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全知全能と矛先
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煙草の匂いが染み付き、天井も壁も薄汚れて、ソファはくたびれている。だが、そんな場所こそが少女にとって最も安心できるホームだった。
「ふぅ……ったく、クソ疲れたぜ」
赤髪の少女はソファに座り込み、ソファの背に腕を大きく広げ、足も豪快に広げた体勢で息を吐いた。
「茜、座り方が下品だよ」
「あ? 別に良いだろ。どうせ誰も見てねぇよ。ま、見てても関係ねぇけどな」
「……はぁ」
水色の髪の少女、瑞樹は茜を窘めるも効果が無いことを察して溜息を吐いた。
「それに、ちっとくらい今は気楽に居たって良いだろ? あのクソ吸血鬼が死んで、光のクソ親父は次の手を打つにも時間がかかる。今は光用の魔石を集めとけば良いってもんだ」
「そうだけど……でも、敵の次の一手がいつ下されるかは分からないんだよ?」
「……まぁな。もうアレから大体一週間か。そろそろでも、おかしくはねぇな」
「うん。次は……きっと、魔術師が来るだろうね」
瑞樹が不安げに言うと、茜は笑いながらソファから立ち上がった。
「んなビビんなよ。大丈夫だ、魔術師が相手だろうが……私達ならぜってぇ、負けやしねぇ」
「分かってる? 魔術士じゃなくて、魔術師の話をしてるんだよ?」
「分かってるに決まってんだろ。幾ら固有魔術を操れようが、一瞬で焼いちまえば終わりだよ。あの吸血鬼みたいにタフな奴はそうそう居ねぇ」
「……そうかも、だけどさ」
未だ不安げな瑞樹の頭を茜は雑に撫で、顔を上げさせた。
「私と、この鞭を信じとけ」
「確かに……その鞭は、信じられるかも」
瑞樹が笑みを浮かべながらやり返すように言うと、茜は笑いながら瑞樹の頭を軽く叩いた。
「ざけんな。それじゃ私の格好つかねぇだろ」
「茜は格好つかないくらいが似合ってるよ」
「何だよそれ、嫌すぎんだろ……」
茜は言いながら、冷蔵庫の方へと歩いて行った。瑞樹はふぅと息を吐き、ソファではなく一人用の椅子に座り込んだ。
「……きっと、大丈夫」
そして、小声で自分を勇気付け……ガチャリと開いた扉に、思わず跳び上がった。
「ただいまー。あれ、どうした?」
扉を開けて入って来たのは黒崎と御岳、光の三人だった。黒崎は跳び上がった後の体勢で硬直していた瑞樹に怪訝そうに声をかける。
「い、いや、何でも無いよ……」
「? なら良いけど……」
不自然さを感じながらも頷いた黒崎を先頭に、三人が事務所の中に入って来る。御岳はソファの対面にある革の貼られた大きめの椅子に座り込んだ。
「一旦集合だ、お前ら」
御岳がそう声をかけると、ソファに茜と光が座り、左右の椅子に瑞樹と黒崎が座った。
「どうやら、マズヴァイが動き出したらしい」
御岳の言葉に、瑞樹は悪い予想が当たったとばかりに嘆息した。
♦
日々、魔術を使ってゴーレムと戦っていると……思う訳である。
――――もっと、魔術を使ってみたい。
そう、思う訳である。ただ、魔術を使うんじゃなくて……実戦で使ってみたいという欲が湧いて来た訳である。といっても、この現代で好きには振るえない。裏世界で試すのは、ゴーレムと戦うので満足している。何か、良い方法は無いだろうか。
「よっし、頂きますか」
目の前の絵空が手を合わせてそう言った。絵空は楽し気な表情でラーメンを啜り、隣では善斗がカツカレーを食っていた。そう、ここは食堂である。
「治、食わないのか?」
「ん? あぁ、食べるよ。いただきます」
僕は一旦思考を止めて、目の前のオムカレーに取り掛かることにした。ぱくりと食べると、何度も味わったものだけどやっぱり美味しかった。
「そういえば俺、最近ハマってるのがあんだよね」
「何?」
オムカレーに集中していた僕が短く聞くと、絵空はにやにやと笑いながら話し出した。
