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第一部 チュートリアル
序章 チュートリアル
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騒々しい喧騒と怒号で目を覚ます。ここは何処だったか?
俺の最後の記憶は自身の死と深く沈んでいく感覚。そして、
ーー俺は鬼になる。
という自分の言葉。
そうだ。俺は今、鬼になった。この巨大な体躯。角、爪、牙。どれもが人間では成し得ない。
その巨大な力に溢れた体が目を覚ます。五感はある。だが人間とはまるで違う感覚だ。血のように赤い手足が俺の目に映る。
今の俺は片膝をついて蹲っている。頭を上げ、上体を起こし、腰を上げていく。そこから見える景色は正に戦場だった。
人間と鬼の戦い。大体俺たち鬼の大きさは人間と比べると3、4メートルくらいか。起伏のある平原に焼け焦げた跡が多数見られる。人間達を囲んでの物量戦だな。
つまり俺は魔物側。人間を潰し、食らい、追い詰めていく。その為に俺と言う魔物に成り果てたのだ。
さて、俺も参戦するべきだな。俺の持ち物と言えば腰布と手甲と脛当て。これは俺が具現化している装備のようなものだ。自身の体の一部ではない。
武器が無いが・・・。
周りを見渡していると同族が足元の大地から石の棍棒を生成しているのが見て取れる。あれは俺にも出来るのか?
見よう見まねで大地に手を当て石の棍棒を懇願する。ジワっと何かが地面に浸透していく。
これは、そうか。地面から力を借りるのではなく、地面を、大地を侵食して支配していく感じか。この大地を俺のものにする。ここにある土は石の塊。俺が降るのに丁度いい棍棒となる。俺がそう命じる。幾ばくかの抵抗はあったものの俺が望んだ形の棍棒が出来上がった。
まあこんなものだろう。人間如きを相手にするならこの程度でも問題あるまい。俺はそれを手に戦場に参戦する。
さあ、蹂躙劇の始まりだ!
そのはずだったのだが・・・。
俺は肩慣らしに丁度良さそうな戦士風の人間と戦っているが、相手の持つ身の丈程のグレートソードと打ち合う度に石の棍棒が崩れていく。しかもこの棍棒、俺が全力で振ると間違いなく折れるな。加減して振るい、何とか打ち合っているが、勝てるビジョンが見えない。
なんか人間強くね?
相手の剣をいなしながら周りを見ているが・・・。
もしかして魔物側劣勢じゃね?
同族が打ち倒されて霧散していくのが見える。俺たち魔物は死体が残らない。魔素の塊のようなものだからだ。それは意識しなくても自分でわかる。
マズいな。こんな石の棒切れじゃ勝てんぞ。何か他の武器は・・・。
集中が途切れたせいか俺は加減して振っていた石棒を力を込めて振ってしまう。バキッと言う音と共に根元から折れる石。
マズった!
俺は中空に浮いた元棍棒に掌底を食らわす。不意打ちにはなったがそれが戦士の予想を超えた一撃だったのは間違いない。吹き飛ばした石棒が直撃する。その体勢の崩れを見逃す俺ではない。そのまま握りしめた拳を叩きつけるのだが・・・
なんだこれは?
何か膜のようなものがある。
これは何かの加護か?
それを察した俺は打撃ではなく掴み技に変えるのだが、それも膜が機能して掴めない。
これは、無効化されているわけじゃない。軽減だ。この掴めないというのも単純に相手の体に届かないだけだ。本気で掴みにかかれば届くだろうが、それはあまりにも危険だ。素手で得物を持った相手に肉薄など出来ん。
周りはどうしているのか見まわすとやはり劣勢だな。体躯はこちらが上だが武器が無い上に今は数も人間の方が多い。倒されている同族を見てると関節だな。特に膝。そこを砕かれ蹲った所で首を落とされている。
それを見て自分の体に今一度感覚を巡らせていく。
この体は魔素だ。それが筋肉となり脳となり動かしている。しかしその奥に骨がある。魔素を高質化した骨を基に魔素の筋肉が覆っている形だ。つまり可動部の間接部分は人間同様脆い。ここが俺の弱点か。
体勢を取り戻した戦士が真っ先に狙うのが俺の膝。そのグレートソードで膝を砕けば俺は歩けなくなり相手の勝ちが確定する。だがそれは骨を断つほどの威力がないという事を証明しているようなものだ。
俺は固めようとした拳を解いた。横凪に迫る相手のグレートソードに掌底を食らわし押し下げる。なんとか膝よりも下の脛に軌道を逸らす。
痛ぇ! 痛みは無いがそれでも痛ぇ!
