上 下
15 / 61

第十五話 火曜日 夕の刻・伍 ~呪いの条件とは?

しおりを挟む
 ノートを開くと、すかさず橘がのぞきこむ。

「あ、時系列だ……へぇ……」


◆呪いの流れ◆
日曜日の夕方 兄【呪】
月曜日 新兄(両足)+ 橘先輩【呪】
火曜日 新兄(両足右腕)+ 橘先輩(両足)
水曜日 新兄(両足両腕)+ 橘先輩(両足右腕)
木曜日 新兄(両足両腕体)+ 橘先輩(両足両腕)
金曜日 新兄(両足両腕体頭)+ 橘先輩(両足両腕体)
土曜日 新兄(両足両腕体頭首)+ 橘先輩(両足両腕体頭)
日曜日 新兄(×)+ 橘先輩(両足両腕体頭首)


◆わかったこと◆
・呪いが複数人いること(どうして増えたのか?)
・冴鬼は式神であること(安倍の苗字がついているのはいい鬼!)
・ぼくの血縁に安倍晴明がいること(仮)
・この土地は集まりやすいこと(アヤカシ?)
・銀水先生はアヤカシの研究者・冴鬼の保護者(一緒に生活?)



「……って、これだけ?」

 橘の声が痛い。

「……え? 新先輩、呪いかかってるの!?」

 ノートを手に立ち上がって驚いているけど、なんでぼくをにらんでくるの……?

「ちょ、ちょっと、教えてよ!」
「え、いや、話そうと思ってたけど……」
「遅すぎだし」

 得意の地団駄がでる。
 勢いよく逆方向へ首をまわした。

「こっち見なさいよ!」
「じゃ、地団駄やめて」

 バフッとスカートを手でおさえてるけど、ちょっと顔が赤い。
 こういうところは可愛いかも。

「その、日曜日、野球観戦の帰り、駅の線路沿いを歩いてたときつむじ風に当たったんだ。橘先輩はどこで?」
「ユリちゃんはピアノの日で、駅からの帰りだったはず」
「もしかすると、場所は同じかも……」
「場所は同じでも、なんで別々に呪いにかかるんだ?」

 冴鬼の声に思考が止まる。
 呪われた場所に、発動条件があるのかもしれない。
 でも、線路沿いの道は住宅街へつづく道路だから、もっと呪われた人がいてもおかしくない。

「ねぇ、なんであんたは呪われてないの? おかしくない?」

 これはぼくも考えていた。
 仮にぼくが呪いが見えたとして、避けることができたのか?
 ……あのつむじ風から呪いの色は見えなかった。

「あ~……なんで兄と橘先輩が呪われて、ぼくが呪われてないの?」
「あたしに聞かないでよ!」
「だが、あの場所の黄昏刻でないと呪われないのは間違いないだろ」
「うん。その前の日も兄と買い出しで駅に行ったけど、つむじ風はなかった」
「じゃ、書きたそうよ」

 橘の丸文字がつけたされる。

・場所は、駅の線路沿い
・呪いは黄昏刻じゃないとかからない
・他に呪われた人がいるかも?

「他になんかある?……つか、安倍くんが式神って、何?」

 ぼくの目はおよぐけど、銀水先生と冴鬼は、そしらぬ顔だ。
 ……ぼくが説明しろってことね。

「完結にいうと、おまじないをしたら、冴鬼がでてきたって……こと…で……」
「は? 意味わかんない」

 ぼくもです。

「まあ、蜜花よ、そうカリカリするな。わしにはあやかしを倒せる力があるってことだ。十分、頼るといい」
「へぇ、そういうこと。なら、安倍くんがリーダーの方がよくない?」
「ダメダメ! 冴鬼はダメだよ~! ぜんぜん常識ないから」

 割ってはいった銀水先生が、大きく腕をふって否定してくる。

「フジ、お主より、わしは常識人だぞ」
「なわけないでしょ?」
「たわけ、キツネ顔!」

 この2人の関係性が未だにつかめない。
 仲はあんまりよくないことだけ、わかってるけど。
 でも言い合えるくらいの、仲がいいのもわかってる。

「ほら、いいから、先生も冴鬼も! もう一度整理しよ」

 先生は郷土資料の棚に行くと、昭和初期の地図と現代の地図を抜きとって持ってきてくれた。

「よし、みんなみて。なんかちがいある?」

 指でなぞって駅周辺をみてみるけど……

「あたし、ぜんぜんわかんない!」
「わしもこういうのは不得意でな」
「ちょっとは考えてよーっ!」

 半泣きのぼくの肩を橘が叩いてくる。

「ね、呪いって、どっかに入ってたり、する?」
「なんで?」
「駅前周辺って、ほら、駅のないとき、なんか建物ある」

 現代版の地図の隣にある複数枚の写真に昔の駅前写真がある。

「なんだろ、これ……祠……?」
「そうだね、これ、祠だね」

 銀水先生の断言はぼくの心を加速させる。

「じゃ、この祠をどうにかすればいいんじゃない?」
「そうかもしれない! すごいよ、橘!」

 さっそく、駅に向かおうとするぼくたちだけど、銀水先生は不安げだ。

「そうは問屋が卸さないってね。祠の場所は移動してるだろうから、冴鬼、しっかり守ってあげてね」
「頼まれた。わしは凌の相棒だからな! 凌のことはしっかり守るぞ!」
「あたしは? ねぇ、あたしは?」
「猫をさわらせてくれたら、守ってやらなくもない」
「なんでそんなのが条件? 無条件で守ってよ!」
「それは無理な願いだ。猫をさしだせ」
「無理! うちのチャロは人見知りするもん!」
「じゃあ、なしだな」
「ケチ! ケチ、ケチっ!」
「橘、地団駄、踏まない!!」


 ぼくたちで、解決できるんだろうか……?
 いろんな意味で。

 とにかく、行ってみよ。
 今は行動あるのみだ!
しおりを挟む

処理中です...