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1 私の好きな人は、誰にでも優しい王子様です
「リリア様はお元気でしたか?」
柔らかい金色の髪を櫛でゆっくりと梳きながら、私、メアリー・バーベルの親友であり、この国の第二王女である人物の様子を尋ねた。
見事な金色の髪の持ち主は、うっすらと目を開けて、二週間ほど前に隣国の王太子と結婚式を行った妹王女の様子を聞かせてくれた。
「セドリック殿下にとても大切にされて幸せそうだったよ。まぁ、リリアを愛してるからくれと直接乗り込んできたと思ったら、嵐のようにそのまま連れて帰ったんだ。幸せにしてなかったら許さないよ」
あはは、と声をあげ、結婚式の様子を思い出しているのか、優しい表情をしている。久しぶりに見たその笑顔に、小さく胸がドキリと鳴った。
「わ、私もリリア様の結婚式に参列したかったですわ」
「向こうも王族だけの参加だったからね。それに、筆頭侯爵家の令嬢である君を一ヶ月も連れ出せないからね。リリアも君に会えないことを残念がっていたよ」
もう、二年以上も会っていない親友を思うと、寂しさがこみ上げ、髪をすいていた手を止めた。
できる事ならリリアが嫁入りをする時に側仕えとしてでも一緒に隣国に渡りたかったが、その願いはリリアの方から頑なに断られた。
「あなたの幸せを願っている」と笑顔で去って行った彼女が思い出され、こみ上げてきた思い出に言葉が詰まった。
「そんな顔してどうした? 私と会えなくて寂しかった?」
大きな手が私の頭をそっと撫でる。驚いて視線を上げると、パチッとウィンクをした美しい顔がそこにあった。
「もうっ。また、揶揄っていますわねっ!」
いつもの子供扱いに、ふんっと少し拗ねて返事を返すと、あはははと声を上げて笑っている。
子供相手のように優しい手が私の髪を撫でると、寂しいと思っていた気持ちがやわらいでいく。自分の現金さに呆れるが、嬉しいものはしかたがない。すべて、この目の前の男性に踊らされていると思うと悔しいのだが、子供相手のような扱いでもそばにいたいと思ってしまうのだから、受け入れるしかないのだ。
目の前にいるこの男性は、ハリオス・ファタニアといい、このファタニア国の第二王子でありーー私の片思いの相手だ。
伸ばされた金の髪と紺青の瞳が印象的な美しい男性で、中性的な顔とは反対に、背が高く鍛えられた体をしている。悔しいほど、顔の造形にも体格にも恵まれた美丈夫だ。
平均的な貴族女性より、身長が低い私が並ぶと大人と子供のようだった。なんとか少しでも大人っぽく見せようと、釣り上がりぎみの目を強調した化粧と、丁寧に仕上げている縦巻きの髪という見た目の補正を加えても、ハリオスの隣に並ぶと見劣りしてしまう。
しかも、ハリオスからの私への対応も、まるで子供扱いだった。簡単に頭を撫でる仕草も、とっくにデビュタントを終えた女性にすることではないのだが、
私がハリオスを好きだと知っていてやってくるのだからタチが悪いと思うのだが、いつも、笑顔で誤魔化されてしまう。
出会った頃からずっと子供扱いだった。これからも私の気持ちに答えてくれる気はないのだろうと、何となく分かっている。事あるごとに「好きです」と伝えている私に、優しいハリオスは明確な言葉を口にしない。
見込みのない恋などやめた方が良いのだが、時々、返ってくる彼からの揶揄が私の気持ちを離してくれないのだ。気がつくと口から「好き」ともれてしまう。
さらに、ひどい現実として、そんな思わせぶりな揶揄に淡い夢を抱いている貴族令嬢は、私だけではない。ハリオスは誰に対しても同じような態度をとっている。誰にでも言う言葉だから、私にも言っているーーただそれだけだった。
「会えなくて、寂しかったに決まっていますわ……」
ポツリとつぶやき、止まっていた手を動かしだした。いつまでこうやって自分がハリオスの髪を自由に触れるかはわからない。ただ、今だけは、一番近い存在だと勘違いさせて欲しいと願いながらゆっくりと櫛を動かした。
ハリオスは気持ちよさそうに目を閉じている。私は気づかれないように、ハァと小さくため息をついた。
