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第七部 神呪
第八十六章 大盾聖女
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たった一人の聖女によって橋頭保となる街が奪還された。
場所は聖王都の北。ノーネームドと戦った橋頭保となる街だ。聖女部隊が壊滅して大人しくなっていた人間達だが予想よりも早く動き出した。
それというのも施された武器の仕様変更だろうな。あれが無ければこうも早く動く事は無かっただろう。聖女部隊を壊滅させた聖女擬きが無力化されたと神から直々に通達があったのだ。人間側としてもその思惑を察してもおかしくない。だがたった一人というのがあまりにもおかしい。ここが奪還されたのも聖女が単身乗り込んでくるという異常事態に察した魔物が一斉に退却したからだ。
そしてそのまま。数人の聖女の増援と非戦闘員が常駐している。人間側の動向としては異質だ。
そして俺達に白羽の矢が立ったという訳だ。端的に言えば威力偵察。魔物達は後方だ。
あの撫で髪モヒカンの魔物の統括者め。顔が割れた途端厄介ごとを押し付けて来たな。取り敢えずはおかしな指示が出ないだけマシではあるのだがな。こちらのメンツは俺を含めた数体のオーガ、シスタータウラスグレートソードのアリエス、レオニスイン黒髑髏シノ、本体の赤髪は俺の盾の中だ。いざとなれば髑髏部隊の魔法も期待できる。ネームドが出て来たとしても手はあるだろう。
ーーー
戦いはあっけなく始まった。俺達前衛が聖女たちとぶつかり合う。特に何の捻りもない。今の所は、だ。
俺の相手は大盾聖女だ。茶髪のポニーテール。いつぞや見た大盾と同じ種類だ。ファランクスのような加護の鎧を盾に加工したものではなく、盾自体が施された武器だ。言うなれば破壊不可能の盾だ。それが聖女の加護を纏っている。だが盾自体はそこまでの加護を有していない。盾に10人分、本体に20人分と言う所か。仮に盾を抜けても本体の加護はやすやすとは抜けないな。
それにしても大盾は施された武器としても特殊な部類だな。本来は一人に一つ、加護を纏わせることが出来るのは一つだ。武器か、本体か。ノーネームドでさえ剣に加護を纏わせた時は加護の鎧で身を守ろうとしていた。だが大盾は武器と本体の両方に加護を纏わせている。
俺はレオで魔剣機体を使っていた時の事を思い出す。加護を分けるのは容易なことではない。魔剣機体の両手に加護を纏わせるのは至難の業だった。いわば大盾を使っているという事はそれだけで加護のコントロールが卓越しているという事だ。
聖女の加護を正確に使いこなす聖女か。俺は直接戦っていないが、神官の加護を得た大盾使いは加護の壁のようなもので戦う近接DPSだった。それをまだ出してこない。確実にこれは罠か。
そしてそれは来た。潜伏していた聖女たちが一斉に立ち上がり加護のレーザーの雨を降らす。その数はざっと20か。
この少数の魔物にそれを使うのか。余程買い被られているらしい。
本来なら窮地だ。これの直撃など俺ですら耐えられない。だがこれは予想の範囲内だ。
加護の守りが俺達を包む。
相変わらずこれは慣れないな。
神の加護の攻撃から完全に身を守れる聖女の加護の守り。防御は完璧だが俺達魔物と相性が悪い。これに守られている間は外の様子は肉眼以外で確認できない。空間の把握はおろか魔素の目ですら開けない。聖女の加護に満ちた守りは魔物の全ての能力を遮断してしまう。わかっていても気持ちのいいものではない。
このカラクリは簡単だ。レオニス入りの黒髑髏シノだ。レオニスが使っているのではない。
なぜそれが出来るのかと言えば、シノが聖女の加護を操っている。レオニスに俺の中の聖女の因子を受け渡した時だ。その時聖女の因子はシノの体を巡ってレオの体へと入っていった。その時のシノは聖女の因子からその操作法を導き出したらしい。レオニスの聖女の加護を操ることに成功した。
