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捨て勇者拾いました
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「ねぇねぇお父さん、アレ飼ってもいーい?」
「何だい愛しのサターニャちゃ…すっ捨て勇者、だと!?」
嘆きの平原で人の軍勢を返り討ちにした帰り道、薄暗い森の中で魔王はおののいた。
金髪の子どもが籠に入れられて捨てられている。そのステータスには、『勇者』と明記されていた。
「な、何故こんなところに勇者が…?」
「ねぇねぇいいでしょう? ちゃんと自分で育てるからー」
「だけど、この子勇者だよー? お父さんの敵になる子どもだよー?」
「サーニャ勇者分かんない! 飼ってくれなきゃお父さんの事キライになるから!」
「ちょ…ちょーっと待ってね、サターニャちゃん、お父さんに考える時間を貰えるかなー?」
しかし娘を溺愛するこの魔王が、娘のお願いを拒む事など出来る筈がなかった。
~~~
「ガハハ、拾いおった拾いおった」
水晶玉の映像を覗きながら、人の国王が愉しそうに笑った。その対面には、黒いローブの老婆が水晶玉に念を送っている。
「己の脅威となる存在を自身の戦力として育てる、何とも浅はかで分かり易い考え方か! オババもそう思わんか?」
「そうでごぜーますね」
「しかし奇跡の日に生を受けた勇者は全部で四人、その中であの子のステータスは最弱。精々今のうちに甘い夢でも見てるが良い」
そうして人の国王の高らかな笑い声が、狭い室内に響き渡った。
~~~
あれから15年、拾われた赤児は「ユシャン」と名付けられ、見目麗しい青年へと育っていた。
強力な炎から繰り出される数々の技にいつしか魔王軍の精鋭たちも舌を巻き、今では「炎の貴公子」と呼ばれていた。
そして今日も、
「はいよサーニャ、一丁あがり!」
「おお、流石ユシャン、見事な手際だのう」
「ああ、任せてくれ。俺はコイツひとつで、キミのどんな期待にも応えてみせる」
そうして握りしめる一振りの…中華鍋。
「すみません、ユシャンさまー! オーダーが次々に入ってきて…っ」
そのとき厨房から悲鳴のような声が聞こえてくる。
「直ぐに行く。それじゃサーニャ、気を付けろよ」
「心配するでない。夕食までには必ず戻る」
そう言ってサターニャは、お重のような弁当箱をギュッと胸に抱き寄せた。
~~~
「何故だ、何故勝てん⁉︎」
人の国王が、荒れた様子でグラスを投げ捨てる。
「魔王軍全体に、加護のようなものがかかっておりますじゃ」
玉座の後ろに控えていた老婆が、ボソリと呟いた。
「加護…だと?」
「戦意高揚に害意軽減、これにより敵の攻撃力は上がり、我らの攻撃は効き難くなっておりますじゃ」
「魔族にそれ程の使い手が現れたのか…?」
「戦場で、それらしい存在は確認出来ておりませぬじゃ」
「だがコチラには、強力な勇者が三人も居るのだぞ。少々の加護があろうと、たかだか魔族の軍勢など取るに足らぬ筈だ」
「魔王の娘が、手に負えぬのじゃ」
「魔王の…娘?」
「身体強化に害意無効、神々の加護に匹敵する加護を受けておりますじゃ」
「神々の加護だと⁉︎ 何故魔族がその様なものを受けられるっ⁉︎」
「分かりませぬじゃ」
「それに奴等は、何故勇者を前線に出して来ん? 自慢の勇者を更に強力な我らの勇者で倒し、敵の士気を挫くという作戦が進まんではないかっ!」
「それも、分かりませぬじゃ」
「一体、何が、どうなっておるのだーっ!」
~~~
「ユシャン、戻ったぞ」
サターニャは魔王城に戻ると、毎日いの一番に厨房に顔を出す。
「おかえり、サーニャ。どこも怪我はないか?」
「当たり前だ。私が人間如きに傷など負うものか」
「でも人間には、勇者って強い奴が居るとも聞くからな。心配くらいはさせてくれよ」
「そ、そうか、でも心配ない。勇者ならここに…いや何でもない。心配するのは構わんが、夕食に響かせてくれるなよ。私の楽しみが減ってしまう」
「それこそ心配いらない。俺がキミの舌を裏切った事など無いだろう?」
「それもそうだな…では」
そこでサターニャは、一度コホンと咳払いを入れる。
「私は腹が減ったぞ、直ぐに用意をしてくれ」
「仰せのままに、お姫さま」
ユシャンはニッと微笑むと、大仰な態度で深々と頭を下げた。
「何だい愛しのサターニャちゃ…すっ捨て勇者、だと!?」
嘆きの平原で人の軍勢を返り討ちにした帰り道、薄暗い森の中で魔王はおののいた。
