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狂想曲
─19─襲撃
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押し込められたのは、立つことも横になることもままならない、護送車とは名ばかりの鉄製の檻に車輪がついたものだった。
村や街を通る際には、さらし者になるという按配だ。
陰湿な宰相が考えそうなことだ。
そう考えて、彼は苦笑した。
が、すぐにそれを収め、低い天井を見上げる。
この先、人間らしい扱いを受けられない以上、人家のある場所にたどり着くまで命がある保証はない。
仮に、幸か不幸か人々の好奇の目にさらされつつ皇都にたどり着けたとしよう。
その先に待ち受けているのは、斬首か火あぶりか、はたまた八つ裂き……方法は定かではないが、いずれにせよ公衆の面前で大々的に処刑されるのは間違いない。
楽しくない想像を打ち切ると、彼は外の様子をうかがった。
前方を行くのは、宰相が直々に派遣した使者の乗る豪奢な馬車。
左右と後方には、警備兵がぴったりと張り付いている。
気が付けば、日はすでに傾き宵の帳が降りていた。
このままどこかで野営するのか、あるいはオトラベスの街まで進むのか。
どちらにせよ、最終的な目的地である皇都に着くまで、この先この檻から出されることはないだろう。
ため息を一つついた時だった。
突然隊列が止まり、周囲が慌ただしくなる。
何事かと彼が視線を巡らせるとほぼ同時に、後方につけていた警備兵が前触れなく落馬した。
「て……敵襲?」
「まさか? エドナの死神が?」
口々に言いながら、警備兵達は各々剣を抜く。
異変を感じたのだろうか、前方の馬車から、使者が顔を出す。
「何事か? 早く進まないと……」
そこまで言った時、扉が開くと共に使者は自らの重みで車外に転がり落ちていた。
それきり、ぴくりとも動く気配はない。
「な……何が……? いかがなさいました?」
今度は、草むらに倒れ伏す使者の様子をうかがおうと馬を寄せた右側の警備兵が突然落馬し、乗手を失った馬は生い茂る木々の中へと走り去っていく。
瞬間、その場は混乱に陥った。
「ぼ……亡霊だ! 聖地にたどり着けずに行き倒れた人々の亡霊だ!」
被害を免れれていた警備兵達は、得体の知れない恐怖に取り憑かれ、自らの役割を放棄し馬の腹を蹴るとその場から走り去る。
それを合図に、御者達も馬車を捨てて逃げ出した。
ただ一人残された彼は、檻の中で無駄だと知りつつ身構える。
と、彼方から下草を踏みしめる音が聞こえる。
どうやら何者かがこちらに近付いて来るようだ。
薄暗がりの中近づいてきた人陰は、倒れ伏す人々から何かを探すような仕草をしている。
やがて、その人陰は使者が|隠しに入れていた鍵の束を見つけ出した。
それを手にした人陰はこちらに向き直ると、檻に向かい歩み寄る。
と同時に、人陰から黒い固まりが飛び出し、鉄格子をすり抜け檻の中に入ってきた。
足元にじゃれつくそれが何であるかを理解して、彼は思わず頬を緩めた。
「……遅かったじゃないか、ペドロ。見捨てられたかと思った」
「減らず口を叩けるようなら大丈夫ですね。安心しました」
相変わらずのぼそぼそとした口調だが、ペドロの言葉の端々には安堵の感情が感じられる。
だが、それ以上多くを語ることなく、ペドロは檻にかけられていた錠前を解錠し、次いで枷で戒められていたシエルを開放した。
けれど、檻を出るなり悪びれもせず大きく伸びをするシエルに、あきれたようにペドロは言った。
「少しは反省してください。おかげで今、大変な事になっています」
「大変な事?」
訳がわからない都でも言うように首をかしげるシエルに、ペドロは林の中のある一点をを指し示した。
「あとで詳しく説明します。あちらに川がありますから、まずは身体を清めて来てください」
オトラベスで、ジョセ卿がお待ちです。
そう告げられて、シエルの表情がわずかに曇る。
