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チートで望郷する
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ラルフ君曰く。
職工ギルド内でジンクス派(今の会長)による反撃が始まったらしい。
『反撃?』
「ええ、監査の延期に応じないなら
《冒険者ギルドでも同様の監査を行う方向に話を進める》
とのことです。」
『ん? 冒険者ギルド?
監査すればいいんじゃないかな?
俺達には関係ないでしょ?』
「いえ。
ドレークギルド長が相当慌てた様子で工房にやってきて
涙ながらに監査延期を訴えて参りまして…」
あー。
あの人、叩けばホコリが出まくる人だからな。
ジンクスは監査された所で問題点は金銭面だけで済む(巨額過ぎるが)と思うが、ドレークは…
ギルド長就任までに相当人を殺しているし、今もヤクザスキームでこっそり私腹を肥やしているので、まあバレたら普通に死刑だろう。
多分ヨーゼフさん辺りも共犯として連座だろうな。
『師匠は何て答えたの?』
「兄弟子と相談してからでないと方針を答えかねる、と。
後、《事を荒立てる気は無い》とも仰ってました。」
『そっか。
まあ師匠は帳簿さえ合えば、そこまで五月蠅い事を言うつもりはなさそうだけどね。
でも、どうしてドレークさんに矛先が向いたんだろうか?』
「世間から見るとウチはドレーク派に見えてるらしいです。」
『え!?
何で!?』
「ほら。
兄弟子がヨーゼフさん達を救命したじゃないですか。
《エリクサーを無償譲渡するほど仲が良い》
って解釈されたみたいです。
この話、もう商都まで広がっちゃってるみたいなんで。
後、ドレークさんがゲドさん達の件でウチに便宜を図ったとも看做されてます。
ほら、あの人たち出禁だったのに、今は普通に冒険者ギルドを使ってるでしょ?
それでゲドさん達はウチで寝泊まりしてるから…
周りから見れば、ドレーク派とバランギル派が結託しているみたいに思われてるんです。」
マジかー。
あー、これは良くないパターンだな。
ドレークみたいに敵が多い人間の仲間だと思われてるのはリスクでしかないな。
ヘルマン組長も相当憎んでるみたいだったし。
それにしても《バランギル派》っていい響きだな。
師匠が出世したみたいで少し嬉しい。
「後、そんなことよりも。
ちょっと洒落にならない問題が発生してしまったので…」
『え?
ヤバい話?』
「ちょっとデリケートな話なので…
こういう人気のある所では…」
ラルフ君がキョロキョロしながら声を抑える。
何だ?
ドレークの命より大切な話?
いや、ぶっちゃけドレークの生死にはあんまし興味ないが…
『まあ、とりあえず一旦、工房に戻るよ。
手土産も出来たしね。』
「手土産?」
『コイツさ。』
そう言って俺はスライムを取り出す。
【光、光、まぶしいまぶしい。
ごしゅじんさま!ごしゅじんさま!】
「うおっ!
スライム! 汚っ!」
『ゴメンゴメン。
俺、今スライムの研究をしてるんだ。』
「兄弟子、歴史学って言ってたじゃないですか!
ボクはそれを自慢に思ってたのに!」
『ゴメンゴメン。
今はスライムの使い道を色々とね…』
「ひょっとして工房に持ち込む気ですか?」
『だ、駄目かな?』
「いや、あの物件は兄弟子のものですし…
いいも悪いも無いのですが…」
『社会通念上は駄目かな?』
「…駄目ですね。
というか、スライムを頭の上に乗せないで下さいよ!」
『いやあ、コイツ俺に懐いちゃってて…
鞄は嵩張るから首に巻いて持ち運ぼうかと…』
「いやいやいや!!
正気ですか!!
職人としての誇りを持って下さいよ!!!
…というか、スライムって意思があるんですか!?」
『あるよお。
餌の好き嫌いを言ったり、寂しがったりさあ。』
「…兄弟子。
それ、外で言わないで下さいね。
気が狂った、と思われてしまいますので。」
『ラルフ君は俺の正気を信じてくれるの?』
「きっと兄弟子にしか分からないアプローチで答えに辿り着いたのでしょう。」
『ちなみに、食肉業界から廃棄物処理工程が消える計算だ、。』
「しれっと産業革命起こさないで下さい。
あ、人力車来た。
あれに乗りますよ!」
こうして俺達は街の最南端から北区のバランギル工房まで戻った。
改めて見ると、前線都市はそこそこ建物が密集しているが空き家も多いな。
特に南区は殆どのテナントにシャッターが降りている。
それ考えると、いい立地に工房を構えられたな。
「おう、おかえり。」
いつもと変わらぬ師匠の解体姿。
今日はワイルドオックスを捌いていたらしい。
『戻りました… 師匠。』
「どうだったスラムは?」
『騎士に押し潰されて一回死にました。』
「マジ!?
