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ペンギンの回り道

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神と少女と魔術師と

その一輪が愛おしくてep5

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 今の僕は事務所に帰るため新幹線に乗っている。

 今回のことの顛末、というほどのことは起こっていない。あの後、普通に華上家に帰り、その次の日には帰ることにした。散さんは「まだ泊まっていくといい」と言ってくれたが事務所の方も心配なため帰ることにした。

 あの時、舞さんがルーン魔術を使えたのはただの偶然であった。ただ家に帰って色々確認してみると微弱ながらルーン文字が舞さんに対して反応することがわかった。仮にルーン魔術を学ぶことがあれば使えるようになるだろう。だが、舞さんは神守の家系の子。余計なことは言わずに適当に流して事なきを得た。

 僕は全てを語らずにあの家を出た。毎日備えられている花のことも、華上家が信じている神子のことも何も伝えなかった。事実だけが正しい訳では無いことを僕は知っている。先祖代々受け継がれてきたことが正しくないとなったとき、先祖の行いは何だったのか、自分たちはどうすれば良いのかそう悩むくらいならば信じてきたものをこれから先も信じるべきだろう。

「それにしても観光気分で依頼受けたけど、結局毎日何かしらに巻き込まれてたなぁ」

 スマホのメール機能を使って皆に「今から帰ります」と一斉送信をする。来栖さんからは「分かりました 愛美&空穂」と直ぐに返信が来た。他の二人からは返信は来ない。

「ゲティは仕事中だろうし、調さんは何やってるんだろうなぁ」



「坊主は帰っていったな。寂しくなる」

「ほんの数日いただけじゃない。前に戻るだけよ」

 ほんの数日前に現れた胡散臭い魔術師を名乗る男。お祖父ちゃんから聞いてはいたけど実際に見ると頼りなく見え、運動不足と言って体を動かすことも苦手そうだった。
 あいつが来てから毎日のように変なことに巻きこまれた。変な空間に入り込んだり、神様に会うことになったり。
 
 それでも悪い経験じゃなかった。私一人ではきっと経験することが出来なかっただろう。何かのきっかけになったんだ。

「それで、何か変わったか?」

「なにも。あいつが来る前となにも変わってないわ」

 結局、振り回すだけ振り回して自分の中で解決したと思うとすぐに帰っていってしまった。あいつにとっては終わりでも、私たちにとってはこれからも続いていくことなのに。

「まだ華上家の後を継ぎ神守に成ることを諦めては居ないか?」

「諦めることなんてしないわ。ちゃんと考えたもの。神様に喜んでもらうにはどうしたらいいかって。そしたら、やっぱり私が神守の後を継ぐのが一番だと思う。だから諦めない」

 私自身を見つめ直す機会にはなった。直接お礼を言うことは恥ずかしくて出来なかったが、今生の別れというわけでもない。

 昨日の夜、また夢の中に神様が出た。神様は私たちに感謝をしていた。このまま行けば元通りとはいかないものの、力が強くなり私が毎日いかずとも神としての存在を保てると言っていた。それでも私は毎日いくんだけど。
 あの神社に行かないと私の信仰から力を得ることが出来なかったみたい。今後は私があの神様のことを信じていればどこに居ても神様の力になれると言っていた。定期的に神社の手入れはしてほしいらしいけど。

 神様と話すなんて荒唐無稽な話に思えるだろうし、私もそう思う。夢に見たこともただの夢かもしれない。
 それでも私のやることは変わらない。だから私は神守を継ぐ。

「そうか。それなら色々と教えることがある。私もいつまでも事務職ができる訳では無い。行政に出す書類などの説明もあるし大変だが」

「がんばるよ。自分で考えて行動するのが大切だから」

「坊主を呼んでよかったのかもしれん」

「ま、悪かったとは思わないわよ。私の師匠らしいし」

 最後まではっきりと師匠とは呼ばなかった、短期間とは言え私の中にあいつの言っていたことは確りと残った。情報を集めて自分で整理して考えて行動する。無意識にそれを行うのではなく意識して行動するということ。
 
