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第60話 決着しても……

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『なんだよ、もう終わりかぁ?』
『やめ……! 死ぬ! ……ぐぉっ! ………やめ!』

 ケレヴは容赦ない死体蹴りを繰り返していた。

 アムラスの意識が途絶えたことで、すでに彼らの強化魔法は解け、さらに意識は戻っている。
 どうも、ケレヴは戦闘モードから通常モードに戻るまで、少し時間がかかるようだ。

『リコ、起きてくれ! リコ!』

 心臓マッサージを繰り返すイウォールの声が、ケレヴの耳に入る。くたびれたおもちゃを投げ捨て振り返った。

「……マジかよ……イウォール、交代するぞ!」

 アキラとトゥーマも、アムラスを素早く魔法で縛り上げると、アキラは上着を脱いで、莉子の足に掛ける。トゥーマは路上に走り、救急車の到着確認に動く。

 莉子がびくりと体を震わせた。
 水を吐きだす。
 はげしい咳と一緒に、水をもう一度吐き出したあと、なんとか呼吸がはじまる。弱々しい浅い呼吸だが、呼吸には違いない。

『……リコ! リコ!』

 慌てて抱き上げるイウォールだが、莉子の体はまるで動かない。
 だが、数度目の呼びかけに、うっすらと目が開く。

『リコ……?』
「……イウォール、さん……」

 莉子はイウォールの頬を右手の指でそっと触れた。
 白い頬に莉子の血が線になる。

「……まほう、……つかった?」
「使っていない……使ってない!」
「……よ、かった……」

 莉子はそれに安心したのか、柔らかく笑ったあと、再び意識を落とした。
 小さな呼吸を繰り返す莉子をイウォールが抱きしめたとき、救急車のサイレンが止まる。

「大丈夫ですか!」

 駆け寄る隊員たちだが、事の惨劇に目が泳ぐ。
 血濡れの男たちに、腕を落とし横たわる瀕死の男、顔面が崩壊して意識不明の男に、一命を取り留めたであろう女性……。

「みんな男の子ですから、あとで大丈夫です。女性を、お願いします」

 アキラの笑顔には説得力があるようで、すぐに莉子が運ばれていった───
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