ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
87 / 115
呪いの鎧武者

26

しおりを挟む
 例によって喫茶店『ストレイ・ラム』に戻るまで詳細を話す事を拒んだ松岡は、いつも以上に苦痛としか言いようのない態度で一日を過ごしていた。

 その帰り道、自分から他愛もない話題を振ってきた松岡は、急に黙り込んだかと思うと、おもむろに人差し指を唇にあてて聞き耳をたてた。目線で微かに後ろを示す。

 彼が気にとめたのは、どうやら後ろを歩く二年の女生徒二人の会話らしかった。眉を寄せた俺の耳にも「高科」という名が、微かに届いた。

 歩調を怪しまれない程度に落とした俺達は、二人とも押し黙って耳に神経を集中させた。

 その内容を要約すると、高科先輩はあの後、突然貧血を起こし病院へと運ばれたとの事だった。そういえば最近顔色が悪かったとか、食欲がないようだったとか、色々な事を言い合っている。

 肘で俺を小突いた松岡は「行くぞ」と顎をしゃくり、再び足を速めた。

 『ストレイ・ラム』に着くと、店内には大学生らしい二人の男の客と、珍しくカウンター席ではなくテーブル席に一人ポツンと腰掛けた綾香がいた。俺達に視線を投げた綾香は、すぐに視線を窓の外へと戻してしまった。その目が赤く、腫れ上がっている。

「どうだった? 佐藤の様子は」

 綾香には聞こえないように、カウンター越しに身を乗り出した松岡が友也さんと依羅さんに訊く。

「頭をかなり強く打ったようだ。――意識が戻らない」

 暗い顔で囁いた友也さんが、心配そうに綾香を見つめた。どうやら学校もサボッたらしく、私服のままでいる。

「こうして外を行き交う人達の顔を見てると、悲しいのは私だけじゃないって思うね」

 震える声で呟いた綾香は、眉根にきつく皺を寄せ肩を震わせた。

 盆に花柄のカップを乗せた友也さんは、持って行こうとする松岡を止めて、自ら綾香のテーブルへと運んで行った。

「でも由美のように、あんな痛い思いをした人って少ないよね、たぶん」

「綾香、大丈夫だよ。――お前の好きなジャスミンティーを淹れたから、飲みなさい」

 カチャリと綾香の前にカップを置く。綾香は窓から目を離さず気のない声で訊いた。

「誰が、淹れてくれたの?」

「私だよ」

 静かに答えた友也さんに、バッと綾香が振り返る。

「どー……して? お兄ちゃん……! ど……して、今日は、そんな……やさし……の……」

 しゃくり上げだした綾香の額に、そっと友也さんが指先で触れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...