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リリア・ファタニア王女とは学園時代から仲の良い友人だった。
私は筆頭侯爵家の娘という立場と、低い身長を誤魔化すための、気の強そうな化粧と丁寧に仕上げている縦ロールという派手な見た目の印象から、年の近い令嬢達からは遠巻きにされることが多く、友人は多いとは言えなかった。
一方、儚い妖精のような見た目のリリアだが、頑固で猪突猛進、決めたことは絶対に曲げない性格で、いつも振り回されるのは周りの人間であり、おとなしい王女のとりまきとして甘い汁を吸おうと寄ってきた令嬢達はそのギャップに離れていってしまうことが多かった。
学園で共に過ごすようになってから、いつの間にか、一緒に過ごす時間が増え、それは、学園を卒業しても変わらずに続いていた。
リリアは、忙しい王妃に代わり、末王子であるマリウドと過ごす時間をとてもとても大切にしていた。王宮にお茶に呼ばれると、二人がたくさんのお菓子を並べて出迎えてくれる。
もともと世話焼きな気質だが、マリウドが加わったことで、その習性が抑えられなくなった。大きな青い瞳で本物の妖精のように可愛らしいマリウドを目の前に、構わずにはいられなかった。
カップのお茶を冷ましたり、開けて待っている口にお菓子を入れてあげたり、頬についたお菓子を拭いたりと大忙しだった。
できることならずっと眺めて抱きしめていたいとリリアにこぼしたら、もう王宮で暮らしたらいいのにと言われ、危うく本当に専用の客室を準備されかけたので、それ以降、口に出さないようにしていた。
私の慌てた様子に、同じ顔で笑うリリアとマリウドが眩しかった。二人と共に過ごす時間は私にとって、とても幸せな時間だった。
だが、リリアは隣国の王子との婚約を決めた。隣国へ出発する日が迫っていた。
それを感じ取っているのか、日に日にマリウドの笑顔が減り、リリアにべったりとくっついて離れない日が続いていた。もちろんリリアや乳母を始め、周りの大人達が何度も説明していたのだが、幼いマリウドが納得出来るわけもなく、嫌だ嫌だと言っているうちにリリアが王宮からいなくなってしまった。
心配した王妃が一緒にいる時間を増やしたが、マリウドは泣き続けた。リリアがそばにいないという悲しみはマリウドの笑顔を消してしまった。
さらに、王妃はマリウドの心配と公務で無理をした事が重なり、遂には自身の体調を崩し療養が必要となってしまった。同時期にマリウドの乳母も腰を痛めたことで長期休養になってしまった。
マリウドの周りに常にいた人達が次々といなくなってしまう事態になった。
国王や長兄の王太子は公務でなかなか時間が作れず、長女ラミアは嫁いだばかりで、簡単に王宮に訪れることが難しい状況だった。
王宮から離れて、王都で商会を営んでいた次兄ハリオスは、もともとマリウドとの関係が希薄だった。
そんな中、マリウドの不調を聞き、会いに行った私を見つけると、マリウドは飛びつくように抱きついて離れなくなった。
「メアリーはいなくならないでー!!」
泣き叫ぶ幼い王子の悲しみがリリアと離れたばかりのメアリーにもよく分かり、その日は一日中抱きしめ、夜は一緒のベッドで眠った。
夜間も急に目が覚めて泣き出していたマリウドだったが、その日は安心したようにぐっすりと眠ることができたようだ。朝の支度を手伝いに来たメイドたちの安堵がとてもよく伝わってきた。
そして、その日のうちにすぐ、マリウドが落ち着くまでそばにいてやってくれないかという王太子からの依頼が届き、私はすぐに了承したのだった。
それから王宮内に客室を与えられ、一日中マリウドのそばにいる日々が始まった。
食事を共にし、絵本を読み、名前を呼び、抱きしめ、夜は寝付くまでそばにいる。少しずつ幼い王子とリリアがいない悲しみを共に慰め合う日々だった。
未婚の、しかも筆頭侯爵家の令嬢である私が乳母の真似事をしていることに、嘲笑の目を向けられる事もあったが、特に気にならなかった。
いつになってもいい、またあの笑顔を見せてくれたらと思いながら幼い王子の回復を願う日々だった。
私がゆっくりとした時間をマリウドと共に過ごしている間も、王族一家は代わるがわる訪れてマリウドの様子を見守っていた。
特にハリオスは今まで会わなかった分を埋めるように、頻繁に会いに来るようになった。
