イーテマーヴの聖典

Nonama

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疑問

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確かに見たことがあった。
俺は昨日を数年前に夢に見た。

現実を夢で見る意味はなんだ。
過去の俺は、若しくは今の俺は何を伝えたかったのか。

「先生、お時間です」
「私を先生と呼ぶな」
「でも、呼ばれたがっていたようなので。それに他人と会話する方が、情報の整理は早いと言います」
「君は、明晰夢を見たことがあるか」
「夢を夢だと分かりながら、自由に世界を動かせるという明晰夢ですか。私はありませんよ」
「では、今生きている現実が夢だという可能性はないのか。君は自分の思うがままの人生を生きている」

笑う。笑うだろう。笑うべきだ。
しかし君は笑わなかった。

「私は夢を見ていません。でも、恐らく、ここは現実ではないと分かっています。思い通りになる世界ではないですし、覚めることもありません。多分、幸せな私は何処かにいるんです。その姿を想像するだけでも、今の私が苦しい理由がなんとなく分かります。先生もそうなんでしょう」

そう。私は分かっている。
ここは、閉じた世界なんだ。
意識し始めたのも数分前だ。

「そこに林檎があるね」
「ええ、あります」
「その隣には4百万円があるね」
「誰の忘れ物なんでしょうか」
「君の忘れ物だよ。早く思い出して欲しかったところなんだ」
「これで暫くは生きていけます。ありがとうございます、先生。延長しますか?」
「必要ない。時間も、君も」
「そうですか」

意識すれば何でも存在する世界。
願いが何でも叶ってしまう世界。
そんな世界は退屈だ。

俺は
現実に帰りたかった。
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