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第一章 ここをキャンプ地とする!
第15話:初日の出
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至の手を取り立ち上がらせたガンディアは、至の車まで行くと、いきなり窓を叩き始めた。
「スルニス、起きろぉ…時間だぞっ! 起きろっ!」
どこぞの酔っ払いの如く、激しい絡み方だ。
後ろに回り、ファスナーを開けて再び叫んだとき、ガンディがくの字に吹っ飛んだ。
言葉の通り、魔貫光殺砲を食らったかの如く、鳩尾から綺麗に両腕両足を前へと伸ばし、後方へと飛び去った。
アクション映画ばりに幹に全身を打ちつけると、ずるりと地面へ落ちていく。
あまりのことに声すら出せない。
一体何が起こったのだ? と、恐る恐る車中を至が覗くと、半身を起き上がらせたスルニスが右腕を突き出し、力なく地面に落ちているガンディアを憎しみを込めて睨んでいる。
ぎらりと光る目と合った。
───殺ヤられる!!!!
さらに体を強張らせたとき、スルニスの目が大きく開いた。
「あ、……い、イタル様……」
言いながら顔を覆い、恥ずかしがるスルニスだが、どこに突っ込めばいいのだろう。
寝起きを見られたことに恥じているのか、この惨事を恥じているのか、何をどう思っているのだろう。
無表情の至の背後から、ずるりと動く影がある。
思わず横へと飛び退いたが、そこには弱りながらも匍匐前進で進むガンディアの姿があった。
片手には回復薬を持ち、それをちびちび飲みながら進んでいる。
なんとか車までたどり着くと、ひょっこりと顔をだし、スルニスの寝袋姿を見て、奇声をあげた。
「なんだこれは! スルニス、蓑虫のようだな! いや、芋虫か! 芋虫だな!!」
「……うるさい」
悪魔の唸り声だ。
ガンディアは大人しく顔を引っ込めたが、スルニスが起き寝袋から出たのをいいことに、彼もその中に入ろうと腕を伸ばす。
「厨二、靴脱げよ」
至の声のとおりに靴を脱ぎ、中に入るが、
「……ヒューマン、これは子供用か……?」
胸から上が出ている状況だ。
彼の予想では、スルニスと同じく蓑虫または芋虫になれるはずだったのに、これでは羽化の途中のようだ。
面白みがない。
無表情のまま固まるガンディアに、至はため息交じりに言った。
「大人用だ。お前がでかすぎんだよ。俺の1.5倍ぐらいあるだろ、身長」
「そうか。もう少し大きいのを今度持ってきてくれ」
真顔で言うガンディアに返事をせぬまま、至は寝袋から引きずり出すと、
「朝日見に行くんだろ?」
「はっ! そうだった」
傷が癒えたガンディアは目をこするスルニスも連れ、歩き出した。
夜が明けていない森は、静かで暗い。
青い色が辺りに立ち込め、光が差し込み始めたところから白く滲むが、まだまだ朝には程遠い印象だ。
時折聞こえる野鳥の声に至は肩を震わせる。
「イタル様、ここの鳥は人は食べませんから、ご安心を」
「じゃ、人を食うやつもいるの……?」
「ウルフがそうだが、ここにはいない」
ガンディアが鼻歌交じりに先導して行く。
ぬかるんだ土の感触、朝露の香り、鳥のおしゃべり、淀んだ夜の空気、それらに至は触れながら足を進める。
こんなに新鮮な空気は久しぶりな気がするし、なにより初めてかもしれない。
これほど朝を迎える森のなかはたくさんの香りがするのだと、至は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
すぐに森を抜け、広がったのは草原だ。
くるぶし程度の草が茂り、見渡す限り、空とその地面しかない。
そこは、切り出された崖であり、見下ろすと山並みが見える。
「こんなに高いところに来たのか? 全然そんな感じしなかったが」
「元の場所が場所が高いんだ。ここは絶景の朝日が見えるんだ。
父と私のお気に入りだ」
そう言って再び手を取り、歩き出した。
連れて行かれた先には、大きな岩がある。ガンディアに助けられながら岩のてっぺんまで登ると、そこは真っ平らな空間だった。
その上に3人並んで腰を下ろす。
ひんやりとした岩の感触がお尻から伝わり、まだここが夜なのだと伝えている気がした。
あたりを見渡すとその場所は一段と高く、まるで空に浮いているかのような感覚がする。
眼下に広がる山並みは、まだ眠っているのか白いベールがかかり、奥までは見渡せない。
