弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第一章

封印とかいう問題の先送り。でも皆死ぬよりはマシだよね

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目まぐるしく、景色が変わる。
僕一人の重さなどまったく問題ではないようで、疲労の色はまったく見えない。頼もしいなあ。

さっきの光と音から、目的地はそう遠くないとは思うからこの速度ならすぐ着くだろう。ていうか、僕に気を使ってかなり速度を落としてるっぽい。
ヒルダ一人だったら、文字通り一瞬で飛んでこられただろう。

と、ヒルダが立ち止まる。うん、やっぱりすぐだったな。
そこは崖に口を開いた大きな横穴。入口にはしめ縄がされているけど、今にも切れそうな程にぼろぼろになっている。

「着きましたよ、シルヴァ。」
「うん、ありがとう、ヒルダ。・・・少し名残惜しいけどね?」
「っ、ふざけていないで早く行きますよ!」

頬を染めるヒルダ。からかい甲斐あるなぁ。
とはいえ、おふざけはここまでだ。
別に恐怖も気負いもないけど、油断もしていられない。

「ごめんごめん。それで、思いのほか早く着いちゃったから聞けなかったけど、ここには何が封印されてるの?」
「もう・・・。こほん、ここには、その昔暴虐の限りを尽くした強力、凶悪な鬼神が封じられています。」

ふむ、やっぱりか。察しの悪い僕だけど、単純な知識からなら答えを予想することは可能だからね。

「その者は身体能力の高さもさることながら、一番の脅威はその非常に強力な魔法です。適性元素の種類こそ私と同じですが、扱える元素の量が桁違いなのです。」
「なるほど、魔道士か・・・」

もし戦うことになったら厄介だなぁ。魔法には、攻撃の前兆も何も無い。攻撃魔法は基本的に魔法そのものの速さが大したことないから、撃たれた後に避けることになるんだけど・・・
大したことないと言っても素の僕がどうにかできるものでも ない。

「そもそもどうやって封印したの?確か封印は呪法に分類されるものだったはずだから鬼神種には難しい・・・っていうか出来ないよね?

「・・・ええ、まあ。」

ん?なんか歯切れが悪い気がする。
まあいいか。正直、どうやって封印したのかは割とどうでもいい。

「うーん、まあいいか。もっかい封印するわけでもなし。」
「・・・・・え?」
「え?」

な、なんでそんな信じられないものを見るような目で見るの?

「封印しない、とは・・・どういうことですか?まさか、放置するとでも?」

いやいやいや

「流石にそんな事しないよ。もしもの時は倒すだけ。」
「た、倒す・・・」
「うん。そもそも封印って子々孫々に解決を丸投げするだけだし・・・意識が残る系の封印ならともかく、眠らせるような封印だったらいよいよ無意味だし。」

まあここの封印がどっちかは知らないし判別も出来ないけど。

「それは、そうですが・・・」
「まあ、実際に状況をみて、出来れば本人と会話してからだけどね。」

封印されたのが何年前なのかは知らないけど、もしかしたら大幅に弱体化してるかもしれないし、記憶があやふやになってる可能性だってある。状況によってはヒルダに無力化して貰えばいいかな。

いろいろ考えてる僕をみて、ヒルダはふっ、と表情を緩ませる。

「不思議、ですね。」
「ん、なにが?」
「母から聞いていた話では、封印されている鬼神はとても強力で手がつけられない、と聞いていたのです。」

まあ、倒すのではなく封印したんだからそうだろうね。

「だから、私は覚悟していたのです。いざと言う時は、この身を捧げてでも民を守ろうと。」
「うーん、立派な意思だとは思うけど・・・絶対にやめてね?」
「ええ。約束します。あなたと話していると、彼の者を倒すことも不可能ではない気がしてきました。」

そう言ってヒルダは笑う。
僕はまた、飽きもせず彼女に見とれてしまう。

照れくさくて、冗談のひとつでも言って彼女をからかおうとした。

そのとき。


―――口惜しや


「っ!?」

なんだ今の声・・・?
脳に直接響くような・・・

「念話・・・?いや違いますね。ただ、無節操に意志を飛ばしているだけですね。」

ヒルダは落ち着いている。でも、僕はそうはいかない。

だって、念話なんて、意志を飛ばすなんて、物理法則・・・・ではありえない・・・・・・・
つまり、僕に認識できるわけが無い。

魔法による事象改変で耳元に振動を送っているならともかく、僕の聴覚は何も感知していない。
本当に、直接脳に信号を送られた感覚。
未知の感覚に気分が悪くなる。すこし、頭が痛む。

「ぐっ・・・」
「だ、大丈夫ですか、シルヴァ?」
「あ、ああ、平気だよ。少し、慣れないだけ。」
「慣れない・・・?と、ともかく無理はしないでくださいね。」

心配させちゃったみたいだ。我ながら情けないなぁ。

「しかし、口惜しい、ね。もう言葉を発せるほどに顕在化してるみたいだ。」
「ええ。今ならまだ、封印は可能ですが・・・」
「ダメ。よくわかんないけど、その封印って多分ろくなものじゃないでしょ?命か寿命か、そんな感じの代償を必要とするタイプかな。」
「っ・・・!」

驚いたように僕を見るヒルダ。
まあ、僕も今さっき気づいた・・・ていうか思い出したんだけどね。

魂結たまゆい』。霊力と法力を同時に使用し、物質に魂、そして肉体を固着させるものだ。
霊力を使う関係上基本的に自分に使うものだけど、上手くやれば他人を巻き込むことが出来る。そして、その魂を固着させた物質を物理的に封じることで、擬似的な封印ができる。
ていうか、封印くらいにしか使い道がない。しかも自分を犠牲にするタイプの。

「『魂結い』以外で何かあるならそれでも良いけど・・・多分ないと思うな。」
「・・・お見通しでしたか。あなたに隠し事はできませんね。」

いや、多分僕に隠し事するのは簡単だよ?心の中は知識では知ることは出来ないからね。

「ともかく、ヒルダが何かを犠牲にしなきゃいけない案は全部却下。」
「しかし、ではどうするつもりなのです?」

決まってる。

「まずは対話だよ。原理は分からないけど、直接脳に話しかけて来るなら僕でも会話出来る。まあ、こっちの言葉が分かるかは知らないけど。」

その時は僕が鬼の言葉を喋ればいい。

「対話、ですか。しかし、彼の者がそれに応じるとはとても・・・」
「そのときはその時だね。」

ていうかその可能性の方が高いことは分かっている。
一言目が口惜しいだもんなぁ・・・

でも、対話の挑戦それ自体の放棄はしない。
それをした時点で、僕は戦闘力以外の力を認めないことになる。

「ま、気負っていても仕方がないし。とりあえず中に行く?」

今施されている封印が、別の鬼神の『魂結い』によるものかはわからないしどうでもいい。再封印の手段がない以上解放してしまうのが1番だ。その後の対応は・・・まあ、なるようになる。

「・・・そうですね。民に危害が及ぶのも避けたいですし、こちらから赴いてしまいましょう。」

ヒルダは頷く。
よし、話は決まった。

約束したし、できることなら無理はしたくないけど・・・

ま、最終的に生きてればそれは無理に入らないから、ね
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