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第二十四話 水曜日 昼の刻 〜冴鬼の宿題
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「凌よ、わしの宿題はどうなる」
「しらないよ」
だって、銀水先生に猫のすばらしさと、とんかつのおいしさを語ったあと、お風呂に入って寝たそうで。
「冴鬼、シャーペン、貸す?」
ご想像どおり、いまだに筆ペンです。
「細かい文字が書きやすいなら貸してもらいたい」
「いいよ。これ使いなよ」
あえて冴鬼のシャーペンは濃い2Bの芯にかえてわたす。
きっと筆圧それほど高くないだろうし。
思ったとおり、つまむようにシャーペンをもって書きはじめた。
「これは書きやすいな! 助かるぞ、凌よ!」
今までにない早さで文字の書き写しをしている冴鬼だけど、まだ数学の宿題が残っている。10分休みで追い上げするも、とうとうお昼休みに。
今日の給食はカレーだ。
いつだって人気のカレーだ!
「凌よ、このドロドロしたのは?」
「カレーだよ。本当はごはんにかけて食べるものなんだけど……」
うちの給食は、ごはんは一人づつはいった保温ケースに入れられて配られる。
カレーはおわんによそわれ、皿にはキャベツの千切りと白身フライ、冷凍ゼリーが今日の給食だ。
このカレーの食べ方はさまざま。ごはんを半分にたたんで、保温ケースのなかにながす人もいるし、ひと口ずつごはんにかけて食べる人も。
「とにかく、カレーはごはんのおかずとして食べれば」
食べ方は伝えてみたけれど、冴鬼はピンとはきていないみたい。
「ぼくはね、スプーンにカレーをすくってから、ごはんをすくって食べてるよ」
ぼくの食べ方を見せると、冴鬼も真似をしる。
そっと口にはこんだ冴鬼だけど、大きなつり目が、さらに見開いた!
手が、震えてる……!
「……めちゃくちゃうまいぞ、凌よ」
小声でいった。
「どしたの、冴鬼……叫ぶかと思った」
「フジに教えてもらったのだ。美味しくても叫んではいけないと」
「偉いね、冴鬼」
「わしは170歳だ。それぐらい対応できるっ」
またいつものとおりガツガツと食べはじめた冴鬼だけど、ふと首をかしげている。
「どうしたの、冴鬼」
「この作り方が知りたい」
「じゃ、今度、いっしょにつくってみる?」
「いいのか?」
「カレーならぼくでもできる、気がするし……」
そこにススっと寄ってきたのは橘だ。
お昼時間になり、食事をおえた人から自由時間になる。
もう橘は食べおえたようだ。
「あんた、カレーもつくったことないの?」
「じゃあ、橘はあるの?」
「あったりまえじゃない。あたしは料理担当なの。カレーぐらいカンタン!」
「だって、冴鬼。じゃあ、橘に教えてもらおうよ」
「そうだな。蜜花のほうがヒマだろうし」
「ヒマってなによ!」
「橘、怒らない怒らない」
地団駄しかけた膝にぼくが手をかざすと、すっとおろした。
「じゃ、今週の日曜なんてどう?」
「午後からならぼくは行ける」
「わしは大丈夫だ」
「じゃ、お昼から集合!……それより」
急に声をひそめた蜜花にぼくは耳をよせた。
「……図書室は?」
ぼくは首を横にふる。
「どうして!?」
なぜなら……
「そうだ、蜜花よ、わしの宿題、みてくれないか!」
ぼくが視線でいうと、橘もうんと小さくうなずいた。
「しょうがないなー! このあたしがみてあげるんだから、しっかりやってよね」
「たのもしいぞ、蜜花よ!」
さらに机をくっつけて宿題をこなしていくけど、まわりの目は少し引いてる、かな。
そりゃそうだ。
ちょっと前までぼくと橘はただのクラスメイだったわけだし、冴鬼にしたら、見た目はすごく美少年のくせにただの日本マニアみたいに見えてるだろうし。
でも、橘と冴鬼のコンビは、はたでみてるといいかも。
橘の性格はアレだけど、見た目は橘先輩ぐらいにかわいいし、冴鬼も美人な部類にはいるだろうから、ちょっとした眼福状態。
「あたし、これ説明ムリ……凌くん、わかる?」
……今、なんて……?
「……あ、うん、わかるよ。見せて」
今、まさか、名前で呼んだ?
ノートをみながら、視線だけで橘をみるけど、特にあせった様子もない。
聞き間違いかな?
「えっと、ここの公式で……わかる、冴鬼」
「なんでこんなややこしく算術をしなければならんのだ」
「ぼくもそれには同意だけど、後から後悔するからやろうね、冴鬼」
「わしはそんなに後悔しないと思うぞ」
「宿題できてからいって」
冴鬼の数学をみながら、ぼくは橘に聞く。
「橘って料理得意なの?」
「得意、とかじゃない。あっためて食べるのあきちゃったし。だから作るようになっただけ」
「すごいね!」
「そう?」
「だって自分でつくるようになったってことでしょ?」
「そりゃそうだけど、凌くんだってインスタントラーメンぐらい作れるでしょ?」
「それぐらいは……できるかな?」
追加の問題も確認しながら、ぼくはなんとなく伝えてみる。
「橘、ぼくの名前。しってたんだね」
「ん?」
「さっきから、名前で呼んでくれてるから」
ぼっと音がしたと思う。
色白の肌が一気に赤に染まっていく。
机をゆらしながら立ち上がると、廊下にどかんと飛びだしていった。
「まずいことしちゃった?」
「案ずるな。少ししたら戻ってくるだろ。それよりもここなんだが」
冴鬼はそういったけど、あれからお昼休みいっぱい、橘は教室に戻ってこなかった。
「しらないよ」
だって、銀水先生に猫のすばらしさと、とんかつのおいしさを語ったあと、お風呂に入って寝たそうで。
「冴鬼、シャーペン、貸す?」
ご想像どおり、いまだに筆ペンです。
「細かい文字が書きやすいなら貸してもらいたい」
「いいよ。これ使いなよ」
あえて冴鬼のシャーペンは濃い2Bの芯にかえてわたす。
きっと筆圧それほど高くないだろうし。
思ったとおり、つまむようにシャーペンをもって書きはじめた。
「これは書きやすいな! 助かるぞ、凌よ!」
今までにない早さで文字の書き写しをしている冴鬼だけど、まだ数学の宿題が残っている。10分休みで追い上げするも、とうとうお昼休みに。
今日の給食はカレーだ。
いつだって人気のカレーだ!