次第に明るさが広がるなか、空の切れ間から明かりが漏れ始めた。
白だと思っていた朝日だが、赤い。
これは至の世界と同じ色だ。
差し込まれた赤は地面を這いながら彼らの元へと伸びてくる。
ゆっくりと手を伸ばすように陽が高くなるごとに伸びる赤は、色が薄まることはなく、むしろ濃くなっている。
火の結晶よりも濃い赤は、ペンキのように不透明な色である。
だが、のっぺりとした赤は地面に溶けて、それは言い表しがたい美しさがある。
赤い蝋細工のように森や草、岩、山々がかたどられていく。
雲海をたどるように細く太く伸ばされる赤は、3人の元へとゆったりと漂いながら届いた。
至の体も真っ赤に染まっている。
呼吸ができなくなりそうな赤だ。手も顔も赤い。
日差しの柔らかさがじんわりと肌に届き、薄い膜でも体に張り付いている気がする。
「おお! 厨二も真っ赤だなっ!」
至は2人を見やり、笑いながら言うが、そこには真っ赤な美しい蝋人形が座っているように見える。
きっと2人にも至の姿はそう見えているはずだ。
「どうだヒューマン、美しいだろ?」
「ああ、こっちの世界じゃありえない朝日だ」
「イタル様と一緒に見れて、わたくし、幸せです」
そっと至の肩にスルニスが頬を寄せた。至はそれに薄く微笑みながら、感動のため息をつく。
スルニスの胸の感触も、外の音も聞こえない。
圧倒的な美しさだ。
「昔聞いたことがある。
そちらの世界では初めての朝日を『初日の出』と言うんだろ?
何か願掛けなどするのか?」
至は幻想的な朝日を浴びながら、確かに初日の出だと口の中で呟いた。
「……では、行きます」
至は大きく息を吸い、朝日に叫んだ。
「ガンディアとスルニスと、またキャンプできますよぉーにっ!!!!!!」
綺麗な姿勢で直立し、手を合わせると、一礼する。
なぜかガンディアとスルニスも立ち上がり、至と同じようにお辞儀をしている。
「いつでもご一緒いたします、イタル様」
「私も待っているぞ、ヒューマン。
ちなみに私のことは、チュウニと呼んでくれ」
「……よっぽど気に入ってんだな」
赤い陽はゆるやかに色を白へと変化させ、辺りを目覚めさせていく。
波のように白く染まった木々の間から、鳥のさえずり、風のざわめきが湧き上がっていく。
「さ、朝が来たぞ。朝食にするぞっ」
ガンディアが再び歩き出した先は、せせらぎが聞こえる場所だった。
「スルニス、起きろぉ…時間だぞっ! 起きろっ!」
どこぞの酔っ払いの如く、激しい絡み方だ。
後ろに回り、ファスナーを開けて再び叫んだとき、ガンディがくの字に吹っ飛んだ。
言葉の通り、魔貫光殺砲を食らったかの如く、鳩尾から綺麗に両腕両足を前へと伸ばし、後方へと飛び去った。
アクション映画ばりに幹に全身を打ちつけると、ずるりと地面へ落ちていく。
あまりのことに声すら出せない。
一体何が起こったのだ? と、恐る恐る車中を至が覗くと、半身を起き上がらせたスルニスが右腕を突き出し、力なく地面に落ちているガンディアを憎しみを込めて睨んでいる。
ぎらりと光る目と合った。
───殺ヤられる!!!!
さらに体を強張らせたとき、スルニスの目が大きく開いた。
「あ、……い、イタル様……」
言いながら顔を覆い、恥ずかしがるスルニスだが、どこに突っ込めばいいのだろう。
寝起きを見られたことに恥じているのか、この惨事を恥じているのか、何をどう思っているのだろう。
無表情の至の背後から、ずるりと動く影がある。
思わず横へと飛び退いたが、そこには弱りながらも匍匐前進で進むガンディアの姿があった。
片手には回復薬を持ち、それをちびちび飲みながら進んでいる。
なんとか車までたどり着くと、ひょっこりと顔をだし、スルニスの寝袋姿を見て、奇声をあげた。
「なんだこれは! スルニス、蓑虫のようだな! いや、芋虫か! 芋虫だな!!」
「……うるさい」
悪魔の唸り声だ。
ガンディアは大人しく顔を引っ込めたが、スルニスが起き寝袋から出たのをいいことに、彼もその中に入ろうと腕を伸ばす。
「厨二、靴脱げよ」
至の声のとおりに靴を脱ぎ、中に入るが、
「……ヒューマン、これは子供用か……?」
胸から上が出ている状況だ。
彼の予想では、スルニスと同じく蓑虫または芋虫になれるはずだったのに、これでは羽化の途中のようだ。
面白みがない。
無表情のまま固まるガンディアに、至はため息交じりに言った。
「大人用だ。お前がでかすぎんだよ。俺の1.5倍ぐらいあるだろ、身長」
