BUTTERFLY CODE

Tocollon

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「ねえ、これから何処に行くの?」
   クレープを片手に訊ねる美雪。ユッコを挟む様に後部座席へ座る2人。
「食べないの?ユッコ」
   クレープを口にしない、ユッコを見てレイナが心配する。
「…いらない」
   俯くユッコ。美味しい気持ちで食べないと美味しくない。ママがいた時と今じゃ、同じゴハンでも味、違うもん…。
「ユッコ…隠しても仕方無いので正直に言う。これからママのところに行くよ」
   いたたまれない表情で深町が言うと、俯いていたユッコはショックを受けた表情で、バックミラー越しに父と目を合わせた。目を合わせるのがやっと、という父の表情が見えた。
「食べて…」
   右隣のレイナにクレープを差し出すユッコ。
「えでも…」
   当惑するレイナにユッコは昏い声で言い切った。
「いらない、本当に」
   深町は娘の顔を見れなかった。済まない、優子…だが仕方ないんだ。そうだろ、沙由里?
   戸惑う美雪とレイナ。
「ユッコ、どうしたのかな…お母さんとケンカでもしてるのかな?」
   レイナにコッソリと話す美雪。ジッとユッコを見るレイナ…こんなに塞ぎ込むユッコ、初めてかも。レイナが訊ねた。
「ユッコ、何かあった?」
   鉛のような表情で黙り込むユッコ。当惑するレイナ。
「ユッコ…」
   そう呟くと心配そうにユッコを見つめる美雪。
   車からアナウンスが流れた。
『トランスポーテーション・ネットワークに接続します。必ずシートベルトの着用、安全装置の起動を確認して下さい』
   バンパーにある装置からライトグリーンの光が空へ向かい伸びる。
「空中操車可動域に入る。シートベルトは大丈夫だね、飛ぶよ?」
   光の筋に乗り、飛翔する車…負荷を感じると高度はみるみる上がり目に映る地上の街が小さくなってゆく。
-最愛の娘も、妻も、私のものではない。
   自動停車する車の前を通り過ぎる、別の車。昏く俯く優子を心配そうに見る後部座席の2人。
「そ、空飛ぶの久しぶり~♪ウチのお父さん高所恐怖症なんだもん」
   はしゃいで見せる美雪。レイナが訊ねる。
「おじさま、遠いの?」
   思い詰めた表情の深町。
-家族が自分のものでは無い?そんなのは当たり前だ。本人の人生は本人のもの…だが、それすら出来ない者もいるんだ。優子や沙由里のように…私は、無力だ。
「お、じ、さ、ま!」
   両手を口に添えて、声を大にするレイナにギクッとする深町。
「あ、ああ、何処に行くかだったね?」
   深町は空を見据えて言った。
「第9新都心だ」
   美雪とレイナは顔を見合わせた。レイナが言う。
「だって、おじさま。あそこはQCCから立入禁止区域に…」
「重力制御が不安定とか…開発途中なんでしょ?」
   美雪が深町へ訊ねた。
「…そうでは無い。あそこには1部の関係者は入れる。君達も関係者では無いが入れるんだ」
   美雪とレイナは怪訝な表情を浮かべた。ユッコは俯いて黙っている。
「ユッコ、何か知ってるの?」
   レイナは訊いたが、ユッコは黙って俯いたままだ。
「おじさん、わからないよ。ちゃんと説明して」
   不安と怒りが入り混じった口調で、美雪が言った。
「ねえ、おじさん!」
   前席にいる深町の肩を掴む美雪。
「ちょっと美雪、落ち着いて」
   窘めるレイナに美雪が叫んだ。
「落ち着けないよ!」
   静まり返る車内。美雪が続けた。
「ねえ、覚えてるでしょ?2ヶ月半くらい前、ユッコ、珍しく学校2日続けて休んでさ…学校、来たと思って話しかけても今みたいに黙ったままで…」
   ハッとするレイナ。そう言えば後になってユッコが1言だけ、教えてくれた。
"お空に、行ったの"
「…3人だけになって訊いてみたら突然、大泣きしだして…聞いても聞いても何も答えてくれなくて…大声で、ずっとずっと泣いててさ…私、あんなユッコ見たことなくて…」
   美雪がシクシクと泣き始める。
「前に私が野良犬に襲われて、ユッコが棒で追い払って守ってくれた時、ユッコ脇腹噛まれて7針も縫う怪我したのに、半泣きもしなかったんだよ⁉︎…ユッコにあんな思いさせたのがおじさんなら私、おじさんを絶対に許さない!」
   娘の傷を深町は今、理解した。犬に噛まれたとしか言わなかった優子を当時、ひどく心配したものだ。
「優子…」
   バックミラー越しに娘を見て呟く、深町を察してレイナが言う。
「おじさま。私、憧れているのよ?ユッコママに。私のお母様も素敵ですけど、若くて綺麗で優しくて、何より女性としての芯の強さに憧れるわ…ユッコが怪我した時も、きっと強く問い詰めたのでしょうけど、何も言わないユッコを最後は認めたと思うわ」
   俯いて苦笑いする深町。
「確かにそうだったと思うよ…わかった、全てを話そう。美雪君、済まなかった。ユッコを大切に想ってくれてありがとう。レイナ君、君は賢いな。非礼を詫びるよ。子供には覚悟出来ないと思っていたが、どうやら違うようだ…ユッコ。本当に済まない。全ては私の責任だ。どう思われようと言い訳しない。あと…いい友達を持ったね。私は嬉しいよ」
「…かい」
   話しかける深町にユッコが何か言った。
「…ん?」
「ユッコ?」
「…喋った?」
   深町、レイナ、美雪が順に言う。
「誘拐だよ!パパ」
   ユッコは深町を指差して大声で言った。
「3人の子供を理由も教えずに乗せて!これは、ゆーかい!」
   元気に喚くユッコ。美雪とレイナが嬉しそうに乗じる。
「あ~!ホントだ」
「全てを話さなかったら110番しますね」
   真顔で深町を見据えて、携帯を構えるレイナ。
「だから、これから話すって。冗談はやめてくれ、私は警官だよ、それにユッコ、おまえは私の娘じゃないか…!」
   車内の喧騒とは対照的に、静かな黄昏時の陽光が照らす空を流れる車は東京中央新都心上空エリアへ入ろうとしていた。
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