老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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花塚村 冬至編

花塚村 冬至編 3話

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 午後からの時間もあっという間に過ぎていった。
 それこそ、午前中よりも人が増えたほど。

「ここのかぼちゃ団子食べないと、年の瀬じゃないよね」
「毎年、たのしみなのよぉ」
「今年はかぼちゃ、豊作だったからねぇ。団子もおいしいだろうねぇ」

 みなそれぞれに声をかけて団子を買ってくれる。
 それこそ、この小洗屋の和菓子を愛してくれているからこその言葉ばかりだ。
 シラタマも品出しから、袋にいれてなど、尻尾をぶんぶんふりながら接客に大忙し。
 15時になるころには、定番の和菓子はもちろん、かぼちゃ団子もすっかり売り切れに。

「母ちゃん、あと残ってるのは?」

 父が棚の整理をしながら声をかけると、母はお代を数えつつ、

「キンツバと練りきり、ぐらいかね。シラタマ、他に残ってるのあるかい?」

 くるりと見て周り、シラタマは首を横にふる。

「あとはカリントウしかないよ」
「今日はすっかり売り切れだねぇ。毎年だけどね。ありがたいねぇ」

 母はシラタマを抱っこし、頬擦りをする。
 嬉しい気持ちを半分こするためだ。
 シラタマがふわふわの手で口を隠してうふふと笑うと、父もシラタマに頬擦りする。

「嬉しいよな、シラタマ」
「うん! ……でも父ちゃん、おヒゲ、痛い」
「あ、ああ! すまんすまん!」

 シュタッと母の手から降りると、店じまいにかかる。
 店の看板を中に入れ、暖簾もおろし、『本日終了』の札を下げる。

「よし! 温泉に行こうかね、シラタマ」

 お金を数え終えた母は、嬉しそうに笑う。
 父もだ。
 もちろん、シラタマも!

 なぜなら、大人も子どもも温泉で楽しめる日となっているからだ。
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