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第一章 ここをキャンプ地とする!

第18話:続・パンの収穫

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「ああああああああああああ」

 至の叫び声が響くなか、スルニスは鼻歌交じりにパンを収穫している。

「す~る~に~すぅ~ま~だぁぁぁぁぁぁぁ」

「あと少しですわ、イタル様」

 大物を得られた木は、至を楽しそうに振り回している。
 言われた通り、四肢を引きちぎるようなことはなく、人形を両手で掴んでブンブンと騒ぐ子供のようだ。
 だが子供よりは丁寧かもしれない。
 乱暴にぐるぐる回ってはいるが、落とさないように慎重なこともわかる。
 至の体は逆さになることはなく、寝かされた状態で上下左右に振り回されているからだ。
 だがやはり本能だろう。
 近づいたスルニスにも枝を伸ばすが、大物が至のため小枝程度が伸びていく。
 この程度なら片手で振るえば離れていくので問題ないようだ。

 大きな枝から蔓が伸びて至を捕らえているが、そこからパンの実も下がっている。
 実の大きさはフランスパン程度で、形もフランスパンに近い。
 小刀でスルニスは切り離していくが、それによって悲鳴が上がったり、血液らしきものが飛び散ったりすることはない。
 ただ切り取られた蔓がぶるんと震えて縮むだけだ。

 彼女はパンの実を3本取り、小脇に抱えると、す~る~に~すぅ~というだらしない声が近づいたり離れたりするのを見ながら、彼女は転送用の石を地面に投げつけた。
 光の波紋が溢れたとき、近づいてきた至の蔓を切り離し、襟首をつかんで光の中へと投げ込んだ。
 だが、おもちゃがなくなったことで、木が暴れ始めてしまう。
 今度はスルニスで遊ぼうと蔓を伸ばすが、素早い刀さばきでスルニスはかわし、彼女も至を放り投げた中に飛び込んだのだった───


 至の目が眩んだのも一瞬で、視界が次第に開けてくる。
 じっくり見上げると、そこにはガンディアがいた。

「……厨二、ただいま」

 掠れた声で至が言うと、ガンディアは笑いながら至を起こし、
「活躍したようだな」
 ポーチから回復薬を取り出した。

「これを飲めば問題ない。
 もうすぐ魚が焼けるぞ。
 スルニス、パンを」

 至は小さな小瓶を口に加え、地面に寝そべりながら様子を見ていると、パンの実は火の中に薪のように差し込まれた。皮ごと焼くようだ。

「この厚い皮に火が入り、ぱきっという音がしたら完成だ。
 これは素晴らしいパンの実だ、ヒューマン。よくやった」

 至はまだ回復しないため、小さくうなずきかえす。
 冷たい地面に這いつくばる至の体がふわりと浮いた。
 そう思ったのも無理はない。
 まだ目が回る至を、スルニスが膝枕をしてくれたのだ。

 おぼろな意識のなか、

 ──この頬に当たる感触は、布越しだが、ふ・と・も・も!!

 もっちりとした柔肌がなんとも心地よい。
 至は表情に出さないように必死に口元を縛るが、微妙に緩んでいる。
 スルニスはそれに気づかないようで、乗せた至るの頭を優しく撫でた。

「イタル様、本当に頑張ってくださいました。
 薬は飲み終えてますね?
 もうしばし横になられたら、具合も良くなりますので」

 至は甘えたままにしておこうと決めた。
 こんな経験、自分の世界に戻ってからでは叶わない。
 いや、叶えることは可能だ。

 金さえ出せば……

 だがそこには、金という絆しかない。
 ただのシュチュエーションを楽しむだけの膝枕だ!!!!
 金で買う膝枕など、俺はいらない!!!!

 至は全力で今の状況を楽しむことに切り替えた。
 この膝枕はスルニスの行為からであり、好意なのだ。
 さらに、時折前にかがんでくれるため、胸が頬を掠っていく。
 この柔らかな匂いの布ごしに感じる、ふわりとした胸───

 たまりません!!!!!!!

 至はひとり感動していたが、同時に体調も良くなってきた。
 ひどい車酔いのような状況は去り、頭もすっきりとしてくる。
 もう少しこのままでいたいが、あまり長い時間こうしていると疑われるだろうか……

「ヒューマン、調子はどうだ。魚が焼けたぞ。
 パンも、もうすぐだ。
 少し遅くなったが朝食にしないか?」

 ガンディアの声につられ、至は眼前に広がる下乳を全力で脳裏に記録したあと、スルニスにお礼を言い、起き上がった。


 ───さぁ、待ちに待った、朝食の時間だ!

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