だがそれも完璧では無い様だ。聖女の加護は神の意志の宿る神の加護だ。その使い方によってはシノ自体に牙をむく。今のような守りの術は問題ない。魔物であってさえ、守ろうという意思であれば神の意志は従順だ。だが攻撃の術となると魔物の攻撃の意思を感知してその術士であるシノに攻撃が発生する。その種類に問わず魔物の攻撃という意思を感じとると術は発動せずただ単純に術士がダメージを負う。
つまり防御であればシノはレオニスを通じて聖女の守りを使う事が出来る。レオニスはただ黒髑髏シノの中で加護の回復の祈りを捧げているだけだ。
この処置は聖女の加護に神の意志が宿るという状態を危険視したためだ。もしレオニスが聖女のまま人間との戦闘に参加した場合。神の意志が宿った力がどういう行動と選択を取るか。シノの時でさえ術を使った時は神の加護は意志を持ってシノを攻撃してきたのだ。レオニスにこれ以上のリスクは背負わせられない。
しかし、相変わらず絵面が悪いな。黒髑髏の中に囚われたレオニスの姿だ。黒いローブで覆われてはいるものの見え隠れはしている。これを聖女たちがどう思うか。この状況なら推察するまでもない。
それがこの聖女の守りが消えた時に知る事が出来た。
ーーー
完全に乱戦だ。怒り狂った聖女たちと魔物側が飛び出して全力の殴り合いだ。数はこちらが有利だが相手は聖女だ。だがそれでもこちらが有利なのが俺には知り得た。
聖女の質はピンキリだ。聖女というだけで全てがノーネームドという訳ではない。
大まかに分けて三つだ。
10人聖女。神官10人分の加護だ。これは俺が最強だと思っている汎用人間ユニットのマントグレートソードには及ばない。ハッキリ言えば聖女のカテゴリーには入らない。戦い方は聖女だがその性能が追い付いていない。潜伏していた大半がこのタイプだろう。
20人聖女。これは連携できる熟練した神官3人分だと考えていい。交易路の新型聖女戦に居た俺が首を取れずにいたあの神官たちだ。あのレベルと見ていい。確かに強力でしぶといが俺を仕留められるほどではない。単体というよりも連携して数を活かす戦い方だ。とにかくしぶとい戦い方だ。大盾と共に居た聖女だ。未だに落ちる様子が見えない。
30人聖女。これが明らかに破格な性能の俺達が聖女と呼ぶべき存在だ。単体での戦闘能力がずば抜けている。そしてその統率力。ノーネームドにこの大盾と性能も高いが指揮能力の高さの方も問題だ。コイツラが居るからこその作戦の立て方だ。コイツラが居なければ実現できない戦い方だ。
俺がグレートソードのノーネームドを倒せたのは運も大きい。情報不足の単騎突撃、そして大技。自身を討てる魔物が居るなどとは露ほども思っていなかったのだろうな。その油断を突けて倒せたに過ぎない。慢心がなければトドメを指す事は難しかっただろう。それはこの大盾聖女を見てもわかる。
それにしても大盾聖女は厄介だ。その大盾の振り回しは聖女の加護を纏って巨大だ。いうなれば魔剣機体の拳を振り回してるようなものだ。単純に大きさで避けるという選択肢が取れない。それが的確に間合いを読んでくることで、受けるか、弾くか。無視するという選択肢が取れない。もしそれを実行したのならこの巨大な聖女加護の塊で殴り続けられてスタン嵌め状態にされるだろう。格闘ゲームでいえば射程の長い弱攻撃を延々と浴びせてくるようなものだ。一度捉えられると抜け出せない。嫌らしい攻撃だがタンクとしては正解だ。一番の脅威を無力することがその役目だろうからな。
とはいえ俺のようなオーガ一匹にここまで時間をかけるのはどうだろうな。30人聖女の本領を発揮できていないと思うが。
だがここで俺は気付く。コイツラの目的だ。コイツラの目的は俺か?
