107 / 115
呪いの鎧武者
46
しおりを挟む
「何処行ってたんだ?」
声をかけた俺を無視して再び部屋を歩き出した松岡は、突然しゃがみ込んだ。
「きったねぇ床だなぁ。でも、それが有難いんだがな……。資料室になったのは、ここ数年ってとこか」
膝をついて這うように歩き出した松岡は、所々で止まっては床をさすった。
「ほう、此処に理事長の机があったんだな。此処は――ソファに……。此処にサイドボードがあって……。なるほどね」
ガバッと勢いよく立ち上がった松岡は、パタパタとズボンの膝を掃った。こちらを振り返った顔には、あのいつもの笑みが浮かんでいる。
「判ったのか?」
「ああ。判った」
「何処にあるんだ? 宝」
「まあ、そう焦るな。お宝を見ようと思ったら、それなりの働きをしてもらわなきゃいけないぜ」
「働き?」
「ああ。まずは……そうだな」
顎に手をあてた松岡は、突き当たりにある四つの書棚の前に立った。
「この書棚の本を、全て抜き出してもらおうか」
向かって一番左端にある書棚を叩きながら言う。
「はぁ? なんで?」
「お宝を、見たいんだろう?」
眉をそびやかした松岡は、それ以上は教えてくれるつもりはない様子で、そっぽを向いた。
「やりゃ、いんだろ。やりゃあ」
一番上の段は、背伸びをしなければ届かない。其処に置かれた本をこまめに取り出して床に積み上げていく俺に、松岡が後ろから声をかけた。
「ああ、床に置くなら場所をずらしてくれ。書棚の前はマズい」
言われた通り本をずらした俺は、ドアに凭れるようにして立つ松岡をチロリと眇めた目で見遣った。
「ところで――なんで、俺一人でやってるワケ?」
「それはだな」
コホンと咳払いした松岡が、人差し指を振りながら諭すように言った。
「いいかい、山下君。――ああ、手は動かしたまま耳だけで聞いてくれ。登山の時と同じだよ。登る時はとてつもなくしんどい。しかし自分の足で登りきった時、言葉には出来ない程の『感動』が待っているんだ。乗り物を使ったりした時には、決して得られない感動がね。俺はね、君にその感動をお譲りしようかと、思っているのだよ」
「別にいい。俺、登山嫌いだし」
肩を竦めてみせた松岡は、それでも背中を剥がしてはくれなかった。
「出したぞ、全部」
俺の声に歩み寄って来た松岡は、「よいしょ」とカラの書棚を引っ張り出した。そしてその後ろに入り込み、壁をさすった。
声をかけた俺を無視して再び部屋を歩き出した松岡は、突然しゃがみ込んだ。
「きったねぇ床だなぁ。でも、それが有難いんだがな……。資料室になったのは、ここ数年ってとこか」
膝をついて這うように歩き出した松岡は、所々で止まっては床をさすった。
「ほう、此処に理事長の机があったんだな。此処は――ソファに……。此処にサイドボードがあって……。なるほどね」
ガバッと勢いよく立ち上がった松岡は、パタパタとズボンの膝を掃った。こちらを振り返った顔には、あのいつもの笑みが浮かんでいる。
「判ったのか?」
「ああ。判った」
「何処にあるんだ? 宝」
「まあ、そう焦るな。お宝を見ようと思ったら、それなりの働きをしてもらわなきゃいけないぜ」
「働き?」
「ああ。まずは……そうだな」
顎に手をあてた松岡は、突き当たりにある四つの書棚の前に立った。
「この書棚の本を、全て抜き出してもらおうか」
向かって一番左端にある書棚を叩きながら言う。
「はぁ? なんで?」
「お宝を、見たいんだろう?」
眉をそびやかした松岡は、それ以上は教えてくれるつもりはない様子で、そっぽを向いた。
「やりゃ、いんだろ。やりゃあ」
一番上の段は、背伸びをしなければ届かない。其処に置かれた本をこまめに取り出して床に積み上げていく俺に、松岡が後ろから声をかけた。
「ああ、床に置くなら場所をずらしてくれ。書棚の前はマズい」
言われた通り本をずらした俺は、ドアに凭れるようにして立つ松岡をチロリと眇めた目で見遣った。
「ところで――なんで、俺一人でやってるワケ?」
「それはだな」
コホンと咳払いした松岡が、人差し指を振りながら諭すように言った。
「いいかい、山下君。――ああ、手は動かしたまま耳だけで聞いてくれ。登山の時と同じだよ。登る時はとてつもなくしんどい。しかし自分の足で登りきった時、言葉には出来ない程の『感動』が待っているんだ。乗り物を使ったりした時には、決して得られない感動がね。俺はね、君にその感動をお譲りしようかと、思っているのだよ」
「別にいい。俺、登山嫌いだし」
肩を竦めてみせた松岡は、それでも背中を剥がしてはくれなかった。
「出したぞ、全部」
俺の声に歩み寄って来た松岡は、「よいしょ」とカラの書棚を引っ張り出した。そしてその後ろに入り込み、壁をさすった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる