ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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 中年の客をドアまで見送った依羅さんは、カウンター内に戻ると新田に頭を下げた。

「申し訳ない。思ったより、話が長引いてね。友也、上のカップを下げて来てくれないか」

「あ、俺が」

 立ち上がった松岡を、依羅さんが手を上げて制した。

「いいんだ、友也に任せよう。後、子羊ラムが持ち込んだ紙切れが残ってるから、それも持って下りて来てくれ。……それで、相談事との事だが、他人に聞かれてはマズい事かな? それならば、場所を二階に移動するが?」

「あ、いえ。――あの僕、新田博之と言います」

 子羊ラムを迎えた時独特の空気と、依羅さんの威圧的な雰囲気。

 肩を縮め緊張した面持ちの新田に、依羅さんの目が細められた。

「………まあ、焦らずゆっくりと聞こうか」

 のんびりと言った依羅さんは、後ろからカップを一つ取り出してコーヒーを注いだ。

「ああ、今日のは中々上手く出来ているな。友也の自慢のコーヒーだ。飲んでやってくれ」

 コーヒーを口に運びながら新田を見下ろした依羅さんは、一段高くなっているカウンターに両肘をついた。

「此処の名前。『ストレイ・ラム』の意味を知ってる?」

 肘をついた片方の手で顎を支えながら、軽い調子で訊いてくる。

「え? あ、はい。『迷える子羊』の意味ですよね」

 新田の答えに、微笑んで小さく頷く。

「此処に相談に来る人達を『子羊ラム』と呼ぶと、さっき聞きました」

「そう。だが『迷える子羊ストレイ・ラム』ってのは、別に相談に来るお客の事を指すんじゃないんだ。私や友也、それに保。皆の事を指すんだよ。つまりだね、羊ってのは群れを成さなくては生きていけないだろう? それと同様に、私達は独りでは生きていけない。此処はね、そんな独りでは生きていけない、迷ってしまった子羊達が集まって、悩み事や辛い事なんかを仲間に話していく、そういう所なんだよ」

「へぇぇ」

 新田の隣で、松岡が感心した声をあげた。

「知らなかっただろう? 保」

「ああ。俺、『迷える子羊ストレイ・ラム』の悩み事を、依羅さんが解決してやるって意味だと思ってた」

「違うよ。私自身が『ストレイ・ラム』なんだから。あれはお客が指名してるんだよ。『迷える子羊を呼んでくれ。仲間が来た』ってね」
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