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碧の癒し

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「彼女の部屋、恋人のいる痕跡が何も無かったって言ってたよね。周りも何も知らないって。それはね、彼女がその存在を隠していたからなんだ。――ねぇ、高橋。年頃の女性が恋人の存在を徹底的に隠さないといけない理由って、なんだと思う?」

「あぁ? ん……と。『不倫』かッ!」

 よくあるテレビドラマの設定を思い浮かべ、叫んだ彬に隆哉が小さく頷く。

「短絡的だけど、そうだろうね。彼女の徹底ぶりからすると、それも身近な人物だ」

「身近な人物? 誰だ?」

「会社の上司、もしくは同僚。――たぶんね」

「ちょっと待て。じゃあ、あいつは不倫相手から貰った指輪を嵌めて自殺して、それをまたその相手に奪われちまったって事か? んで、それを悲観してずっと泣いていると。そーいう事なんだな?」

 最後の方は唸るように言った彬が、確認するように鋭い視線を向ける。首に両手を添えた隆哉は立ち止まり、目を閉じた。そして「間違いない」と頷いてみせる。

「じゃあさ、あのバカ刑事に調べてもらえばいいじゃん。すぐ見つかんだろ」

「駄目だね。そんな事をしたら――」
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