「そうか。もう少し大きいのを今度持ってきてくれ」
真顔で言うガンディアに返事をせぬまま、至は寝袋から引きずり出すと、
「朝日見に行くんだろ?」
「はっ! そうだった」
傷が癒えたガンディアは目をこするスルニスも連れ、歩き出した。
夜が明けていない森は、静かで暗い。
青い色が辺りに立ち込め、光が差し込み始めたところから白く滲むが、まだまだ朝には程遠い印象だ。
時折聞こえる野鳥の声に至は肩を震わせる。
「イタル様、ここの鳥は人は食べませんから、ご安心を」
「じゃ、人を食うやつもいるの……?」
「ウルフがそうだが、ここにはいない」
ガンディアが鼻歌交じりに先導して行く。
ぬかるんだ土の感触、朝露の香り、鳥のおしゃべり、淀んだ夜の空気、それらに至は触れながら足を進める。
こんなに新鮮な空気は久しぶりな気がするし、なにより初めてかもしれない。
これほど朝を迎える森のなかはたくさんの香りがするのだと、至は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
すぐに森を抜け、広がったのは草原だ。
くるぶし程度の草が茂り、見渡す限り、空とその地面しかない。
そこは、切り出された崖であり、見下ろすと山並みが見える。
「こんなに高いところに来たのか? 全然そんな感じしなかったが」
「元の場所が場所が高いんだ。ここは絶景の朝日が見えるんだ。
父と私のお気に入りだ」
そう言って再び手を取り、歩き出した。
連れて行かれた先には、大きな岩がある。ガンディアに助けられながら岩のてっぺんまで登ると、そこは真っ平らな空間だった。
その上に3人並んで腰を下ろす。
ひんやりとした岩の感触がお尻から伝わり、まだここが夜なのだと伝えている気がした。
あたりを見渡すとその場所は一段と高く、まるで空に浮いているかのような感覚がする。
眼下に広がる山並みは、まだ眠っているのか白いベールがかかり、奥までは見渡せない。
次第に明るさが広がるなか、空の切れ間から明かりが漏れ始めた。
白だと思っていた朝日だが、赤い。
これは至の世界と同じ色だ。
差し込まれた赤は地面を這いながら彼らの元へと伸びてくる。
ゆっくりと手を伸ばすように陽が高くなるごとに伸びる赤は、色が薄まることはなく、むしろ濃くなっている。
火の結晶よりも濃い赤は、ペンキのように不透明な色である。
だが、のっぺりとした赤は地面に溶けて、それは言い表しがたい美しさがある。
赤い蝋細工のように森や草、岩、山々がかたどられていく。
雲海をたどるように細く太く伸ばされる赤は、3人の元へとゆったりと漂いながら届いた。
至の体も真っ赤に染まっている。
呼吸ができなくなりそうな赤だ。手も顔も赤い。
日差しの柔らかさがじんわりと肌に届き、薄い膜でも体に張り付いている気がする。
「おお! 厨二も真っ赤だなっ!」
至は2人を見やり、笑いながら言うが、そこには真っ赤な美しい蝋人形が座っているように見える。
きっと2人にも至の姿はそう見えているはずだ。
「どうだヒューマン、美しいだろ?」
「ああ、こっちの世界じゃありえない朝日だ」
「イタル様と一緒に見れて、わたくし、幸せです」
そっと至の肩にスルニスが頬を寄せた。至はそれに薄く微笑みながら、感動のため息をつく。
スルニスの胸の感触も、外の音も聞こえない。
圧倒的な美しさだ。
「昔聞いたことがある。
そちらの世界では初めての朝日を『初日の出』と言うんだろ?
何か願掛けなどするのか?」
至は幻想的な朝日を浴びながら、確かに初日の出だと口の中で呟いた。
「……では、行きます」
至は大きく息を吸い、朝日に叫んだ。
「ガンディアとスルニスと、またキャンプできますよぉーにっ!!!!!!」
綺麗な姿勢で直立し、手を合わせると、一礼する。
なぜかガンディアとスルニスも立ち上がり、至と同じようにお辞儀をしている。
「いつでもご一緒いたします、イタル様」
「私も待っているぞ、ヒューマン。
ちなみに私のことは、チュウニと呼んでくれ」
「……よっぽど気に入ってんだな」
赤い陽はゆるやかに色を白へと変化させ、辺りを目覚めさせていく。
波のように白く染まった木々の間から、鳥のさえずり、風のざわめきが湧き上がっていく。
「さ、朝が来たぞ。朝食にするぞっ」
ガンディアが再び歩き出した先は、せせらぎが聞こえる場所だった。
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