 そしてあいつの使ってたルーン魔術を私が使えたのは多分偶然じゃない。あいつは嘘を付くのが下手だから「私もルーン魔術使える?」と聞いた時には「え、あ、いやー?やってみないと分からないかな?」と目を泳がせながら言っていた。神守としての勉強も大事だし疎かにする気はない。それでもあいつのいる場所に行って何かを学んでみたいとそう思う気持ちも産まれた。

 その時に何かを学ぶなら、今度はちゃんと師匠って呼んであげてもいいかもしれない。



 たったの数日ぶりだと言うのに事務所は酷く懐かしい感じがした。街とかは何も変わっていないのに僕だけが変わった感覚がする。
 階段を登り、事務所の扉に手をかける。中からは声が聞こえるので誰かが話しているみたいだ。社長の帰還、皆が出迎えてくれると嬉しい。

「ただいま。出張から戻ったよ」

 扉を開けて声を掛ける。

「わっ。このお菓子美味しいです」
「見た目かわいいー」
「空穂さんは食べられないんでしたの……。申し訳ないことしましたわ」
「気にしないでくださいー」
「本当に上手いなこれ」
「これ最近出来たお店らしくて以前の依頼者の方に貰いましたの」

 僕は今確かに声を出して帰還を知らせたはずだ。中にいる4人は僕の存在に気づかず、仲良くお菓子を食べていた。僕はそっと扉を閉めた。

 通路を進み、調さんの部屋をノックする。ノックから数秒して調さんのは出てきた。

「おー、社長じゃねーか。おかえり」

「ただいま。調さん」

 これが普通の反応だろう。仮にも社長が帰ってきたのだ。此方に気づかずお菓子を食べ続けている方が可笑しいだろう。その点、調さんはちゃんと対応してくれた。社員よりも男の友情のほうを大切にしたほうがいいのだろう。

「事務所に他の奴ら居ただろ?もう挨拶したか?」

「女子会してて無視されたからここに来た」

「あー。ご愁傷さま。俺もなぁ、あの空間に居られるわけもないから逃げるように自室にいるってわけ」

「社長なのに事務所に帰りにくいなんてことある?」

「あそこにいるの悪魔使いと呪術師と幽霊と神眼持ちだぜ?普通なら帰りたくないわ」

「それでもちゃんと挨拶してこないと」

「ま、頑張れや。そういえば酸塊帰ってきてただろ?」

 さっき開けた時に4人いた。その時は当たり前のように流していたが確かに酸塊さんがいた。昔からの仲みたいに空穂ちゃんと来栖さんと話していたため気にも留まらなかった。

「確かにいたね」

「あいつにちゃんと連絡つくように連絡手段持たせてくれ。お前なら何とかなるだろ」

「言っておくよ」

「そんじゃ」

 結局部屋の入口で会話をするだけで僕はずっと通路に立っていた。事務所の社長だし、調さんのいる部屋を借りているのも僕なのに帰ってきてから僕はずっと通路に立っている。変に疲れたので早く椅子に座りたい。
 もう一度事務所に戻り、再び帰還の挨拶をすることにした。

「ただいま」

 丁度話の切れ目だったのか、女子会をしていた社員は此方へと振り向く。

「おかえりなさいー」
「お疲れ様です」
「おう」

 ゲティに関してはちゃんとした出迎えの言葉も言ってはくれない。
 
「おかえりなさいませ!」

 ソファに座っていたはずの酸塊さんはすでにソファにはおらず、僕の足元に座っていた。正座をしてそこにいる。僕が出迎えの時はそうしてほしいと頼んだわけではない。何故か酸塊さんは僕が帰ってくると床に正座をして出迎えるのだ。やめてほしいと頼んでも「座っている方が楽なので!」と言われてしまっては断ることもできない。

「あれ?なんですか?」
「あれって?」
「いや、酸塊さんですよー。さっきまでとテンション違いません?」
「お前たちは知らないのも当然か。社長の前だとあんな感じ。よく見てみろケツから尻尾生えてブンブン振ってるように見えるだろ?」
「見えないですけど、犬みたいと言えば……」