長く魔物という存在になっていて気付かなかったが、ノーネームドの仇討ちと考えるとこの聖女だけの編成も納得がいく。そのような行動に人間が兵を裂くわけもなく、独断専行の可能性もある。
人間が攻勢に出るときは確実に勝ちを確信した時に限る。その前提は聖女には当てはまらないのかもしれないな。
そして、遂に本気を出してきた。
大盾が大盾を地面に突き立てるとその余波のような加護の壁が広がり足場を揺るがす。これ自体は大した事は無いが、足場を揺らされるのは魔物側だけで聖女の側には何も影響がない。つまりタンク名物スタン攻撃だ。威力はないが隙が出来る。味方が居てこそ輝くスキルだ。このスキを突かれている魔物も多い。だがアリエスは問題ない様だ。というよりもわかっていたのだろうな。
そして大盾に加護が集中する。完全に攻撃モードだ。加護の鎧の活性化すらせずに全ての加護を大盾に。捨て身の攻撃か。攻撃能力の低い大盾でトドメを狙うならここまでしないと足りないのだろうな。
加護で輝きだした大盾の纏う加護はさながら巨大な棘鉄球だ。ただの全周囲加護ではない。高度に練られて高質化し意のままに形を変える。いままでは撫で切るようにいなせていたが、その硬さと形状故に全力で叩き返さないと潰される。少しでも気を抜いたら相棒を取り落してお終いだろうな。立て直す事も出来ずに圧殺されるだろう。正直ここまで近接特化だとは思っていなかったな。
認めよう。こいつは俺よりも強い。
俺は即座に切り替える。大地の支配で地面を隆起させる。この慣らした大地では相手の方が有利だ。俺にも不利になるが地形を崩す以外にない。大盾聖女の最大の長所であった間合いの詰め方を封じられる。武器自体は長くはない。これで最大値のインパクトをずらす事が出来る。
だがそんなことは織り込み済みか。俺に投げつけられた大盾の加護が弱まっている。それを切り飛ばした先には肉弾戦を仕掛けてくる大盾聖女の姿だ。モンク聖女と改名した方がいいか。大盾を自在に操る素手格闘。宙を舞う大盾をフェイントと足場にして拳と蹴りに加護を纏わせている。モンクのような衝撃系ではない。純粋な加護の攻撃力だ。
本当に、コイツラは何と戦うためにここまでの戦闘力を磨いているのだ? あの人間の結界内は本当に安全なのか疑問を感じる。まさか人間の結界内は世界改変のコア持ちが跋扈してるのではないだろうな。そうでもなければこの聖女の対応能力は説明がつかない。
この状況でシノが動いた。
「王牙。魔王城殺しを使う。味方が下がったらマーキングを出す」
「この近距離でか?」
「そうだ。同時に神の加護を展開する。魔法への耐性は高いとはいえ絶対ではない。だが余波なら問題ないだろう。出来るならその大盾聖女に直撃を当てられるのが望ましいが、取り合えず三か所だ。そのマーキングに大盾聖女を巻き込めれば御の字だ」
「厳しいな。同時発動か?」
「そうだ。タイミングは任せたいが、リミットがくれば発動させる。準備だけしておけ」
俺が返事を返すと魔物が俺を先頭に両翼が下がっていく。その形に添うように三角のマーキングが出る。その場で耐えるのが最善か。だが聖女たちはそれに呼応するように下がる。これなら逆三角形に配置した方が良かったな。だが、その一点が大盾聖女と被る。
シノの魔王城殺しが発動する。
いつもの一瞬の爆音は神の加護に囲まれて把握することが出来ない。街は完全に廃墟と化し加護を展開した聖女たちが蹲っているのが見える。そして大盾聖女も膝をつく。直撃はしたが大盾の方か。
加護の守りが消えると同時に把握した情報は、大盾聖女の加護が軒並み消えて加護を纏わない大盾を盾に辛うじて立っているという事だ。
これは勝ったな。
だがそれはレオニスの悲鳴で遮られた。
「お母様!?」
後ろを見るとレオニス入りの黒髑髏が消滅している。
何故だ? 魔物の被害はほとんどない。何が起こっている?
黒髑髏から落りたレオニスがこちらに駆け寄る。
「シノ!?」
シノの返答がない。
撤退だ。俺はレオニスを掴むと戦場から離れる。
クソがァァァ!