思わず咆哮を上げてしまったが俺の読みは正しかった。脛にめり込んだグレートソードは俺の骨を断ち切れずに止まった。そう、相手の得物はこれで封じた。
後はこの加護を突破するだけだがその武器が無い。拳が使えないならこの爪は?
爪を振るおうとすると頭にイメージが浮かび上がる。この爪から魔素を放出してこの加護を突破するイメージだ。俺は迷わずイメージ通りに爪を振るう。加護を貫く感覚とその肉を抉った感触。俺の勝ちだな。
血が噴き出した戦士の体に蹴りを入れると俺は脛に刺さったグレートソードを抜いた。
これなら俺の武器になるかとも思ったが駄目だな。握りが小さくて持てないのは勿論、刃の部分も何かを施してある。ここを握って殴るというのは無理そうだ。
また武器を探さなくてはいけないな。トンっと足で地面を打って新しい石の棍棒を生み出す。これはこれで便利だが所詮は石だ。砂が固まっただけの代物に過ぎない。やはり金属じゃないとな。粘りのある剛性のあの感覚。握りも爪を考慮して大きくしなければいけないだろう。問題は山積みだな。
さっきは一人だったから何とかなったが、パーティ相手は相当に厳しいな。
人間側はRPGの四人パーティ構成を大人数でこなしている状況だな。前衛の戦士団。後衛の神官と魔法使い。厄介なのはヒーラーだな。さっきの爪で貫いた戦士も前線に参加している。加護を打ち破り致命傷を与えても蘇生が可能という事だな。
つまるところ前線が下がってきている。
崩そうにも戦士は強いわ。回復されるわで後衛に何一つ届かない。石の棍棒を投げても加護の壁が出て来て防がれてしまった。幸いなのが人間側も飛び道具を使って来ない事だな。
魔物の体には内臓がない。骨と筋肉だけだ。弓矢の攻撃を受けたとて臓器を貫かれる事は無い。ましてや関節を砕くような威力は出せないだろう。
だがさっきの剣もそうだが、人間の武器は魔物用に何かの対策が施されてる。浄化とでもいうべきだろうか、魔素を断ち切る何かだろうな。ただの鉄の塊ではない。矢の方は浄化の施しを受けた矢を大量に生産することが出来るのか疑問だ。施された武器は使い捨て出来るような代物には感じられなかったものな。
膠着と言いたいが既に敗退状態だな。こちらの数が減ってる上に増援が無い。俺も今は全力で殴れない石の棍棒を片手持ちで二刀流している。これなら自身の力で折れる事も少ないだろう。手数も増やせる。スペックが人間より上回っているからこその芸当だな。大地の支配は今の所切れる様子はない。MPというよりもCTのあるスキルのような感じだな。投げて使えるくらいには余裕をもって生み出せる。
なんにしても気分はボスのようなものだな。最前線で多数の敵を相手取るのは正に多勢にボコられるRPGのボスそのものだ。
しかしこのしんがりも時間の問題だな。こちらの数が減って段々と包囲されているのがわかる。下がってはいるのだがそのぶん詰められている。周りの同族が持ちこたえられていないな。援護しようにも自分の所で手一杯。後ろを取られないように立ち回るので精一杯だな。
それにしてもこの物語は魔物に転生して人間相手に無双ファンタジーの流れじゃないのか。人間が強すぎなんだが。物量戦で勝ち目がないほど魔物側は不利なのはこちらが主人公じゃないからか?
俺が転生した時の願いは何だったんだろうな。少なくともゲームの雑魚敵になってやられ役なんてのはありえないだろう。鬼になるとはどういう事だったのか。確か・・・
魔物の体は内臓が無いぶん睡眠も食事も休養も必要ない。それでも隙は出来てしまった。
それに気づいたのは魔物の感性によるものだった。それがいままで身を潜めていた魔法使いの魔法を敏感に察知した。だがそれも一瞬の遅れが全てを無駄にしてしまう。魔法使い達の詠唱は終わっている。もうすでに発動している。
それに俺が気付かなかったのは標的が俺自身ではないからだ。これは俗に言う床魔法だ。標的を地面にすることで発動を悟らせない。RPGのボスが良く使う床と戦うヤツだ。それがまったく関係ない所で発動して、その円が巨大になったら。そして自分がその中に居たら。つまりそういう事だ。
万事休す。魔法の内容を一瞬で見抜くとその言葉しか出ない。魔法使いの魔法とは魔素のコントロールに他ならない。自分の制御下における魔素を自在に操り攻撃に使う。魔素の塊である魔物には効果てきめん。同属性だからこそ下手な浄化などよりも効率的に魔物を攻撃できる。少なくとも俺、いや鬼の特性上魔法使いの制御下にある魔素のコントロールを奪うなどという芸当は到底無理だろう。俺に出来るのは大地の支配のみ。
だがやってみる価値はありそうか。俺はありったけの石の棍棒を作り上げる。そして大地を陥没させる。これが爆発なら効果はあるが魔法に効果があるのかはこれから知ることになるだろう。
俺には祈るべき神が居たのだろうか。ただ自身を信じるのみ。そして魔法が発動した。
轟音、熱風、石が砕ける音。だがそれは意外にも短い時間だった。
もし逃げるのならこの隙を置いて他はない。俺は砂の固まりになった棍棒を砕くと地面に踊り出た。
一言で言えば酷い有様だった。全てが焼け焦げていた。同族はもう一欠けらも残ってない。潮時だな。だがそれでも人間どもはぴんぴんしている。魔素による攻撃に対抗してしかるべきか。魔法使いの卓越した魔素のコントロールゆえか。完全な窮地だな。
それでも一歩は踏み出さないといけないのだろう。俺は手近な戦士に爪を食らわす。加護を抜き、致命傷を与える。だがそれだけでは駄目だ。これではまた蘇生されてしまう。完全に命を絶たなければならない。その方法を俺は知っている。爪の次は牙だ。
加護を抜いた戦士の体を持ち上げる。そして俺は口を開き。
「死んでたまるか!!!」
その言葉と終了と同時に俺は噛み砕いた。命を終わらせた味。それを吐き出すと首を失った体を左手で掴み盾にする。この鎧を着た体は良い盾になるだろう。逆上した人間どもが襲い掛かって来る。それを返り討ちにし、また噛み砕く。この行為こそが蘇生を防ぐ唯一の手段だからだ。
多くの死体が積みあがる中、当然の如く次の魔法がやって来る。次は確実に対策をしてくるだろう。だが俺には一つだけ勝算がある。魔素に長けた魔法使いにどう対処するか。
答えはコレだ。奴らの死体を持ち上げて、振りかぶり、投げつける。
コイツラの装備は魔素の対抗を施したものだ。それを高速で投げつければ魔法使いに対処は出来ない。死体には出来ずとも致命傷にはなっただろう。残る死体は6発。これで魔法使いを無力化出来れば致死の一撃は来ないだろう。
せいぜい役に立ってもらおうか。これで長い長いチュートリアルは漸く終わりだな。
▽
Tips
神の加護
いわゆる人間のHP。これがあるうちは戦闘不能にできないが魔物同様、部位破壊や一撃死は出来る。魔法とは技術体系が違う。
魔物
基本的に魔素というHPを削り取ると倒せるが骨の破壊という部位破壊や首を落として消滅させることもできる。
俺の最後の記憶は自身の死と深く沈んでいく感覚。そして、
ーー俺は鬼になる。
という自分の言葉。
そうだ。俺は今、鬼になった。この巨大な体躯。角、爪、牙。どれもが人間では成し得ない。
その巨大な力に溢れた体が目を覚ます。五感はある。だが人間とはまるで違う感覚だ。血のように赤い手足が俺の目に映る。
今の俺は片膝をついて蹲っている。頭を上げ、上体を起こし、腰を上げていく。そこから見える景色は正に戦場だった。
人間と鬼の戦い。大体俺たち鬼の大きさは人間と比べると3、4メートルくらいか。起伏のある平原に焼け焦げた跡が多数見られる。人間達を囲んでの物量戦だな。
つまり俺は魔物側。人間を潰し、食らい、追い詰めていく。その為に俺と言う魔物に成り果てたのだ。
さて、俺も参戦するべきだな。俺の持ち物と言えば腰布と手甲と脛当て。これは俺が具現化している装備のようなものだ。自身の体の一部ではない。
武器が無いが・・・。
周りを見渡していると同族が足元の大地から石の棍棒を生成しているのが見て取れる。あれは俺にも出来るのか?
見よう見まねで大地に手を当て石の棍棒を懇願する。ジワっと何かが地面に浸透していく。
これは、そうか。地面から力を借りるのではなく、地面を、大地を侵食して支配していく感じか。この大地を俺のものにする。ここにある土は石の塊。俺が降るのに丁度いい棍棒となる。俺がそう命じる。幾ばくかの抵抗はあったものの俺が望んだ形の棍棒が出来上がった。
まあこんなものだろう。人間如きを相手にするならこの程度でも問題あるまい。俺はそれを手に戦場に参戦する。
さあ、蹂躙劇の始まりだ!
