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第九部 王牙転生Ⅱ~神亡き世界で流れる様に剣を振るう~
第百五章 居城
俺達は次の目標。平原に存在する平らな居城に攻め込んでいる。高さこそないものの面積だけを見れば聖王都並みだ。普通であれば見過ごすという事もないだろう。
それというのも人間の結界のスクリーン能力の高さだ。
言ってしまえば川を隠蔽していたのだ。俺が初めて人間の結界を突破した時に感じた違和感。異様なほど何もないというのは建造物だけではなかった。水の流れが隠蔽されていれば人の街にも気付けない。自然を隠蔽できるほどの性能だったのだろう。それが今や機能していない。結界の塔の破壊はこういう意味でも必要だったようだ。
今にして思えばレオニスが水浴びしていた泉も、水源はおろか流れるはずの川にさえ気付かなかった。生命維持の必要ない魔物だからこそ見過ごしていたな。それでもまさか川が隠蔽できるとは。神の代弁者であるリブラの世界の改変はそれほどに強力なのだろう。
俺達、異世界転生者が使う世界の改変はチートという異物。
神の代弁者であるリブラが使う世界の改変はいわば公式の仕様。
そもそもの土台が違うのだろうな。チーターと公式では比べるまでもないのだろうな。
そしてこの居城はまだ序盤。結界内での魔素ジェネレーターの設置という意味でも殲滅ではなく、占拠だ。髑髏部隊で吹き飛ばすのではなく、俺達地上ユニットで攻め立てている。
人間側は人間だけだな。聖女は勿論いる。
俺が確認できただけで30人分聖女が2体。槍と大盾。これが主力だろう。
そして20人分聖女は10人程度。ほぼ大盾聖女と組んでいる。相変わらず粘りを重視した落ちない戦い方だ。
だが10人分聖女は居ない。これは言わば新米聖女だ。ここの防衛には居ない。前回の大盾聖女に付いてきたのはやはりイレギュラーだったのだろう。本来実戦に出られるレベルではなかった。
残念というべきか、魔素人形は見当たらない。さもありなん。聖女が居れば必要ない。逆に邪魔だ。魔素人形は結界の外限定か。むしろ聖女が居ないからこそ必須だったともいえる。あの人間の英知がないのは俺的に残念だな。
後は基本的な前衛、ヒーラー、魔法使い。オーソドックスな構成だ。冒険者系で武装はまばらだが壁の外よりも装備の質が高そうに見える。
総じて死守というよりも撤退戦だろうな。守り切るよりも魔物への損害を出すのが目的だろう。この街に魔物用の罠が仕掛けてあっても俺は驚かない。人間の不自然な動きには注意だな。最悪この居城が大爆発なんて事もありえる。まだ阿修羅ゴリラやネームド聖女に匹敵する戦力もあるだろう。
対してこちらは魔物の王サタン・アリエスを中核にレオニスインシノ髑髏が主力だ。二大聖女が魔物になって襲ってくる。人間には最悪のシチュエーションだな。
アリエスの魔素の支配で人間の魔法系は妨害。レオニスを身に宿したシノもシノ自体が魔法使いを無力化できるうえにレオニスの加護で加護による攻撃も防げる。完全に防御と妨害にだけ力を使えば魔物の攻撃に反応する神呪の影響もないだろう。最悪レオニスが神呪の肩代わりも出来る。
聖女が出てきたと言っても魔法使いの魔法が強力な事に変わりはない。純粋な魔素の攻撃力は魔物にとって同属性だからこそ脅威だ。それを抑えられるアリエスとシノの組み合わせは戦場を純粋な肉弾戦に持ち込ませる。これは魔物側に有利だ。
魔物側の魔法は人間の神の加護と相性は最悪だ。髑髏レベルでないと話にならない。結局肉弾戦になる。
シノは完全に例外だな。前線に立ち、髑髏十体分の性能を誇りその使い方も多彩だ。レオニスを外せば聖女にすらダメージの通る魔法を扱う事が出来る。今回は占拠で使う事は無いだろうがな。
こうしてみると俺は味方に恵まれただけのただ一匹の鬼という評価は間違っていない。どう足掻いても大局を動かす力などない。客観的に見て俺の評価は高すぎる気がするがな。あの二人を見てこれを謙遜というのは無理があり過ぎる。
というわけで俺は槍聖女と一騎打ちだ。大盾聖女の方は魔物と人間、主力どうしのぶつかり合い。俺たちは遊撃どうしでぶつかり合いという訳だ。
一騎打ちと言っても俺がそう言っているだけで人間側がそんなことをする筈がない。人馬形態のジンバが弓で邪魔する人間を抑えている。本当に頼りになる味方に恵まれたものだ。
そして槍聖女の一撃が俺の顔を掠める。深く突いた一撃だ。
だがおかしい。槍というものは間合いを取ってこそ意味がある。
間合いを詰めるだと?
俺はそのまま前進し槍聖女の後ろに駆けだす。案の定だ。俺の後ろから加護が爆発する気配。あのまま槍聖女に攻撃を入れていたら、施された槍の先端からの爆発をもろに受けていただろう。一瞬でも遅れていたら致命傷だな。ヒーラーであるアリエスは最前線だ。他のヒーラーである蛇女の所に行けば槍聖女の餌食だろう。実質魔素の回復は出来ないと考えた方が良い。コイツを下がらせる以外に俺の生存の道はないな。
後ろに抜けた俺に槍聖女が猛烈なバックステップで施された槍の石突で攻撃してくる。先の加護爆発は範囲も狭く硬直も短い様だ。やはり槍は致死の一撃よりも手数か。とはいえあの槍を突き入れられて、体内からの加護爆発は俺でさえしばらく行動不能になるだろう。実質致死の一撃。俺にその種を見せるのは早すぎたと思うがな。早計か意図があってか。それを探りながら俺は石突の一撃を相棒のバスタードソードで捌く。振り返る槍聖女の黒髪ショートはそのためか。
槍聖女が本性を見せるのは早かった。
戦っていて何かおかしいと思っていたが、槍の穂先が異様なほどに曲がる。柄の柔軟性にしては柔らかすぎる。仮にこれが九十度に曲がったとしてそれほどの脅威ではない。そして打ちあった時はしっかりとした硬さがある。
何よりもおかしいのが間合いの取り方だ。槍など間合いの武器だと言っても過言ではない。それなのに大盾聖女よりも間合いの取り方が雑過ぎる。武器が長いが故の驕りとも取れるが、30人分聖女は一騎当千。こいつらでなければ出来ない戦い方をしてくる。
そして俺はそれを知ることになる。
俺は一瞬何が起きたのか把握できなかった。
槍の穂先が分解し、柄の方へと動く。分解した槍の刃が五つに別れ、五等分の刃がついた棒だ。多節棍、にしては刃の位置が妙だ。予想通り、柄も分解して五つの刃付き棒が出来あがる。それが湾曲し、円になり、刃付きの輪が五つ出来上がる。それが槍聖女の四肢と首にかけられる。そして回転を始める。
戦輪か!
投げられるより早く俺は一撃を食らわそうとするが、動きが読めない。四肢に付けられた戦輪が槍聖女の挙動になる。完全に人間の動きではない。槍聖女は体の力を抜き、戦輪に身を任せて浮いている。言わば戦輪が本体。人間の動きに惑わされなければ、と戦輪の動きに集中すると槍聖女の蹴りによって予測した戦輪の動きが人間の動きに変わる。
これは厄介だ。人体の構造を使った攻撃と、それを完全に無視した戦輪操作の一撃。これが合わさる事で予測が完全に立たない。動きに馴れた所を切り替えられる。これを読み切る頃には俺の体はボロボロだろうな。
一時下がり様子を見る。案の定、飛ばされた戦輪は予測不可能な程の挙動を描く。単なる加護操作なら読み切れるが、それに回転が加わって複数となると対処で手一杯だ。相棒の中腹を握って短く持ったスタイルで何とか対処している。
幸いなことに致死の一撃にはなりえない。この戦輪は刃の付いた輪だ。逆に言えば刃以外は無害。柄の部分は触れられる。
仕方がない。俺は卑怯な手を使う。世界の改変を使う。今この場に時限式の鉄の棒。握りがあるだけの長めの鉄鞭を作り上げると左手に持つ。そしてそれを戦輪の輪の中心に入れれば、成功だ。だがそれが暴れ出すと持っている事さえ困難になる。
たまらず手を離した時限式鉄鞭が、もう一つの戦輪を加えられてありえないような振動をしている。本来ならこれで折れていたのだろう。もしも魔物武器の脇差を使っていたら間違いなく破壊されていたな。
だが、チャンスだ。時限式鉄鞭が戦輪を二つ抑えている。
槍聖女の動きは機敏だった。俺との間に時限式鉄鞭を挟み込むと戦輪が加護爆発を起こす。それまでビクともしていなかった時限式鉄鞭が跡形もなく消える。
これは・・・。世界の改変で生み出した時限式武器は施された武器とは打ち合える。だが加護の攻撃には弱い。神の加護は世界の改変に強いという事が証明されたな。
打つ手なしか。
俺は腹をくくる。こうなれば策は無し。
左手に盾を変形させたシザース。それに射出用脇差をセット。腰の後ろに魔素アンカーを用意。文字通りの肉弾戦だ。
俺は魔素アンカーを槍聖女に繋げると肉薄する。やはり五つの加護武器を操作しているのだ、聖女本体に加護はない。
魔素アンカーはそのまま垂らしている状態だ。限界まで伸び切るか、何かで鎖部分を巻き上げないと特に効果はない。効果はないが槍聖女のアクションが引き出せればそれでいい。
防御を捨て、完全に攻撃に回った俺に聖女は追従してくる。俺の魔素を燃やした一撃でさえ読み切り受け止めてくる。だがそれでいい。持久戦だ。聖女の加護が切れるのが先か。俺の魔素が切れるのが先か。戦輪の回転が鈍り始めている。この戦い方なら槍の間合いなどいらんのだろうな。五つの加護武器を同時に操るなど聖女の中でも、? 五つ? こいつは四肢の四つしか使っていない。この首にかけた戦輪はなんだ?
俺は残った魔素アンカーを聖女の首戦輪にかけるとその鎖を相棒で巻き取る。それは回転する刃に裂かれてすぐに消滅したが、俺は見ていた。魔素アンカーが消える寸前、巻き取られて回転が鈍った時に操作しているであろう戦輪だけが同時に回転が鈍った。
つまり非操作は回転しているだけ、加護操作は首の戦輪とリンクしている。
首の戦輪と連動していない戦輪は非操作状態だ。
やはりだ。五つ全て同時には操れない。順番に動かしている。それが分かっただけでも上等だ。
非操作の戦輪を叩けば回転が落ちて制御不能。そこに槍聖女がリカバリーを入れれば他の戦輪は非操作状態。これを繰り返せば、戦輪は制御不能になる。
戦輪が地に落ちると槍聖女は自身に加護を発生させる。それは繋いでいた魔素アンカーが切断されたことでいち早く俺は知ることができる。
お前を殺せる一撃の時間をだ!
左を突き入れる様にシザースで槍聖女を掴む。聖女の加護でさえ切り裂きその身を掴む対聖女用の武器だ。そして脇差を射出。それが槍聖女に届く前に、そのわずかな隙間に矢の一撃が入り込み、急所をずらす。
その後も流れる様に矢が飛んでくる。
「王牙様!」
ジンバの声だ。相手の矢を迎撃している。建物の影から曲射か。その気を取られた一瞬で槍聖女がシザースから抜け出す。その手にはいつの間にか槍。急所は外しているが虫の息だ。加護ももう限界だろう。トドメなら今だ。
クッ。二兎を追う者は一兎も得ずか。
槍はもういい。今は射手だ。アレを止めないと損害が大きい。ネームド聖女弓兵か? ジンバが居なければやられていたぞ。
「ジンバ! 奴を狩る! 手を貸してくれ!」
ジンバは頷くとポジショニングを変えていく。俺はシザースを盾に変える。俺を狙う矢はこれで防げる。そしてヘイトはジンバへ。それを確認して俺は疾走する。
取り合えずは接敵だ。この弓の放置は出来ん。
それというのも人間の結界のスクリーン能力の高さだ。
言ってしまえば川を隠蔽していたのだ。俺が初めて人間の結界を突破した時に感じた違和感。異様なほど何もないというのは建造物だけではなかった。水の流れが隠蔽されていれば人の街にも気付けない。自然を隠蔽できるほどの性能だったのだろう。それが今や機能していない。結界の塔の破壊はこういう意味でも必要だったようだ。
今にして思えばレオニスが水浴びしていた泉も、水源はおろか流れるはずの川にさえ気付かなかった。生命維持の必要ない魔物だからこそ見過ごしていたな。それでもまさか川が隠蔽できるとは。神の代弁者であるリブラの世界の改変はそれほどに強力なのだろう。
俺達、異世界転生者が使う世界の改変はチートという異物。
神の代弁者であるリブラが使う世界の改変はいわば公式の仕様。
そもそもの土台が違うのだろうな。チーターと公式では比べるまでもないのだろうな。
そしてこの居城はまだ序盤。結界内での魔素ジェネレーターの設置という意味でも殲滅ではなく、占拠だ。髑髏部隊で吹き飛ばすのではなく、俺達地上ユニットで攻め立てている。
人間側は人間だけだな。聖女は勿論いる。
俺が確認できただけで30人分聖女が2体。槍と大盾。これが主力だろう。
そして20人分聖女は10人程度。ほぼ大盾聖女と組んでいる。相変わらず粘りを重視した落ちない戦い方だ。
だが10人分聖女は居ない。これは言わば新米聖女だ。ここの防衛には居ない。前回の大盾聖女に付いてきたのはやはりイレギュラーだったのだろう。本来実戦に出られるレベルではなかった。
残念というべきか、魔素人形は見当たらない。さもありなん。聖女が居れば必要ない。逆に邪魔だ。魔素人形は結界の外限定か。むしろ聖女が居ないからこそ必須だったともいえる。あの人間の英知がないのは俺的に残念だな。
後は基本的な前衛、ヒーラー、魔法使い。オーソドックスな構成だ。冒険者系で武装はまばらだが壁の外よりも装備の質が高そうに見える。
総じて死守というよりも撤退戦だろうな。守り切るよりも魔物への損害を出すのが目的だろう。この街に魔物用の罠が仕掛けてあっても俺は驚かない。人間の不自然な動きには注意だな。最悪この居城が大爆発なんて事もありえる。まだ阿修羅ゴリラやネームド聖女に匹敵する戦力もあるだろう。
対してこちらは魔物の王サタン・アリエスを中核にレオニスインシノ髑髏が主力だ。二大聖女が魔物になって襲ってくる。人間には最悪のシチュエーションだな。
アリエスの魔素の支配で人間の魔法系は妨害。レオニスを身に宿したシノもシノ自体が魔法使いを無力化できるうえにレオニスの加護で加護による攻撃も防げる。完全に防御と妨害にだけ力を使えば魔物の攻撃に反応する神呪の影響もないだろう。最悪レオニスが神呪の肩代わりも出来る。
聖女が出てきたと言っても魔法使いの魔法が強力な事に変わりはない。純粋な魔素の攻撃力は魔物にとって同属性だからこそ脅威だ。それを抑えられるアリエスとシノの組み合わせは戦場を純粋な肉弾戦に持ち込ませる。これは魔物側に有利だ。
魔物側の魔法は人間の神の加護と相性は最悪だ。髑髏レベルでないと話にならない。結局肉弾戦になる。
シノは完全に例外だな。前線に立ち、髑髏十体分の性能を誇りその使い方も多彩だ。レオニスを外せば聖女にすらダメージの通る魔法を扱う事が出来る。今回は占拠で使う事は無いだろうがな。
こうしてみると俺は味方に恵まれただけのただ一匹の鬼という評価は間違っていない。どう足掻いても大局を動かす力などない。客観的に見て俺の評価は高すぎる気がするがな。あの二人を見てこれを謙遜というのは無理があり過ぎる。
というわけで俺は槍聖女と一騎打ちだ。大盾聖女の方は魔物と人間、主力どうしのぶつかり合い。俺たちは遊撃どうしでぶつかり合いという訳だ。
一騎打ちと言っても俺がそう言っているだけで人間側がそんなことをする筈がない。人馬形態のジンバが弓で邪魔する人間を抑えている。本当に頼りになる味方に恵まれたものだ。
そして槍聖女の一撃が俺の顔を掠める。深く突いた一撃だ。
だがおかしい。槍というものは間合いを取ってこそ意味がある。
間合いを詰めるだと?
俺はそのまま前進し槍聖女の後ろに駆けだす。案の定だ。俺の後ろから加護が爆発する気配。あのまま槍聖女に攻撃を入れていたら、施された槍の先端からの爆発をもろに受けていただろう。一瞬でも遅れていたら致命傷だな。ヒーラーであるアリエスは最前線だ。他のヒーラーである蛇女の所に行けば槍聖女の餌食だろう。実質魔素の回復は出来ないと考えた方が良い。コイツを下がらせる以外に俺の生存の道はないな。
後ろに抜けた俺に槍聖女が猛烈なバックステップで施された槍の石突で攻撃してくる。先の加護爆発は範囲も狭く硬直も短い様だ。やはり槍は致死の一撃よりも手数か。とはいえあの槍を突き入れられて、体内からの加護爆発は俺でさえしばらく行動不能になるだろう。実質致死の一撃。俺にその種を見せるのは早すぎたと思うがな。早計か意図があってか。それを探りながら俺は石突の一撃を相棒のバスタードソードで捌く。振り返る槍聖女の黒髪ショートはそのためか。
槍聖女が本性を見せるのは早かった。
戦っていて何かおかしいと思っていたが、槍の穂先が異様なほどに曲がる。柄の柔軟性にしては柔らかすぎる。仮にこれが九十度に曲がったとしてそれほどの脅威ではない。そして打ちあった時はしっかりとした硬さがある。
何よりもおかしいのが間合いの取り方だ。槍など間合いの武器だと言っても過言ではない。それなのに大盾聖女よりも間合いの取り方が雑過ぎる。武器が長いが故の驕りとも取れるが、30人分聖女は一騎当千。こいつらでなければ出来ない戦い方をしてくる。
そして俺はそれを知ることになる。
俺は一瞬何が起きたのか把握できなかった。
槍の穂先が分解し、柄の方へと動く。分解した槍の刃が五つに別れ、五等分の刃がついた棒だ。多節棍、にしては刃の位置が妙だ。予想通り、柄も分解して五つの刃付き棒が出来あがる。それが湾曲し、円になり、刃付きの輪が五つ出来上がる。それが槍聖女の四肢と首にかけられる。そして回転を始める。
戦輪か!
投げられるより早く俺は一撃を食らわそうとするが、動きが読めない。四肢に付けられた戦輪が槍聖女の挙動になる。完全に人間の動きではない。槍聖女は体の力を抜き、戦輪に身を任せて浮いている。言わば戦輪が本体。人間の動きに惑わされなければ、と戦輪の動きに集中すると槍聖女の蹴りによって予測した戦輪の動きが人間の動きに変わる。
これは厄介だ。人体の構造を使った攻撃と、それを完全に無視した戦輪操作の一撃。これが合わさる事で予測が完全に立たない。動きに馴れた所を切り替えられる。これを読み切る頃には俺の体はボロボロだろうな。
一時下がり様子を見る。案の定、飛ばされた戦輪は予測不可能な程の挙動を描く。単なる加護操作なら読み切れるが、それに回転が加わって複数となると対処で手一杯だ。相棒の中腹を握って短く持ったスタイルで何とか対処している。
幸いなことに致死の一撃にはなりえない。この戦輪は刃の付いた輪だ。逆に言えば刃以外は無害。柄の部分は触れられる。
仕方がない。俺は卑怯な手を使う。世界の改変を使う。今この場に時限式の鉄の棒。握りがあるだけの長めの鉄鞭を作り上げると左手に持つ。そしてそれを戦輪の輪の中心に入れれば、成功だ。だがそれが暴れ出すと持っている事さえ困難になる。
たまらず手を離した時限式鉄鞭が、もう一つの戦輪を加えられてありえないような振動をしている。本来ならこれで折れていたのだろう。もしも魔物武器の脇差を使っていたら間違いなく破壊されていたな。
だが、チャンスだ。時限式鉄鞭が戦輪を二つ抑えている。
槍聖女の動きは機敏だった。俺との間に時限式鉄鞭を挟み込むと戦輪が加護爆発を起こす。それまでビクともしていなかった時限式鉄鞭が跡形もなく消える。
これは・・・。世界の改変で生み出した時限式武器は施された武器とは打ち合える。だが加護の攻撃には弱い。神の加護は世界の改変に強いという事が証明されたな。
打つ手なしか。
俺は腹をくくる。こうなれば策は無し。
左手に盾を変形させたシザース。それに射出用脇差をセット。腰の後ろに魔素アンカーを用意。文字通りの肉弾戦だ。
俺は魔素アンカーを槍聖女に繋げると肉薄する。やはり五つの加護武器を操作しているのだ、聖女本体に加護はない。
魔素アンカーはそのまま垂らしている状態だ。限界まで伸び切るか、何かで鎖部分を巻き上げないと特に効果はない。効果はないが槍聖女のアクションが引き出せればそれでいい。
防御を捨て、完全に攻撃に回った俺に聖女は追従してくる。俺の魔素を燃やした一撃でさえ読み切り受け止めてくる。だがそれでいい。持久戦だ。聖女の加護が切れるのが先か。俺の魔素が切れるのが先か。戦輪の回転が鈍り始めている。この戦い方なら槍の間合いなどいらんのだろうな。五つの加護武器を同時に操るなど聖女の中でも、? 五つ? こいつは四肢の四つしか使っていない。この首にかけた戦輪はなんだ?
俺は残った魔素アンカーを聖女の首戦輪にかけるとその鎖を相棒で巻き取る。それは回転する刃に裂かれてすぐに消滅したが、俺は見ていた。魔素アンカーが消える寸前、巻き取られて回転が鈍った時に操作しているであろう戦輪だけが同時に回転が鈍った。
つまり非操作は回転しているだけ、加護操作は首の戦輪とリンクしている。
首の戦輪と連動していない戦輪は非操作状態だ。
やはりだ。五つ全て同時には操れない。順番に動かしている。それが分かっただけでも上等だ。
非操作の戦輪を叩けば回転が落ちて制御不能。そこに槍聖女がリカバリーを入れれば他の戦輪は非操作状態。これを繰り返せば、戦輪は制御不能になる。
戦輪が地に落ちると槍聖女は自身に加護を発生させる。それは繋いでいた魔素アンカーが切断されたことでいち早く俺は知ることができる。
お前を殺せる一撃の時間をだ!
左を突き入れる様にシザースで槍聖女を掴む。聖女の加護でさえ切り裂きその身を掴む対聖女用の武器だ。そして脇差を射出。それが槍聖女に届く前に、そのわずかな隙間に矢の一撃が入り込み、急所をずらす。
その後も流れる様に矢が飛んでくる。
「王牙様!」
ジンバの声だ。相手の矢を迎撃している。建物の影から曲射か。その気を取られた一瞬で槍聖女がシザースから抜け出す。その手にはいつの間にか槍。急所は外しているが虫の息だ。加護ももう限界だろう。トドメなら今だ。
クッ。二兎を追う者は一兎も得ずか。
槍はもういい。今は射手だ。アレを止めないと損害が大きい。ネームド聖女弓兵か? ジンバが居なければやられていたぞ。
「ジンバ! 奴を狩る! 手を貸してくれ!」
ジンバは頷くとポジショニングを変えていく。俺はシザースを盾に変える。俺を狙う矢はこれで防げる。そしてヘイトはジンバへ。それを確認して俺は疾走する。
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