・リーズ、任務だ。フェイ・キリシマを保護してきてくれ」
「了解しました!」
 オレは急いでヘリポートへ走った。

 目指すはグレート・クーロン。

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