2 / 115
黒い幻影
1
しおりを挟む
学園の帰り。
三宮の駅近くをブラブラと歩いていた俺は、突然ポンッと軽い調子で肩を叩かれて振り返った。其処には、ニッコリと笑顔を浮かべた同じクラスの菊池が立っていた。
「偶然じゃん、山下。こんなトコで何してんの?」
首を傾げて俺を見上げた彼女は、その仕草が自分で可愛いとでも思っているのか、甘えたような声で言った。
「――ねぇ、それより私。ちょっとノド渇いちゃったんだけど、奢ってくれない?」
「はい?」
何してんの? と訊いときながら、自分の言いたい事だけを言う。会話も何もあったモンじゃない。
「………人間レベルになってから、声かけてね」
呆れ半分に言って、背中を向ける。立ち去ろうとした俺の腕を、菊池がガシリと掴んだ。そのまま強引に引っ張って、すぐ目の前にある喫茶店のドアを開ける。
「バッカね~、あんた。そんなんじゃ女にモテないわよぉ」
人の話を見事なまでに聞いていない彼女は、憐れみ籠る声音で言ってくれた。
――いや、その台詞。そっくりそのまま返すから……。
心の中で渇いた笑いと共に切り返した瞬間、店内のウェイターが目に入って俺は動きを止めた。
――あいつだ。
勝手に早退しといて、なんでこんな所にいるんだ? と、顔を凝視する俺に、そいつは薄い微笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
奥にあるテーブル席を示すと、コップとおしぼりを持って近付いて来る。
「ご注文は?」
「私ィ、アイスティー」
見事にどう聞いても阿呆っぽいとしか言いようのない口調で言って、ふと顔を上げた菊池は「あれぇ?」と、驚いた顔をした。
「……松岡じゃーん。なんだぁ、こんなトコでバイトしてんだぁ」
今頃気付く処が、ある意味素晴らしい。松岡はと見ると、何も気にしていない様子で笑みを浮かべたままで立っている。
「そーいや、今日はオモシロかったよねぇ、あの後小山ってばさぁ――」
言った彼女を完全に無視して、松岡は俺に顔を向けた。
「お客様は?」
「え? ――あ……ああ、コーヒーを」
「かしこまりました」
ペコリと頭を下げた松岡は、そのままの姿勢でチロリと俺に視線を向けた。
「何、お前。こんなのが好みなの?」
クスリと笑った彼は、カウンターの方へと歩いて行った。
「ワン、アイスティー。ワン、ホット」
三宮の駅近くをブラブラと歩いていた俺は、突然ポンッと軽い調子で肩を叩かれて振り返った。其処には、ニッコリと笑顔を浮かべた同じクラスの菊池が立っていた。
「偶然じゃん、山下。こんなトコで何してんの?」
首を傾げて俺を見上げた彼女は、その仕草が自分で可愛いとでも思っているのか、甘えたような声で言った。
「――ねぇ、それより私。ちょっとノド渇いちゃったんだけど、奢ってくれない?」
「はい?」
何してんの? と訊いときながら、自分の言いたい事だけを言う。会話も何もあったモンじゃない。
「………人間レベルになってから、声かけてね」
呆れ半分に言って、背中を向ける。立ち去ろうとした俺の腕を、菊池がガシリと掴んだ。そのまま強引に引っ張って、すぐ目の前にある喫茶店のドアを開ける。
「バッカね~、あんた。そんなんじゃ女にモテないわよぉ」
人の話を見事なまでに聞いていない彼女は、憐れみ籠る声音で言ってくれた。
――いや、その台詞。そっくりそのまま返すから……。
心の中で渇いた笑いと共に切り返した瞬間、店内のウェイターが目に入って俺は動きを止めた。
――あいつだ。
勝手に早退しといて、なんでこんな所にいるんだ? と、顔を凝視する俺に、そいつは薄い微笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
奥にあるテーブル席を示すと、コップとおしぼりを持って近付いて来る。
「ご注文は?」
「私ィ、アイスティー」
見事にどう聞いても阿呆っぽいとしか言いようのない口調で言って、ふと顔を上げた菊池は「あれぇ?」と、驚いた顔をした。
「……松岡じゃーん。なんだぁ、こんなトコでバイトしてんだぁ」
今頃気付く処が、ある意味素晴らしい。松岡はと見ると、何も気にしていない様子で笑みを浮かべたままで立っている。
「そーいや、今日はオモシロかったよねぇ、あの後小山ってばさぁ――」
言った彼女を完全に無視して、松岡は俺に顔を向けた。
「お客様は?」
「え? ――あ……ああ、コーヒーを」
「かしこまりました」
ペコリと頭を下げた松岡は、そのままの姿勢でチロリと俺に視線を向けた。
「何、お前。こんなのが好みなの?」
クスリと笑った彼は、カウンターの方へと歩いて行った。
「ワン、アイスティー。ワン、ホット」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる