Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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星龍の章 第二部

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「うわぁ、おおきいたまごぉ」
 ルイが上を見上げてぽかんと口を開けている。
  たまごか。そうだな、ドームって透明の卵が地面に半分埋まってる様に見えなくもない。可愛らしい例えに、一瞬だが緊張がほぐれた。
「訊かれたらチラッとだけ見せろ、いいな?」
 もう一度全員に念を押す。
 なるべく穏便に中に入りたいということで、南米支部に寄った時にニセモノの印を描いてもらったのだ。ルイは膝に、オレと本部長は腕に、フェイは脛に。一見それっぽくは見えるが、ペイントなんでじっくり見られるとバレる。
 オレ達は、海側とは反対側のドームの北西ゲートに辿りついたワケだが……おう、一応監視が立ってるんだな。
「新しい仲間を連れていらしたのですね? お疲れ様です」
 監視にものすごく丁寧にお辞儀され、チェックも無しに通れた。どうもフェイをルーと間違ったようだ。ちぇっ、くすぐったい思いして絵を描いてもらったのに。バレ無かったんだからいいのだが、何となく面白くない。
 フェイがやや得意げに言う。
「ほら、僕と来て正解だったでしょ?」
「まあな」
 でもなぁ、鉢合わせた時とか想像するとものすごく怖いんだけど。
 ドームの中は温かく、乾燥した強風に晒されて来た体に心地よい。それに静か。約二万人が移住する予定だったドームだ。いかにあれから増えて何千人といるか知らないが、閑散としたものだ。
 完成間近だった事もあって、建物も道もすでにきちんと整備されている。植物も植えてあり、循環式の人工の川も流れる内部は、確かに楽園と呼べなくも無さそうな趣。
「で? どこを目指せば? 司令官どの」
「う……」
 シモンズおじさんの意地悪。いかにドームとはいえ、直径二キロ。勢いで来たけど実はそこまで考えて無かった。何とかなるかなと思ってたし。
「多分、映像にあった会議場みたいな所ってこの中ですよね。ああいうのは中央にあると思う。とりあえずそこ?」
「了解」
 オレは道すがら、先ほどのメッセージの意味を考えていた。
『迷宮の奥深く、方舟は今、ハーピィだけが護っている』
 ハーピィ……他のメッセージから考えても、これはミカさんの事だろう。最終コードの『私は何?』の答えではないかと推測される。そんでもって他の者は皆、博士と一緒に出て行ったんだな。成程、闇市場が動いてないわけだ。
『一と二の封印が解かれる時、竜が星に旅立つ時』
 ここら辺りが理解出来ない。一と二の封印は恐らく第一と第二の解除コードの事だとはわかるが……星にって?
 続きを考えようとした時、フェイに腕を引っ張られた。
「カイ、何か嫌な雰囲気だよ」
 前方から確かにあまり雰囲気の宜しくない一団がやって来る。十人くらい? どう見ても全員戦闘タイプだ。爬虫類の皮膚を持つ者、虎の様な毛に覆われてる奴、猛禽の顔をしてる奴もいる。パトロールして回ってるのかな?
「おや、おかしいですね。先程奥でお会いしましたが?」
 一団の中では比較的頭の良さそうな、褐色の肌の男がフェイに向かって言った。耳がドーベルマンっぽい。
 早くもバレたか。ってことは、奥には確実にルー……いや、博士がいるんだな。
「ニオイも違う。偽者ですか?」
「どっちかってぇと、こっちが本物なんだけど」
 思わず出た言葉に、一斉に敵意に満ちた視線が集まった。わき腹をつついたシモンズ氏の目がまた『一言多い』と言っている。
「なんかこわいよう」
 じりじりと囲まれて、ルイが半泣きでオレの膝に抱きつく。
「本部長、何か作戦あったんでしょ?」
「見極めは済んだ。カイ、シールの用意だ。右の三人の印の位置はわかるな。何秒で貼れる? 左の四人は私が。競争するかね?」
 ……何かやりたい事わかったぞ。面白いじゃん。でもシモンズさんよ、オレと勝負する気? しかもハンデくれるってか。すごい自信だねぇ。
 更に本部長がフェイにも指示を出す。
「フェイ、少しの間ルイ君を頼む。合図したら眼鏡を取れ」
「でも……」
 フェイが躊躇する気持ちはわかる。だがそう悠長にはしていられない。
「何をごちゃごちゃと!」
 ドーベルマンが苛立って吼えた。怖そうなのが一斉に襲いかかって来る。
「よぉーい、どん!」
 イマイチ緊張感に欠ける本部長の号令で、勝負開始。
 オレのスピードと動体視力を舐めんなよ。一人目、首。二人目、額。三人目……後頭部。攻撃を躱しつつ、シールを印に貼る。ふふん、五秒。
 あ、親父もう貼り終えてるしっ。うそっ!