ハリオスが持ってくる珍しいおもちゃや、お菓子を見ると一瞬、マリウドの表情に笑顔が浮かぶ。その小さな変化が涙が出そうになるほど嬉しかった。
私は筆頭侯爵家の娘という立場と、低い身長を誤魔化すための、気の強そうな化粧と丁寧に仕上げている縦ロールという派手な見た目の印象から、年の近い令嬢達からは遠巻きにされることが多く、友人は多いとは言えなかった。
一方、儚い妖精のような見た目のリリアだが、頑固で猪突猛進、決めたことは絶対に曲げない性格で、いつも振り回されるのは周りの人間であり、おとなしい王女のとりまきとして甘い汁を吸おうと寄ってきた令嬢達はそのギャップに離れていってしまうことが多かった。
学園で共に過ごすようになってから、いつの間にか、一緒に過ごす時間が増え、それは、学園を卒業しても変わらずに続いていた。
リリアは、忙しい王妃に代わり、末王子であるマリウドと過ごす時間をとてもとても大切にしていた。王宮にお茶に呼ばれると、二人がたくさんのお菓子を並べて出迎えてくれる。
もともと世話焼きな気質だが、マリウドが加わったことで、その習性が抑えられなくなった。大きな青い瞳で本物の妖精のように可愛らしいマリウドを目の前に、構わずにはいられなかった。
カップのお茶を冷ましたり、開けて待っている口にお菓子を入れてあげたり、頬についたお菓子を拭いたりと大忙しだった。
できることならずっと眺めて抱きしめていたいとリリアにこぼしたら、もう王宮で暮らしたらいいのにと言われ、危うく本当に専用の客室を準備されかけたので、それ以降、口に出さないようにしていた。
私の慌てた様子に、同じ顔で笑うリリアとマリウドが眩しかった。二人と共に過ごす時間は私にとって、とても幸せな時間だった。
だが、リリアは隣国の王子との婚約を決めた。隣国へ出発する日が迫っていた。
それを感じ取っているのか、日に日にマリウドの笑顔が減り、リリアにべったりとくっついて離れない日が続いていた。もちろんリリアや乳母を始め、周りの大人達が何度も説明していたのだが、幼いマリウドが納得出来るわけもなく、嫌だ嫌だと言っているうちにリリアが王宮からいなくなってしまった。
心配した王妃が一緒にいる時間を増やしたが、マリウドは泣き続けた。リリアがそばにいないという悲しみはマリウドの笑顔を消してしまった。
さらに、王妃はマリウドの心配と公務で無理をした事が重なり、遂には自身の体調を崩し療養が必要となってしまった。同時期にマリウドの乳母も腰を痛めたことで長期休養になってしまった。
マリウドの周りに常にいた人達が次々といなくなってしまう事態になった。
国王や長兄の王太子は公務でなかなか時間が作れず、長女ラミアは嫁いだばかりで、簡単に王宮に訪れることが難しい状況だった。
王宮から離れて、王都で商会を営んでいた次兄ハリオスは、もともとマリウドとの関係が希薄だった。
そんな中、マリウドの不調を聞き、会いに行った私を見つけると、マリウドは飛びつくように抱きついて離れなくなった。
「メアリーはいなくならないでー!!」
泣き叫ぶ幼い王子の悲しみがリリアと離れたばかりのメアリーにもよく分かり、その日は一日中抱きしめ、夜は一緒のベッドで眠った。
夜間も急に目が覚めて泣き出していたマリウドだったが、その日は安心したようにぐっすりと眠ることができたようだ。朝の支度を手伝いに来たメイドたちの安堵がとてもよく伝わってきた。
そして、その日のうちにすぐ、マリウドが落ち着くまでそばにいてやってくれないかという王太子からの依頼が届き、私はすぐに了承したのだった。
それから王宮内に客室を与えられ、一日中マリウドのそばにいる日々が始まった。
食事を共にし、絵本を読み、名前を呼び、抱きしめ、夜は寝付くまでそばにいる。少しずつ幼い王子とリリアがいない悲しみを共に慰め合う日々だった。
未婚の、しかも筆頭侯爵家の令嬢である私が乳母の真似事をしていることに、嘲笑の目を向けられる事もあったが、特に気にならなかった。
いつになってもいい、またあの笑顔を見せてくれたらと思いながら幼い王子の回復を願う日々だった。
私がゆっくりとした時間をマリウドと共に過ごしている間も、王族一家は代わるがわる訪れてマリウドの様子を見守っていた。
特にハリオスは今まで会わなかった分を埋めるように、頻繁に会いに来るようになった。
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