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ペンギンの回り道

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魔術師が依頼受け付けます

探し物ep6

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 今回の事の顛末。
 先ず猫又には変化のルーンの影響で元の猫の状態にまで戻ってもらった。その時に分かったのだが猫が化け猫へ、そこから猫又へと変化するにはちゃんとした過程があったのだ。先ず、猫として自我が芽生える、その後人間の言葉を理解し、声の出し方を考え、実践し人間の言葉を話すようになり、そして巨大化する。このプロセスを経ていた。
 
 だんだんと小さくなっていく猫又を僕は見ていたが、猫又のほうが『やめて!助けて!』と泣き叫ぶため段々と良心が痛んできたのだ。実際この猫又は人間に被害は出してないし誰にも見られてもいない。ただ路地の中にいただけなのだ。それを考えながら泣き叫ぶ猫を見ているとなんだか虐めているような構図に見えてくる。

「わかったよ。とりあえず人の言葉は話せなくなるけど人の言葉を理解できるところまで戻すけどいい?消滅させられないだけいいと思うけど!」

「わかった!それでいい!」

 猫又の了承も取れたので、徐々に小さくなっていく猫又を見て待っていた。それを僕はなんとなく見つめていたけれど、猫又からしたら何か変な動きをしたら殺されると考えたようだ。監視されていると思っている猫又と観察しているだけの僕。観察していると徐々に変化が収まってきた。体格の変化は終わったと思っていいだろう。

「このくらいかな?言ってることは理解できる?理解できたら右手を上げて」

 体格が変化の過程の最終であったため、そこが変化したあと、その猫が人間の言葉を理解できるところで止まっているかの確認をする必要があった。ただの猫になってしまっては依頼人の依頼を完遂することはできないだろう。依頼人がほしいのはただの猫ではなく、妖怪になった猫だろう。
 
 そのためにも確りと猫又が変化したのを確認するために声をかけた。僕が元猫又に問うと、可愛らしい肉球が付いた前足をこちらに見せてくる。もうただの猫にしか見えない。体格も、声も、そこら辺にいる野良猫のようだ。散歩をしているときに道路を横切る猫に比べれば毛並みはしっかりしているが。ただ、一部だけ普通の猫とは違うところがある。

「尻尾は二本生えたままなのか……。ま、いいや。じゃあこの首輪付けてね」

 体格の変化は終わったが尻尾が二本生えているところは変わらなかったらしい。それが元々のものなのだろうか、はたまた名前をつけられた時に最初に変化した部分なのか。この尻尾が二本生えていること、尻尾が二又に分かれているということが猫又の名前の由来と言われている。元猫又と考えていたが、尻尾が二又に分かれている人間の言葉を理解する猫は猫又としての僅かな能力は残っていると考えていいだろう。
 
 僕は猫又の首に首輪を付ける。その首輪には石がはめ込まれており、そこに文字が刻まれていた。ペットにするための首輪ではなく行動を制限するための首輪だ。まだ変化のルーンの効果は僅かながら続いている。このままいくと変化をしすぎてただの猫だけにとどまらず、幼体になり新しい猫として復活することになるかもしれない。それを止めるためにも首輪にはルーンを刻んだ石を嵌め込んだ。

「とりあえず停止の意味を持つ文字を刻んでおいた首輪だよ。それがないと君、そのまま死んじゃうから無くさないように気をつけてね」

 『I』英語の氷を表す『ice』の語源になったとされる言葉。氷は水が固まった状態。つまり停滞や停止を表す。そこから先に状況が良くなることも悪くこともなくただ停止させる。その停止させるということに意味を持たせて首輪につけた。これによって猫又としてのわすかな力を持った状態のまま停止させることができるだろう。

 僕の言った死んじゃうという言葉に恐怖したのか分かりやすく身を震わせてこちらを見る。別に僕が殺すわけじゃないのに怖がられている。仕方ないと言えば仕方ない。折角すごい力を手に入れたと思ったらよく分からないやつに全部無くされてしまってはその対象を恐怖の対象としか見れなくなるというものだろう。