聖女に関わると毎回碌なことが起きん!!!
場所は聖王都の北。ノーネームドと戦った橋頭保となる街だ。聖女部隊が壊滅して大人しくなっていた人間達だが予想よりも早く動き出した。
それというのも施された武器の仕様変更だろうな。あれが無ければこうも早く動く事は無かっただろう。聖女部隊を壊滅させた聖女擬きが無力化されたと神から直々に通達があったのだ。人間側としてもその思惑を察してもおかしくない。だがたった一人というのがあまりにもおかしい。ここが奪還されたのも聖女が単身乗り込んでくるという異常事態に察した魔物が一斉に退却したからだ。
そしてそのまま。数人の聖女の増援と非戦闘員が常駐している。人間側の動向としては異質だ。
そして俺達に白羽の矢が立ったという訳だ。端的に言えば威力偵察。魔物達は後方だ。
あの撫で髪モヒカンの魔物の統括者め。顔が割れた途端厄介ごとを押し付けて来たな。取り敢えずはおかしな指示が出ないだけマシではあるのだがな。こちらのメンツは俺を含めた数体のオーガ、シスタータウラスグレートソードのアリエス、レオニスイン黒髑髏シノ、本体の赤髪は俺の盾の中だ。いざとなれば髑髏部隊の魔法も期待できる。ネームドが出て来たとしても手はあるだろう。
ーーー
戦いはあっけなく始まった。俺達前衛が聖女たちとぶつかり合う。特に何の捻りもない。今の所は、だ。
俺の相手は大盾聖女だ。茶髪のポニーテール。いつぞや見た大盾と同じ種類だ。ファランクスのような加護の鎧を盾に加工したものではなく、盾自体が施された武器だ。言うなれば破壊不可能の盾だ。それが聖女の加護を纏っている。だが盾自体はそこまでの加護を有していない。盾に10人分、本体に20人分と言う所か。仮に盾を抜けても本体の加護はやすやすとは抜けないな。
それにしても大盾は施された武器としても特殊な部類だな。本来は一人に一つ、加護を纏わせることが出来るのは一つだ。武器か、本体か。ノーネームドでさえ剣に加護を纏わせた時は加護の鎧で身を守ろうとしていた。だが大盾は武器と本体の両方に加護を纏わせている。
俺はレオで魔剣機体を使っていた時の事を思い出す。加護を分けるのは容易なことではない。魔剣機体の両手に加護を纏わせるのは至難の業だった。いわば大盾を使っているという事はそれだけで加護のコントロールが卓越しているという事だ。
聖女の加護を正確に使いこなす聖女か。俺は直接戦っていないが、神官の加護を得た大盾使いは加護の壁のようなもので戦う近接DPSだった。それをまだ出してこない。確実にこれは罠か。
そしてそれは来た。潜伏していた聖女たちが一斉に立ち上がり加護のレーザーの雨を降らす。その数はざっと20か。
この少数の魔物にそれを使うのか。余程買い被られているらしい。
本来なら窮地だ。これの直撃など俺ですら耐えられない。だがこれは予想の範囲内だ。
加護の守りが俺達を包む。
相変わらずこれは慣れないな。
神の加護の攻撃から完全に身を守れる聖女の加護の守り。防御は完璧だが俺達魔物と相性が悪い。これに守られている間は外の様子は肉眼以外で確認できない。空間の把握はおろか魔素の目ですら開けない。聖女の加護に満ちた守りは魔物の全ての能力を遮断してしまう。わかっていても気持ちのいいものではない。
このカラクリは簡単だ。レオニス入りの黒髑髏シノだ。レオニスが使っているのではない。
なぜそれが出来るのかと言えば、シノが聖女の加護を操っている。レオニスに俺の中の聖女の因子を受け渡した時だ。その時聖女の因子はシノの体を巡ってレオの体へと入っていった。その時のシノは聖女の因子からその操作法を導き出したらしい。レオニスの聖女の加護を操ることに成功した。
