イーテマーヴの聖典

Nonama

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煙草

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「おばちゃん、吸わないよね」
「吸わないね」
「何でいつも煙草置いてるの。学生課に見つかったら何か言われない?」
「これはね、形見みたいなもんなんだよ。生きてると思うけどね」
「旦那さん?」
「うちの旦那はピンピンしてるよ」

それからおばちゃんは「珈琲、飲む?」と言いながらマグカップを差し出してきた。

「昔いたんだよ。あんたみたいに地方から都会に出てきてさ、都会デビューしたいみたいな学生が。湯浅っていうんだけどね」
「湯浅さん、どんな人だったんですか」
「優しくて素直なんだけど、ちょっと鼻につくっていうのかな。ある日悪い友達にハメられて、大学をやめちまったんだよ」
「まさかその人も借金を?」
「そうだね。借金は別に大した額ではなかったんだけど、湯浅は人を信じられなくなって病んじまったんだ。でもさ、大学をやめたあとも、数年おきに連絡が来たり、たまにここに煙草を吸いに来るんだ」
「良い人だったんですね」
「若いくせに妙に悟ってる所もあってね、気を遣ってるのか、最近はあんまり来なくなってね。でもここに煙草があれば、あの子とまたお喋りが出来るんじゃないかって、そんな気がするんだよ。おばちゃんは」
「湯浅さんは特別なんですね」
「そうだねぇ。学生寮の子供はあんたも含めみ~んな孫みたいなもんさぁ。可愛くて仕方がないよ。あんたも卒業したら、たまには顔を見せてくれよ」
「見せる見せる」
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