弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第一章

酔いと名のつくものはすべからくキツイ

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聞いたところによると。
転移酔い、というものがあるらしい。理由は諸説あるけど、例えば転移そのもので三半規管がやられたり、転移前後の気候の違いで体調を崩したり、だとか。あと上位元素の適性が低い人だと、本来自分には扱えないような量の力を使うことで体が大幅に疲弊するとかあるらしい。

・・・僕?僕はね・・・

「オロロロロロロロロ・・・」

多分全部だね。いや最後の理由はどうかわかんないけど。 

想定しうる全ての悪影響が出てる気がする。【時限暴走ダウナーシフト】の副作用も相まって、今までの人生で1番きついかもしれない。
胃の中もう空っぽなのに吐き気が止まらない・・・

「えっと・・・シルヴァ、大丈夫?」
「う、うん、だいじょうボロロロロ・・・」
「大丈夫じゃなさそうだね・・・」

そう言いながらヒルダが背中をさすってくれる。
優しさが染みるなぁ。

そんな感じで、しばらく情けなさの象徴みたいな姿を晒したあと。

何とか落ち着いた僕は、ヒルダと共に状況を確認する。

「いやー、とりあえず生きてたね、僕たち。転移先も普通に陸地だったし、日頃の行いかな。」

そう言って辺りを見渡す。
僕たちが転移させられた場所。それは広い草原だった。気候は少し寒いけど、凍死するってほどでもない。
僕の言葉にヒルダも頷く。

「日頃の行いはともかく・・・周囲に危険な魔物とかもいなそうだし、運が良かったね。」

そう言ってヒルダは笑う。でも、その笑顔はどこか元気がない。

「・・・ヒルダ、体の調子はどう?」
「え・・・?」
「さっきも言ったけど、『神成り』みたいな異能は生命力をもっていくんだ。あの権能に対抗するためにかなりの力を使ったでしょ?」
「そ、そういえばそうだったね。そっか、どうにも力が出ないと思ったら・・・」

ヒルダは自分の体を確認する。

「どこも怪我してないのに、血が足りてないような感じがする・・・あ、なんか気づいたら急にクラクラしてきたかも・・・」
「だろうね。権能への対抗を丸投げしといてなんだけど、異能はそれだけ負担が大きい。そこが権能の方が強いとされる理由だね。」
「そうなんだ・・・」

そう言いながらも、ヒルダはふらついている。

「無理しないで横になってて。今簡単な栄養剤を調合するから。」
「う、うん・・・ありがとう。」

お忘れかもしれないが、僕は薬師だ。当然、治療に関しても一通り修めている。
・・・まあ、ほんとに応急処置レベルだけど。
とりあえずバックパックから材料を・・・って、あ・・・

「バックパック、向こうに置いてきたままっぽい・・・」

そういえば【人造死霊】を飲ませるために床に置いておいたんだった。流石にあれまで送られて来るほど親切じゃないよなぁ・・・

仕方ない、材料を探すところから始めよう。いずれにしろ、食料確保は必須だ。

「ごめん、ヒルダ。ちょっと色々調べながら集めてくる。何かあったら呼んでね」
「うん・・・わかった。任せちゃってごめんね?」
「気にしない気にしない。」

周囲の植生を確認する。未知の植物も多いが、見慣れた物も一応ある。
全体的に、寒冷地の植物が多い気がする。少し肌寒いし、どちらかと言えば熱帯地域だった鬼人の集落から考えると、随分遠くに来たのかもしれない。

僕は手早く素材を集める。ヒルダに使うものだし、霊力や魔力などを含んだ特殊素材も集めよう。僕にとっては売るくらいしか使い道がないけど、今のヒルダには必要なはずだ。

動物性の素材がないのが残念だけど・・・まあ仕方ないか。
バックパックの中には双頭猪ツインヘッズボアの胆嚢とか、砂漠飛竜デザートワイバーンの血とか肝臓とかあったんだけどなぁ。あれ高かったんだけどなぁ・・・