だがそれも完璧では無い様だ。聖女の加護は神の意志の宿る神の加護だ。その使い方によってはシノ自体に牙をむく。今のような守りの術は問題ない。魔物であってさえ、守ろうという意思であれば神の意志は従順だ。だが攻撃の術となると魔物の攻撃の意思を感知してその術士であるシノに攻撃が発生する。その種類に問わず魔物の攻撃という意思を感じとると術は発動せずただ単純に術士がダメージを負う。
つまり防御であればシノはレオニスを通じて聖女の守りを使う事が出来る。レオニスはただ黒髑髏シノの中で加護の回復の祈りを捧げているだけだ。
この処置は聖女の加護に神の意志が宿るという状態を危険視したためだ。もしレオニスが聖女のまま人間との戦闘に参加した場合。神の意志が宿った力がどういう行動と選択を取るか。シノの時でさえ術を使った時は神の加護は意志を持ってシノを攻撃してきたのだ。レオニスにこれ以上のリスクは背負わせられない。
しかし、相変わらず絵面が悪いな。黒髑髏の中に囚われたレオニスの姿だ。黒いローブで覆われてはいるものの見え隠れはしている。これを聖女たちがどう思うか。この状況なら推察するまでもない。
それがこの聖女の守りが消えた時に知る事が出来た。
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完全に乱戦だ。怒り狂った聖女たちと魔物側が飛び出して全力の殴り合いだ。数はこちらが有利だが相手は聖女だ。だがそれでもこちらが有利なのが俺には知り得た。
聖女の質はピンキリだ。聖女というだけで全てがノーネームドという訳ではない。
大まかに分けて三つだ。
10人聖女。神官10人分の加護だ。これは俺が最強だと思っている汎用人間ユニットのマントグレートソードには及ばない。ハッキリ言えば聖女のカテゴリーには入らない。戦い方は聖女だがその性能が追い付いていない。潜伏していた大半がこのタイプだろう。
20人聖女。これは連携できる熟練した神官3人分だと考えていい。交易路の新型聖女戦に居た俺が首を取れずにいたあの神官たちだ。あのレベルと見ていい。確かに強力でしぶといが俺を仕留められるほどではない。単体というよりも連携して数を活かす戦い方だ。とにかくしぶとい戦い方だ。大盾と共に居た聖女だ。未だに落ちる様子が見えない。
30人聖女。これが明らかに破格な性能の俺達が聖女と呼ぶべき存在だ。単体での戦闘能力がずば抜けている。そしてその統率力。ノーネームドにこの大盾と性能も高いが指揮能力の高さの方も問題だ。コイツラが居るからこその作戦の立て方だ。コイツラが居なければ実現できない戦い方だ。
俺がグレートソードのノーネームドを倒せたのは運も大きい。情報不足の単騎突撃、そして大技。自身を討てる魔物が居るなどとは露ほども思っていなかったのだろうな。その油断を突けて倒せたに過ぎない。慢心がなければトドメを指す事は難しかっただろう。それはこの大盾聖女を見てもわかる。
それにしても大盾聖女は厄介だ。その大盾の振り回しは聖女の加護を纏って巨大だ。いうなれば魔剣機体の拳を振り回してるようなものだ。単純に大きさで避けるという選択肢が取れない。それが的確に間合いを読んでくることで、受けるか、弾くか。無視するという選択肢が取れない。もしそれを実行したのならこの巨大な聖女加護の塊で殴り続けられてスタン嵌め状態にされるだろう。格闘ゲームでいえば射程の長い弱攻撃を延々と浴びせてくるようなものだ。一度捉えられると抜け出せない。嫌らしい攻撃だがタンクとしては正解だ。一番の脅威を無力することがその役目だろうからな。
とはいえ俺のようなオーガ一匹にここまで時間をかけるのはどうだろうな。30人聖女の本領を発揮できていないと思うが。
だがここで俺は気付く。コイツラの目的だ。コイツラの目的は俺か?
