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噂の魔剣士 4
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サクラは目を閉じ「ふぅー」と息を吐く。
ライセが見せてくれたのは、基礎知識の指南書にある最終課程にあたる。15項目ある基礎の型を一連の流れで行うというものだ。
正直、今のサクラには荷が重い。ひとつひとつの型でさえままならないのだから仕方がない。それでも心の中が熱い今このときに、一度試しておきたかった。
サクラは木刀を構えると、カッと目を見開き気合いを入れた。
淀みなく木刀が閃く。見事な演武であった。
「でき、た?」
やった本人が驚く。
「出来た!」
満面の笑みでサクラがライセの胸元に飛び込んできた。思わずライセも両腕をひらく。が、当然スカッと通り抜ける。
ふたりは咄嗟に振り返るとお互いの瞳が合った。
「ちょっと、舞い上がっちゃった」
サクラは照れくさそうに頭を掻くと、顔を真っ赤にして笑った。
ライセは笑って応えるが、直ぐに真剣な眼差しに変わった。
(なんだ、今何を見せられた?)
ライセの衝撃は計り知れない。自分で見たものが、信じられない。
「サクラ、もう一度見せてくれないか?」
「え、いいけど?」
ライセのどこか真剣な声に、サクラは少したじろいだ。
ライセはサクラに指南書の8個目の型をひとつだけ適当にリクエストした。サクラは本を確認すると、事もなくサッと披露する。
「見た?完璧!」
サクラはニッと笑った。その後で「あれ?」と首を傾げた。
「細かいとこが、ちょっと違うような…」
「指南書通りに修正出来るか?」
ライセの言葉にサクラは本をしっかり確認し頭の中でイメージする。そして自信満々で披露するが、途端にぎこちなくなる。お粗末な演武だ。
「あれ、おかしいな?」
サクラは戸惑う。
(あれは、俺の太刀筋だ)
ライセは確信した。
サクラに手本として見せた演武だが、出来るだけ癖のないように注意して披露したつもりである。しかしさすがに、慣れ親しんだ自分の業を完全に隠しきることは出来なかったのだ。
サクラの演武はライセの太刀筋を寸分違わず完璧になぞる。呑み込みが早いなんてレベルではない。あえて言葉にするなら、模倣である。
「模倣」
サクラの個人スキルと言っても過言ではない。とはいえ、普通の人生を全うしていれば、開花し得なかった才能である。
ライセという存在と出会い、自分の体を貸し与えるという超特殊な状況が、彼女の才能を開花させたのである。
恩恵はそれだけではない。ライセの剣技がさらに拍車をかける。
おそらく、この世界でも随一の実力を誇るライセの剣技を「模倣」出来るのである。全ての剣士が必ず辿る鍛練と言う名の業の追求を、時間を無視して一足飛びに追い越すのだ。
まさしく「チート」である。
弱点という程のものではないが、サクラ自身に剣の才能がないためライセを追い越すことは絶対に出来ない。そのため、ライセより強い存在にサクラは絶対に勝てないのだ。
「マジかよ…」
ライセは冷や汗をかいた。剣士として、サクラの才能の開花に喜んで良いのか複雑な心境なのである。
「稽古はここまでにしないか?」
ライセは提案した。ライセ自身にも、頭を整理して思案をする時間が必要であった。
***
「サクラは境界軍てのを目指してるんだよな?」
しばらく部屋の隅に座り込み、思案に耽ていたライセが口を開いた。
「あ、うん」
急に何事かとも思ったが、サクラは肯定した。
「軍の拠点とか、何かそういう施設とかがあれば案内してくれないか?」
「別にいいけど、急にどうしたの?」
「サクラの目指しているものを、俺も一度見てみたいと思って」
ライセの言葉に、サクラは少し照れたように笑うと「いいよ」と頷いた。
おそらくだが、サクラはこのまま一人で稽古を続けるより、いきなり実戦に飛び込んだほうが、体が自然と動くはずだ。
夜な夜な暴走を繰り返していたこの数日の経験が、サクラの中に蓄積されている。相手と対峙したときのサクラの反応を確認する必要があった。
その相手に境界軍を選んだのは、目指すものに対するサクラのレベルを測るためでもある。
ふと気付くと、サクラがこちらを睨んできていた。
「なに?」
ライセはたじろいだ。サクラは腰に手を当てると、強い口調で言った。
「着替えるから、部屋から出てって!」
ライセが見せてくれたのは、基礎知識の指南書にある最終課程にあたる。15項目ある基礎の型を一連の流れで行うというものだ。
正直、今のサクラには荷が重い。ひとつひとつの型でさえままならないのだから仕方がない。それでも心の中が熱い今このときに、一度試しておきたかった。
サクラは木刀を構えると、カッと目を見開き気合いを入れた。
淀みなく木刀が閃く。見事な演武であった。
「でき、た?」
やった本人が驚く。
「出来た!」
満面の笑みでサクラがライセの胸元に飛び込んできた。思わずライセも両腕をひらく。が、当然スカッと通り抜ける。
ふたりは咄嗟に振り返るとお互いの瞳が合った。
「ちょっと、舞い上がっちゃった」
サクラは照れくさそうに頭を掻くと、顔を真っ赤にして笑った。
ライセは笑って応えるが、直ぐに真剣な眼差しに変わった。
(なんだ、今何を見せられた?)
ライセの衝撃は計り知れない。自分で見たものが、信じられない。
「サクラ、もう一度見せてくれないか?」
「え、いいけど?」
ライセのどこか真剣な声に、サクラは少したじろいだ。
ライセはサクラに指南書の8個目の型をひとつだけ適当にリクエストした。サクラは本を確認すると、事もなくサッと披露する。
「見た?完璧!」
サクラはニッと笑った。その後で「あれ?」と首を傾げた。
「細かいとこが、ちょっと違うような…」
「指南書通りに修正出来るか?」
ライセの言葉にサクラは本をしっかり確認し頭の中でイメージする。そして自信満々で披露するが、途端にぎこちなくなる。お粗末な演武だ。
「あれ、おかしいな?」
サクラは戸惑う。
(あれは、俺の太刀筋だ)
ライセは確信した。
サクラに手本として見せた演武だが、出来るだけ癖のないように注意して披露したつもりである。しかしさすがに、慣れ親しんだ自分の業を完全に隠しきることは出来なかったのだ。
サクラの演武はライセの太刀筋を寸分違わず完璧になぞる。呑み込みが早いなんてレベルではない。あえて言葉にするなら、模倣である。
「模倣」
サクラの個人スキルと言っても過言ではない。とはいえ、普通の人生を全うしていれば、開花し得なかった才能である。
ライセという存在と出会い、自分の体を貸し与えるという超特殊な状況が、彼女の才能を開花させたのである。
恩恵はそれだけではない。ライセの剣技がさらに拍車をかける。
おそらく、この世界でも随一の実力を誇るライセの剣技を「模倣」出来るのである。全ての剣士が必ず辿る鍛練と言う名の業の追求を、時間を無視して一足飛びに追い越すのだ。
まさしく「チート」である。
弱点という程のものではないが、サクラ自身に剣の才能がないためライセを追い越すことは絶対に出来ない。そのため、ライセより強い存在にサクラは絶対に勝てないのだ。
「マジかよ…」
ライセは冷や汗をかいた。剣士として、サクラの才能の開花に喜んで良いのか複雑な心境なのである。
「稽古はここまでにしないか?」
ライセは提案した。ライセ自身にも、頭を整理して思案をする時間が必要であった。
***
「サクラは境界軍てのを目指してるんだよな?」
しばらく部屋の隅に座り込み、思案に耽ていたライセが口を開いた。
「あ、うん」
急に何事かとも思ったが、サクラは肯定した。
「軍の拠点とか、何かそういう施設とかがあれば案内してくれないか?」
「別にいいけど、急にどうしたの?」
「サクラの目指しているものを、俺も一度見てみたいと思って」
ライセの言葉に、サクラは少し照れたように笑うと「いいよ」と頷いた。
おそらくだが、サクラはこのまま一人で稽古を続けるより、いきなり実戦に飛び込んだほうが、体が自然と動くはずだ。
夜な夜な暴走を繰り返していたこの数日の経験が、サクラの中に蓄積されている。相手と対峙したときのサクラの反応を確認する必要があった。
その相手に境界軍を選んだのは、目指すものに対するサクラのレベルを測るためでもある。
ふと気付くと、サクラがこちらを睨んできていた。
「なに?」
ライセはたじろいだ。サクラは腰に手を当てると、強い口調で言った。
「着替えるから、部屋から出てって!」
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