「フェイ!」
 本部長の合図でフェイがルイの眼鏡を外した。フェイ達に飛び掛ろうとしてた猛禽っぽい男の手の甲が、ぱんっと音をたてた。
「わああぁ!」
 上がった血しぶきと悲鳴に皆が固まった。
「な、何を……」
「この子に近寄るとそうなるぞ」
 致命傷になりそうな場所に印のある奴にはシールを貼った。後の者は軽傷で済むって寸法か。ルイ自身は眼鏡を外しているから何が起きてるのかほとんど見えていない。流石だな、本部長。
「お前ら、その印が危険だって知らなかったのか?」
 全員一斉に頷く。数名が走って逃げた。効果テキメンだな。
 それでも納得しない奴もいる。さっきシールを貼ってやった虎縞の男とリーダー格らしいドーベルマンが、性懲りも無くかかって来やがった。
「あのお方の所に偽者など行かせるものか!」
 だーかーらー。ニセモノはアッチだっつーの。
 ほうら、お気の毒に虎縞はフェイに回し蹴り喰らってるし。水圧をものともせず泳ぐイルカの一撃は利くぞぉ。オレもちょっとは暴れたいから、ワン公の肩に飛び乗って軽く顔面を引っ掻いてやった。二人ともしばらく立てないぞ。戦闘タイプか知らねぇが、こちとら場数踏んでるG・A・N・Pの隊員だぜ。
 騒ぎを聞きつけて人が集まり始めた。ちょこっと面白く無い状況になってきたな。
「カイ、フェイと行きたまえ」
 そう言いつつも、シモンズ氏は目にも止まらぬ速さでシールを数人に貼ってる。す、すげっ。こんなに速く動けたんだ。しかも音もたてずに。オレやロンどころじゃねぇ。森の狩人フクロウをなめてたよ。G・A・N・Pのトップを任されてるのは伊達じゃ無いんだな。
 感心ばかりもしてられない。ここはお言葉に甘えて先に進もうとしたが、ルイを避ける様に、逆にこっちに強そうなのが流れて来て行く手を阻む。
「力づくで通るしか無いか」
 元より戦うのは覚悟の上だ。ちらっとフェイの方を見ると軽く頷く。よし、いつもの呼吸だ。
 だっと同時に走り出して数人を躱した。それでも後ろからかかって来た奴には蹴りを入れ、軽く爪でいなす。こいつらには恨みも無いことだし、極力怪我もさせたくない。だが、数が多すぎる。
 その時、
「おやめなさい!」
 声が響いた。フェイと同じ声。
「この楽園で争い事は良くないと言ったでしょう」
 皆、一斉に動きを止めた。
 人波の中を、すたすたと彼女は歩いてきた。女王の様に堂々と。
「この方達は私が招きました。皆さん離れて下さい」
 ほう、お招きいただいた覚えはありませんけども? でもこれを口に出すと、また一言多いって言われるしな。黙っとこう。
 フェイとルーが向かい合っているのを見て、皆が呆然と立ち尽くしている。並ぶと更に似ているのがわかるもんな。これでニセモノなんていう奴はもういなくなるだろう。
 ルーの顔がオレの方を向く。
「お待ちしてました。お話は奥でいたしましょう。カイ・リーズ、二人っきりで」
 ルーが……いや、誰かさんがルーの顔で微笑んだ。オレに。
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