上 下
22 / 31

22 お祭り騒ぎ

しおりを挟む
「はー、こりゃスゲーな」

 宝来尊ほうらいみことは、そびえ立つ暗黒城を見上げながら感嘆の息を漏らした。

 二等辺三角形を彷彿とさせる堂々とした外観。思うに、十五階建てのマンションと同じくらいの高さはありそうだ。そして所々に突き出して建つ円柱形の塔。その最上階には、綺麗なお姫様でも囚われているのかもしれない。

「我が主人あるじ殿の居城など、この中庭にスッポリと収まってしまいそうだの」

 そう言って大笑いするホシワリだが、シラネの鋭い視線に射抜かれ「へいへい」と口を閉じる。

「こんな、お祭り騒ぎなんだ」

 宝来尊は中庭の光景を眺めながら素直な感想を述べた。周囲には屋台が並び、沢山の多種多様な魔族で賑わっている。

 その声を受けて、横に立っていたシラネが宝来尊を見上げながら口を開いた。

「主催側は自軍を誇示する絶好の機会となりますので、大抵の場合はこの様な感じになりますね。そしてその結果、引き抜く人員以外にも、人員の異動が発生したりもします」

「へーなるほど」

「おい小僧、こっちに来てみろ」

 そのとき離れた所から、ホシワリの大きな声が聞こえてきた。声を頼りに宝来尊がその場所にたどり着くと、そこには三十メートル程の一本の真っ黒な綱があった。

「もしかして、これが…?」

「ああ、綱引き用の綱だ」

 ホシワリが、宝来尊を見上げてニヤリと笑う。

「我らの黒綱には全く及ばんが、そこそこ悪くない黒綱のようだの」

「綱に良いとか悪いとかあるのか?」

「ああ、あるぞ。この黒綱は魔王が魔力を込めて作る物だからな。勝負が拮抗して、万が一綱が切れてしまった場合は主催側の負けだ。その程度の黒綱しか用意出来なかったという事だからな」

「なるほど」

「心配せずとも、我らの黒綱は絶対切れんぞ。あの先先代が作った物だからな」

「な…なるほど」

 大声で「ガハハ」と笑うホシワリに、宝来尊は曖昧な苦笑いで応えた。

「ミコトさま、そろそろの様でございます」

 そのとき後ろに控えていたシラネが小さく囁く。

 と同時に、中庭の会場にラッパのファンファーレが鳴り響いた。
しおりを挟む

処理中です...