「それじゃあね、タマ。飼い主のもとに返すから大人しくついてきて」

 黙り込んでしゃべらないタマを尻目に、僕は振り返り元来た道を戻っていく。その後ろでは元猫又が4足歩行でついてきていた。ちゃんと言葉を理解し行動してくれる。
 しばし歩いていると道の中央に何かが落ちていた。

「あ、空穂ちゃんの死体を置きっぱなしにしてたの忘れてた」

 道の真ん中に首のない死体が綺麗に転がっていた。綺麗な死体というのも言い方が悪いが血も出てないため汚れていない。馬に乗ってるわけではないがアイルランドに伝わる首無し首無し御者みたいだった。そこに頭はなく、抱えているわけではないが。デュラハンも死に関わる伝説もあるし、空穂ちゃんは死んでいるからなのか『死』に関わることに遭遇することが本当に多い。
 
 それでも空穂ちゃんは女子高生。首無し女子高生では僕も困るし、彼女も困るだろう。そして何よりも。


「流石に音も立てない、声も聞こえない、そんな存在をだとアルバイトとして雇えないし」






「んぇ?あれ?私……寝てました!?」

 僕が事務所の机に座って、依頼の整理をしながら内職であるお守り作りをしているとソファで横になっていた空穂ちゃんが目を覚ました。ガバっと音が鳴りそうな起き方をしているが相も変わらずそこからは音がなっていない。起き上がった空穂ちゃんは事務所の中を見回すように首を回したあと、申し訳なさそうにこちらへと目を向けた。

「おはよう空穂ちゃん。バイト中に寝るなんてだめな子だね。学校でもそうなんじゃない?」

「いや、あの、あはは……。学校では寝てませんよ」

 結局、空穂ちゃんの首なし死体は事務所まで運んできた。街ゆく人からは僕一人の存在しか認知されていないから慣れたものだった。僕が空穂ちゃんを認識しているから空穂ちゃんは今、幽霊としてここに存在している。しかし、僕が空穂ちゃんを認識しているのは魔術によって認識しているためその技術や能力がない人からはやはり認識されないのだ。それが僕や辻神等のこの世の常識的な理からズレている者たちだけが空穂ちゃんを認識できる理由であった。
 
 今までの依頼でも高いところに登ったあと落ちてきてグシャグシャになった空穂ちゃんや、鍵を探しに行って変なものに触れたのか鼻の穴から溶けた何かが出てきたりしているのを何度も見ている。その度に空穂ちゃんにを治しているのから慣れたものだった。
 
 空穂ちゃんを治す、治すと言う表現が正しいか分からないが元に戻すには『エイワズ』という文字の掘られた石を使う。猫又に対して使ったものと同じだ。この文字には『死』に関する意味が込められていると同時に復活の意味も持ち合わせている。復活という目的をを達成するためにこの文字に魔力を込めた。

 「ってか、私さっき大きな猫に襲われて!死んだと思ったらここで寝てたんですよ!」

 空穂ちゃんは思い出したかのように叫びだす。その声にびっくりして僕の座っている椅子が少し鳴った。急に大声を出すのはやめてほしい。色々と集中力が切れるから。

「知ってるよ。僕が行ったときには空穂ちゃんは横になって倒れていたからね」

「そうなんです?助けてくれてありがとうございます!それで、その後どうなったんですか?」

 空穂ちゃんと話し始めたため、行っていた作業を一時的に中断して空穂ちゃんの方へと視線を合わせる。朝出る前と同じ形に直せて良かった。手元にあるお守りに使うルーンを指先で転がしながら空穂ちゃんの質問に答える。