「異世界転生」
「いや、いつもじゃん」
何が最近ハマってるのだよ。絵空は口を開けば異世界転生がどうとか、チートがどうとかと忙しい。そんなにスーパーヒーローにでも憧れてるんだろうか。……いや、魔術で戦うことにハマってる僕が言えたことじゃないな。
「いやまぁ、いつもだけどさ。最近ハマりなおしたんだよ」
「何だよそれ……ほら、善斗に至っては会話に入ろうとすらしないじゃん」
「ん? あぁ、興味無いからな」
「し、辛辣ゥ……まぁ良いさ。治、お前はやっぱりこっち側のセンスがあると思うぜ? ほら、圧倒的な力で無双して色んな女の子にちやほやされたいだろ?」
絵空の言葉に、僕は溜息を吐いた。別に完全には否定出来なかったからだ。彼女いない歴=年齢の僕としては、確かに女の子にちやほやされたい気持ちはある。だけど、貰い物の力で無双して好かれたところで、それは力に魅力があるだけで僕に魅力は無いのと同じだ。
「女の子には普通のやり方で好かれたいかな」
「そんなこと言ってるからずっと彼女居ないんだろお前」
グサッ、と僕の心に言葉が突き刺さった。
「う、うるさいなぁ……絵空だって付き合ったことは無いだろ」
「ねぇけど、告られたことはあるからお前よりは一枚上だな」
「キモい奴め……」
僕はもう適当な罵倒しか返すことが出来ず、すごすごとオムカレーに慰めを求めた。うん、美味しい。
「じゃあ、そうだな……結構、戦う系のゲーム好きだろお前?」
「ん? まぁ、そうだね」
あんまり家畜や野菜を育てたりするゲームは僕はやらない。嫌いって程じゃないけど、それでもやっぱり戦闘がメインのゲームの方が好きである。
「なら、モンスターをバッタバッタ薙ぎ倒していくのはどうだ? 爽快感あるぜ? 後は、良く闘技場とかで強力な相手と戦うイベントとかもあるな。そういうのはワクワクするんじゃねえの?」
「……」
「おい、俺の話聞いてる?」
「……聞いてるよ。偶には良いことを言うね、絵空も」
「失礼な奴だなお前は」
つまり、僕が何を言いたいのかと言えば……
「異世界、行ってみますか」
そう言う訳である。
「ふぅ……ったく、クソ疲れたぜ」
赤髪の少女はソファに座り込み、ソファの背に腕を大きく広げ、足も豪快に広げた体勢で息を吐いた。
「茜、座り方が下品だよ」
「あ? 別に良いだろ。どうせ誰も見てねぇよ。ま、見てても関係ねぇけどな」
「……はぁ」
水色の髪の少女、瑞樹は茜を窘めるも効果が無いことを察して溜息を吐いた。
「それに、ちっとくらい今は気楽に居たって良いだろ? あのクソ吸血鬼が死んで、光のクソ親父は次の手を打つにも時間がかかる。今は光用の魔石を集めとけば良いってもんだ」
「そうだけど……でも、敵の次の一手がいつ下されるかは分からないんだよ?」
「……まぁな。もうアレから大体一週間か。そろそろでも、おかしくはねぇな」
「うん。次は……きっと、魔術師が来るだろうね」
瑞樹が不安げに言うと、茜は笑いながらソファから立ち上がった。
「んなビビんなよ。大丈夫だ、魔術師が相手だろうが……私達ならぜってぇ、負けやしねぇ」
「分かってる? 魔術士じゃなくて、魔術師の話をしてるんだよ?」
「分かってるに決まってんだろ。幾ら固有魔術を操れようが、一瞬で焼いちまえば終わりだよ。あの吸血鬼みたいにタフな奴はそうそう居ねぇ」
「……そうかも、だけどさ」
未だ不安げな瑞樹の頭を茜は雑に撫で、顔を上げさせた。
「私と、この鞭を信じとけ」
「確かに……その鞭は、信じられるかも」
瑞樹が笑みを浮かべながらやり返すように言うと、茜は笑いながら瑞樹の頭を軽く叩いた。
「ざけんな。それじゃ私の格好つかねぇだろ」
「茜は格好つかないくらいが似合ってるよ」
「何だよそれ、嫌すぎんだろ……」
茜は言いながら、冷蔵庫の方へと歩いて行った。瑞樹はふぅと息を吐き、ソファではなく一人用の椅子に座り込んだ。
「……きっと、大丈夫」
そして、小声で自分を勇気付け……ガチャリと開いた扉に、思わず跳び上がった。