丁寧に梳いた艶やかで柔らかい髪を一つにまとめて、胸の前で緩く結び、黒地に金色の刺繍が入ったリボンで飾る。
ゆったりとした黒色の長衣をまとい、金の帯をしているハリオスはとてもよく似合っている。
「思った通り! やっぱりこの色が、素敵ですわ!」
「メアリーが選んだ物をつけているとね、みんなが褒めてくれるんだ」
鏡台の鏡に映る、つけたばかりのリボンを撫でて微笑んだハリオスの表情に、大きくドキリと心臓が跳ねた。何をしても絵になる姿に、簡単に視線を奪われてしまう。
その姿に見惚れてボーッとしていると、高くよく響く元気な声が、私の意識を現実に戻した。
「メアリー! ぼくも にいさまと おなじがいい!」
私の袖を小さな手が引く。鏡台に置いてあったハリオスの髪に飾られたものと同じリボンを反対の手に持ち、ハリオスより少し明るい青の大きな目で私を見上げている。
「マリウド様! もちろんですわ! さぁ、こちらに座って?」
「うんっ!」
ハリオスの隣に座り、ピンと背筋を伸ばし、期待の眼差しで私を見あげている。
可愛らしいその様子に笑みを返し、肩で切り揃えられたサラサラの髪を一房そっと摑み、リボンと一緒に編み込んでいく。
ピンでとめてやれば、明るい髪に黒いリボンがしっかりと映えてとてもよく似合っていた。
「マリウド様! 素敵ですわ!」
膝をつき、手を繋いで喜んでいると、目の前でマリウドの体がふわっと浮いた。ハリオスに抱き上げられ、高くなった視界にきゃっきゃっと声を出して喜んでいる。
「ぼく、メアリーよりも高いよ!」
嬉しそうにはしゃぐマリウドとそれを優しげに見つめるハリオスの様子に胸が温かくなる。久しぶりに見る二人の兄弟のやり取りに、少しだけ視界が滲んでしまったが、なんとかこぼす事なく笑顔で返すことができた。
そもそも、なぜ私が王城にいるのか。全てはこの末王子、マリウドの為だった。
マリウドは姉王女のリリアのことが大好きだった。
そのリリアが結婚のため、自分の傍からいなくなったことが受け止められず、一時期、笑うことができなくなってしまっていた。
柔らかい金色の髪を櫛でゆっくりと梳きながら、私、メアリー・バーベルの親友であり、この国の第二王女である人物の様子を尋ねた。
見事な金色の髪の持ち主は、うっすらと目を開けて、二週間ほど前に隣国の王太子と結婚式を行った妹王女の様子を聞かせてくれた。
「セドリック殿下にとても大切にされて幸せそうだったよ。まぁ、リリアを愛してるからくれと直接乗り込んできたと思ったら、嵐のようにそのまま連れて帰ったんだ。幸せにしてなかったら許さないよ」
あはは、と声をあげ、結婚式の様子を思い出しているのか、優しい表情をしている。久しぶりに見たその笑顔に、小さく胸がドキリと鳴った。
「わ、私もリリア様の結婚式に参列したかったですわ」
「向こうも王族だけの参加だったからね。それに、筆頭侯爵家の令嬢である君を一ヶ月も連れ出せないからね。リリアも君に会えないことを残念がっていたよ」
もう、二年以上も会っていない親友を思うと、寂しさがこみ上げ、髪をすいていた手を止めた。
できる事ならリリアが嫁入りをする時に側仕えとしてでも一緒に隣国に渡りたかったが、その願いはリリアの方から頑なに断られた。
「あなたの幸せを願っている」と笑顔で去って行った彼女が思い出され、こみ上げてきた思い出に言葉が詰まった。
「そんな顔してどうした? 私と会えなくて寂しかった?」
大きな手が私の頭をそっと撫でる。驚いて視線を上げると、パチッとウィンクをした美しい顔がそこにあった。
「もうっ。また、揶揄っていますわねっ!」
いつもの子供扱いに、ふんっと少し拗ねて返事を返すと、あはははと声を上げて笑っている。
子供相手のように優しい手が私の髪を撫でると、寂しいと思っていた気持ちがやわらいでいく。自分の現金さに呆れるが、嬉しいものはしかたがない。すべて、この目の前の男性に踊らされていると思うと悔しいのだが、子供相手のような扱いでもそばにいたいと思ってしまうのだから、受け入れるしかないのだ。