相変わらず冒険してんなー。」
『そして師匠!
工房業務に役立つ秘密兵器を持ち帰って参りました!』
「はははw
ひょっとして首に巻いているスライムのこと?」
『はい!
スライムの扱いに関しては極めた、と言っても過言ではありません。』
「飛ばしてんなー。」
俺はワイルドオックスの臓物が入った封箱を借り受けると、赤スライムを使役して一瞬で堆肥に換えた。
目算で100キロの臓物が8キロ程度の対比に圧縮されている。
ゴミの純度によるが、赤スライムは有機物を1割程度に消化圧縮する事が出来るのだ。
「…チートよ、オマエ地味に凄いことしてない?」
『流石は師匠。
この技術の有効性を理解して下さったのですね。
それに引き換えスラムの連中はリアクションが薄かったので…』
「何?
臓物を消化する技術ってこと?」
『有機物全般ですね。
骨や皮も消化出来ますよ。
体積を劇的に圧縮、水分もほぼ出ません。』
「水漏れ無いのって最高だな。
ん?
ひょっとして臭いも消えてない?」
『流石は師匠。
そこに着目されるとは。
そうなんです、赤スライムが消化した有機物は臭気もかなり除去されます。』
「ふーむ。
何? これを業務に実践投入したいの?」
『駄目でしょうか?』
「法律的に問題ないならやってみたいね。
えっと、衛生関連の法律は…
商業ギルドに判断を仰ぐのが無難かな?」
レザノフ卿かぁ…
あんまり顔合わせたくもないけど。
でも、絶対に帝国衛生法に引っかかる事案だよな。
「ドレークさんの話は聞いた?」
『ヤバいらしいですね。』
「死刑になるんじゃないかってみんな言ってる。」
『え? 死刑ですか!?』
「ほら、あの人ってヤクザ上がりだから。
チートは若いから知らないと思うけど。
俺らの世代じゃあの人かなり有名だよ。
世間で言われてる悪い噂も概ね本当なんじゃないかな?」
『まあ、如何にも
《昔ヤンチャしてました》
って顔つきですもんね。』
「今、冒険者ギルドには行くなよ?
かなり雰囲気悪くなってるから。
魔石の売買も出来ない雰囲気になってる。」
『え? 魔石売買中止になっちゃったんですか?』
「いや。
ウチの裏口を貸してあげてる。
屋根あるし、台も貸してる。
ゴメンな、本当はチートに断ってから貸すべきだったんだけど。
でも、多分。
その方がオマエにとって有利に働くと踏んで、な。」
流石は師匠。
俺のやりたい事を把握してくれている。
ドランさんが地下から上がって来たのでスライムの件を淡々と相談。
食肉を扱う工房にスライムが居るのはイメージが悪いので、当面は極秘運用することに決まる。
「チート。
ワイルドオックスの可食部重量に関しては教えたか?」
『あ、いえ。
正確な数字までは。
ドランさんは詳しそうですね。』
「オックス系の可食部位は体重の3割程度だ。
残りの7割は内臓・骨・皮。
これらは帝国衛生法で処分を義務付けられている。
法令は乾燥屋、解体屋、精肉工房で概ね共通となっている。
つまりさあ。
このバカでかいワイルドオックスの7割を今までは…
廃棄の為に運搬していた訳だな。
習慣だったから特に苦痛に感じた事はなかったが…」
『はい。
ゴミ処理場にも大量の封箱が持ち込まれてて
正直、労力のロスかな、と。
食肉・解体・乾燥だけで、相当なリソースが奪われてるんです。
そりゃあ処理場も人手不足になるって思いました。』
「このスライムって有害性はあるの?」
『生きてる生物は溶かさないので、負傷の可能性は低いです。
傷口に赤スライムが長く触れると、腫れが出ますが…
でもそれって他の生物でも同じことですし。
俺が危惧しているのは、有害性ではなく…
スライムが不潔なものという認識が社会に広まっている点です。
食肉業界でこれを使えたら作業効率が飛躍的に向上する事は確信しているのですが…
世論は決して賛同してくれないでしょう。』
「…ふーむ。
実用化には学術的な裏付けが必要になるな。
その道の権威のお墨付きが求められるだろう。