が、すぐに無言でうなずくと、川に向かい歩みだした。
珍しく反論もせずに自分の言葉にしたがうその人の後ろ姿を、ペドロは驚いたように見つめていた。
村や街を通る際には、さらし者になるという按配だ。
陰湿な宰相が考えそうなことだ。
そう考えて、彼は苦笑した。
が、すぐにそれを収め、低い天井を見上げる。
この先、人間らしい扱いを受けられない以上、人家のある場所にたどり着くまで命がある保証はない。
仮に、幸か不幸か人々の好奇の目にさらされつつ皇都にたどり着けたとしよう。
その先に待ち受けているのは、斬首か火あぶりか、はたまた八つ裂き……方法は定かではないが、いずれにせよ公衆の面前で大々的に処刑されるのは間違いない。
楽しくない想像を打ち切ると、彼は外の様子をうかがった。
前方を行くのは、宰相が直々に派遣した使者の乗る豪奢な馬車。
左右と後方には、警備兵がぴったりと張り付いている。
気が付けば、日はすでに傾き宵の帳が降りていた。
このままどこかで野営するのか、あるいはオトラベスの街まで進むのか。
どちらにせよ、最終的な目的地である皇都に着くまで、この先この檻から出されることはないだろう。
ため息を一つついた時だった。
突然隊列が止まり、周囲が慌ただしくなる。
何事かと彼が視線を巡らせるとほぼ同時に、後方につけていた警備兵が前触れなく落馬した。
「て……敵襲?」
「まさか? エドナの死神が?」
口々に言いながら、警備兵達は各々剣を抜く。
異変を感じたのだろうか、前方の馬車から、使者が顔を出す。
「何事か? 早く進まないと……」
そこまで言った時、扉が開くと共に使者は自らの重みで車外に転がり落ちていた。
それきり、ぴくりとも動く気配はない。
「な……何が……? いかがなさいました?」
今度は、草むらに倒れ伏す使者の様子をうかがおうと馬を寄せた右側の警備兵が突然落馬し、乗手を失った馬は生い茂る木々の中へと走り去っていく。
瞬間、その場は混乱に陥った。
「ぼ……亡霊だ! 聖地にたどり着けずに行き倒れた人々の亡霊だ!」
被害を免れれていた警備兵達は、得体の知れない恐怖に取り憑かれ、自らの役割を放棄し馬の腹を蹴るとその場から走り去る。
それを合図に、御者達も馬車を捨てて逃げ出した。
ただ一人残された彼は、檻の中で無駄だと知りつつ身構える。
と、彼方から下草を踏みしめる音が聞こえる。
どうやら何者かがこちらに近付いて来るようだ。
薄暗がりの中近づいてきた人陰は、倒れ伏す人々から何かを探すような仕草をしている。
やがて、その人陰は使者が|隠しに入れていた鍵の束を見つけ出した。
それを手にした人陰はこちらに向き直ると、檻に向かい歩み寄る。
と同時に、人陰から黒い固まりが飛び出し、鉄格子をすり抜け檻の中に入ってきた。
足元にじゃれつくそれが何であるかを理解して、彼は思わず頬を緩めた。
「……遅かったじゃないか、ペドロ。見捨てられたかと思った」
「減らず口を叩けるようなら大丈夫ですね。安心しました」
相変わらずのぼそぼそとした口調だが、ペドロの言葉の端々には安堵の感情が感じられる。
だが、それ以上多くを語ることなく、ペドロは檻にかけられていた錠前を解錠し、次いで枷で戒められていたシエルを開放した。
けれど、檻を出るなり悪びれもせず大きく伸びをするシエルに、あきれたようにペドロは言った。
「少しは反省してください。おかげで今、大変な事になっています」
「大変な事?」
訳がわからない都でも言うように首をかしげるシエルに、ペドロは林の中のある一点をを指し示した。
「あとで詳しく説明します。あちらに川がありますから、まずは身体を清めて来てください」
オトラベスで、ジョセ卿がお待ちです。
そう告げられて、シエルの表情がわずかに曇る。
が、すぐに無言でうなずくと、川に向かい歩みだした。
珍しく反論もせずに自分の言葉にしたがうその人の後ろ姿を、ペドロは驚いたように見つめていた。
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