ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と白蛇の巫女

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 僕が声をかけると、祈里は驚いた様子で辺りを見回したが、当然ながら僕は透明なので見つかりはしなかった。

「あの、姿が見えないんですけど……」

「うん。見えないと怖いかな?」

 僕が聞くと祈里は恐る恐る頷いた。

「うーん……じゃあ、こんくらいなら良いよ」

 僕は自分の姿を黒い靄で隠して姿を現した。まるでモザイクみたいなそれで覆われた僕を見た祈里は寧ろあんぐりと口を開けた。

「えっと、あの……それが、貴方の姿なんですか?」

「いや、違うけど。一応、格好は隠しとこうかなと思って……まぁ、それより君の話だよ。困ってるなら、僕が助けるよ。今は一日一善が目標だからさ」

「……困ってたら助けるなんて、そんな簡単な話じゃないです。白蛇様は、貴方みたいな黒い良く分からないのにどうにか出来るような存在じゃありませんから」

「あんまり、話したくない?」

 祈里はむすっと口を結んで、顔を背けた。

「辛いなら、頼って良いんだよ? その為に僕が来た訳だし」

「……巫女に選ばれたのは、私です。下手なことをして白蛇様を怒らせたくないんです。私が生贄になっていれば、この村はまだ生きていられるんです。お母さんも、友達も、宮司さんも、みんな」

 その目には確かな覚悟が宿っていて、僕はその覚悟に呑まれて言葉を噤んでしまった。まだ中学生くらいの子供だって言うのに、何でそんな覚悟が出来るのか、僕には分からなかった。

「だから、私が頑張ります。私が我慢したら、みんな幸せなんです……私は、強い子だから耐えられます。生まれてからずっと、巫女として生きて来たんですから」

 そう語る祈里の目には涙が滲んでいて、その手は僅かにふるえていた。

「まぁ、別に信じなくても良いんだけどさ……あ、でもほら、さっき占いがどうとか言ってたじゃん。アレって、僕のことじゃないのかな?」

「占いなんて……黒い、霧?」

 祈里は僕の姿を良く見ようと顔を近付けた。ちょっと顔がバレそうで不安だからやめてほしい。

「白霧に相反するものって……まさか、本当に」

「あー、確かに。ピッタリだね」

 占いって凄い。意外と当たるもんだね。まぁ、全知全能が居るんだし、占いくらいあってもおかしくないか。

「あの、貴方は……本当に、私を……救って下さるのですか?」

「うん」

「……お願いします。どうか、助けてください」

 突然その場に膝を突き、やけに堂に入った動作で頭を下げた祈里に僕はもはや見入ってしまったが、慌てて頭を上げさせた。

「ちょ、ちょっと、頭なんて下げなくて良いから。まだ子供でしょ? 心配しなくても、助けるつもりだよ」

「ッ、私はもう十四歳です!」

 見た目通りじゃねえか。思わず突っ込みそうになった僕だが、今は柔らかく笑みを浮かべておくことにした。

「あはは、子供の内は甘えるもんだよ。僕に任せときなよ」

「だから、子供じゃないですって!」

 ん? どういうことだ?

「えっと、十四歳なんだよね?」

「はい!」

「じゃあ、子供だよね?」

「違います!」

 おかしな話だ……。

「……ここってさ、日本だよね?」

「確かに、そう聞いております」

 そう、聞いてる……?

「そういえば……貴方は、どうやってここに来たんですか?」

 祈里の怪訝そうな目を見て、僕は理解した。どうやら、ここは相当におかしな場所らしい。

「ひゅんっと飛んできたんだよ」

「じゃあ、どうやってこの村を見つけたんですか? ここは、白霧の結界で外界から隔てられている筈なのに……」

「え? まぁ、村を見つけるっていうか、僕は君を見つけて来たよ」

「私を、見つけて……?」

 外界から隔てられてる、か。なるほどね。如何にも話が合わないと思ったのはそれが原因らしい。ここは日本の中にはあるけど、外とは隔離された村で、独自の文化を築いて来たんだろう。そして恐らく、その結界を作ったのは話に幾度も出ている白蛇様とかいう奴だ。

「ふんふん、話が分かって来たよ」

 全知全能で一瞬で調べるのも良いけど、やっぱりこうして自分の足で色々調べる方が良いよね。何というか、人間的な感じで良い。

「白蛇様が悪事を働いてるとか、そんな感じ?」

「……悪事、どころではありません」

 そう答えた祈里だが、続きを話そうとはしなかった。きっと、口にもしたくなかったんだろう。仕方ない。もう元凶には至って居るんだ。答え合わせくらいは良いだろう。

 ――――白蛇様はこの村を支配する低位の邪神です。約四百年前、村に巣食う妖魔であった存在は、信仰対象であった白蛇様を乗っ取ることで力を増し、そして十分な力を得たところで村を己の力で覆い、外界と隔離しました。外からはこの村は認識出来ず、内部の人間は外へ出ることは出来ません。それから、白蛇様はこの村の神として己を崇めさせ、そして十数年に一度生贄を要求するようになりました。その目的は己の餌であり、玩具です。白蛇様は村に生まれた女の全てを直ぐに確認し、その未来で己に相応しい存在となっているのが見えれば、その赤子を巫女として任命します。巫女に任命された女には白蛇様から呪いがかけられ、幾ら体が欠けようと再生する不死の存在と化します。そして、白蛇様にとっての適齢となった頃に呼び出され、白蛇様が満足し、丸呑みにするまでの十年以上を白蛇様の存在する異空間に閉じ込められ、延々と食われ、犯され、壊され続けます。そのシステムは今日まで続いています。そして、目の前の少女は正に今代の巫女であり、儀式は明日に行われます。

 僕は思わず閉口し、目の前の少女……祈里を見た。
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