金髪の子どもが籠に入れられて捨てられている。そのステータスには、『勇者』と明記されていた。
「な、何故こんなところに勇者が…?」
「ねぇねぇいいでしょう? ちゃんと自分で育てるからー」
「だけど、この子勇者だよー? お父さんの敵になる子どもだよー?」
「サーニャ勇者分かんない! 飼ってくれなきゃお父さんの事キライになるから!」
「ちょ…ちょーっと待ってね、サターニャちゃん、お父さんに考える時間を貰えるかなー?」
しかし娘を溺愛するこの魔王が、娘のお願いを拒む事など出来る筈がなかった。
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「ガハハ、拾いおった拾いおった」
水晶玉の映像を覗きながら、人の国王が愉しそうに笑った。その対面には、黒いローブの老婆が水晶玉に念を送っている。
「己の脅威となる存在を自身の戦力として育てる、何とも浅はかで分かり易い考え方か! オババもそう思わんか?」
「そうでごぜーますね」
「しかし奇跡の日に生を受けた勇者は全部で四人、その中であの子のステータスは最弱。精々今のうちに甘い夢でも見てるが良い」
そうして人の国王の高らかな笑い声が、狭い室内に響き渡った。
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あれから15年、拾われた赤児は「ユシャン」と名付けられ、見目麗しい青年へと育っていた。
強力な炎から繰り出される数々の技にいつしか魔王軍の精鋭たちも舌を巻き、今では「炎の貴公子」と呼ばれていた。
そして今日も、
「はいよサーニャ、一丁あがり!」
「おお、流石ユシャン、見事な手際だのう」
「ああ、任せてくれ。俺はコイツひとつで、キミのどんな期待にも応えてみせる」
そうして握りしめる一振りの…中華鍋。
「すみません、ユシャンさまー! オーダーが次々に入ってきて…っ」
そのとき厨房から悲鳴のような声が聞こえてくる。
「直ぐに行く。それじゃサーニャ、気を付けろよ」
「心配するでない。夕食までには必ず戻る」
そう言ってサターニャは、お重のような弁当箱をギュッと胸に抱き寄せた。
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「何故だ、何故勝てん⁉︎」
人の国王が、荒れた様子でグラスを投げ捨てる。
「魔王軍全体に、加護のようなものがかかっておりますじゃ」
玉座の後ろに控えていた老婆が、ボソリと呟いた。
「加護…だと?」
「戦意高揚に害意軽減、これにより敵の攻撃力は上がり、我らの攻撃は効き難くなっておりますじゃ」
「魔族にそれ程の使い手が現れたのか…?」
「戦場で、それらしい存在は確認出来ておりませぬじゃ」
「だがコチラには、強力な勇者が三人も居るのだぞ。少々の加護があろうと、たかだか魔族の軍勢など取るに足らぬ筈だ」
「魔王の娘が、手に負えぬのじゃ」
「魔王の…娘?」
「身体強化に害意無効、神々の加護に匹敵する加護を受けておりますじゃ」
「神々の加護だと⁉︎ 何故魔族がその様なものを受けられるっ⁉︎」
「分かりませぬじゃ」
「それに奴等は、何故勇者を前線に出して来ん? 自慢の勇者を更に強力な我らの勇者で倒し、敵の士気を挫くという作戦が進まんではないかっ!」
「それも、分かりませぬじゃ」
「一体、何が、どうなっておるのだーっ!」
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「ユシャン、戻ったぞ」
サターニャは魔王城に戻ると、毎日いの一番に厨房に顔を出す。
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「当たり前だ。私が人間如きに傷など負うものか」
「でも人間には、勇者って強い奴が居るとも聞くからな。心配くらいはさせてくれよ」
「そ、そうか、でも心配ない。勇者ならここに…いや何でもない。心配するのは構わんが、夕食に響かせてくれるなよ。私の楽しみが減ってしまう」
「それこそ心配いらない。俺がキミの舌を裏切った事など無いだろう?」
「それもそうだな…では」
そこでサターニャは、一度コホンと咳払いを入れる。
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「仰せのままに、お姫さま」
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