スライム学ってあんのかな?」
『あったとしてもニッチな学問だと思います。
きっと生物学の1番傍流でしょう。
一度ちゃんとした学者に体系的な話を伺いたいのですが。
ほら、俺って無学だから…
世の中にどういう学問の系統があるかとか知らないんです。
最近、法律とか学術とかの裏付けが必要な場面が増えてきて
ちゃんとした知識人のブレーンが欲しいんです。』
「ヴィルヘルム博士だったか。
見つかった?」
『いえ。
あちこちに手を尽くしているのですが…
もう前線都市を退去されたのかも知れません。』
「まあ、普通はこんな所に学者さんは来ないからな。
俺も次の寄り合いでもう一度博士の居場所を聞いてみるよ。」
『ありがとうございます。
スライム運用は公的な支援さえあれば、この業界を潤すと思うので
少し本腰を入れてみます。』
ドランさんの前でスライム消化芸を披露。
「これ、チート以外に扱えなくね?」
というツッコミは敢えて聞こえないことにした。
しばらく男4人でワチャワチャ仕事をしているとカインさんが上階から降りて来たので再会を喜ぶ。
ゲレルさんから施された救命の礼を述べるが不思議そうな顔をされる。
「…いや、初耳だ。
え? 死に掛けた?」
『何か騎士の捕り物に巻き込まれてしまって。
ゲレルさんは何も言ってませんでしたか?』
「…あの女は聞けば何でも正直に教えてくれるんだがな。」
ゲド・ゲレルの両名はダンジョンでの戦利品を商都で売却後、補充メンバーと共にこちらに帰還するとのこと。
カインさんは休憩も兼ねて装備の補充と修繕を担当。
『補充メンバー?』
「ああ、ちょっと私の口からは何とも言えないんだが…」
『ラルフ君の言っていた問題って、このこと?』
「ええ…
本来は兄弟子の許可を要することだったのですが…
連絡が付かなかったので…」
『え?
そんなに問題のある人なの?
ゲレルさんより?』
「いや。
まあ…
私の口からは何とも言えんのだが。
数名を殺害した事が判明していてな…」
『ぼ、冒険者同士で殺し合いですか…
今まで漠然と憧れてましたけど…
結構ガチな世界ですよね。』
「うーん。
殺し合いというより…
丸腰の民間人を一方的に殺害している。
しかも6名。」
ま、マジか…
ガチの殺人鬼じゃねーか。
え?
その殺人鬼がこっちに向かってるの?
ひょとしてここに住むの?
『なるほど、それは由々しき問題ですねえ。』
「いや、問題はここからなんだ。」
『え?
ここから!?』
「実はその者…
先日、憲兵と決闘事件を起こしてしまって…
商都ではかなり話題になっているんだ。」
『いやいやいや!
憲兵さんにたてついたら拙くないですか!?』
「一般的には死刑だな。
無論、関係者も何らかの形で連座させられる。」
『え? 俺は関係者じゃないですよね?』
「うーん、関係の有無は捜査機関が判断することだから。」
『ですよねー。』
『まあ、その憲兵とは旧知の間柄だったようで
現在は逮捕も何もされてないんだが…
商都の定宿から正式に退去を求められてしまったのだ…
置いていた荷物で嵩張りそうなものは全て投げ売った。
事後承諾で申し訳ないのだが、その者含めてここに住ませてくれないかな?』
お、おう。
コイツラ問題ばっか起こしやがって…
『それにしても…
兵隊さん、それも憲兵と決闘とか…
マジでヤバい人ですね…
そりゃあ、凄い問題だ…』
「兄弟子…
問題はここからなんですよ。」
ファ!?
まだ何かあるのか!?
「チート君、情報の後出しになってしまって済まないと思っている。
あまりに重大過ぎて、打ち明ける事が出来なかったんだ。」
『な、なるほど。
それで、どんな風に重大なんですか?』
「兄弟子…
驚かずに聞いて下さいね。
ボクも最初はパニックになりましたから…」
『あ、ああ。
わかったよ。
それで… 重大な問題とは…?』
「今から来られる方は…」
『(ゴクリ)』
「な、なんと日本人です!!」
…。
ファファファファーイ!!!???
アッチョー!!!???
