ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と女狩人

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 僕の意味ありげなミステリアスな呟きは、寧ろ赤髪の女の呆れを強めるだけに終わった。

「……はいはい。どこから来たのか知らないけど、全然焦っては無いってことは、実際実力はそれなりにあるんでしょうね。それとも、自分の命の危機にすら気付けない間抜けだったりするのかしら?」

「あはは、まぁ魔術に自信があるのは確かですよ。だけど、助けてくれたのはありがとうございます。あのままだと、怪我はしてたかも知れませんし」

「ふーん。ま、取り敢えず敬語なんて使わなくて良いわよ。冒険者になるなら、そんな杓子定規じゃ居られないわよ?」

「別に、そんな風になった覚えは無いけど……まぁ、敬語じゃなくて良いならそうするよ」

 僕が言うと、女は満足気に頷いた。堅苦しいコミュニケーションが得意でないタイプなんだろう。

「……にしても、今のご時世で冒険者ね。仕事にあぶれたのか、それとも……」

 女は少し溜めた後に、僕の目を真剣な眼差しで見た。

「参加したい戦線でもあるのかしら」

「いや、無いけど」

 僕が言うと、女は顔を赤くして逸らした。

「じゃ、じゃあ何で冒険者なんて目指してんのよ!」

「そりゃ、自由を求めて……」

「いつの時代の話をしてんのよ、アンタ」

 女は赤くしていた顔を呆れた表情に戻し、溜息を吐いた。

「ホント、世間知らずなのね……どんな田舎で育ったのよ。てっきり、住んでる村が戦線に近くなってるのかとでも思ったんだけど」

「それが、なんで冒険者になることに繋がるの?」

「冒険者としてある程度実力を示したら、今なら割と簡単に等級を上げられるでしょう? そして、等級を上げられたら戦線の中でもちゃんと前線の重要な個所を任せて貰えるでしょう? そうなれば、村を守りやすくなるじゃない」

「なるほどね……まぁ、僕はそういう理由じゃないよ。ただ、冒険者になりたかっただけ」

 僕が言うと、女は胡乱げに僕を見る。

「そんな奴、今時いないわよ普通……冒険小説に憧れて冒険者になるには、今の世界は血と絶望に塗れすぎているもの」

 僕は初めて、女の瞳に影が差すのを見た。

「……君が冒険者になった理由は、聞かない方が良いかな?」

「別に、私は五年前から冒険者だったから……アンタが言ったみたいな、そういう理由よ」

 女は照れたように言う。

「でも、三年前。魔王が現れてからは……冒険者を目指す奴は、故郷や仲間を奪われて復讐を目指す奴か、そうならない為に戦う奴か、働く場所も無くて剣を握るしか無くなった奴しか居ないわ。どれも、悲惨よ。昔みたいに、希望を持って冒険を夢見る人なんて居ないのよ」

 女は溜息を吐き、しかし僅かな笑みを浮かべて僕を見た。

「そんなことも知らないアンタを見て、私にもちょっとは希望が湧いたわ。こんな世の中でも、まだ夢を見てる奴が居るなんてね」

「そっか」

 僕は何とも言えず、それだけ呟いた。というのも、僕はこの世界のことを漠然としか知らない。魔王が居て、人類と争ってて、魔術とか武術が発展しててみたいな、その程度のものである。

「それで……僕は街に行きたいんだけど、案内とかして貰えたりする?」

「……ホント、どこから来たのよアンタ」

 そう呆れたように言いつつも、女は詮索してくることは無かった。


 暫く歩いたところで、僕はあることに思い至った。

「そうだ。名前を聞いても良いかな?」

「別に良いけど、名乗るなら自分から名乗りなさいよ」

「治だよ。宇尾根治。苗字が宇尾根で、治が名前ね」

「ふーん……私はレティシアよ。てっきり、ひねくれたメイジみたいに名前も教えたくないのかと思ってたけど、そうじゃないのね」

 そんなメイジ居るんだ。いや、居るか。相手の名前を知ってないと使えないタイプの魔術なんかもあるし。ていうか、メイジってのは魔術士のことで合ってるよね?

 ――――メイジとは、魔術を実用的に使用することが可能な存在のことです。魔術を主に戦闘するものはウィザードと呼ばれ、研究や学術的にのみ使用する者はマグスと呼ばれます。但し、それらの区別を使わずにメイジという呼称のみを使う者も多く存在します。

 なるほどね。しかし、自動翻訳だと地球に存在しない単語はこういうズレが出ちゃうんだね。まぁ、多少は良いか。

「僕はウィザードだよ」

「何よ急に……そりゃ、冒険者になるんだからウィザードでしょうけど」

 僕は毅然と言い放ってみたが、レティシアは怪訝にこちらを見るだけだった。

「因みに、あとどれくらいで着く……?」

「アンタの足に合わせてたら、三時間くらいね」

 さ、三時間……! ま、不味い。これだと、晩飯の時間に間に合わないぞ……。

「良し、急ごうレティシア! いつも通りで良いよ! 僕も合わせるから!」

「……言ったわね?」

 レティシアがにやりと笑うと、その体に赤いオーラが纏わりつき、そして凄まじい速度で駆け出して行った。

「はっや……」

 僕はその背が小さくなっていくのを見送りながらも、魔術を小さく唱えた。

「ま、追いつくけどね」

 全身を包む全能感に身を任せるように駆け出すと、レティシアの背が少しずつ大きくなるのが見えた。
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