 ソファに座っている三人がこの状況を見て小声で話している。小声とは言え、僕に聞こえているのだ。勿論酸塊さんにも聞こえているが我関せず。ずっと床に座っている。
 
「酸塊さん、ソファに座って」

「はい!」

 僕が言えば素直に従ってくれるのに何故かお願いしても止めてくれないこともある。好かれていることは分かるのだが、酸塊さんのことが正直よく分からない。その点、舞さんは分かりやすかった。

「改めて皆、ただいま。僕がいない間どうだった?」

 僕は自分の椅子に座りみんなの方を向いて不在の間のことを聞く。机の上に置いていた依頼の紙は少しだけ減っているので全く依頼をこなさなかったわけではないらしい。
 元々沢山依頼があるわけではない為、1、2この依頼をやるだけでも大方片付いたことになる。

「はいはーい。私たち2人で依頼熟しましたよー」

「え、2人?ゲティたちの手伝い頼まなかった?」

「学校の七不思議の依頼だったから私たちがどうにかできると思って、明日空先生との協力ですが」

 2人にやらせるのは危ないと思い、態々手伝いをするように言っていたのに結局依頼を行ってしまったみたいだ。七不思議の依頼人は明日空さんだったはずだから全く知らない依頼人では無く助かった。

「明日空さんと一緒なら、大丈夫かな。危険なことしないでよ?」

 何故か目を逸らす2人。多分何かを隠している。僕が聞いても正直に答えてくれないかもしれないので、後日明日空さんに聞くことにしよう。あの人は見た目や言動の割に子供がちゃんと好きだし、困っている人や怪我をしている人を見捨てることができない。2人と協力したのなら危ないことに陥っていても何とかなっているはずだ。お詫びも兼ねて会いに行くことを決める。

「その件だが、お前2人に依頼を受けないようにっていうのを私に言ってなかったな?書き置きでも何でもいいがそういう事はちゃんと伝えろ。お前が言ってないから私は2人に依頼任せてしまっただろうが。大体お前は――」

 いきなり、ゲティからのお説教が始まった。またしても報連相の不足による叱責。今回は、彼女たちに確りと手伝いをするようにと伝えていたため、僕に落ち度はない。悪くないことを反省することはできない。ゲティは何やら騒いでいるが意味のないことなので適当に相槌を打って終わらせる。

「そして、酸塊さんもおかえり」

「はい!戻りましたわ!」

「連絡しようにもこっちから連絡取れないと困るから連絡手段は持ってほしいな」

「いえ、その、どうしても失くしてしまうので」

 酸塊さんは執着のないものをすぐに無くしてしまう癖がある。それが酸塊さんが魔術師として行っていることの弊害なのかは分からないが、必要なもの意外は無くしたり忘れたりすることが多い。そのため携帯やスマホを持っていてもすぐに無くしてしまうため、公衆電話から連絡を取ってくる。
 公衆電話からだとこちらからの連絡はできないため、やはり連絡手段を持っていてほしい。

「それじゃお揃いにしようか」

「社長さんと……おそろいですか?」

「そうだよ。そうしたら無くさないんじゃないかな?」

 自意識過剰とも思えるが、酸塊さんは犬のように懐いているため僕とおそろいのものならば執着を持ち無くさないのではないのだろうか。

「お揃い!私、買いますわ!連絡手段!」

「それじゃ近い内に行こうね」

「はい!楽しみにしてますわ!」

 机の上の報告書を確認する。ゲティは依頼になかった件を緊急で解決したみたいだ。呪いに関することみたいだがこの時には酸塊さんは戻ってきてはいなかったみたいだ。酸塊さんがいたなら一緒に熟している内容である。
 空穂ちゃん達の件は先ほど見たからいいとして、調さんのは裏世界関係なしの依頼が2件達成した報告書があった。