そのはずだったのだが・・・。
俺は肩慣らしに丁度良さそうな戦士風の人間と戦っているが、相手の持つ身の丈程のグレートソードと打ち合う度に石の棍棒が崩れていく。しかもこの棍棒、俺が全力で振ると間違いなく折れるな。加減して振るい、何とか打ち合っているが、勝てるビジョンが見えない。
なんか人間強くね?
相手の剣をいなしながら周りを見ているが・・・。
もしかして魔物側劣勢じゃね?
同族が打ち倒されて霧散していくのが見える。俺たち魔物は死体が残らない。魔素の塊のようなものだからだ。それは意識しなくても自分でわかる。
マズいな。こんな石の棒切れじゃ勝てんぞ。何か他の武器は・・・。
集中が途切れたせいか俺は加減して振っていた石棒を力を込めて振ってしまう。バキッと言う音と共に根元から折れる石。
マズった!
俺は中空に浮いた元棍棒に掌底を食らわす。不意打ちにはなったがそれが戦士の予想を超えた一撃だったのは間違いない。吹き飛ばした石棒が直撃する。その体勢の崩れを見逃す俺ではない。そのまま握りしめた拳を叩きつけるのだが・・・
なんだこれは?
何か膜のようなものがある。
これは何かの加護か?
それを察した俺は打撃ではなく掴み技に変えるのだが、それも膜が機能して掴めない。
これは、無効化されているわけじゃない。軽減だ。この掴めないというのも単純に相手の体に届かないだけだ。本気で掴みにかかれば届くだろうが、それはあまりにも危険だ。素手で得物を持った相手に肉薄など出来ん。
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俺は固めようとした拳を解いた。横凪に迫る相手のグレートソードに掌底を食らわし押し下げる。なんとか膝よりも下の脛に軌道を逸らす。
痛ぇ! 痛みは無いがそれでも痛ぇ!
思わず咆哮を上げてしまったが俺の読みは正しかった。脛にめり込んだグレートソードは俺の骨を断ち切れずに止まった。そう、相手の得物はこれで封じた。
後はこの加護を突破するだけだがその武器が無い。拳が使えないならこの爪は?
爪を振るおうとすると頭にイメージが浮かび上がる。この爪から魔素を放出してこの加護を突破するイメージだ。俺は迷わずイメージ通りに爪を振るう。加護を貫く感覚とその肉を抉った感触。俺の勝ちだな。
血が噴き出した戦士の体に蹴りを入れると俺は脛に刺さったグレートソードを抜いた。
これなら俺の武器になるかとも思ったが駄目だな。握りが小さくて持てないのは勿論、刃の部分も何かを施してある。ここを握って殴るというのは無理そうだ。
また武器を探さなくてはいけないな。トンっと足で地面を打って新しい石の棍棒を生み出す。これはこれで便利だが所詮は石だ。砂が固まっただけの代物に過ぎない。やはり金属じゃないとな。粘りのある剛性のあの感覚。握りも爪を考慮して大きくしなければいけないだろう。問題は山積みだな。
さっきは一人だったから何とかなったが、パーティ相手は相当に厳しいな。
人間側はRPGの四人パーティ構成を大人数でこなしている状況だな。前衛の戦士団。後衛の神官と魔法使い。厄介なのはヒーラーだな。さっきの爪で貫いた戦士も前線に参加している。加護を打ち破り致命傷を与えても蘇生が可能という事だな。
つまるところ前線が下がってきている。
崩そうにも戦士は強いわ。回復されるわで後衛に何一つ届かない。石の棍棒を投げても加護の壁が出て来て防がれてしまった。幸いなのが人間側も飛び道具を使って来ない事だな。
魔物の体には内臓がない。骨と筋肉だけだ。弓矢の攻撃を受けたとて臓器を貫かれる事は無い。ましてや関節を砕くような威力は出せないだろう。
だがさっきの剣もそうだが、人間の武器は魔物用に何かの対策が施されてる。浄化とでもいうべきだろうか、魔素を断ち切る何かだろうな。ただの鉄の塊ではない。矢の方は浄化の施しを受けた矢を大量に生産することが出来るのか疑問だ。施された武器は使い捨て出来るような代物には感じられなかったものな。
膠着と言いたいが既に敗退状態だな。こちらの数が減ってる上に増援が無い。俺も今は全力で殴れない石の棍棒を片手持ちで二刀流している。これなら自身の力で折れる事も少ないだろう。手数も増やせる。スペックが人間より上回っているからこその芸当だな。大地の支配は今の所切れる様子はない。MPというよりもCTのあるスキルのような感じだな。投げて使えるくらいには余裕をもって生み出せる。
なんにしても気分はボスのようなものだな。最前線で多数の敵を相手取るのは正に多勢にボコられるRPGのボスそのものだ。
しかしこのしんがりも時間の問題だな。こちらの数が減って段々と包囲されているのがわかる。下がってはいるのだがそのぶん詰められている。周りの同族が持ちこたえられていないな。援護しようにも自分の所で手一杯。後ろを取られないように立ち回るので精一杯だな。
それにしてもこの物語は魔物に転生して人間相手に無双ファンタジーの流れじゃないのか。人間が強すぎなんだが。物量戦で勝ち目がないほど魔物側は不利なのはこちらが主人公じゃないからか?
