それだけは絶対にお断りします!

きんのたまご

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「そろそろ宜しいでしょうか旦那様」
そう言って部屋に入ると私が出て行った時よりは少し落ち着いた様子の夫がいた。
「もう答えは出ましたか」
再び夫の向かいに腰掛ける。
「………」
何も言わない夫に私は離縁状を差し出す。
夫は弾かれたように私の顔を見る。
「…どうしても離縁しないといけないのだろうか」
………何を言っているんだろうかこの人は。
「これからは家族を優先する」
…それはさっきも聞きました。
「私には君が必要だ」
「…それは侯爵夫人としてですね」
「違う!」
「まだ私に愛しているなどとおっしゃるのですか?」
「…………いけないだろうか」
「はい、いけません」
「何故だ!」
「何故?先程もお伝えしたはずです。貴方が真に愛しておられるのはオリヴィアさんでしょう?」
「………」
否定はなさらない。
「貴方は私に今まで悪かったと言いながらこれからも今までと同じように貴方の隣で貴方が愛している方と貴方が幸せそうな姿を見続けろとおっしゃるのですか?」
「だが!」
「だが、何だとおっしゃるのですか?」
「だが君も私の事を好きだと言ってくれていたじゃないか」
「だから?」
ああ、本当にこの人のどこを好きだったんだろうか。急激に心が冷えていく。
「私も君を愛している!これからは上手くやっていけるのではないか?」
「…1度咲いた花も水を与えなければ枯れるのです。愛情も同じですわ。1度咲いた貴方への想いも水を与えられなかった花のようにもう枯れてしまいました」
「あらァ奥様に捨てられたの?いい気味ねぇ」
そこに何とも場違いな声が聞こえる。声のする方を見るとそこにはここには居ないはずのオリヴィアさん。
「オリヴィア!何故ここに」
夫は真っ先にオリヴィアさんの元へ向かう。
「だって急に会ってくれなくなるんだもの。ここまで着いて来ちゃったわ」
そう言ってオリヴィアさんは横目でチラリと私を見た。
「でも良かったじゃない!奥様別れてくれるみたいだし」
そう言ってテーブルの上の離縁状を持ち上げる。
「これで何の気兼ねも無く私一人に尽くす事が出来るわね。ふふふ」
そう言って笑ったオリヴィアさんの顔はとても醜く歪んでいた。
「待ってくれオリヴィア!」
「…なに?」
「私は妻と別れるつもりは無いんだ」
「はっ?何言ってるの?貴方には私がいれば十分でしょう?」
そう言って夫に擦り寄るオリヴィアさんを夫は押し戻す。
「君とはそんな関係では無い」
「確かに……肉体的な関係は無いわね、でも貴方が好きなのは私でしょう?」
「……………」
「何で…何も言わないのよ」
「……………」
「旦那様は私の事を愛していると仰っているのですよ」
そう呟いた私にオリヴィアさんは鋭い目を向けた。
「あはははは!愛?何言ってるのよ。貴方達夫婦が仮面夫婦だと知っているわよ」
「…それでも夫は私と別れたく無いと言っていますわ」
私は別れないとは言っていないけれど。
「あんたの夫も随分勝手な事を言うのねぇ、散々家族よりも私を優先していて離縁をチラつかせられた途端別れたく無いなんて」
「ええ、私もそう思いますわ」
「!あは!何だ、奥様はあんたの事なんて何とも思ってないじゃないの!」
「っ!煩い!」
「貴方は私だけを愛して私だけに尽くせばいいのよ」
「うるさい」
「ほら、奥様と別れたら私の身体を好きにしていいのよ」
「っ!もうやめてくれ!オリヴィア君はそんな事を言う人では無かっただろう?」
「はっ?何言ってるのよ。私は今も昔もずっとこうよ」
「嘘だ!君はアランの事を愛していたんだろう?アランが死んだ時あんなに悲しんでいたじゃないか!」
そして夫はオリヴィアさんに手を伸ばす、するとその手をオリヴィアさんは叩き落とした。
「やめて!あんたが私の事をどんな女と思っているか知らないけれどあんな地味でぱっとしないような男、好きでも何でもないわ!商家の息子だからいい暮らしが出来るかと思って結婚してやったのにあんな呆気なく死んじゃってガッカリ!ほんとに使えない男だったわ。アランご死んだ時取り乱したのは本当にあんただけが幸せになるのが許せなかったからよ!」
「やめろ!」
そして夫はオリヴィアさんに手をあげた。
流石の夫も親友を貶されて我慢出来なかったようだ。

ああ、本当になんて愚かな人達。
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