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星龍の章 第二部
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しおりを挟む2133 パタゴニア
「何でお前が来てんだよ?」
もう呆れて何も言えない。オレ一人で行くって言わなかったっけ?
『強奪』してきた飛行機のパイロットとして『拉致』してきた本部長、アイザック・シモンズ氏はともかくとして、いや、これだってどうかと思うんだけど、一番置いて来たかった奴が飛行機に乗ってるんですけど。 飛び立ってかなり経ってから隠れてるのに気がついたので、今更置きに帰るのも無理だからシートに座らせたけど……。
「だって、一番関係あるのって僕でしょ?」
フェイ。お前を危険な目に遭わせたくないから、オレは決心したってのに。
「そりゃそうだけど。でもな、危ないんだぞ、死ぬかもしれないんだぞ?」
「いいよ、別に。カイと一緒なら」
しれっとすごいことを言ってのけたフェイの言葉に、ひゅぅ、とコックピットから口笛が。おいおい、シモンズさんよぅ。ホントは意外と軽いのな、あんたって。
「それに本気出したらカイより強いかもよ、僕」
ううっ、痛いところを。お嬢さん、男にそれ言っちゃオシマイだってば。
しかもだ。
「何かさぁ、更にものすごいイヤ~な予感がするんだがな。さっきから備品入れの中から気配を感じるんだけど」
「うん……微妙に音もするよね」
まさかとは思うけど、備品入れに入れる大きさって言ったら、思い当たるのは一人しかいないんだが。
フェイがそっと近づいて、天井近くの小さなドアを勢いよく開ける。どさっと何か落ちて来たのをすかさず受けると……。
「ルイ! やっぱお前かっ!」
「えへへ、みつかっちゃったよぅ」
「見つかっちゃったじゃねえよ! チビがついて来てどうすんだよ? 家族旅行じゃねえんだぞ」
もう! どうするよ、この状況。
にこにこしているおチビに苦言は呈しておく。
「お兄ちゃんになったんだろ? パパ……じゃなかった、弟放置かよ」
「だいじょぶ。おばさんたち、いるから」
そういう問題じゃ無いけどな。ルーに会わせるわけにいかないし……第一、あそこにいる者には全員に例の印があるんだぜ? 眼鏡を外したら……考えるだけで怖い。
「これ、あずかってきたよぉ」
ルイの手には大きめの袋。開けると大量のシールが入っていた。
あ、これは超音波遮断シール。ってか誰だっ! こいつにご丁寧に預けた奴は。
コックピットから手招きされて横に行くと、シモンズ氏はオレに小さく囁いた。
「……考えようによってはルイ君はすごい戦力だぞ」
「でも、眼鏡を外したら大量殺戮犯ですよ」
「それだよ。私に考えがある。もし、ドームの者が数で襲い掛かってきたら、私とルイ君に任せろ。大丈夫、死人は出さない。君とフェイで博士のところへ」
「……はあ」
拉致して来た人に、思い切り仕切られてますが。まあ、もう引き返せないし。
さすがにバンコクから南極も程近いアルゼンチンの南の端まではそう簡単には辿り着けない。途中、補給も兼ねてオーストラリアを経由し、ペルーのリマにある南米支部に寄った。
「カイ、あんたもやるわねぇ。本部長を拉致とは」
現南米支部長は前の北米支部長……オレの元パートナーだ。
「勝手について来たんですよ! ってかどうです? 例のドームの方は」
「今のところ動きはそうないわ。話し合いに行った中央政府のお偉いさんがタコ殴りにされて追い返されたくらいかしら。後、人口は着実に増えてるわね。今五千人くらいかな。よくもまああれだけの非合法のA・Hがいたものね」
「……おもいっきり動きあるじゃないですか」
「知ったこっちゃ無いわ。ノーマルのお偉いさんがどうなろうと。管轄外だし」
「……」
相変わらずはっきりした女だ。南米に来て更に激しくなったんじゃないか? サングラスを外したら結構いい女なんだけど。コウモリさんだからな、仕方ない。
「間違えても支部長はドームに入らないでくださいね。大量殺人犯になりますよ」
「ああ、反響測定(エコーロケーション)の事ね。わかってるわよ。だからここで待機してるんじゃない。あーもう退屈ぅ。あたしも一緒に行きたいわ。カイ、ついでにあたしも拉致してくれない?」
「これ以上、オレの胃に負担をかけないで下さい。穴開きます」
本当はここでルイを置いて行きたいところだが、シモンズ氏が許してくれそうに無い。この上、コウモリ女までついて来た日にはドームは血の海と化すぞ。