「凌よ、このドロドロしたのは?」
「カレーだよ。本当はごはんにかけて食べるものなんだけど……」
うちの給食は、ごはんは一人づつはいった保温ケースに入れられて配られる。
カレーはおわんによそわれ、皿にはキャベツの千切りと白身フライ、冷凍ゼリーが今日の給食だ。
このカレーの食べ方はさまざま。ごはんを半分にたたんで、保温ケースのなかにながす人もいるし、ひと口ずつごはんにかけて食べる人も。
「とにかく、カレーはごはんのおかずとして食べれば」
食べ方は伝えてみたけれど、冴鬼はピンとはきていないみたい。
「ぼくはね、スプーンにカレーをすくってから、ごはんをすくって食べてるよ」
ぼくの食べ方を見せると、冴鬼も真似をしる。
そっと口にはこんだ冴鬼だけど、大きなつり目が、さらに見開いた!
手が、震えてる……!
「……めちゃくちゃうまいぞ、凌よ」
小声でいった。
「どしたの、冴鬼……叫ぶかと思った」
「フジに教えてもらったのだ。美味しくても叫んではいけないと」
「偉いね、冴鬼」
「わしは170歳だ。それぐらい対応できるっ」
またいつものとおりガツガツと食べはじめた冴鬼だけど、ふと首をかしげている。
「どうしたの、冴鬼」
「この作り方が知りたい」
「じゃ、今度、いっしょにつくってみる?」
「いいのか?」
「カレーならぼくでもできる、気がするし……」
そこにススっと寄ってきたのは橘だ。
お昼時間になり、食事をおえた人から自由時間になる。
もう橘は食べおえたようだ。
「あんた、カレーもつくったことないの?」
「じゃあ、橘はあるの?」
「あったりまえじゃない。あたしは料理担当なの。カレーぐらいカンタン!」
「だって、冴鬼。じゃあ、橘に教えてもらおうよ」
「そうだな。蜜花のほうがヒマだろうし」
「ヒマってなによ!」
「橘、怒らない怒らない」
地団駄しかけた膝にぼくが手をかざすと、すっとおろした。
「じゃ、今週の日曜なんてどう?」
「午後からならぼくは行ける」
「わしは大丈夫だ」
「じゃ、お昼から集合!……それより」
急に声をひそめた蜜花にぼくは耳をよせた。
「……図書室は?」
ぼくは首を横にふる。
「どうして!?」
なぜなら……
「そうだ、蜜花よ、わしの宿題、みてくれないか!」
ぼくが視線でいうと、橘もうんと小さくうなずいた。
「しょうがないなー! このあたしがみてあげるんだから、しっかりやってよね」
「たのもしいぞ、蜜花よ!」
さらに机をくっつけて宿題をこなしていくけど、まわりの目は少し引いてる、かな。
そりゃそうだ。
ちょっと前までぼくと橘はただのクラスメイだったわけだし、冴鬼にしたら、見た目はすごく美少年のくせにただの日本マニアみたいに見えてるだろうし。
でも、橘と冴鬼のコンビは、はたでみてるといいかも。
橘の性格はアレだけど、見た目は橘先輩ぐらいにかわいいし、冴鬼も美人な部類にはいるだろうから、ちょっとした眼福状態。
「あたし、これ説明ムリ……凌くん、わかる?」
……今、なんて……?
「……あ、うん、わかるよ。見せて」
今、まさか、名前で呼んだ?
ノートをみながら、視線だけで橘をみるけど、特にあせった様子もない。
聞き間違いかな?
「えっと、ここの公式で……わかる、冴鬼」
「なんでこんなややこしく算術をしなければならんのだ」
「ぼくもそれには同意だけど、後から後悔するからやろうね、冴鬼」
「わしはそんなに後悔しないと思うぞ」
「宿題できてからいって」
冴鬼の数学をみながら、ぼくは橘に聞く。
「橘って料理得意なの?」
「得意、とかじゃない。あっためて食べるのあきちゃったし。だから作るようになっただけ」
「すごいね!」
「そう?」
「だって自分でつくるようになったってことでしょ?」
「そりゃそうだけど、凌くんだってインスタントラーメンぐらい作れるでしょ?」
「それぐらいは……できるかな?」
追加の問題も確認しながら、ぼくはなんとなく伝えてみる。
「橘、ぼくの名前。しってたんだね」
「ん?」
「さっきから、名前で呼んでくれてるから」
ぼっと音がしたと思う。
色白の肌が一気に赤に染まっていく。
机をゆらしながら立ち上がると、廊下にどかんと飛びだしていった。
「まずいことしちゃった?」
「案ずるな。少ししたら戻ってくるだろ。それよりもここなんだが」
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