老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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ろくろ首のリッカちゃん編

小洗屋のシラタマとろくろ首のリッカちゃん 5話

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 シラタマは洗いおえた小豆を袋につめ、風呂敷に包むと、きゅっと体に結びつけた。
 そしてリッカちゃんをそっと持ち上げる。
 ふわふわの肉球で頬をはさんでいるため、むぎゅっとリッカちゃんの顔がつぶれる。

「少しのしんぼうよ」
「……うん!」

 リッカちゃんの頭は小豆より重いかもしれない。
 大事に持ちながらも、手の力が抜けそうになる。
 それでも体まで持っていってあげないと。

「……あ、シラタマちゃん……体が近づいてるのわかる……近づいてる!」

 首が離れるろくろ首のリッカちゃんだが、近づけばどこらへんにいるかは感覚がしらせてくれるようだ。

「このまま真っ直ぐ進んでいけばいいと思う」
「よかったぁ」

 笹に足を取られながらも、ふわふわの足を進めるシラタマに、リッカちゃんの目がぎゅんと向く。

「ねぇ、なんで砂かけのカヤ婆の家ってわかったの?」

 顎を抱えるように持ちながらシラタマは笑う。

「泥と、砂、だよ」
「泥と砂? なんで?」

 シラタマはなるだけ早歩きで向かっていく。
 この川からカヤ婆の家はそれほど遠くない。
 思った通り、雑木林を斜めに抜けると、カヤ婆の家が現れる。

「だって、カヤ婆は陶芸家だもの。土をたくさん使うじゃない。どうしても焼き物にできない土もあるの。それはカヤ婆の家の近くに捨てられるんだけど、昨日夕立があったでしょ? それで泥みたいになったんだと思う」
「じゃあ、砂は?」
「カヤ婆の家の周りは、とってもキレイな砂で覆われてるのよ? 知らない?」
「知らなーい」

 よいしょと、小さな坂をのぼり、カヤ婆の家の前につくと、家の引き戸がバンと開いた。

「……あーーーよかったぁ! リッカちゃんの体はここよぉ」

 出てきたのは、カヤ婆だ。
 手招きしてくれるカヤ婆に、シラタマが気づくより早く、

「あ! あたしの体!」

 リッカちゃんの頭がふわりと浮いた。
 カヤ婆に挨拶もなく、ぎゅいんと横を過ぎ、家のなかへ飛んで入っていく。
 走ってカヤ婆の元にきたシラタマは頭をぺこりと下げた。

「あ! ……もう! ごめんなさい、カヤ婆ちゃん」
「いいのよ、いいのよ。私も驚いちゃって。さ、麦茶でも飲んでいって」

 カヤ婆の家に入るのは初めてだ。
 いつも玄関先で和菓子の届け物をして帰るだけだったから、とっても新鮮。
 工房と繋がっている居間のため、たくさんの焼き物が並んでいる。
 高級そうな壺から、お皿、お茶碗……
 そのなかでひときわキラキラ輝くお皿がある。
 霜がおりた落ち葉のように、繊細でキレイなお皿だ。

「それ、キレイなお皿」
「あー、これはね、焼くときに砂をまぶすのよ。するとね、熱で砂が焼けて、キラキラするの」
「すごーい!」

 焼き物を見せてもらっていたシラタマの元に、首がつながったリッカちゃんが小走りで戻ってきた。

「カヤ婆ちゃん、ありがとう! もう一生、体に会えないかと思った!」
「それは私もよ。一生、リッカちゃんの体と暮らすかと思ったわぁ」
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