「そうそう、忘れるところだった。フェイ、ちょっと」
「え?」
支部長に呼ばれてフェイが別室へ行った。拉致してきたパイロットさんは、お疲れかちょっと仮眠中だ。ルイは支部のお姉さん達に囲まれてニコニコしながらお食事タイム。
「かわいいわねぇ」
「やーん、でもショックぅ。ウォレスさんに子供いたなんて。密かに狙ってたのにっ」
「しかもそっくりだし。くやしい~! 見ると思い出すから眼鏡はずしちゃえ」
ホントにモテ男だったんだな。こんな離れた支部の女の子まで。ちょいジェラシー。そういや北米支部にいた時も、支部長にやたら絡まれてたしな。でも本人にまったく自覚が無かったのが不思議でたまらない。
とりあえずオレも補給。だ~れも構ってくれないしぃと、ちょっぴり卑屈になりつつオレが一人寂しく用意してもらったツナサンドを頬張っていると、フェイが帰って来た。
「何の用だった?」
「……ここにもカードが届いてた。ササキさんからだって」
またカード。今度のはデジタルカードじゃなく、紙のようだ。
またミカさんからか? ってか、何でここに来ることがわかったんだ? 監視のカメラはもう無かったはずだ。それにササキさんって誰だよ。日本でも確か同じ名前だったよな。普通のおじさんだったって。日系人も多いところだけど、地球の裏側だぜ?
「それと、これ」
フェイがもう一つ見せたもの。
「あ、それは……」
貝殻を繋げたネックレス。ロンが首に掛けていたやつとよく似てる。
「何か意味あるのかな、このネックレス」
「ものすごく手作り感あるよね。可愛いけど」
か、可愛いか、これ? まさか仕掛けは無いよな? 爆発するとかカメラや盗聴器ついてるとか。隅々まで調べてみたが別段怪しいところも無さそうなので保留にした。
「カードの中身は?」
尋ねると、フェイは首を傾げただけだった。
「それが……何も書いてない」
「え?」
渡されて、オレが開いてみると確かに白紙だった。
「う~ん、何か仕掛けでも?」
透かして見ても斜めから見ても何もなさそうだ。
「なになに~みせて~」
ルイがオレの手からカードを取り上げた。
「こら、返せよ。まだ字も読めないくせに」
お前まだ三歳にもなってないだろうが。大体、眼鏡外してるじゃん、今。
「よめるよぉ~。うんとぉ、わ、あ、ってる……って?」
「はぁ? 白紙……ってか、今、音出した? 字書いてある?」
「うん」
もしかすると……。
「支部長、あっちの水槽借りますね」
「いいけど」
水棲A・Hを保護した際に使う水槽が部屋の奥にある。幸い今は空だったのでそこにカードを沈めてみる。
「フェイ、顔つけて反響測定やってみて」
「いいけど……」
う~ん、変な眺め。水槽に顔だけつけてカード見てるって。この可愛いお尻。後ろから押したくなる衝動に駆られたが、平手が怖いのでぐっと我慢。
しばらくして顔を上げたフェイが驚いた様に声をあげた。
「文字、書いてあった。『私はアークで待ってる。荒野で王冠を探して』」
「おおっ、すごいな。超音波当てると文字が浮かぶのか」
例の印と同じ技術を使ってるんだな。なるほど、これなら特定の者にしか読めない。
「……水は平気だからいいけどさ、支部長ならこんな事しなくても読めたんじゃ……」
顔を拭き拭きフェイのツッコミが入った。ははは~。そうだったな。いいじゃん、濡れた髪も色っぽいぞってことにしといて。
「私ってのはミカさんかな。アークにいるってか。でも王冠探せって……確かに解除コードにも王冠って言葉があったけど。荒野ってどこだろ?」
オレが言うと、思いがけない言葉がフェイから聞こえた。
「アークか。ここからだと近いけど……先にドームの方に行くよね?」
「え? アークの場所わからないんじゃ……」
「詳しくはね。でもディーンを拾ったのはガラパゴス諸島の北の端のほう。ピンタ島の近くだよ。だからその辺りではあるはずだよ」
「海の下だよぉ」
ルイの間の抜けた声。
「そういや、お前のおうちって……」
ああ……ホントにオレ、鈍すぎるわな。ここにまさにそこから来た奴いるじゃん。
だがルーは危険だからルイを逃がしたはずだ。そこに連れてくわけにはいかない。
「とりあえずドームを目指そう。荒野はたぶんその近くだと思う。勘だけど。どうやってるか知らないがオレ達の行動はお見通しみたいだ」
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