「ただいまー。あれ、どうした?」
扉を開けて入って来たのは黒崎と御岳、光の三人だった。黒崎は跳び上がった後の体勢で硬直していた瑞樹に怪訝そうに声をかける。
「い、いや、何でも無いよ……」
「? なら良いけど……」
不自然さを感じながらも頷いた黒崎を先頭に、三人が事務所の中に入って来る。御岳はソファの対面にある革の貼られた大きめの椅子に座り込んだ。
「一旦集合だ、お前ら」
御岳がそう声をかけると、ソファに茜と光が座り、左右の椅子に瑞樹と黒崎が座った。
「どうやら、マズヴァイが動き出したらしい」
御岳の言葉に、瑞樹は悪い予想が当たったとばかりに嘆息した。
♦
日々、魔術を使ってゴーレムと戦っていると……思う訳である。
――――もっと、魔術を使ってみたい。
そう、思う訳である。ただ、魔術を使うんじゃなくて……実戦で使ってみたいという欲が湧いて来た訳である。といっても、この現代で好きには振るえない。裏世界で試すのは、ゴーレムと戦うので満足している。何か、良い方法は無いだろうか。
「よっし、頂きますか」
目の前の絵空が手を合わせてそう言った。絵空は楽し気な表情でラーメンを啜り、隣では善斗がカツカレーを食っていた。そう、ここは食堂である。
「治、食わないのか?」
「ん? あぁ、食べるよ。いただきます」
僕は一旦思考を止めて、目の前のオムカレーに取り掛かることにした。ぱくりと食べると、何度も味わったものだけどやっぱり美味しかった。
「そういえば俺、最近ハマってるのがあんだよね」
「何?」
オムカレーに集中していた僕が短く聞くと、絵空はにやにやと笑いながら話し出した。
「異世界転生」
「いや、いつもじゃん」
何が最近ハマってるのだよ。絵空は口を開けば異世界転生がどうとか、チートがどうとかと忙しい。そんなにスーパーヒーローにでも憧れてるんだろうか。……いや、魔術で戦うことにハマってる僕が言えたことじゃないな。
「いやまぁ、いつもだけどさ。最近ハマりなおしたんだよ」
「何だよそれ……ほら、善斗に至っては会話に入ろうとすらしないじゃん」
「ん? あぁ、興味無いからな」
「し、辛辣ゥ……まぁ良いさ。治、お前はやっぱりこっち側のセンスがあると思うぜ? ほら、圧倒的な力で無双して色んな女の子にちやほやされたいだろ?」
絵空の言葉に、僕は溜息を吐いた。別に完全には否定出来なかったからだ。彼女いない歴=年齢の僕としては、確かに女の子にちやほやされたい気持ちはある。だけど、貰い物の力で無双して好かれたところで、それは力に魅力があるだけで僕に魅力は無いのと同じだ。
「女の子には普通のやり方で好かれたいかな」
「そんなこと言ってるからずっと彼女居ないんだろお前」
グサッ、と僕の心に言葉が突き刺さった。
「う、うるさいなぁ……絵空だって付き合ったことは無いだろ」
「ねぇけど、告られたことはあるからお前よりは一枚上だな」
「キモい奴め……」
僕はもう適当な罵倒しか返すことが出来ず、すごすごとオムカレーに慰めを求めた。うん、美味しい。
「じゃあ、そうだな……結構、戦う系のゲーム好きだろお前?」
「ん? まぁ、そうだね」
あんまり家畜や野菜を育てたりするゲームは僕はやらない。嫌いって程じゃないけど、それでもやっぱり戦闘がメインのゲームの方が好きである。
「なら、モンスターをバッタバッタ薙ぎ倒していくのはどうだ? 爽快感あるぜ? 後は、良く闘技場とかで強力な相手と戦うイベントとかもあるな。そういうのはワクワクするんじゃねえの?」
「……」
「おい、俺の話聞いてる?」
「……聞いてるよ。偶には良いことを言うね、絵空も」
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「異世界、行ってみますか」
そう言う訳である。
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