職工ギルド内でジンクス派(今の会長)による反撃が始まったらしい。
『反撃?』
「ええ、監査の延期に応じないなら
《冒険者ギルドでも同様の監査を行う方向に話を進める》
とのことです。」
『ん? 冒険者ギルド?
監査すればいいんじゃないかな?
俺達には関係ないでしょ?』
「いえ。
ドレークギルド長が相当慌てた様子で工房にやってきて
涙ながらに監査延期を訴えて参りまして…」
あー。
あの人、叩けばホコリが出まくる人だからな。
ジンクスは監査された所で問題点は金銭面だけで済む(巨額過ぎるが)と思うが、ドレークは…
ギルド長就任までに相当人を殺しているし、今もヤクザスキームでこっそり私腹を肥やしているので、まあバレたら普通に死刑だろう。
多分ヨーゼフさん辺りも共犯として連座だろうな。
『師匠は何て答えたの?』
「兄弟子と相談してからでないと方針を答えかねる、と。
後、《事を荒立てる気は無い》とも仰ってました。」
『そっか。
まあ師匠は帳簿さえ合えば、そこまで五月蠅い事を言うつもりはなさそうだけどね。
でも、どうしてドレークさんに矛先が向いたんだろうか?』
「世間から見るとウチはドレーク派に見えてるらしいです。」
『え!?
何で!?』
「ほら。
兄弟子がヨーゼフさん達を救命したじゃないですか。
《エリクサーを無償譲渡するほど仲が良い》
って解釈されたみたいです。
この話、もう商都まで広がっちゃってるみたいなんで。
後、ドレークさんがゲドさん達の件でウチに便宜を図ったとも看做されてます。
ほら、あの人たち出禁だったのに、今は普通に冒険者ギルドを使ってるでしょ?
それでゲドさん達はウチで寝泊まりしてるから…
周りから見れば、ドレーク派とバランギル派が結託しているみたいに思われてるんです。」
マジかー。
あー、これは良くないパターンだな。
ドレークみたいに敵が多い人間の仲間だと思われてるのはリスクでしかないな。
ヘルマン組長も相当憎んでるみたいだったし。
それにしても《バランギル派》っていい響きだな。
師匠が出世したみたいで少し嬉しい。
「後、そんなことよりも。
ちょっと洒落にならない問題が発生してしまったので…」
『え?
ヤバい話?』
「ちょっとデリケートな話なので…
こういう人気のある所では…」
ラルフ君がキョロキョロしながら声を抑える。
何だ?
ドレークの命より大切な話?
いや、ぶっちゃけドレークの生死にはあんまし興味ないが…
『まあ、とりあえず一旦、工房に戻るよ。
手土産も出来たしね。』
「手土産?」
『コイツさ。』
そう言って俺はスライムを取り出す。
【光、光、まぶしいまぶしい。
ごしゅじんさま!ごしゅじんさま!】
「うおっ!
スライム! 汚っ!」
『ゴメンゴメン。
俺、今スライムの研究をしてるんだ。』
「兄弟子、歴史学って言ってたじゃないですか!
ボクはそれを自慢に思ってたのに!」
『ゴメンゴメン。
今はスライムの使い道を色々とね…』
「ひょっとして工房に持ち込む気ですか?」
『だ、駄目かな?』
「いや、あの物件は兄弟子のものですし…
いいも悪いも無いのですが…」
『社会通念上は駄目かな?』
「…駄目ですね。
というか、スライムを頭の上に乗せないで下さいよ!」
『いやあ、コイツ俺に懐いちゃってて…
鞄は嵩張るから首に巻いて持ち運ぼうかと…』
「いやいやいや!!
正気ですか!!
職人としての誇りを持って下さいよ!!!
…というか、スライムって意思があるんですか!?」
『あるよお。
餌の好き嫌いを言ったり、寂しがったりさあ。』
「…兄弟子。
それ、外で言わないで下さいね。
気が狂った、と思われてしまいますので。」
『ラルフ君は俺の正気を信じてくれるの?』
「きっと兄弟子にしか分からないアプローチで答えに辿り着いたのでしょう。」
『ちなみに、食肉業界から廃棄物処理工程が消える計算だ、。』
「しれっと産業革命起こさないで下さい。
あ、人力車来た。
あれに乗りますよ!」
こうして俺達は街の最南端から北区のバランギル工房まで戻った。
改めて見ると、前線都市はそこそこ建物が密集しているが空き家も多いな。
特に南区は殆どのテナントにシャッターが降りている。
それ考えると、いい立地に工房を構えられたな。
「おう、おかえり。」
いつもと変わらぬ師匠の解体姿。
今日はワイルドオックスを捌いていたらしい。
『戻りました… 師匠。』
「どうだったスラムは?」
『騎士に押し潰されて一回死にました。』
「マジ!?
