異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ

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【転移67日目】 所持金6兆2440億1170万ウェン 「俺は心の冷たい守銭奴だから。」

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きっと俺の様子はおかしかったのだろう、
キーンとカインは何気なく側に居てくれた。

昨夜は特に深い話をした訳でもないのだが、年長の友人が見守っていてくれる安心感というのは格別なもので、やや落ち着くことが出来た。
コレットとヒルダを下がらせてからも、軽食を摘まみながら各報告書の読み合わせを行った。


気が付くといい時間だったので、3人で風呂に入り他愛もない話をしてから
それぞれの担当に向かった。
午前中、キーンは財界回り、カインはグリーブと打ち合わせ。
俺は邸宅に残って社長のベーカーを待つ。



==========================


何もしていないと、精神が良くない方向に向かいそうだったので。
コレットと共に神殿に向かい、魔族の慰霊祭を見学させて貰う。

部外者の俺があまり近寄るのも気が引けたのだが、皆が歓迎してくれたので合掌と献花だけ付き合うことになった。

真剣に魔族の慰霊をしようと思ったのだが、平原の顔ばかりが瞼に浮かび、気が付けば嗚咽を漏らしてしまっていた。


『申し訳ありません…
皆さんに謝罪させて下さい。

実は私の同郷の友人が戦死し…
彼の事ばかりを考えてしまいます。

皆様の慰霊を冒涜してしまっているようで、心が苦しいです。』


オークの老人が優しく俺を抱きかかえ

「慰霊などは自分の身内だけを想っていれば良いのです。
私もそうです。
皆もそうです。
そうやってお気遣い下さる事が私は嬉しいですよ。」

とフォローを入れてくれた。


そうは言ってくれたものの、居た堪れなくなったので中座させて貰った。



==========================


俺は平静を取り戻したつもりだったが、切れ者のベーカーの目は誤魔化せなかったらしい。
明らかに報告のペースを落としてくれたし、いつもであれば俺の判断を仰ぐ箇所を「では、こちらは現場で処理しておきますね。」と割愛してくれた。
帰り際にヒルダに細々と報告していたので、暫定的な措置のつもりなのだろう。


その後、クーパー・エヴァーソンの両重鎮が数名の友人を紹介しに来てくれる。
いずれも経済界の主要人物であり、政財軍宗教のあらゆる方面の情報に精通しており、色々と教えてくれる。


『それにしても教団の動きが鈍くないですか?
私は配給初日に袋叩きに遭う覚悟をしていたのですが。』



「ああ、いやいや。
今は彼らも選挙中だから…
コリンズ君の存在は当然把握しとるが…
動くに動けんだろう?
騒動を起こしてしまったら、票読みが出来なくなってしまうからな。」



『その…
俺には実感がないのですが
教団の選挙ってどうしてそんなに規模が大きいんですか?』



「そりゃ、君。
動く利権が巨大過ぎるから。
誰が出世するかで、カネのバラ撒き先とか全然変わって来るからね。
あれだけ巨大な組織だもの、しかも超トップダウン型。
死人出るのも無理はないよ。」


『俺がこの世界に来てから、皆が教団の選挙の話をしているので
やっぱり影響力強いんだな、と。』


「強い。
彼らの一挙手一投足が常に注目されている。

だからこそ、今の彼らは必死だよ。
負けが込んでるから。」


『負けといいますと?』


「いやいやww
コリンズ君が盤面をひっくり返したでしょう。

連邦内戦では反教団派のミュラー卿を勝たせた。
北方戦線では魔王に支援を行い王国を大敗させた。
君のおかげで教団は短期間に2連敗だ。

今、信者さん達に檄を飛ばしているらしいよ?」


『檄?』


「もっと布施を寄越せってさ。」



一同が呆れ半分で笑う。

経済的な観点から言えば、カネを取る教団よりもカネを配る俺の方が有用に見える。
支持も集めそうだ。
だが、人間ってそんなに合理的に出来ていないからなあ。
地球に居た頃も、宗教団体は大小合わせて腐るほどあって、皆が喜んで搾取されていた。
父さんや俺も宗教に逃げる事が出来れば、もう少し楽だったのだが…

人間、難しい本を読み過ぎると駄目だな。
入れるコミュニティが狭まってしまう。



《1兆5000億ウェンの配当が支払われました。》



カネを持ちすぎるのも駄目だ。
入れるコミュニティが狭まってしまう。



==========================


夜更けにふと思いつき、コレットと神殿を訪れる。
皆が綺麗に使ってくれている上に、ポールソン清掃会社が良い仕事をするので、古いながらも清浄な雰囲気が保たれている。


しばらく無言で神殿を眺めていると、背後からマキンバ子爵からのメッセンジャーに話しかけられる。
先日の彼とはまた別の遊牧民である。
申し訳無さそうな表情をしていたので、朗報ではない事は察する事が出来た。


「…戦死者の確認作業が進みまして
コリンズ社長の御同胞の御遺体が回収されたそうです。
この様な報告ばかりで申し訳御座いません。」


『いえ、マキンバ領の皆様の細やかな心配りに助けられております。』



「ミカ・ソダ

新たに発表された戦死者の名です。
先日発表された6名同様に2階級特進。
貴族用墓地への埋葬が許可されました。」



『…そうですか。
これ以上の死者が増えない事を祈ります。

また、今回の戦争で犠牲になった全ての皆さ…

いえ、貴方の御精勤に感謝します。
どうか帰路の御無事を。』





ソダ。
恐らくは《曽田》か《祖田》と表記するのだろう。
頭の中で色々漢字変換をしてみて、何となく文字列に見覚えを感じる。
きっと確かにそういう名の少女が居たのだ。
俺と共に学び、俺と共に招かれ、俺の所為で死んだ。


多分話した事も無かったのだろう。
或いは狭い場所をすれ違う時に「通るよ」くらいの声を掛けた事があったのかも知れない。


俺はしばらく呆然としていたが、相手が死者である事を思い出したので、せめて神殿で呆ける事にした。
車椅子の音は鳴らなかった。
無意識的に俺が俺に配慮してくれたのかも知れない。


30分くらい学校の記憶を思い出す作業に没頭していた。
ソダという語感には微かに聞き覚えがある。


…ああ、思い出した。
俺の後ろの席の子が「ソダチャン」とよく呼び掛けられていた。
きっとその子のあだ名だったのだろう。


多分、話した事はなかったんじゃないかな。
新しいクラスになって、そこまで時間が経過していなかった事もあるし。
仮に経過したとしても、そこまで縁は生まれなかっただろう。



俺は安堵している卑怯な自分に気付いた。
ハンス・ヴェルナーや平原隼人の様に僅かな接点を持っただけの相手の死にここまでショックを受けているのだ。
これ以上、見知った者の訃報に心が耐えられると思えない。


『ミカ・ソダ。  ソダ・ミカ。』


念の為、口出してみてから。
やはり彼女が記憶のどこにも存在しない事を確認出来たので、やっと大きく呼吸をした。
そこでようやく心配したコレットに身体を揺さぶられていた事に気付く。


大丈夫。
俺は心の冷たい守銭奴だから。
だからそんな顔をしなくても大丈夫だ。


ソダという子とは、きっと縁が無かったのだろう。
良かった、何か一つでも彼女について印象的な想い出があれば、それが心の中の沈没船となってしまう所だった。



俺はコレットの手を握り返して、神殿を立ち去る。




    「ロリコン死ね!」 




『…?』


「リン、どうしたの?」



いや、何でもない。
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