俺が転生した時の願いは何だったんだろうな。少なくともゲームの雑魚敵になってやられ役なんてのはありえないだろう。鬼になるとはどういう事だったのか。確か・・・
魔物の体は内臓が無いぶん睡眠も食事も休養も必要ない。それでも隙は出来てしまった。
それに気づいたのは魔物の感性によるものだった。それがいままで身を潜めていた魔法使いの魔法を敏感に察知した。だがそれも一瞬の遅れが全てを無駄にしてしまう。魔法使い達の詠唱は終わっている。もうすでに発動している。
それに俺が気付かなかったのは標的が俺自身ではないからだ。これは俗に言う床魔法だ。標的を地面にすることで発動を悟らせない。RPGのボスが良く使う床と戦うヤツだ。それがまったく関係ない所で発動して、その円が巨大になったら。そして自分がその中に居たら。つまりそういう事だ。
万事休す。魔法の内容を一瞬で見抜くとその言葉しか出ない。魔法使いの魔法とは魔素のコントロールに他ならない。自分の制御下における魔素を自在に操り攻撃に使う。魔素の塊である魔物には効果てきめん。同属性だからこそ下手な浄化などよりも効率的に魔物を攻撃できる。少なくとも俺、いや鬼の特性上魔法使いの制御下にある魔素のコントロールを奪うなどという芸当は到底無理だろう。俺に出来るのは大地の支配のみ。
だがやってみる価値はありそうか。俺はありったけの石の棍棒を作り上げる。そして大地を陥没させる。これが爆発なら効果はあるが魔法に効果があるのかはこれから知ることになるだろう。
俺には祈るべき神が居たのだろうか。ただ自身を信じるのみ。そして魔法が発動した。
轟音、熱風、石が砕ける音。だがそれは意外にも短い時間だった。
もし逃げるのならこの隙を置いて他はない。俺は砂の固まりになった棍棒を砕くと地面に踊り出た。
一言で言えば酷い有様だった。全てが焼け焦げていた。同族はもう一欠けらも残ってない。潮時だな。だがそれでも人間どもはぴんぴんしている。魔素による攻撃に対抗してしかるべきか。魔法使いの卓越した魔素のコントロールゆえか。完全な窮地だな。
それでも一歩は踏み出さないといけないのだろう。俺は手近な戦士に爪を食らわす。加護を抜き、致命傷を与える。だがそれだけでは駄目だ。これではまた蘇生されてしまう。完全に命を絶たなければならない。その方法を俺は知っている。爪の次は牙だ。
加護を抜いた戦士の体を持ち上げる。そして俺は口を開き。
「死んでたまるか!!!」
その言葉と終了と同時に俺は噛み砕いた。命を終わらせた味。それを吐き出すと首を失った体を左手で掴み盾にする。この鎧を着た体は良い盾になるだろう。逆上した人間どもが襲い掛かって来る。それを返り討ちにし、また噛み砕く。この行為こそが蘇生を防ぐ唯一の手段だからだ。
多くの死体が積みあがる中、当然の如く次の魔法がやって来る。次は確実に対策をしてくるだろう。だが俺には一つだけ勝算がある。魔素に長けた魔法使いにどう対処するか。
答えはコレだ。奴らの死体を持ち上げて、振りかぶり、投げつける。
コイツラの装備は魔素の対抗を施したものだ。それを高速で投げつければ魔法使いに対処は出来ない。死体には出来ずとも致命傷にはなっただろう。残る死体は6発。これで魔法使いを無力化出来れば致死の一撃は来ないだろう。
せいぜい役に立ってもらおうか。これで長い長いチュートリアルは漸く終わりだな。
▽
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神の加護
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