 「どうなったって依頼者に引き渡したよ。そういう依頼だったからね」

 僕はあのあとタマを確りと依頼主に送り返した。依頼主の場所などは書かれて居なかったが妖怪を飼っているような人がこの世に沢山いるわけもなく、最初から依頼主が誰かは分かっていたのだ。依頼主の詳細は明かせないが妖怪収集が趣味の変な人である。送り届けたときも『珍しい猫に名前付けて"遊んでいた"ら逃げ出して大変だった』等と白々しいことを言っていた。その依頼人は一人でいたはずなのにその空間は変な威圧感があり、長居したい場所ではなかった為早々に帰ってきた。『また、何かあったらよろしく』と言われたが妖怪退治は専門の人がいるのだから僕のところに来るのは遠慮してほしいところだ。

「結局あの猫、なんだったんです?」

「んー、妖怪だった」

 聞かれたことにはちゃんと答える。嘘を付くことは自分を守ること。別に今回の内容は嘘を付くほどのことでもないので真実を伝えた。

「妖怪って、社長面白いこと言いますね!オカルトじゃないんですから。それだったら変なお守り作ったり、色々な変なことしてる社長は魔法使いですか?」

 自分が一番オカルトな存在なのに、僕の行ったことを冗談だと一蹴した空穂ちゃんは、不意に確信の近くにたどり着く。僕が魔術師ということは空穂ちゃんに伝えていない。どこから変に漏れるかわからないし、現実に生きてる人が興味本位で近付いてこられても困る。空穂ちゃんは特別なのだ。それでも空穂ちゃんは僕のことを知らない。聞かれていないことは答える必要はない。しかし、今回は『社長は魔法使いですか?』と聞いてきた。その質問には正しく答えなければならない。

「残念。僕は魔法使いじゃないんだよね」

 僕は魔法使いでは無く、魔術師である。先生曰く、魔法と魔術は違うと考えているらしい。魔法は自然のエネルギーなどを使い、無から事象を行う『魔力に法る(のっとる)力を使うもの』であり、魔術師は行使するために様々な道具を使い『魔力を使う術(すべ)を実行する技術者』と称していた。ファンタジーなどでよくある呪文を唱えて火を出すのが魔法使い、魔法陣やルーン石などを使い事象を起こすのが魔術師と先生は考えていた。僕からしたらどちらも異常の力に代わりはないのだが、この世には魔法使いや魔術使いの他にも錬金術師や悪魔使いまで様々な者がいて、僕も沢山会ったことがあるが、全員碌でもない奴らだった。僕の卒業した学校でもまともなのは僕だけだったくらいには。



「それよりも、あんなことあったのに元気だね。これからは僕の言うこともちゃんと聞いてから依頼しなきゃ駄目だよ?」

 僕は空穂ちゃんが死んでいることを隠しているわけではない。聞かれないから答えていないだけである。嘘をついているわけではなく、ただ本当のことも言っていない、ただそれだけなのだ。だから彼女は気付かない。自分がどのような状況に陥って、どのような顛末を辿ったかを。彼女自身のことなのに彼女は知らない。

「無事、生きててよかったので元気いっぱいです!依頼の件ちょっと反省したので気をつけます」

 生きていて良かった…か。自分の状況が分かっていないから言える言葉。もしくは、何となく分かってはいるがそれを認めたくないかのどちらかである。空穂ちゃんの場合はもう死んでいるため、死んでいても再生できて良かったが正しいのだが余計なことは言うものではない。

「空穂ちゃんは何も分かってないねー」
「もう死にそうな思いするのはこりごりです!」

 空穂ちゃんは、気絶したあと毎回事務所で起き上がる度に同じことを言っている気がする。それでも自分から危ないところに向かっていくのは変わらないからやはり何も分かっていない。死にそうな思いをするのが嫌なのは生きている人間も死んだ人間も同じなんだなあ。

「大丈夫だよ。君は死なないから」
「社長が守ってくれるんですか?」

 気休めにしかならないだろう言葉を伝える。実際、今後空穂ちゃんが死ぬことはない。あるとしたら成仏するか"幽霊としての存在が消滅するか"。そのどちらも人間としての死ではなく、魂としての消失。僕が守るとか守らないとか関係なく、彼女は死なないだろう。

 「死にそうになったらね」

 そんなことは起こらない。


――――――――――――――――――――――
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 作者です。読んでいただきありがとうございました。
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