相変わらず冒険してんなー。」
『そして師匠!
工房業務に役立つ秘密兵器を持ち帰って参りました!』
「はははw
ひょっとして首に巻いているスライムのこと?」
『はい!
スライムの扱いに関しては極めた、と言っても過言ではありません。』
「飛ばしてんなー。」
俺はワイルドオックスの臓物が入った封箱を借り受けると、赤スライムを使役して一瞬で堆肥に換えた。
目算で100キロの臓物が8キロ程度の対比に圧縮されている。
ゴミの純度によるが、赤スライムは有機物を1割程度に消化圧縮する事が出来るのだ。
「…チートよ、オマエ地味に凄いことしてない?」
『流石は師匠。
この技術の有効性を理解して下さったのですね。
それに引き換えスラムの連中はリアクションが薄かったので…』
「何?
臓物を消化する技術ってこと?」
『有機物全般ですね。
骨や皮も消化出来ますよ。
体積を劇的に圧縮、水分もほぼ出ません。』
「水漏れ無いのって最高だな。
ん?
ひょっとして臭いも消えてない?」
『流石は師匠。
そこに着目されるとは。
そうなんです、赤スライムが消化した有機物は臭気もかなり除去されます。』
「ふーむ。
何? これを業務に実践投入したいの?」
『駄目でしょうか?』
「法律的に問題ないならやってみたいね。
えっと、衛生関連の法律は…
商業ギルドに判断を仰ぐのが無難かな?」
レザノフ卿かぁ…
あんまり顔合わせたくもないけど。
でも、絶対に帝国衛生法に引っかかる事案だよな。
「ドレークさんの話は聞いた?」
『ヤバいらしいですね。』
「死刑になるんじゃないかってみんな言ってる。」
『え? 死刑ですか!?』
「ほら、あの人ってヤクザ上がりだから。
チートは若いから知らないと思うけど。
俺らの世代じゃあの人かなり有名だよ。
世間で言われてる悪い噂も概ね本当なんじゃないかな?」
『まあ、如何にも
《昔ヤンチャしてました》
って顔つきですもんね。』
「今、冒険者ギルドには行くなよ?
かなり雰囲気悪くなってるから。
魔石の売買も出来ない雰囲気になってる。」
『え? 魔石売買中止になっちゃったんですか?』
「いや。
ウチの裏口を貸してあげてる。
屋根あるし、台も貸してる。
ゴメンな、本当はチートに断ってから貸すべきだったんだけど。
でも、多分。
その方がオマエにとって有利に働くと踏んで、な。」
流石は師匠。
俺のやりたい事を把握してくれている。
ドランさんが地下から上がって来たのでスライムの件を淡々と相談。
食肉を扱う工房にスライムが居るのはイメージが悪いので、当面は極秘運用することに決まる。
「チート。
ワイルドオックスの可食部重量に関しては教えたか?」
『あ、いえ。
正確な数字までは。
ドランさんは詳しそうですね。』
「オックス系の可食部位は体重の3割程度だ。
残りの7割は内臓・骨・皮。
これらは帝国衛生法で処分を義務付けられている。
法令は乾燥屋、解体屋、精肉工房で概ね共通となっている。
つまりさあ。
このバカでかいワイルドオックスの7割を今までは…
廃棄の為に運搬していた訳だな。
習慣だったから特に苦痛に感じた事はなかったが…」
『はい。
ゴミ処理場にも大量の封箱が持ち込まれてて
正直、労力のロスかな、と。
食肉・解体・乾燥だけで、相当なリソースが奪われてるんです。
そりゃあ処理場も人手不足になるって思いました。』
「このスライムって有害性はあるの?」
『生きてる生物は溶かさないので、負傷の可能性は低いです。
傷口に赤スライムが長く触れると、腫れが出ますが…
でもそれって他の生物でも同じことですし。
俺が危惧しているのは、有害性ではなく…
スライムが不潔なものという認識が社会に広まっている点です。
食肉業界でこれを使えたら作業効率が飛躍的に向上する事は確信しているのですが…
世論は決して賛同してくれないでしょう。』
「…ふーむ。
実用化には学術的な裏付けが必要になるな。
その道の権威のお墨付きが求められるだろう。
スライム学ってあんのかな?」
『あったとしてもニッチな学問だと思います。
きっと生物学の1番傍流でしょう。
一度ちゃんとした学者に体系的な話を伺いたいのですが。
ほら、俺って無学だから…
世の中にどういう学問の系統があるかとか知らないんです。
最近、法律とか学術とかの裏付けが必要な場面が増えてきて
ちゃんとした知識人のブレーンが欲しいんです。』
「ヴィルヘルム博士だったか。
見つかった?」
『いえ。
あちこちに手を尽くしているのですが…
もう前線都市を退去されたのかも知れません。』
「まあ、普通はこんな所に学者さんは来ないからな。
俺も次の寄り合いでもう一度博士の居場所を聞いてみるよ。」
『ありがとうございます。
スライム運用は公的な支援さえあれば、この業界を潤すと思うので
少し本腰を入れてみます。』