長く魔物という存在になっていて気付かなかったが、ノーネームドの仇討ちと考えるとこの聖女だけの編成も納得がいく。そのような行動に人間が兵を裂くわけもなく、独断専行の可能性もある。
人間が攻勢に出るときは確実に勝ちを確信した時に限る。その前提は聖女には当てはまらないのかもしれないな。
そして、遂に本気を出してきた。
大盾が大盾を地面に突き立てるとその余波のような加護の壁が広がり足場を揺るがす。これ自体は大した事は無いが、足場を揺らされるのは魔物側だけで聖女の側には何も影響がない。つまりタンク名物スタン攻撃だ。威力はないが隙が出来る。味方が居てこそ輝くスキルだ。このスキを突かれている魔物も多い。だがアリエスは問題ない様だ。というよりもわかっていたのだろうな。
そして大盾に加護が集中する。完全に攻撃モードだ。加護の鎧の活性化すらせずに全ての加護を大盾に。捨て身の攻撃か。攻撃能力の低い大盾でトドメを狙うならここまでしないと足りないのだろうな。
加護で輝きだした大盾の纏う加護はさながら巨大な棘鉄球だ。ただの全周囲加護ではない。高度に練られて高質化し意のままに形を変える。いままでは撫で切るようにいなせていたが、その硬さと形状故に全力で叩き返さないと潰される。少しでも気を抜いたら相棒を取り落してお終いだろうな。立て直す事も出来ずに圧殺されるだろう。正直ここまで近接特化だとは思っていなかったな。
認めよう。こいつは俺よりも強い。
俺は即座に切り替える。大地の支配で地面を隆起させる。この慣らした大地では相手の方が有利だ。俺にも不利になるが地形を崩す以外にない。大盾聖女の最大の長所であった間合いの詰め方を封じられる。武器自体は長くはない。これで最大値のインパクトをずらす事が出来る。
だがそんなことは織り込み済みか。俺に投げつけられた大盾の加護が弱まっている。それを切り飛ばした先には肉弾戦を仕掛けてくる大盾聖女の姿だ。モンク聖女と改名した方がいいか。大盾を自在に操る素手格闘。宙を舞う大盾をフェイントと足場にして拳と蹴りに加護を纏わせている。モンクのような衝撃系ではない。純粋な加護の攻撃力だ。
本当に、コイツラは何と戦うためにここまでの戦闘力を磨いているのだ? あの人間の結界内は本当に安全なのか疑問を感じる。まさか人間の結界内は世界改変のコア持ちが跋扈してるのではないだろうな。そうでもなければこの聖女の対応能力は説明がつかない。
この状況でシノが動いた。
「王牙。魔王城殺しを使う。味方が下がったらマーキングを出す」
「この近距離でか?」
「そうだ。同時に神の加護を展開する。魔法への耐性は高いとはいえ絶対ではない。だが余波なら問題ないだろう。出来るならその大盾聖女に直撃を当てられるのが望ましいが、取り合えず三か所だ。そのマーキングに大盾聖女を巻き込めれば御の字だ」
「厳しいな。同時発動か?」
「そうだ。タイミングは任せたいが、リミットがくれば発動させる。準備だけしておけ」
俺が返事を返すと魔物が俺を先頭に両翼が下がっていく。その形に添うように三角のマーキングが出る。その場で耐えるのが最善か。だが聖女たちはそれに呼応するように下がる。これなら逆三角形に配置した方が良かったな。だが、その一点が大盾聖女と被る。
シノの魔王城殺しが発動する。
いつもの一瞬の爆音は神の加護に囲まれて把握することが出来ない。街は完全に廃墟と化し加護を展開した聖女たちが蹲っているのが見える。そして大盾聖女も膝をつく。直撃はしたが大盾の方か。
加護の守りが消えると同時に把握した情報は、大盾聖女の加護が軒並み消えて加護を纏わない大盾を盾に辛うじて立っているという事だ。
これは勝ったな。
だがそれはレオニスの悲鳴で遮られた。
「お母様!?」
後ろを見るとレオニス入りの黒髑髏が消滅している。
何故だ? 魔物の被害はほとんどない。何が起こっている?
黒髑髏から落りたレオニスがこちらに駆け寄る。
「シノ!?」
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撤退だ。俺はレオニスを掴むと戦場から離れる。
クソがァァァ!
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