「そういえば酸塊さん」

「はい、なんでしょうか」

 お揃いを買えるとソワソワしながらソファに座っていた酸塊さんに来栖さんが声を掛ける。その瞬間、いつもの酸塊さんに戻り声のトーンが二段階くらい下がった。
 
「うわー。びっくりしたー。社長と話してる時と全然違うじゃん」

「社長来たら話すって言っていた話してもいいですか?」

 僕が来てから話す事とはなんだろうか。緊急の話の可能性もある。

「僕も聞きたいな。酸塊さんお願い」

「はい!えっと、空穂さんが何かに呪われているんですが社長さんはご存じありませんか?」

 空穂ちゃんが呪われている?そのような兆候は今まで感じたことはない。今の空穂ちゃんは基本的に一般人からは認識できない存在。呪いとは誰かの不幸を祈ること。認識できない存在に対して呪いをかけることなど出来ないはずだ。

「ごめん。ちょっと分からない。そもそも空穂ちゃんは幽霊なんだけど呪い掛けられることあるの?」

「私も幽霊に呪いがかかっているというのは初めてみましたわ。だから私にも分からないのです。もしかしたら幽霊になる前に何かあったのかも知れませんわ」

「あーそれなら可能性あるかも。空穂ちゃん、何者かに殺されたっぽいし」

「「「「えっ?」」」」

「ん?」

 皆が一斉に僕の方へと振り向く。何か変なこと言っただろうか。

「私、殺されたんですかー?」

 君は当事者だろう。死ぬ間際のことは覚えていないのだろうか。

「そうなんですか……。でもその御蔭で……」
 
 来栖さんは少なからずショックを受けているようだ。だから俯きながら口角を少しだけあげるのはもっとしっかり隠したほうがいいと思うり

「聞いてないぞ。いや、聞いたか?」

 ゲティはもっと世間で起こっていることを知ったほうがいい。僕よりも疎い可能性がある。それに僕はゲティに伝えた筈だ。……伝えてないかも知れない。

「もし、死ぬ前に残された呪いが今なお続いているとすればそれは相当な強さの呪いです。死んでまで残り続けるなんて……」

「因みになんの呪いなの?」

「詳しくはわかりませんわ。でも相手を死に誘う呪いということは確かです」

 相手に対して死を願う呪いは相当な力がある。その呪いを掛けた人物にも相応のリスクがある。もしかしたらもう死んでいるかも知れない。空穂ちゃんが死んだことにより呪いは成就した。それでも呪いだけが行き続けている。今なお、空穂ちゃんを死に誘う。空穂ちゃんがよく死ぬのはその呪いのせいなのかもしれない。

「質問いいですか?」

「大丈夫ですわ。答えられないかも知れませんが」

「空穂ちゃん、もう死んでるんですけど。ここから死ぬのってどういうことですか?」

「私も気になってたー」

 質問をされた酸塊さんは真面目な顔になる。呪いの専門家。正確には少しだけ違うが。呪いの知識に関しては彼女が一番深く、その系統の依頼はほぼ丸投げしている。
 その彼女が真面目な顔をして来栖さんを見つめ、そして僕の方へと目を向ける。

「社長さん。どう想いますか?私には分かりませんわ」

「君に分からなければ僕にも分からないよ」

 結論、空穂ちゃんに掛けられた呪いは死ぬ呪いであったが空穂ちゃんはもう死んでいるため呪いは残っているが効力が発揮されないというものになった。浮遊霊の状態ならまだしも、今は来栖さんの守護霊になっている。呪いの残滓がある状態程度に思えばいいとそういうことになった。

 久しぶりに社員が全員この事務所に揃った。
 なんだかんだ皆が事務所にいる空間が好きなんだと改めて思う。誰かに何かを教える楽しみも少し分かったし、来栖さんや空穂ちゃんに色々教えるのもいいかも知れない。
 
 ゲティから悪魔のことを、酸塊さんからは呪いのことを、調さんからは様々な知識を教え込まれたらとても便利な社員になりそうだ。

 彼女たちは性質上、この世界から離れることはもう出来ない。それならば成長し、生きるための知識を授けるのが大人としての役割なのかも知れない。

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