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一反木綿のキヌちゃん編
小洗屋のシラタマと一反木綿のキヌちゃん 3話
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今日は天天小豆を洗ってほしいという。
天天小豆はこぶりの小豆だ。
炊き方によって食感が変わる小豆でもある。
「小粒の甘納豆を作ろうと思ってな。もうすぐ、お祭りがあるだろ」
お祭りと言ったのは、着物コンテストのことで間違いない。
その日は村に大勢の妖が集まる。
あの着物デザイナー・糸史のコンテストだ。都からもたくさんの人が来るのはまちがいない。
それこそ雑誌の記者もくると聞いているし、村や近隣の宿屋も予約でいっぱい。
大きな会館もすでに抑えられ、村のなかは、静かに騒がしい。
「屋台をだすの?」
シラタマが聞くと、両親はそろって首を横に振った。
「駄菓子屋のぬらりひょんさんがね、屋台をだすって。綿飴とうちの甘納豆を売りたいってね」
「へえ~」
駅前にある駄菓子屋は、本当はお茶屋さんだ。
だけど3代目の子ども好きが高じて駄菓子屋もやるようになった。
今はどっちが本業かわからないほど、どちらも人気のお店になっている。
「そっかぁ。天天小豆、洗うの難しいけど、がんばるね!」
「うん、ありがと、シラタマ」
父の大きな手は優しくて、いつも目を細めてしまう。
ごろごろと喉をならすと、母がぎゅっと抱きしめてくれた。
「本当にいい子。大好きよ、シラタマ」
「あたしも母ちゃんと父ちゃん、大好き!」
唐突に始まる大好きの告白だけど、シラタマはとっても幸せになれる。
本当に、2人の子どもになれて、よかったって思う瞬間だ。
ゆっくりと朝食を食べてから出かける少し前、父に呼び止められた。
こっそり店舗に連れていかれる。
すると、昨日の残りのおはぎを4つ、父は笹の葉に包み出した。
「今日もキヌちゃんに会うんだろ?」
「うん!」
「2人でお食べ。母ちゃんには内緒な」
シラタマは次の返事を飲み込んだ。
母に見つかったら、お昼ご飯が食べられないとゴニョゴニョ言われるのは間違いないからだ。
シラタマは天天小豆の入った袋にそっと入れ、父に手を振る。
「行ってきます。上手にあらってくるからね!」
もしかすると、キヌちゃんはすでに来ているかもしれない。
おやつにおはぎがあるよ!
きっとこれを聞いたら、キヌちゃんはおおはしゃぎで作業をするに決まってる。
いつもの場所に着いたシラタマだが、キヌちゃんの姿はなかった。
辺りを探してみたけど、大切に干していた布は片付けられ、染める道具も薬品も、たくさん悩んで考えて書き込んでいたデザイン集もない。
もう布が完成したのかとも思ったが、
『あと、3日で完成よ、シラタマちゃん。楽しみね!』
その言葉を思い出す。
「……キヌちゃん、どうしたのかな。もう少ししたら、くるかな……」
天天小豆はこぶりのザルにいれて研いでいく。
皮が柔らかいため、力加減がとても難しい。
一度水に浸し、そっと肉球を当てていく。
しゃり。しゃり。しゃり。
しゃり。しゃり。じゃり。
じゃり。しゃり。しゃり。
ていねいに、優しく優しく洗っていたら、もうお日様も真上にいる。
でも、キヌちゃんは来なかった。
天天小豆はこぶりの小豆だ。
炊き方によって食感が変わる小豆でもある。
「小粒の甘納豆を作ろうと思ってな。もうすぐ、お祭りがあるだろ」
お祭りと言ったのは、着物コンテストのことで間違いない。
その日は村に大勢の妖が集まる。
あの着物デザイナー・糸史のコンテストだ。都からもたくさんの人が来るのはまちがいない。
それこそ雑誌の記者もくると聞いているし、村や近隣の宿屋も予約でいっぱい。
大きな会館もすでに抑えられ、村のなかは、静かに騒がしい。
「屋台をだすの?」
シラタマが聞くと、両親はそろって首を横に振った。
「駄菓子屋のぬらりひょんさんがね、屋台をだすって。綿飴とうちの甘納豆を売りたいってね」
「へえ~」
駅前にある駄菓子屋は、本当はお茶屋さんだ。
だけど3代目の子ども好きが高じて駄菓子屋もやるようになった。
今はどっちが本業かわからないほど、どちらも人気のお店になっている。
「そっかぁ。天天小豆、洗うの難しいけど、がんばるね!」
「うん、ありがと、シラタマ」
父の大きな手は優しくて、いつも目を細めてしまう。
ごろごろと喉をならすと、母がぎゅっと抱きしめてくれた。
「本当にいい子。大好きよ、シラタマ」
「あたしも母ちゃんと父ちゃん、大好き!」
唐突に始まる大好きの告白だけど、シラタマはとっても幸せになれる。
本当に、2人の子どもになれて、よかったって思う瞬間だ。
ゆっくりと朝食を食べてから出かける少し前、父に呼び止められた。
こっそり店舗に連れていかれる。
すると、昨日の残りのおはぎを4つ、父は笹の葉に包み出した。
「今日もキヌちゃんに会うんだろ?」
「うん!」
「2人でお食べ。母ちゃんには内緒な」
シラタマは次の返事を飲み込んだ。
母に見つかったら、お昼ご飯が食べられないとゴニョゴニョ言われるのは間違いないからだ。
シラタマは天天小豆の入った袋にそっと入れ、父に手を振る。
「行ってきます。上手にあらってくるからね!」
もしかすると、キヌちゃんはすでに来ているかもしれない。
おやつにおはぎがあるよ!
きっとこれを聞いたら、キヌちゃんはおおはしゃぎで作業をするに決まってる。
いつもの場所に着いたシラタマだが、キヌちゃんの姿はなかった。
辺りを探してみたけど、大切に干していた布は片付けられ、染める道具も薬品も、たくさん悩んで考えて書き込んでいたデザイン集もない。
もう布が完成したのかとも思ったが、
『あと、3日で完成よ、シラタマちゃん。楽しみね!』
その言葉を思い出す。
「……キヌちゃん、どうしたのかな。もう少ししたら、くるかな……」
天天小豆はこぶりのザルにいれて研いでいく。
皮が柔らかいため、力加減がとても難しい。
一度水に浸し、そっと肉球を当てていく。
しゃり。しゃり。しゃり。
しゃり。しゃり。じゃり。
じゃり。しゃり。しゃり。
ていねいに、優しく優しく洗っていたら、もうお日様も真上にいる。
でも、キヌちゃんは来なかった。
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