我ながら未練タラタラである。でもお金は大事・・・あ
全財産もあの中だ・・・
旅をする関係上、鉱石とか換金性の高いものをいくつか持ってたけど・・・それもなくなってしまった。一応、もしもの時のために上着の中に一つだけミスリルが入ってるけど・・・

まあ、いい。切り替えよう。
生きてるだけラッキーだ。
それに、ここがどこかはわからないけど、一応僕の知識が通用する。植生が違いすぎるからほんとに遠くだろうし、下手したら海を越えてるかもしれないけど

とりあえず今集められるだけの素材と少しの食料を集めて戻る。こういう時、勉強しておいて良かったと思う。

「お待たせ、ヒルダ。ついでに食料も採ってきたから食べようか。」
「ありがとう・・・。えっと、火、いる?」
「あー・・・そっか、着火薬も無いんだった。」

薪は持ってきたけど、鍋もない。適当に平たい石でも使おうかと思ってたけど・・・そもそも火が起こせないんだった。

「ごめん、お願い出来る?」
「うん、任せて。このくらいなら簡単だよ。」

そう言ってヒルダは僕が組んだ薪に手を伸ばす。

「えいっ」

ボッ!

「おお・・・さすがだね。」
「ふふん・・・でしょ?」

疲れてるせいかなんかとても子供っぽい。なんか頭を撫でてあげたくなっちゃうなぁ。

・・・撫でるか。いつもだったら彼女の方が背が高いから難しいけど、今なら簡単だ。
さりげなく行けば許される気がする。

「うん、ありがとね、ヒルダ」

えい。なるべくさりげなく、横になっている彼女の頭を撫でる。うわぁ、髪サラサラだ・・・

「ん・・・えへへ、気持ちいい・・・」

ヒルダも気持ちよさそうに目を細めて僕の手を受け入れる。

・・・可愛いけども。この感じ、意識朦朧としてない?
てっきり真っ赤になって照れるか、怒られるかと思ったんだけど・・・

「えっと・・・ヒルダ?大丈夫?」
「んー?大丈夫だよー・・・?えへへ、シルヴァー、もっと撫でてー」

語尾が伸びきっている・・・!これは大丈夫じゃない。

まあ、緊張が途切れたんだろうなぁ。さっきの戦闘の緊張もそうだけど、封印を守る役目からも開放されたわけだし。それは肩の荷も降りるというものだろう。

「ほら、起きてヒルダ。栄養剤の前に食事にしよう。」

上位元素を補う栄養剤を作るつもりだけど、この感じだと先に食事を済ませた方がいい。
タンパク質が足りてないけど仕方ない。その辺は後で街を探すしかない。

「んー・・・わかったー。」

そう言ってのそのそと起き上がるヒルダ。あの神秘的な彼女はどこへ・・・

僕は知らず知らずのうちに苦笑を浮かべながら、二人でとりあえずの腹ごしらえを済ませた。


食事を終え。見るからにうとうとしているヒルダに何とか栄養剤を飲ませることに成功した。
そして、その後。

「すぅ・・・すぅ・・・」
「ふぅ。」

日もすっかりと落ち、月明かりと焚き火だけが僕たちを照らしていた。

ヒルダは穏やかな寝息を立てて眠っていた。幸い薪は豊富にあり、十分な温かさを確保出来ている。
出来れば今日中に方針を決めて動き出したかったけど・・・まあ、あの状態のヒルダに無理はさせられない。

それに、考えることはいくらでもある。時間が無駄になるということは無い。

空を見上げる。参ったことに、全く知らない星空だ。思ったよりも随分遠くに来たらしい。
周囲の安全確保も正直不十分だ。大抵の魔物はヒルダの存在に恐れをなして逃げていくと思うけど・・・問題は野盗などの知的生命体だ。
擬似悪魔化は残っているから対処はできると思うけど・・・正直僕もあまり体調が良くない。
願わくば、この夜は何事もなくすぎて欲しいものだ。

そんなことを考えながら。
未知の場所での最初の夜はふけていった。
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