目の前にいるこの男性は、ハリオス・ファタニアといい、このファタニア国の第二王子でありーー私の片思いの相手だ。
伸ばされた金の髪と紺青の瞳が印象的な美しい男性で、中性的な顔とは反対に、背が高く鍛えられた体をしている。悔しいほど、顔の造形にも体格にも恵まれた美丈夫だ。
平均的な貴族女性より、身長が低い私が並ぶと大人と子供のようだった。なんとか少しでも大人っぽく見せようと、釣り上がりぎみの目を強調した化粧と、丁寧に仕上げている縦巻きの髪という見た目の補正を加えても、ハリオスの隣に並ぶと見劣りしてしまう。
しかも、ハリオスからの私への対応も、まるで子供扱いだった。簡単に頭を撫でる仕草も、とっくにデビュタントを終えた女性にすることではないのだが、
私がハリオスを好きだと知っていてやってくるのだからタチが悪いと思うのだが、いつも、笑顔で誤魔化されてしまう。
出会った頃からずっと子供扱いだった。これからも私の気持ちに答えてくれる気はないのだろうと、何となく分かっている。事あるごとに「好きです」と伝えている私に、優しいハリオスは明確な言葉を口にしない。
見込みのない恋などやめた方が良いのだが、時々、返ってくる彼からの揶揄が私の気持ちを離してくれないのだ。気がつくと口から「好き」ともれてしまう。
さらに、ひどい現実として、そんな思わせぶりな揶揄に淡い夢を抱いている貴族令嬢は、私だけではない。ハリオスは誰に対しても同じような態度をとっている。誰にでも言う言葉だから、私にも言っているーーただそれだけだった。
「会えなくて、寂しかったに決まっていますわ……」
ポツリとつぶやき、止まっていた手を動かしだした。いつまでこうやって自分がハリオスの髪を自由に触れるかはわからない。ただ、今だけは、一番近い存在だと勘違いさせて欲しいと願いながらゆっくりと櫛を動かした。
ハリオスは気持ちよさそうに目を閉じている。私は気づかれないように、ハァと小さくため息をついた。
丁寧に梳いた艶やかで柔らかい髪を一つにまとめて、胸の前で緩く結び、黒地に金色の刺繍が入ったリボンで飾る。
ゆったりとした黒色の長衣をまとい、金の帯をしているハリオスはとてもよく似合っている。
「思った通り! やっぱりこの色が、素敵ですわ!」
「メアリーが選んだ物をつけているとね、みんなが褒めてくれるんだ」
鏡台の鏡に映る、つけたばかりのリボンを撫でて微笑んだハリオスの表情に、大きくドキリと心臓が跳ねた。何をしても絵になる姿に、簡単に視線を奪われてしまう。
その姿に見惚れてボーッとしていると、高くよく響く元気な声が、私の意識を現実に戻した。
「メアリー! ぼくも にいさまと おなじがいい!」
私の袖を小さな手が引く。鏡台に置いてあったハリオスの髪に飾られたものと同じリボンを反対の手に持ち、ハリオスより少し明るい青の大きな目で私を見上げている。
「マリウド様! もちろんですわ! さぁ、こちらに座って?」
「うんっ!」
ハリオスの隣に座り、ピンと背筋を伸ばし、期待の眼差しで私を見あげている。
可愛らしいその様子に笑みを返し、肩で切り揃えられたサラサラの髪を一房そっと摑み、リボンと一緒に編み込んでいく。
ピンでとめてやれば、明るい髪に黒いリボンがしっかりと映えてとてもよく似合っていた。
「マリウド様! 素敵ですわ!」
膝をつき、手を繋いで喜んでいると、目の前でマリウドの体がふわっと浮いた。ハリオスに抱き上げられ、高くなった視界にきゃっきゃっと声を出して喜んでいる。
「ぼく、メアリーよりも高いよ!」
嬉しそうにはしゃぐマリウドとそれを優しげに見つめるハリオスの様子に胸が温かくなる。久しぶりに見る二人の兄弟のやり取りに、少しだけ視界が滲んでしまったが、なんとかこぼす事なく笑顔で返すことができた。
そもそも、なぜ私が王城にいるのか。全てはこの末王子、マリウドの為だった。
マリウドは姉王女のリリアのことが大好きだった。
そのリリアが結婚のため、自分の傍からいなくなったことが受け止められず、一時期、笑うことができなくなってしまっていた。
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