ドランさんの前でスライム消化芸を披露。
「これ、チート以外に扱えなくね?」
というツッコミは敢えて聞こえないことにした。
しばらく男4人でワチャワチャ仕事をしているとカインさんが上階から降りて来たので再会を喜ぶ。
ゲレルさんから施された救命の礼を述べるが不思議そうな顔をされる。
「…いや、初耳だ。
え? 死に掛けた?」
『何か騎士の捕り物に巻き込まれてしまって。
ゲレルさんは何も言ってませんでしたか?』
「…あの女は聞けば何でも正直に教えてくれるんだがな。」
ゲド・ゲレルの両名はダンジョンでの戦利品を商都で売却後、補充メンバーと共にこちらに帰還するとのこと。
カインさんは休憩も兼ねて装備の補充と修繕を担当。
『補充メンバー?』
「ああ、ちょっと私の口からは何とも言えないんだが…」
『ラルフ君の言っていた問題って、このこと?』
「ええ…
本来は兄弟子の許可を要することだったのですが…
連絡が付かなかったので…」
『え?
そんなに問題のある人なの?
ゲレルさんより?』
「いや。
まあ…
私の口からは何とも言えんのだが。
数名を殺害した事が判明していてな…」
『ぼ、冒険者同士で殺し合いですか…
今まで漠然と憧れてましたけど…
結構ガチな世界ですよね。』
「うーん。
殺し合いというより…
丸腰の民間人を一方的に殺害している。
しかも6名。」
ま、マジか…
ガチの殺人鬼じゃねーか。
え?
その殺人鬼がこっちに向かってるの?
ひょとしてここに住むの?
『なるほど、それは由々しき問題ですねえ。』
「いや、問題はここからなんだ。」
『え?
ここから!?』
「実はその者…
先日、憲兵と決闘事件を起こしてしまって…
商都ではかなり話題になっているんだ。」
『いやいやいや!
憲兵さんにたてついたら拙くないですか!?』
「一般的には死刑だな。
無論、関係者も何らかの形で連座させられる。」
『え? 俺は関係者じゃないですよね?』
「うーん、関係の有無は捜査機関が判断することだから。」
『ですよねー。』
『まあ、その憲兵とは旧知の間柄だったようで
現在は逮捕も何もされてないんだが…
商都の定宿から正式に退去を求められてしまったのだ…
置いていた荷物で嵩張りそうなものは全て投げ売った。
事後承諾で申し訳ないのだが、その者含めてここに住ませてくれないかな?』
お、おう。
コイツラ問題ばっか起こしやがって…
『それにしても…
兵隊さん、それも憲兵と決闘とか…
マジでヤバい人ですね…
そりゃあ、凄い問題だ…』
「兄弟子…
問題はここからなんですよ。」
ファ!?
まだ何かあるのか!?
「チート君、情報の後出しになってしまって済まないと思っている。
あまりに重大過ぎて、打ち明ける事が出来なかったんだ。」
『な、なるほど。
それで、どんな風に重大なんですか?』
「兄弟子…
驚かずに聞いて下さいね。
ボクも最初はパニックになりましたから…」
『あ、ああ。
わかったよ。
それで… 重大な問題とは…?』
「今から来られる方は…」
『(ゴクリ)』
「な、なんと日本人です!!」
…。
ファファファファーイ!!!???
アッチョー!!!???
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科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
『召喚ニートの異世界草原記』
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ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
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「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
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呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
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このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
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スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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